たて‐いと【縦糸/経/経糸】例文一覧 41件

  1. ・・・第二に死後三日もている。第三に脚は腐っている。そんな莫迦げたことのあるはずはない。現に彼の脚はこの通り、――彼は脚を早めるが早いか、思わずあっと大声を出した。大声を出したのも不思議ではない。折り目の正しい白ズボンに白靴をはいた彼の脚は窓か・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2. ・・・負けじ魂の老人だけに、自分の体力の衰えに神をいら立たせていた瞬間だったのに相違ない。しかも自分とはあまりにかけ離れたことばかり考えているらしい息子の、軽率な不作法が癪にさわったのだ。「おい早田」 老人は今は眼の下に見わたされる自分・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・そんなら、この処に一人の男(仮令があって、自分の神作用が従来の人々よりも一層鋭敏になっている事に気が付き、そして又、それが近代の人間の一つの特質である事を知り、自分もそれらの人々と共に近代文明に醸されたところの不健康な状態にあるものだと認・・・<石川啄木「性急な思想」青空文庫>
  4. ・・・……劫のた奴は鳴くとさ」「なんだか化けそうだね」「いずれ怪性のものです。ちょいと気味の悪いものだよ」 で、なんとなく、お伽話を聞くようで、黄昏のものの気勢が胸に染みた。――なるほど、そんなものも居そうに思って、ほぼその色も、黒・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  5. ・・・配下の一員は親切に一時間とない内に来るからと注意してくれた。 かれこれ空しく時間を送った為に、日の暮れない内に二回牽くつもりであったのが、一回牽き出さない内に暮れかかってしまった。 なれない人たちには、荒れないような牛を見計らって・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  6. ・・・と云いひろめられたので後では望み手もなくて年をてしまった。嫁入のさきざきで子供を四人も生んだけれ共みんな女なんで出る段につれて来てその子達も親のやっかいになって育て居たけれどもたえまなくわずらうので薬代で世を渡るいしゃでさえもあいそを・・・<著:井原西鶴 訳:宮本百合子「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」青空文庫>
  7. ・・・それから、一週間、二週間をても、友人からは何の音沙汰もなかった。しかし、僕は、どんな難局に立っても、この女を女優に仕立てあげようという熱心が出ていた。     六 僕は井筒屋の風呂を貰っていたが、雨が降ったり、あまり涼しか・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・この向島名物の一つに数えられた大伽藍が松雲和尚の刻んだ捻華微笑の本尊や鉄牛血書の巻やその他の寺宝と共に尽く灰となってしまったが、この門前の椿岳旧棲の梵雲庵もまた劫火に亡び玄関の正面の梵字の円い額も左右の柱の「能発一念喜愛心」及び「不断煩悩・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  9. ・・・殊に来らんとする神の震怒の日に於ける彼等の仲保者又救出者として仰いだのである、「千世し磐よ我を匿せよ」との信者の叫は殊に審判の日に於て発せらるべきものである、而して此観念が強くありしが故に彼等の説教に力があったのである。方伯ペリクス其妻デ・・・<内村鑑三「聖書の読方」青空文庫>
  10. ・・・いつか、青い空に上っていって、おたがいにこの世の中でてきた運命について、語り合う日よりはほかになかったのであります。 びんの中から、天使は、家の前に流れている小さな川をながめました。水の上を、日の光がきらきら照らしていました。やがて日・・・<小川未明「飴チョコの天使」青空文庫>
  11. ・・・もっとも現在の日本の劇作家の多くは劇団という紋切型にあてはめて書いているのか、神が荒いのか、書きなぐっているのか、味のある会話は書けない。若い世代でいい科白の書けるのは、最近なくなった森本薫氏ぐらいのもので、菊田一夫氏の書いている科白など・・・<織田作之助「大阪の可能性」青空文庫>
  12. ・・・せっかく大事なおにでもかかろうというような場合に、集った人に滑稽な感じを与えても困るからね」とその前の晩父が昨年の十一月郷里から持ってきた行李から羽織や袴を出してみて、私は笑いながら言ったりした。「そんなものではないですよ。これでけっ・・・<葛西善蔵「父の葬式」青空文庫>
  13. ・・・まだ若く研究に劫のない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。夜、寝つけない頭のなかで、信子がきっと取返しがつかなくなる思いに苦しんだ。それに屈服する。それが行一にはもう取返しのつかぬことに思えた。「バッタバッタバッ・・・<梶井基次郎「雪後」青空文庫>
  14. ・・・ 二郎は病を養うためにまた多少の画あるがためにと述べたり、されどその画なるものの委細は語らざりき。人々もまたこれを怪しまざるようなり。かれが支店の南洋にあるを知れる友らはかれ自らその所有の船に乗りて南洋に赴くを怪しまぬも理ならずや。・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  15. ・・・私は験から考えてそうは思われない。女を知ることは青春の毒薬である。童貞が去るとともに青春は去るというも過言ではない。一度女を知った青年は娘に対して、至醇なる憧憬を発し得ない。その青春の夢はもはや浄らかであり得ない。肉体的快楽をたましいから・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  16. ・・・金刀比羅宮、男山八幡宮、天照皇大神宮、不動明王、妙法蓮華、水天宮。――母は、多ければ多いほど、御利益があると思ったのだろう! それ等が、殆んど紙の正体が失われるくらいにすり切れていた。――まだある。別に、紙に包んだ奴が。彼はそれを開けてみ・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  17. ・・・と夫が優しく答えたことなどは、いつの日にも無いことではあったが、それでも夫は神が敏くて、受けこたえにまめで、誰に対っても自然と愛想好く、日々家へ帰って来る時立迎えると、こちらでもあちらを見る、あちらでもこちらを見る、イヤ、何も互にワザ・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  18. ・・・尽きて火の滅する如く、自然に死に帰すということは、其実甚だ困難のことである、何となれば之が為めには、総ての疾病を防ぎ総ての禍災を避くべき完全の注意と方法と設備とを要するからである、今後幾百年かの星霜をて、文明は益々進歩し、物質的には公衆衛・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  19. ・・・ 龍介の恵子に対する気持はいろいろな過をふんでからの、それから出てきたものだった。かなり魅惑のある恵子が、カフェーの女であるということから受ける当然の事について気をもみだした、それが最初であった。彼はそういう女がいろいろゆがんだ筋道を・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  20. ・・・ 秀吉金冠を戴きたりといえども五右衛門四天を着けたりといえども猿か友市生れた時は同じ乳呑児なり太閤たると大盗たると聾が聞かば音は異るまじきも変るは塵の世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅もまたこれを説けりお噺は山村俊雄と申す・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  21. ・・・何か君は出来ることがあるだろう――まあ、歌を唄うとか、御を唱げるとか、または尺八を吹くとかサ。」「どうも是という芸は御座いませんが、尺八ならすこしひねくったことも――」と、男は寂しそうに笑い乍ら答えた。「むむ、尺八が吹けるね。それ・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  22. ・・・また過去の私が歴と言っても、十一二歳のころからすでに父母の手を離れて、専門教育に入るまでの間、すべてみずから世波と闘わざるを得ない境遇にいて、それから学窓の三四年が思いきった貧書生、学窓を出てからが生活難と世路難という順序であるから、切に・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  23. ・・・顔は鋭い空気に晒されて、少なくも六十年をている。骨折沢山の生涯のために流した毒々しい汗で腐蝕せられて、褐色になっている。この顔は初めは幅広く肥えていたのである。しかし肉はいつの間にか皮の下で消え失せてしまって、その上の皮ががっしりした顴骨・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  24. ・・・ほどて横手からお長が白馬を曳いて上ってきた。何やら丸い物を運ぶのだと手真似で言って、いっしょに行かぬかと言うのである。自分はついて行く気になる。馬の腹がざわざわと薄の葉を撫でる。 そこを出ると水天宮の社である。あとで考えると、このへん・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  25. ・・・同町小学校をて、大正十二年青森県立青森中学校に入学。昭和二年同校四学年修了。同年、弘前高等学校文科に入学。昭和五年同校卒業。同年、東京帝大仏文科に入学。若き兵士たり。恥かしくて死にそうだ。眼を閉じるとさまざまの、毛の生えた怪獣が見える。な・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  26. ・・・こういういたずらがいかに面白いものであるかはそれを験したもののよく知るところである。小学や中学時代に校舎の二階の窓から向う側の建物の教場を照らして叱られた人も少なくないであろう。このいたずらの面白味は「光束」という自由自在の「如意棒」を振・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  27. ・・・ 大阪の町でも、私は最初来たときの驚異が、しばらく見ている間に、いつとなしにしだいに裏切られてゆくのを感じた。済的には膨脹していても、真の生活意識はここでは、京都の固定的なそれとはまた異った意味で、頽廃しつつあるのではないかとさえ疑わ・・・<徳田秋声「蒼白い月」青空文庫>
  28. ・・・斎藤月岑の東都歳事記に挙ぐるものを見れば、谷中日暮里の養福寺、王寺、大行寺、長久院、西光寺等には枝垂桜があり、根津の社内、谷中天王寺と瑞輪寺には名高い八重咲の桜があったと云う。 一昨年の春わたくしは森春濤の墓を掃いに日暮里の王寺に赴・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  29. ・・・濁世にはびこる罪障の風は、すきまなく天下を吹いて、十字を織れる緯の目にも入ると覚しく、焔のみははたを離れて飛ばんとす。――薄暗き女の部屋は焚け落つるかと怪しまれて明るい。 恋の糸と誠の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げ・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  30. ・・・然るに未だ一年をもない中に、眼を疾んで医師から読書を禁ぜられるようになった。遂にまた節を屈して東京に出て、文科大学の選科に入った。当時の選科生というものは惨じめなものであった、私は何だか人生の落伍者となったように感じた。学校を卒えてからす・・・<西田幾多郎「或教授の退職の辞」青空文庫>