たっ‐しゃ【達者】例文一覧 30件

  1. ・・・描写は殆谷崎潤一郎氏の大幅な所を思わせる程達者だ。何でも平押しにぐいぐい押しつけて行く所がある。尤もその押して行く力が、まだ十分江口に支配され切っていない憾もない事はない。あの力が盲目力でなくなる時が来れば、それこそ江口がほんとうの江口にな・・・<芥川竜之介「江口渙氏の事」青空文庫>
  2. ・・・「まあ、ふだんが達者だから、急にどうと云う事もあるまいがね、――慎太郎へだけ知らせた方が――」 洋一は父の言葉を奪った。「戸沢さんは何だって云うんです?」「やっぱり十二指腸の潰瘍だそうだ。――心配はなかろうって云うんだが。」・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  3. ・・・ 平胡坐でちょっと磁石さ見さしつけえ、此家の兄哥が、奴、汝漕げ、といわしったから、何の気もつかねえで、船で達者なのは、おらばかりだ、おっとまかせ。」と、奴は顱巻の輪を大きく腕いっぱいに占める真似して、「いきなり艫へ飛んで出ると、船が・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  4. ・・・ 翁ははじめて、気だるげに、横にかぶりを振って、「芸一通りさえ、なかなかのものじゃ。達者というも得難いに、人間の癖にして、上手などとは行過ぎじゃぞよ。」「お姫様、トッピキピイ、あんな奴はトッピキピイでしゅ。」 と河童は水掻の・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  5. ・・・仕事もおとよさんのように達者でなけゃだめだなア」「や、これや旦那はえいことをいわっしゃった。おはまさんは何でも旦那に帯でも着物でもどしどし買ってもらうんだよ」 省作はただ笑う仲間にばかりなって一向に話はできない。満蔵はもう一俵の米を・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  6. ・・・ 十年許り前に親父が未だ達者な時分、隣村の親戚から頼まれて余儀なく買ったのだそうで、畑が八反と山林が二町ほどここにあるのである。この辺一体に高台は皆山林でその間の柵が畑になって居る。越石を持っていると云えば、世間体はよいけど、手間ばかり・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・かつかくの如く縦横無礙に勝手気儘に描いていても、根柢には多年の研鑽工風があったので、決して初めから出鱈目に描きなぐって達者になったのではなかった。椿岳の画家生活 椿岳の画を学ぶや売るためでなかった。画家の交際をしていても画家と称され・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・「まりさん、お達者にお暮らしなさい。さようなら……。」と、雲は、名残惜しげに別れを告げました。「ありがとうございました。」と、まりは、お礼をいいました。 やがて、夜が明け放れると、やぶの中へ朝日がさし込みました。小鳥は木の頂で鳴・・・<小川未明「あるまりの一生」青空文庫>
  9. ・・・「そんないい温泉があって、この体が達者になれるものなら、いま死んでしまっては、なんの役にもたたない。どうかして、その温泉へいって体を強くしてこなければならない。」と、少年は思いました。 なにをするにしても、病身であって、思うように力・・・<小川未明「石をのせた車」青空文庫>
  10. ・・・お互に命がありゃまた会わねえとも限らねえから、君もまあ達者でいておくんなせえ、ついちゃここに持合せが一両と少しばかりある、そのうち五十銭だけ君にあげるから……」と言いながら、腹巻を探った。 私はあまりに不意なので肝を潰した。「本当で・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  11. ・・・無名の人たちの原稿を読んでも、文章だけは見よう見真似の模倣で達者に書けているが、会話になるとガタ落ちの紋切型になって失望させられる場合が多い。小説の勉強はまずデッサンからだと言われているが、デッサンとは自然や町の風景や人間の姿態や、動物や昆・・・<織田作之助「大阪の可能性」青空文庫>
  12. ・・・ 彼が風変りな題材と粘り強い達者な話術を持って若くして文壇へ出た時、私は彼の逞しい才能にひそかに期待して、もし彼が自重してその才能を大事に使うならば、これまでこの国の文壇に見られなかったような特異な作家として大成するだろうと、その成長を・・・<織田作之助「鬼」青空文庫>
  13. ・・・わる達者という言葉があります。そう云った意味でわるく健康な感じです。性におえない鉄道草という雑草があります。あの健康にも似ていましょうか。――私の一人相撲はそれとの対照で段々神経的な弱さを露わして来ました。 俗悪に対してひどい反感を抱く・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  14. ・・・『達者でいるらしい、』かれは思った、『たぶん子供もできていることだろう。』 かれはそっと内をのぞいた。桑園の方から家鶏が六、七羽、一羽の雄に導かれてのそのそと門の方へやって来るところであった。 たちまち車井の音が高く響いたと思う・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  15. ・・・坊様もお達者で、早く大きくなって偉いかたになるのですよ」とおろおろ声で言って「徳さんほんとにあまりおそくなるとお宅に悪いから、早く坊様を連れてお帰りよ、わたしは今泣いたので、きのうからくさくさしていた胸がすいたようだ。」      ・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  16. ・・・日本語と露西亜語がなか/\達者な、月三十円で憲兵隊に使われている男だった。隊長は犯人を検挙するために、褒美を十円やることを云い渡してあった。密偵は十円に釣られて、犬のように犯人を嗅ぎまわった。そして、十円を貰って嬉しがっている。憲兵は、松本・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  17. ・・・彼と同年輩、または、彼より若い年頃の者で、学校へ行っていた時分には、彼よりよほど出来が悪るかった者が、少しよけい勉強をして、読み書きが達者になった為めに、今では、醤油会社の支配人になり、醤油屋の番頭になり、または小学校の校長になって、村でえ・・・<黒島伝治「電報」青空文庫>
  18. ・・・そこでおらあ、今はもうがないでも食って行かれるだけのことは有るが、まだ仕合に足腰も達者だから、五十と声がかかっちゃあ身体は太義だが、こうしていで山林方を働いている、これも皆少でも延ばしておいて、源三めに与って喜ばせようと思うからさ。どれどれ・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  19. ・・・「いいサ、飲むことはこの通りお達者だ、案じなさんな。児を棄てる日になりゃア金の茶釜も出て来るてえのが天運だ、大丈夫、銭が無くって滅入ってしまうような伯父さんじゃあねえわ。「じゃあ何かいい見込でも立ってるのかエ。「ナアニ、ちっとも・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  20. ・・・それも子供らの母親がまだ達者な時代からの形見として残ったものばかりだった。私が自分の部屋に戻って障子の切り張りを済ますころには、茶の間のほうで子供らのさかんな笑い声が起こった。お徳のにぎやかな笑い声もその中にまじって聞こえた。 見ると、・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・おげんが娘や甥を連れてそこへ来たのは自分の養生のためとは言え、普通の患者が病室に泊まったようにも自分を思っていなかったというのは、一つはおげんの亡くなった旦那がまだ達者でさかりの頃に少年の蜂谷を引取って、書生として世話したという縁故があった・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  22. ・・・「おばさんもお達者で。」うしろでは、まだ挨拶していた。嘉七はくるり廻れ右して、「おばさん、握手。」 手をつよく握られて老妻の顔には、気まり悪さと、それから恐怖の色まであらわれていた。「酔ってるのよ。」かず枝は傍から註釈した。・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  23. ・・・妹婿は日曜などにはよく家内連れで方々へ遊びに出た。達者で居たら今日あたりはきっと団子坂へでも行っているだろうと思う。妹は平一が日曜でも家に籠って読書しているのを見て、兄さんはどうしてそう出嫌いだろう、子供だってあるではなし、姉さんにも時々は・・・<寺田寅彦「障子の落書」青空文庫>
  24. ・・・常磐津のうまい若い子や、腕達者な年増芸者などが、そこに現われた。表二階にも誰か一組客があって、芸者たちの出入りする姿が、簾戸ごしに見られた。お絹もそこへ来て、万事の話がはずんでいた。 道太がやや疲労を感じたころには、静かなこの廓にも太鼓・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  25. ・・・芸には達者な代り、全くの無筆である。稽古本で見馴れた仮名より外には何にも読めない明盲目である。この社会の人の持っている諸有る迷信と僻見と虚偽と不健康とを一つ残らず遺伝的に譲り受けている。お召の縞柄を論ずるには委しいけれど、電車に乗って新しい・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  26. ・・・この通り足が達者でどこへでも歩いて行かれるじゃないか。足の達者なのは御意の通りである。足に任せて人の畠を荒らされては困ると云うのである。かの志士と云い、勇士と云い、智者と云い、善人と云われたるものもここにおいてかたちまちに浪人となり、暴士と・・・<夏目漱石「作物の批評」青空文庫>
  27. ・・・或るとき家の諸道具を片付けて持出すゆえ、母が之を見て其次第を嫁に尋ぬれば、今日は転宅なりと言うにぞ、老人の驚き一方ならず、此人はまだ極老に非ず、心身共に達者にして能く事を弁ずれども、夫婦両人は常に老人をうるさく思い、朝夕の万事互に英語を以て・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  28. ・・・四十近くでは若旦那でもない訳だが、それは六十に余る達者な親父があって、その親父がまた慾ばりきったごうつくばりのえら者で、なかなか六十になっても七十になっても隠居なんかしないので、立派な一人前の後つぎを持ちながらまだ容易に財産を引き渡さぬ、そ・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  29. ・・・勿論俳優の力量という制約があるが、あの大切な、謂わば製作者溝口の、人生に対する都会的なロマンチシズムの頂点の表現にあたって、あれ程単純に山路ふみ子の柄にはまった達者さだけを漲らしてしまわないでもよかった。おふみと芳太郎とが並んで懸合いをやる・・・<宮本百合子「「愛怨峡」における映画的表現の問題」青空文庫>
  30. ・・・のちに知行二百石の側役を勤め、算術が達者で用に立った。老年になってからは、君前で頭巾をかむったまま安座することを免されていた。当代に追腹を願っても許されぬので、六月十九日に小脇差を腹に突き立ててから願書を出して、とうとう許された。加藤安太夫・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>