たど・る【×辿る】例文一覧 29件

  1. ・・・板を斜めにして、添乳の衣紋も繕わず、姉さんかぶりを軽くして、襷がけの二の腕あたり、日ざしに惜気なけれども、都育ちの白やかに、紅絹の切をぴたぴたと、指を反らした手の捌き、波の音のしらべに連れて、琴の糸を辿るよう、世帯染みたがなお優しい。 ・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  2. ・・・手を取って助けるのに、縋って這うばかりにして、辛うじて頂上へ辿ることが出来た。立処に、無熱池の水は、白き蓮華となって、水盤にふき溢れた。 ――ああ、一口、水がほしい―― 実際、信也氏は、身延山の石段で倒れたと同じ気がした、と云うので・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  3. ・・・祖母に導かれて、振袖が、詰袖が、褄を取ったの、裳を引いたの、鼈甲の櫛の照々する、銀の簪の揺々するのが、真白な脛も露わに、友染の花の幻めいて、雨具もなしに、びしゃびしゃと、跣足で田舎の、山近な町の暗夜を辿る風情が、雨戸の破目を朦朧として透いて・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  4. ・・・ 翼をいためた燕の、ひとり地ずれに辿るのを、あわれがって、去りあえず見送っていたのであろう。 たださえ行悩むのに、秋暑しという言葉は、残暑の酷しさより身にこたえる。また汗の目に、野山の赤いまで暑かった。洪水には荒れても、稲葉の色、青・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  5. ・・・ わずかに畳の縁ばかりの、日影を選んで辿るのも、人は目をみはって、鯨に乗って人魚が通ると見たであろう。……素足の白いのが、すらすらと黒繻子の上を辷れば、溝の流も清水の音信。 で、真先に志したのは、城の櫓と境を接した、三つ二つ、全国に・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  6. ・・・ どこにも座敷がない、あっても泊客のないことを知った長廊下の、底冷のする板敷を、影のさまようように、我ながら朦朧として辿ると……「ああ、この音だった。」 汀の蘆に波の寄ると思ったのが、近々と聞える処に、洗面所のあったのを心着いた・・・<泉鏡花「鷭狩」青空文庫>
  7. ・・・ 何か、自分は世の中の一切のものに、現在、恁く、悄然、夜露で重ッくるしい、白地の浴衣の、しおたれた、細い姿で、首を垂れて、唯一人、由井ヶ浜へ通ずる砂道を辿ることを、見られてはならぬ、知られてはならぬ、気取られてはならぬというような思であ・・・<泉鏡花「星あかり」青空文庫>
  8. ・・・       十 露店の目は、言合わせたように、きょときょとと夢に辿る、この桃の下路を行くような行列に集まった。 婦もちょいと振向いて、(大道商人は、いずれも、電車を背後蓬莱を額に飾った、その石のような姿を見たが、衝と向・・・<泉鏡花「露肆」青空文庫>
  9. ・・・これから流れ、鳥居は、これから見え、町もこれから賑かだけれど、俄めくらと見えて、突立った足を、こぶらに力を入れて、あげたり、すぼめたりするように、片手を差出して、手探りで、巾着ほどな小児に杖を曳かれて辿る状。いま生命びろいをした女でないと、・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  10. ・・・しかし、若し、世界が現状のまゝの行程を辿るかぎり、いかに巧言令辞の軍縮会議が幾たび催されたればとて、急転直下の運命から免れべくもない。こう思って、何も知らずに、無心に遊びつゝある子供等の顔を見る時、覚えず慄然たらざるを得ないのであります。・・・<小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」青空文庫>
  11. ・・・ 小春日和の日曜とて、青山の通りは人出多く、大空は澄み渡り、風は砂を立てぬほどに吹き、人々行楽に忙がしい時、不幸の男よ、自分は夢地を辿る心地で外を歩いた。自分は今もこの時を思いだすと、東京なる都会を悪む心を起さずにはいられないのである。・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  12. ・・・勿論あれが同じあのようなものにしても生硬粗雑で言葉づかいも何もこなれて居ないものでありましたならば、後の同路を辿るものに取って障礙となるとも利益とはなっていなかったでしょうが、立意は新鮮で、用意は周到であった其一段が甚だ宜しくって腐気と厭味・・・<幸田露伴「言語体の文章と浮雲」青空文庫>
  13. ・・・ 窟禅定も仕はてたれば、本尊の御姿など乞い受けて、来し路ならぬ路を覚束なくも辿ることやや久しく、不動尊の傍の清水に渇きたる喉を潤しなどして辛くも本道に出で、小野原を経て贄川に憩う。荒川橋とて荒川に架せる鉄橋あり。岸高く水遠くして瀬をなし・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  14. ・・・ 養生園に移ってからのおげんは毎晩薬を服んで寝る度に不思議な夢を辿るように成った。病室に眼がさめて見ると、生命のない器物にまで陰と陽とがあった。はずかしいことながら、おげんはもう長いこと国の養子夫婦の睦ましさに心を悩まされて、自分の前で・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  15. ・・・も初春でもなければ中春でもない、晩春の相である、丁度桜花が爛と咲き乱れて、稍々散り初めようという所だ、遠く霞んだ中空に、美しくおぼろおぼろとした春の月が照っている晩を、両側に桜の植えられた細い長い路を辿るような趣がある。約言すれば、艶麗の中・・・<二葉亭四迷「余が翻訳の標準」青空文庫>
  16. ・・・れよとその笠手にささげてほこらに納め行脚の行末をまもり給えとしばし祈りて山を下るに兄弟急難とのみつぶやかれて   鶺鴒やこの笠たゝくことなかれ ここより足をかえしてけさ馬車にて駆けり来りし道を辿るにおぼろげにそれかと見し山々川々もつ・・・<正岡子規「旅の旅の旅」青空文庫>
  17. ・・・ ぼんやり思い出せぬ思い出を辿る一太の耳に、猶々つづいて母親の声がする。だんだん途切れ途切れになり、急に近く大きく聴えたかと思うと、スーッと微になる。いきなり、「一ちゃん」 一太ははっとしてあっちこっち見廻した。「ちょっとこ・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  18. ・・・のテーマを辿ることができる。「生きている兵隊」の血にそんだ高笑いを、彼女の思想の否定――理性排除の思想に思いおこす。この美しいひとが、「同じ言葉を同じ形で何度もくりかえせる精神というものは、それが強い精神なのよ」といっていることにも特別な関・・・<宮本百合子「傷だらけの足」青空文庫>
  19. ・・・ プロレタリア文学の歴史はさまざまの曲折の道を辿るであろう。そして、その一曲の一折れは、それぞれ当時の歴史の客観的な事情と結びついて現れるのである。今日、プロレタリア文学の歴史的諸相の一つとして文学の大衆化を考えた場合、どうしても数年前・・・<宮本百合子「今日の文学に求められているヒューマニズム」青空文庫>
  20. ・・・ 移り変りに重点をおく、という現象への人間の適応を辿る生態描写には、生存の跡はうつせても生活は彫り出しきれない。一つの移りから次の移りそのものの肯定はあって、動きの現実がもっている評価は作家の内部的なものとの連関において考えられていない・・・<宮本百合子「今日の文学の諸相」青空文庫>
  21. ・・・経験を経験なりに辿るとしたら、それは題材のままで語っているということではなかろうか。芸術の制作という意味は、こういうところに在るのではないだろうか。 自分のとかく定着しようとするどちらかというと生物的な限界を、本当にテーマをつかんだ自分・・・<宮本百合子「作品と生活のこと」青空文庫>
  22. ・・・そのことは、私に、いろいろな身のまわりの出来ごと、自分の心の中の出来ごとにも、やはり辿るべき原因やその結果があるのだということを明瞭にした。 千葉先生には、何もわかっていなかっただろうが、私としては、この興味のふかい西洋史の時間のおかげ・・・<宮本百合子「時代と人々」青空文庫>
  23. ・・・家が作家のタイプに関心をひかれて、タイプの共通にかかわらずそこに模する本質的なものについて余り注目を深めなかったり、歪曲された功用論への是正としての芸術本質論の方法において、文学の経た歴史の刻みを逆に辿る形をより強く示めさざるを得なかったよ・・・<宮本百合子「昭和十五年度の文学様相」青空文庫>
  24. ・・・ここから、四人称という観念の発明が提出されているにも拘らず、作品の主調はあり合わす現実に屈服して全く通俗化の方向を辿るばかりとなった。 観念的な用語の上では一見非常に手がこんでいるように見えて、内実は卑俗なものへの屈従であるような現実把・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  25. ・・・順に行くとクリミヤで同じ道を辿るので、一つ此処で、ぐっと方向を換えよう。バクーへ行こう。そこで、やや性急に自分たちのバクー行となったのである。          二 バクーへ着いて見て、自分たちは些かこれはしまったと思った。・・・<宮本百合子「石油の都バクーへ」青空文庫>
  26. ・・・余り舞台もみていないから、したがって一人一人の俳優について、こまかくその芸術の変遷を辿るということも出来ない。 しかし、この間、何年ぶりかで「プラーグの栗並木の下で」を観て、俳優生活というものについて、これまでになく心を動かされるものが・・・<宮本百合子「俳優生活について」青空文庫>
  27. ・・・過去の歴史の絵巻が示しているとおり文明があるところまで来てその文明の故にかえって文化を低めるようになる場合、文化の創造力というものは、常にもっとも多難な道を辿るものである。そして、その過程で婦人が負うてゆく文化性というものは、その国の社会の・・・<宮本百合子「婦人の文化的な創造力」青空文庫>
  28. ・・・ ヒューマニズムはいよいよ上昇線を辿る時代が近づいて来たと舟橋氏は云っておられる。ある人々の主観の中での昂りでなく、人間生活の歴史的動向に沿うて上昇し発展されなければなるまい。子供を愛すことも出来ないで何のヒューマニズムぞやと云いすてる・・・<宮本百合子「夜叉のなげき」青空文庫>
  29. ・・・これを聞いて近所のものは、二人が出歩くのは、最初のその日に限らず、過ぎ去った昔の夢の迹を辿るのであろうと察した。 とかくするうちに夏が過ぎ秋が過ぎた。もう物珍らしげに爺いさん婆あさんの噂をするものもなくなった。所が、もう年が押し詰まって・・・<森鴎外「じいさんばあさん」青空文庫>