たて‐もの【建物】例文一覧 31件

  1. ・・・この物理の教官室は二階の隅に当っているため、体操器械のあるグラウンドや、グラウンドの向うの並松や、そのまた向うの赤煉瓦の建物を一目に見渡すのも容易だった。海も――海は建物建物との間に薄暗い波を煙らせていた。「その代りに文学者は上ったり・・・<芥川竜之介「寒さ」青空文庫>
  2. ・・・ほんとうをいうと彼れは始めからこの建物がそれにちがいないと思っていたが、這入るのがいやなばかりに知らんふりをして通りぬけてしまったのだ。もう進退窮った。彼れは道の向側の立樹の幹に馬を繋いで、燕麦と雑草とを切りこんだ亜麻袋を鞍輪からほどいて馬・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  3. ・・・……大きな建物ばかり、四方に聳立した中にこの仄白いのが、四角に暗夜を抽いた、どの窓にも光は見えず、靄の曇りで陰々としている。――場所に間違いはなかろう――大温習会、日本橋連中、と門柱に立掛けた、字のほかは真白な立看板を、白い電燈で照らしたの・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  4.  震火で灰となった記念物の中に史蹟というのは仰山だが、焼けてしまって惜まれる小さな遺跡や建物がある。淡島寒月の向島の旧庵の如きその一つである。今ではその跡にバラック住いをして旧廬の再興を志ざしているが、再興されても先代の椿岳の手沢の・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  5. ・・・しかしもしここにつまらない教会が一つあるとすれば、そのつまらない教会の建物を売ってみたところがほとんどわずかの金の価値しかないかも知れませぬ。しかしながらその教会の建った歴史を聞いたときに、その歴史がこういう歴史であったと仮定めてごらんなさ・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  6. ・・・西洋ふうの建物がならんでいて、通りには、柳の木などが植わっていました。けれども、なんとなく静かな町でありました。 さよ子はその街の中を歩いてきますと、目の前に高い建物がありました。それは時計台で、塔の上に大きな時計があって、その時計のガ・・・<小川未明「青い時計台」青空文庫>
  7. ・・・で、私は見たくもない寺や社や、名ある建物などあちこち見て廻ったが、そのうちに足は疲れる。それに大阪鮨六片でやっと空腹を凌いでいるようなわけで、今度何か食おうにも持合せはもう五厘しかない。むやみに歩き廻って腹ばかり虚かせるのも考えものだ。そこ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  8. ・・・道頓堀川の岸へ下って行く階段の下の青いペンキ塗の建物は共同便所でした。芋を売る店があり、小間物屋があり、呉服屋があった。「まからんや」という帯専門のその店の前で、浜子は永いこと立っていました。 新次はしょっちゅう来馴れていて、二つ井戸な・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  9. ・・・粗末なバラックの建物のまわりの、六七本の桜の若樹は、もはや八分どおり咲いていた。……<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  10. ・・・それは病院と言っても決して立派な建物ではなく、昼になると「妊婦預ります」という看板が屋根の上へ張り出されている粗末な洋風家屋であった。十ほどあるその窓のあるものは明るくあるものは暗く閉ざされている。漏斗型に電燈の被いが部屋のなかの明暗を区切・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  11. ・・・日本全国、どこの城下も町は新しく変わり、士族小路は古く変わるのが例であるが岩――もその通りで、町の方は新しい建物もでき、きらびやかな店もできて万、何となく今の世のさまにともなっているが、士族屋敷の方はその反対で、いたるところ、古い都の断礎の・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  12. ・・・私が東京を去って、この七月でまる四年になるが、その間に、街路や建物が変化したであろうと想像される以上に人間が特に文学の上で変っていることが数すくない雑誌や、旬刊新聞を見ても眼につく。殊に、それが現実の物質的な根拠の上に立っての変化でなく、現・・・<黒島伝治「田舎から東京を見る」青空文庫>
  13. ・・・ あたりのさまを見るに我らが居れる一ト棟は、むかし観音院といいし頃より参詣のものを宿らしめんため建てたると覚しく、あたかも廻廊というものを二階建にしたる如く、折りまがりたる一トつづきのいと大なる建物にて、室の数はおおよそ四十もあるべし。・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  14. ・・・四方の建物が高いので、サン/\とふり注いでいる真昼の光が、それにはとゞいていない。それは別に奇妙な草でも何んでもなかったが――自分でも分らずに、それだけを見ていたことが、今でも妙に印象に残っている。理窟がなく、こんなことがよくあるものかも知・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  15. ・・・今ある自分の書斎――その建物だけを、先生はこの鉱泉側に移そうという話を大尉にした。 対岸に見える村落、野趣のある釣橋、河原つづきの一帯の平地、遠い近い山々――それらの眺望は先生方を悦ばせた。日あたりの好いことも先生方を悦ばせた。この谷間・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  16. ・・・ 一たい厩の建物では、夜もけっして灯をつけないように、きびしくさし止めてありました。それで、ウイリイはいつでも窓をかたくしめておくのでしたが、それでもしまいには、だれかが、そこに灯がついているのを見つけて、厩頭の役人に言いつけました。・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  17. ・・・駅は、たったいま爆撃せられたらしく、火薬の匂いみたいなものさえ感ぜられたくらいで、倒壊した駅の建物から黄色い砂ほこりが濛々と舞い立っていました。 ちょうど、東北地方がさかんに空襲を受けていた頃で、仙台は既に大半焼かれ、また私たちが上野駅・・・<太宰治「たずねびと」青空文庫>
  18. ・・・ 美術展覧会に使われている建物もやはり間に合せである。この辺のものはみんな間に合せのものばかりのような気がして、どうも気持が悪い。 そういう心持をいだいて展覧会場へ這入った。 日本画が、とてもゆるゆる見る事の出来ないほど沢山にあ・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  19. ・・・義者が鉱山のシャフトの排水樋を夜窃に鋸でゴシゴシ切っておく、水がドンドン坑内に溢れ入って、立坑といわず横坑といわず廃坑といわず知らぬ間に水が廻って、廻り切ったと思うと、俄然鉱山の敷地が陥落をはじめて、建物も人も恐ろしい勢を以て瞬く間に総崩れ・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  20. ・・・その紳士は林のお父さんで、紳士のたっているうしろの西洋建物の、英語の看板のかかった商店が、林の生れたハワイの家だということであった。「ぼくが生れないずッとまえ、お父さんもお母さんも、労働者だったんだよ」 林はそう言って、また写真帳の・・・<徳永直「こんにゃく売り」青空文庫>
  21. ・・・娼家の跡は商舗または下宿屋の如きものとなったが、独八幡楼の跡のみ、其の庭園の向ヶ岡の阻崖に面して頗幽邃の趣をなしていたので、娼楼の建物をその儘に之を温泉旅館となして営業をなすものがあった。当時都下の温泉旅館と称するものは旅客の宿泊する処では・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  22. ・・・ところが来て見ると非常に大きな建物があって、あそこで講演をやるのだと人から教えられて始めてもっともだと思いました。なるほどあれほどの建物を造ればその中で講演をする人をどこからか呼ばなければいわゆる宝の持腐れになるばかりでありましょう。したが・・・<夏目漱石「道楽と職業」青空文庫>
  23. ・・・そこから入ると、すぐ今は震災で全く跡方もなくなった法文科大学の建物があった。それは青山御所を建てたコンドルという英人が建てたとか、あまり大きくもない煉瓦の建物であったが、当時の法文科はその一つの建物の中に納っていたのである。しかもその二階は・・・<西田幾多郎「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」青空文庫>
  24. ・・・単に建物ばかりでなく、町の気分を構成するところの全神経が、或る重要な美学的意匠にのみ集中されていた。空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  25. ・・・今一本は真左へ、どちらも表通りと裏通りとの関係の、裏路の役目を勤めているのであったが、今一つの道は、真右へ五間ばかり走って、それから四十五度の角度で、どこの表通りにも関りのない、金庫のような感じのする建物へ、こっそりと壁にくっついた蝙蝠のよ・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  26. ・・・何だかこの往来、この建物の周囲には、この世に生れてから味わずにしまった愉快や、泣かずに済んだ涙や、意味のないあこがれや、当の知れぬ恋なぞが、靄のようになって立ち籠めているようだ。何処の家でも今燈火を点けている。そうすると狭い壁と壁との間に迷・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  27. ・・・眼をひらいてまた見ますと、あのまっ白な建物は、柱が折れてすっかり引っくり返っています。 蟻の子供らが両方から帰ってきました。「兵隊さん。かまわないそうだよ。あれはきのこというものだって。なんでもないって。アルキル中佐はうんと笑ったよ・・・<宮沢賢治「ありときのこ」青空文庫>
  28. ・・・広場の奥の大きい厩か納屋だったらしい建物があって、そこが、今はすっかり清潔に修繕されて、運動具置場になっている。「懸垂」などもそこにおかれている。 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしている・・・<宮本百合子「明るい工場」青空文庫>
  29.  Auguste Rodin は為事場へ出て来た。 広い間一ぱいに朝日が差し込んでいる。この Hオテル Biron というのは、もと或る富豪の作った、贅沢な建物であるが、ついこの間まで聖心派の尼寺になっていた。Faubo・・・<森鴎外「花子」青空文庫>
  30. ・・・大きな建物全体の中でその一室だけ煌煌と明るかった。爽やかな白いテーブルクロスの間を白い夏服の将官たちが入口から流れ込んで来た。梶は、敗戦の将たちの灯火を受けた胸の流れが、漣のような忙しい白さで着席していく姿と、自分の横の芝生にいま寝そべって・・・<横光利一「微笑」青空文庫>