たて‐ふだ【立(て)札】例文一覧 24件

  1. ・・・バルザックの逞しいあらくれの手を忘れ、こそこそと小河で手をみそいでばかりいて皮膚の弱くなる潔癖は、立小便すべからずの立札にも似て、百七十一も変名を持ったスタンダールなどが現れたら、気絶してしまうほどの弱い心臓を持ちながら、冷水摩擦で赤くした・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  2. ・・・傍に立札が立ててある。「御嶽教会×××作之」と。 茅屋根の雪は鹿子斑になった。立ちのぼる蒸気は毎日弱ってゆく。 月がいいのである晩行一は戸外を歩いた。地形がいい工合に傾斜を作っている原っぱで、スキー装束をした男が二人、月光を浴び・・・<梶井基次郎「雪後」青空文庫>
  3. ・・・ 進み進みて下影森を過ぎ上影森村というに至るに、秩父二十八番の観音へ詣らんにはここより入るべしと、道のわかれに立札せるあり。二十八番の観音は、その境内にいと深くして奇しき窟あるを以て名高きところなれば、秩父へ来し甲斐には特にも詣らんかと・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  4. ・・・われら巨万の富貴をのぞまず。立て札なき、たった十坪の青草原を! 性愛を恥じるな! 公園の噴水の傍のベンチに於ける、人の眼恥じざる清潔の抱擁と、老教授R氏の閉め切りし閨の中と、その汚濁、果していずれぞや。「男の人が欲しい!」「・・・<太宰治「HUMAN LOST」青空文庫>
  5. ・・・ちょっと見ると一と息で登れそうな気がするが、上り口の立て札には頂上まで五時間を要し途中一滴の水もないと書いてある。誘惑にはうっかり乗れない。 第一日には頂上までの五分の一だけ登って引返し、第二日目は休息、第三日は五分の二までで引返し、第・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  6. ・・・だから入場するなというような意味の立て札がある。ちょっとしたアイロニーを感じさせる。垣根からのぞくと広々とした緑の海の上にぽつりぽつり白帆のように人影が見える。ゴルフをやらない人間から見ると、ゴルフをやっている人はみんな大貴族か大金持ちのよ・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  7. ・・・子熊のほうはたぶんそのうちに東京の動物園に現われ檻の前の立て札には「従来捕獲されたる白熊の中にて最高緯度の極北において捕獲されたるものなり」といったような説明書がつくことであろう。そのころにはもうあの北氷洋上の惨劇も子熊の記憶からはとうの昔・・・<寺田寅彦「空想日録」青空文庫>
  8. ・・・一方には自動車道という大きな立札もある。そこに立って境内を見渡した時に私はかつて経験した覚えのない奇妙な感じに襲われた。 つい近頃友人のうちでケンプェルが日本の事を書いた書物の挿絵を見た中に、京都の清水かどこかの景と称するものがあった。・・・<寺田寅彦「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  9. ・・・ 有名な狸小路では到る処投売りの立札が立っていた。三越支店の食堂は満員であった。 月寒の牧場へ行ったら、羊がみんな此方を向いて珍しそうにまじまじと人の顔を見た。羊は朝から晩まで草を食うことより外に用がないように見える。草はいくら食っ・・・<寺田寅彦「札幌まで」青空文庫>
  10. ・・・浅草の親戚を見舞うことは断念して松住町から御茶の水の方へ上がって行くと、女子高等師範の庭は杏雲堂病院の避難所になっていると立札が読まれる。御茶の水橋は中程の両側が少し崩れただけで残っていたが駿河台は全部焦土であった。明治大学前に黒焦の死体が・・・<寺田寅彦「震災日記より」青空文庫>
  11. ・・・私だけの注文を言えば、書店の店頭の大きな立て札もやめてもらいたいくらいである。そのかわりにまじめな信用のできる紹介機関がほしい。なるべく公平な立場からあらゆる出版物を批評して、読者のために忠実な指導者となるものがあってほしい。これは完全を望・・・<寺田寅彦「一つの思考実験」青空文庫>
  12. ・・・ということが新聞で報ぜられた。翌日この劇場前を通ったら、なるほど、すべての入り口が閉鎖され平生のにぎやかな粧飾が全部取り払われて、そうして中央の入り口の前に「場内改築並びに整理のために臨時休業」という立て札が立っている。 近傍一帯が急に・・・<寺田寅彦「藤棚の陰から」青空文庫>
  13. ・・・その周囲の芝生に立ち入るなと書いた明白な立て札はあるが、事実は子供も大供も中供もやはり芝生に立ち入って水の面をのぞかなければ気が済まないのである。これもたしかに設計が悪いと言われなければならないのがいわゆる時代の推移であろう。二十年前だった・・・<寺田寅彦「LIBER STUDIORUM」青空文庫>
  14. ・・・ ところが、九月の末のある日曜でしたが、朝早く私が慶次郎をさそっていつものように野原の入口にかかりましたら、一本の白い立札がみちばたの栗の木の前に出ていました。私どもはもう尋常五年生でしたからすらすら読みました。「本日は東北長官一行・・・<宮沢賢治「二人の役人」青空文庫>
  15. ・・・と見える。花じるしばかりで顔や眼のない人間の群は眺めていて悲しみを感じさせた。 善光寺では本堂の横手に「十銭から御普請のお手伝いを願います」と立札を立てている。お札所のようなところで御屋根銅板一枚一円と勧進している。銅板に墨で住所氏名を・・・<宮本百合子「上林からの手紙」青空文庫>
  16. ・・・ニコライの鐘楼と丸屋根が美しく冬日に輝いて、霜どけの花壇では薬草サフランと書いた立札だけが何にも生えていない泥の上にあった。由子はうっとり――思いつめたような恍惚さで日向ぼっこをした。お千代ちゃんは眩しそうに日向に背を向け、受け口を少しばか・・・<宮本百合子「毛の指環」青空文庫>
  17. ・・・ 何年もその家はそこに在って、二階の手摺に夜具が乾してあるのが往来から見えたりしていたが、昨年の初めごろ、一つの立札がその門前に立てられた。 梅時分になると、よく新宿駅などに、どこそこの梅と大きい鉢植えの梅の前に立てられている、ああ・・・<宮本百合子「今日の耳目」青空文庫>
  18. ・・・としても、根本矛盾がそのままでは、また、たちまち悲劇は反復です。きょうの往来を歩くと、到るところ「スリが狙ってる!」と立て札があります。あれをみて戦争中、「スパイ御用心!」と到るところに貼られていたポスターを思い出さない人があるでしょうか。・・・<宮本百合子「社会と人間の成長」青空文庫>
  19. ・・・ 彼等は、元湯共同浴場と立札のあるところへつき当った。道が二筋にそこで岐れている。「どっち?」 眺め廻し、なほ子は苦笑しつつ、「さあ、分らなくなっちゃったわ」と云った。「右じゃないかしら」 彼等の先へ、二人連れの・・・<宮本百合子「白い蚊帳」青空文庫>
  20. ・・・公園の入口にはウインネッケ彗星大歓迎会 音楽と映画の夕べと云う立て札が出て居る。 円たく、パッカード、セダンの硝子扉の中に白粉をつけた娘の頸足が見える。赤い毛糸帽が自転車でとぶ。 荷馬車が二台ヨードをとる海藻をのせて横切る。 男・・・<宮本百合子「一九二七年春より」青空文庫>
  21. ・・・どんな一寸した風変りな河原の石にも、箒川に注ぐ瀧にも、すべてに名所らしい名称があって、そこには一々立札が立っているというのは、何と五月蠅いことであろう。塩原温泉組合は、遊山人のために何一つ発見すべきものを残して置かない。山歩きをしているうち・・・<宮本百合子「夏遠き山」青空文庫>
  22. ・・・と云う立札が立ち、役人のいる処や、標示板の立ったはもう二年ほど前の事である。 そのために、湖の様に、澄んで広々と、彼方の青や紫の山々の裾までひろがって居る様にはてしなかった池も、にわかに取り澄まして、近づき難い、可愛げのない様子になって・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  23. ・・・ 道が二股にわかれて、一方の草堤に自立会と明瞭に書いて矢じるしをつけた立札が立っていた。ひろ子たちの前の方を、背広の男が一人ゆっくり歩いていた。遠くからその立札に目をつけているのが、うしろつきでわかった。あの人も行くのかしら。そう思って・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  24. ・・・用事で公園をいそぎ足にぬけていたら、いかにも菊作りしそうな小商人風の小父さんが、ピンと折れ目のついた羽織に爪皮のかかった下駄ばきで、菊花大会会場と立札の立っている方の小道へ歩いて行きました。 先達って靖国神社のお祭りの時は、二万人ほどの・・・<宮本百合子「二人の弟たちへのたより」青空文庫>