たのし・い【楽しい】例文一覧 30件

  1. ・・・が、我我と同じように楽しい希望を持ち得るであろうか? 僕は未だに覚えている。月明りの仄めいた洛陽の廃都に、李太白の詩の一行さえ知らぬ無数の蟻の群を憐んだことを! しかしショオペンハウエルは、――まあ、哲学はやめにし給え。我我は兎に角あそ・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  2. ・・・ またもう一人の琵琶法師は、俊寛様はあの島の女と、夫婦の談らいをなすった上、子供も大勢御出来になり、都にいらしった時よりも、楽しい生涯を御送りになったとか、まことしやかに語っていました。前の琵琶法師の語った事が、跡方もない嘘だと云う事は、こ・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  3. ・・・冬でもちょうど日がくれて仕事が済む時、灯がついて夕炊のけむりが家々から立ち上る時、すべてのものが楽しく休むその時にお寺の高い塔の上から澄んだすずしい鐘の音が聞こえて鬼であれ魔であれ、悪い者は一刻もこの楽しい町にいたたまれないようにひびきわた・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  4. ・・・こういう風に互に心持よく円満に楽しいという事は、今後ひとたびといってもできないかも知れない、いっそ二人が今夜眠ったまま死んでしまったら、これに上越す幸福はないであろう。 真にそれに相違ない。このまま苦もなく死ぬことができれば満足であるけ・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  5. ・・・民子と僕との楽しい関係もこの日の夜までは続かなく、十三日の昼の光と共に全く消えうせてしまった。嬉しいにつけても思いのたけは語りつくさず、憂き悲しいことについては勿論百分の一だも語りあわないで、二人の関係は闇の幕に這入ってしまったのである。・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・世の中が楽しいなぞという未練が残ってる間は、決して出来るものじゃアない。軍紀とか、命令とかいうもので圧迫に圧迫を加えられたあげく、これじゃアたまらないと気がつく個人が、夢中になって、盲進するのだ。その盲進が戦争の滋養物である様に、君の現在で・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  7. ・・・ 僕の考え込んだ心は急に律僧のごとく精進癖にとじ込められて、甘い、楽しい、愉快だなどというあかるい方面から、全く遮断されたようであった。 ふと、気がつくと、まだ日が暮れていない。三人は遠慮もなくむしゃむしゃやっている。僕は、また、猪・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・三 さよ子は、この世間にも、楽しい美しい家庭があるものだと思いました。あまり遅くならないうちに帰らなければならぬと思って、窓ぎわを離れてから振り向くと、高い、青い時計台には流るるような月光がさしています。そして町を離れて、野・・・<小川未明「青い時計台」青空文庫>
  9. ・・・ものを考えるには、こうして暗い道を歩くのが適したばかりでなしに、せっかく、楽しい、かすかな空想の糸を混乱のために、切ってしまうのが惜しかったのです。 先生は、年子がゆく時間になると、学校の裏門のところで、じっと一筋道をながめて立っていら・・・<小川未明「青い星の国へ」青空文庫>
  10. ・・・ そして、それが私にとって楽しいわけでもなんでもないのだ。そんなに煙草がうまいわけでもない。しかし、私はいつまでも寝床の中で吸っている。中毒といってしまえば、一番わかりやすいが一つにはもし、私にも生きるべき倦怠の人生があるとすれば、私は・・・<織田作之助「中毒」青空文庫>
  11. ・・・ 瞳のことだ――と察して、坂田はそのためのこの落ちぶれ方やと、殆んど口に出かかったが、「へえ。仲良くやってまっせ。照枝のことでっしゃろ」 楽しい二人の仲だと、辛うじて胸を張った。これは自分にも言い聴かせた。照枝がよう尽してくれる・・・<織田作之助「雪の夜」青空文庫>
  12. ・・・などと、それからそれと楽しい空想に追われて、数日来の激しい疲労にもかかわらず、彼は睡むることができなかった。二 翌朝彼は本線から私線の軽便鉄道に乗替えて、秋田のある鉱山町で商売をしている弟の惣治を訪ねた。そして四五日逗留して・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  13. ・・・自分のいるところからいつも人の窓が見られたらどんなに楽しいだろうと、いつもそう思ってるんです。そして僕の方でも窓を開けておいて、誰かの眼にいつも僕自身を曝らしているのがまたとても楽しいんです。こんなに酒を飲むにしても、どこか川っぷちのレスト・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  14. ・・・それは見えているというよりも、吉田が無理をして見ているので、それを見ているということがなんとも言えない楽しい気持を自分に起こさせていることを吉田は感じていた。そして吉田の寐られないのはその気持のためで、言わばそれはやや楽しすぎる気持なのだっ・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  15. ・・・それから又一月ばかりは何のこともなく、ただうれしい楽しいことばかりで……」「なるほどこれはお安価くないぞ」と綿貫が床を蹶って言った。「まア黙って聴きたまえ、それから」と松木は至極真面目になった。「其先を僕が言おうか、こうでしょう・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  16. ・・・おそらくこの時が彼の最も楽しい時で、また生きている気持ちのする時であろう。しかし、まもなく目をあけて、「けれども、だめだ、もうだめだ、もう戦争はやんじゃった、古い号外を読むと、なんだか急に年をとってしまって、生涯がおしまいになったような・・・<国木田独歩「号外」青空文庫>
  17. ・・・一時間が何千円に当った訳だ、なぞと譏る者があるが、それは譏る方がケチな根性で、一生理屈地獄でノタウチ廻るよりほかの能のない、理屈をぬけた楽しい天地のあることを知らぬからの論だ。趣味の前には百万両だって煙草の煙よりも果敢いものにしか思えぬこと・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  18. ・・・次郎坊が小生に対って、早く元のご主人様のお嬢様にお逢い申したいのですが、いつになれば朝夕お傍に居られるような運びになりましょうかなぞと責め立てて困りまする、と云って紅い顔をさせたりして、真実に罪のない楽しい日を送っていた。」と古えの賤の・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  19. ・・・だから、プロレタリアの解放のために仕事をやって行こうとするお前たちのことが分るのだが、何んだか自分の楽しい未来のもくろみが、そのためにガタ/\と崩されて行くのを見ていることが出来ないのだよ。こんな気持をもっているから、警察ではお前の母は一番・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  20. ・・・熱い空気に蒸される林檎の可憐らしい花、その周囲を飛ぶ蜜蜂の楽しい羽音、すべて、見るもの聞くものは回想のなかだちであったのである。其時自分は目を細くして幾度となく若葉の臭を嗅いで、寂しいとも心細いとも名のつけようのない――まあ病人のように弱い・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  21. ・・・ その翌る日からの私の生活は、今までとはまるで違って、浮々した楽しいものになりました。さっそく電髪屋に行って、髪の手入れも致しましたし、お化粧品も取りそろえまして、着物を縫い直したり、また、おかみさんから新しい白足袋を二足もいただき、こ・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  22. ・・・との間に、この楽しい球技の戦いが挿入されている。そうして球技場の眩しい日照の下に、人知れず悩む思いを秘めた白衣のヒロインの姿が描出されるのである。 つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、・・・<寺田寅彦「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」青空文庫>
  23. ・・・われわれが生存の最も楽しい時間を知るのは寝床である。寝床は神聖だ。地上の最も楽しく最も好いものとして敬い尊び愛さねばならぬものだ。それ故私は旅館の寝床の毛布を引捲る時にはいつも嫌悪の情に身を顫わす。ここで昨夜は誰れが何をした。どんな不潔・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  24. ・・・浅草公園の隅のベンチが、老いて零落した彼にとっての、平和な楽しい休息所だった。或る麗らかな天気の日に、秋の高い青空を眺めながら、遠い昔の夢を思い出した。その夢の記憶の中で、彼は支那人と賭博をしていた。支那人はみんな兵隊だった。どれも辮髪を背・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  25. ・・・――斯ういう風に実例を眼前に見て、苦しいとか、楽しいとか云う事は、人によって大変違う。例えば私が苦しいと思う事も、其女は何とも思わんかも知らん。それはまア浅薄で何とも思わないんだが、浅薄でなくてしかも何とも思わん人もある。それは誰かと云うに・・・<二葉亭四迷「予が半生の懺悔」青空文庫>
  26. ・・・本当にあの時は楽しい時でございました事。わたくし今だから打明けて申しますが、あの時が私の一生で一番楽しい時でございましたの。あの時の事をまだ覚えていらっしゃって。あなたのいらっしゃる時とお帰りになる時とにあなたが子供でいらっしゃった時からの・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  27. ・・・毎日毎日歓迎を受けるのは楽しい者であるか苦しい者であるか余にはわからぬが時としてはうるさい事もあるであろう。けれども一日の旅行を終りて草臥れ直しの晩酌に美酒佳肴山の如く、あるいは赤襟赤裾の人さえも交りてもてなされるのは満更悪い事もあるまい。・・・<正岡子規「徒歩旅行を読む」青空文庫>
  28. ・・・野原を行ったり来たりひとりごとを言ったり、笑ったりさまざまの楽しいことを考えているうちに、もうお日様が砕けた鏡のように樺の木の向こうに落ちましたので、ホモイも急いでおうちに帰りました。 兎のおとうさまももう帰っていて、その晩は様々のご馳・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  29. ・・・ですから理想などというものは、実現されるまでのその間が楽しいものであって、充されてしまったら存外つまらぬものかもしれません。けれどもどんな人にも慾望や理想はいくらかずつは持っていましょうし、またそこに人生の面白味があるのではないでしょうか。・・・<宮本百合子「愛と平和を理想とする人間生活」青空文庫>
  30. ・・・氏がこの道の上をさらに遠く高く進んで行かれる事は、我々の楽しい期待の一つである。 真道黎明氏の『春日山』は川端氏の画と同じく写実の試みであって、さらに多くの感情を現わし得たものである。柔らかい若葉の豊かな湧き上がるような感触は、――ただ・・・<和辻哲郎「院展日本画所感」青空文庫>