たった‐いま【たった今】例文一覧 27件

  1. ・・・丸太ぐるみ、どか落しで遁げた、たった今。……いや、遁げたの候の。……あか褌にも恥じよかし。「大かい魚ア石地蔵様に化けてはいねえか。」 と、石投魚はそのまま石投魚で野倒れているのを、見定めながらそう云った。 一人は石段を密と見上げ・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  2. ・・・――この老耄が生れまして、六十九年、この願望を起しましてから、四十一年目の今月今日。――たった今、その美しい奥方様が、通りがかりの乞食を呼んで、願掛は一つ、一ヶ条何なりとも叶えてやろうとおっしゃります。――未熟なれども、家業がら、仏も出せば・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  3. ・・・「実は今夜本を見て起きていると、たった今だ、しきりにお頼み申しますと言う女の声、誰に用があって来たのか知らぬが、この雨の中をさぞ困るだろうと、僕が下りて行って開けてやったが、見るとお雪じゃないか。小宮山さんと一所だと言う、体は雨に濡れて・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  4. ・・・ 女中に聞くと、「お車で、たった今……」明治四十四年二月<泉鏡花「妖術」青空文庫>
  5. ・・・その癖、たった今、思わず、「あ!」といったのは誰だろう。 いま辻町は、蒼然として苔蒸した一基の石碑を片手で抱いて――いや、抱くなどというのは憚かろう――霜より冷くっても、千五百石の女じょうろうの、石の躯ともいうべきものに手を添えてい・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  6. ・・・ハッと思って女中を呼んで聞くと、ツイたった今おいでになって、先刻は失礼した、宜しくいってくれというお言い置きで御座いますといった。 考えるとコッチはマダ無名の青年で、突然紹介状もなしに訪問したのだから一応用事を尋ねられるのが当然であるの・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  7. ・・・なんだか女学生が、今死んでいるあたりから、冷たい息が通って来て、自分を凍えさせるようである。たった今まで、草原の上をよろめきながら飛んでいる野の蜜蜂が止まったら、羽を焦してしまっただろうと思われる程、赤く燃えていた女房の顳が、大理石のように・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  8. ・・・「そんならいいが、もし君が少しでもそんな失敬なことを考えているんだと、僕はたった今からでも絶交するよ。失敬な! 失敬な!」彼はこう繰返した。「いやけっしてそんなことはないよ。そんな点では、君はむしろ道徳家の方だと、ふだんから考えてい・・・<葛西善蔵「遊動円木」青空文庫>
  9. ・・・よくみると、その女の一人はたった今水の中へ消えたばかりの湖水の女でした。それからもう一人の女を見ますと、ふしぎなことには、それもさっきじぶんのお嫁になると言った、同じ湖水の女でした。ギンはじぶんの目がどうかなっているのではないかと思いました・・・<鈴木三重吉「湖水の女」青空文庫>
  10. ・・・「でもたった今これを始めたばかりですから」「ついでに仕上げてしまいたいのですか」「いいえ、そうじゃないのですけど、何だか小母さんにすまないから。――あたし行きたいんですけれど」「では行けばいいじゃありませんか」「そんなこ・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  11. ・・・それに気が付いたのは、実はたった今よ。(劇なぜ黙っているの。さっきにからわたしにばかり饒舌らしていて、一言も言ってくれないのね。そんなにして坐っていて、わたしの顔を見ているその目付で、わたしの考えの糸を、丁度繭から絹糸を引き・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  12. ・・・なんだか女学生が、今死んでいるあたりから、冷たい息が通って来て、自分を凍えさせるようである。たった今まで、草原の中をよろめきながら飛んでいる野の蜜蜂が止まったら、羽を焦してしまっただろうと思われる程、赤く燃えていた女房の顳こめかみが、大理石・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  13. ・・・このへんを歩いている人たちの大部分は、西洋人でも日本人でも、男でも女でも、みんなたった今そこで生命の泉を飲んできたような明るい活気のある顔をしている中で、この老婦人だけがあたかも黄泉の国からの孤客のように見えるのであった。「どうかするんじゃ・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  14. ・・・しかし、どんな式服を着ていたかと聞かれると、たった今見て来たばかりの花嫁の心像は忽然として灰色の幽霊のようにぼやけたものになってしまう。「あなたの懐中時計の六時の所はどんな数字が書いてありますか」と聞いてみると、大概の人はちょっと小首を・・・<寺田寅彦「錯覚数題」青空文庫>
  15. ・・・を後に最後の瞬間において靴磨きのために最有利な証人として出現させるために序幕からその糸口をこしらえておかなければならないので、そのために娘の父を舞台の彼方で喘息のために苦悶させ、それに同情して靴磨きがたった今、ダンサーから貰った五円を医薬の・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  16. ・・・  巡査がどれもこれも福々しい人の好さそうな顔をしているのに反して、行列に加わっている人達の顔はみんなたった今人殺しでもして来たように凄い恐ろしい形相をしている。家畜の顔を見ていると、それがだんだんにいつかどこかで見た事のある人間の顏に・・・<寺田寅彦「夢」青空文庫>
  17. ・・・周囲のおおぜいの乗客はたった今墓場から出て来たような表情であるのに、この二人だけは実に生き生きとしてさも愉快そうに応答している。それが夫婦でもなくもちろん情人でもなく、きわめて平凡なるビジネスだけの関係らしく見えていて、そうしてそれがアメリ・・・<寺田寅彦「LIBER STUDIORUM」青空文庫>
  18. ・・・考えてはいたらしいが、その考の題目となっていたものは、よし、その時私がハッと気がついて「俺はたった今まで、一体何を考えていたんだ」と考えて見ても、もう思い出せなかった程の、つまりは飛行中のプロペラのような「速い思い」だったのだろう。だが、私・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  19. ・・・ なぜって第一あの美しい蜂雀がたった今まできれいな銀の糸のような声で私と話をしていたのに俄かに硬く死んだようになってその眼もすっかり黒い硝子玉か何かになってしまいいつまでたっても四十雀ばかり見ているのです。おまけに一体それさえほんとうに・・・<宮沢賢治「黄いろのトマト」青空文庫>
  20. ・・・ どこにたった今歌っていたあのばけもの世界のクラレの花の咲いた野原があったでしょう。実にそれはネパールの国からチベットへ入る峠の頂だったのです。 ネネムのすぐ前に三本の竿が立ってその上に細長い紐のようなぼろ切れが沢山結び付けられ、風・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  21. ・・・なぜってたった今太右衛門と清作との悪いものを知らないで喰べたのを見ているのですから。 それに狐の学校生徒がみんなこっちを向いて「食うだろうか。ね。食うだろうか。」なんてひそひそ話し合っているのです。かん子ははずかしくてお皿を手に持ったま・・・<宮沢賢治「雪渡り」青空文庫>
  22. ・・・それが今日、今、たった今、あの女のかおを見ると、あのだらけた皮膚の色と、いくじなさそうな様子とが毛虫よりいやに思われて来た、そうし敵でも見るように、そのかおの筋肉の一寸した動揺でも見のがしてなるものかと云うようにそのかおを見つめて居た、心の・・・<宮本百合子「砂丘」青空文庫>
  23. ・・・ あっちこっち返して見ながら、こんなやすっぽい絵なんかのぬりたくってあるものを平気で出してよこす其の人が自分の趣味とあんまり違って居る様でいやだった。 たった今自分が手紙をやった人がこんな事を平気で居る人だと思うとあんまり嬉しい気は・・・<宮本百合子「千世子(二)」青空文庫>
  24. ・・・斯うやって考えていると、地面でも掘って頭から埋って仕舞いたいような惨めな堪らない心持と一緒に、今、たった今、彼の墓を掘りかえし、彼の肩をつかみ、力限り揺ぶりたい衝動を感じる。彼に目を醒まさせ、一言返事をさせたい。本心をききたい。面当てか、そ・・・<宮本百合子「文字のある紙片」青空文庫>
  25. ・・・年月のたった今あの写真の印象を思いおこして見るとあの一葉の少女の像には当時の日本の知識階級人の一般の趣向を遙にぬいた御両親の和洋趣味の優雅な花が咲いていたのだと思われる。 森さんの旧邸は今元の裏が表口になっていて、古めかしい四角なランプ・・・<宮本百合子「歴史の落穂」青空文庫>
  26. ・・・それでもおれは命が惜しくて生きているのではない、おれをどれほど悪く思う人でも、命を惜しむ男だとはまさかに言うことが出来まい、たった今でも死んでよいのなら死んでみせると思うので、昂然と項をそらして詰所へ出て、昂然と項をそらして詰所から引いてい・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  27. ・・・それと同時に氷のように冷たい物が、たった今平手がさわったと思うところから、胸の底深く染み込んだ。何とも知れぬ温い物が逆に胸から咽へのぼった。甘利は気が遠くなった。 三河勢の手に余った甘利をたやすく討ち果たして、髻をしるしに切り取った・・・<森鴎外「佐橋甚五郎」青空文庫>