た・る【足る】例文一覧 30件

  1. ・・・城山戦死説はしばらく問題外にしても、およそ歴史上の判断を下すに足るほど、正確な史料などと云うものは、どこにだってありはしないです。誰でもある事実の記録をするには自然と自分でディテエルの取捨選択をしながら、書いてゆく。これはしないつもりでも、・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  2. ・・・   又 民衆の愚を発見するのは必ずしも誇るに足ることではない。が、我我自身も亦民衆であることを発見するのは兎も角も誇るに足ることである。   又 古人は民衆を愚にすることを治国の大道に数えていた。丁度まだこ・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  3. ・・・ 人は境遇に支配されるものであるということだが、自分は僅かに一身を入るるに足る狭い所へ横臥して、ふと夢のような事を考えた。 その昔相許した二人が、一夜殊に情の高ぶるのを覚えてほとんど眠られなかった時、彼は嘆じていう。こういう風に互に・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  4. ・・・平坦な北上総にはとにかく遊ぶに足るの勝地である。鴨は真中ほどから南の方、人のゆかれぬ岡の陰に集まって何か聞きわけのつかぬ声で鳴きつつある。御蛇が池といえば名は怖ろしいが、むしろ女小児の遊ぶにもよろしき小湖に過ぎぬ。 湖畔の平地に三、四の・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  5. ・・・が、その頃に限らず富が足る時は名を欲するのが古今の金持の通有心理で、売名のためには随分馬鹿げた真似をする。殊に江戸文化の爛熟した幕末の富有の町家は大抵文雅風流を衒って下手な発句の一つも捻くり拙い画の一枚も描けば直ぐ得意になって本職を気取るも・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・ それにつき鴎外の性格の一面を窺うに足る一挿話がある。或る年の『国民新聞』に文壇逸話と題した文壇の楽屋咄が毎日連載されてかなりな呼物となった事があった。蒙求風に類似の逸話を対聯したので、或る日の逸話に鴎外と私と二人を列べて、堅忍不抜精力・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  7. ・・・する審判とを論ぜしかばペリクス懼れて答えけるは汝姑く退け、我れ便時を得ば再び汝を召さん、とある、而して今時の説教師、其新神学者高等批評家、其政治的監督牧師伝道師等に無き者は方伯等を懼れしむるに足るの来らんとする審判に就ての説教である・・・<内村鑑三「聖書の読方」青空文庫>
  8. ・・・ユトランドの荒地は今やこの強梗なる樹木をさえ養うに足るの養分を存しませんでした。 しかしダルガスの熱心はこれがために挫けませんでした。彼は天然はまた彼にこの難問題をも解決してくれることと確信しました。ゆえに彼はさらに研究を続けました。し・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  9. ・・・この意味に於て、動物文学は、美と平和を愛する詩人によって、また真理に謙遜なる科学者によって、永遠無言の謎を解き、その光輝を発し、人類をして、反省せしむるに足るのであります。<小川未明「天を怖れよ」青空文庫>
  10. ・・・その存在は、たとえ、小さな火であっても、いつか人生の核心を焼きつくすに足るからである。 毎日、幾何の人間が、深き省察のなかったがために、また自からを欺いたがために社会の空しき犠牲となりつゝあるか。そして、彼等の狂騒と私等は、この人生にと・・・<小川未明「名もなき草」青空文庫>
  11. ・・・に足るほどのことでもなかった。同じ「あばく」なら、書き洩らしたところに、もっと効果的な材料があった筈だ。 すなわち、成績のわるい支店の鼻の先に、何の前触れもなしに、いきなり総発売元の直営店を設置したのがそれだ。大阪でいうならば、難波の前・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  12. ・・・これはね、曖眛な思想や信ずるに足りない体系に代るものとして、これだけは信ずるに足る具体性だと思ってやってるんですよ。人物を思想や心理で捉えるかわりに感覚で捉えようとする。左翼思想よりも、腹をへらしている人間のペコペコの感覚の方が信ずるに足る・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  13. ・・・に至るまで、もしこれをよそで見るならば格別の妙もなけれど、これが今の武蔵野の平地高台の嫌いなく、林をくぐり、野を横切り、隠れつ現われつして、しかも曲りくねって流るる趣は春夏秋冬に通じて吾らの心を惹くに足るものがある。自分はもと山多き地方に生・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  14. ・・・その青年鑑賞の目は信頼するに足るであろうか。反対に青年たちの娘たちへのそれはどうであろうか。ある青年がどんな娘を好むかはその青年の人生への要求をはかる恰好の尺度である。美しくて、常識があって、利口に立ち働けそうな娘を好むならその青年の人物は・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  15. ・・・君の熔金の廻りがどんなところで足る足らぬが出来るのも同じことである。万一異なところから木理がハネて、釣合を失えば、全体が失敗になる。御前でそういうことがあれば、何とも仕様は無いのだ。自分の不面目はもとより、貴人のご不興も恐多いことでは無いか・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  16. ・・・人をしてなるほどと首肯点頭せしむるに足るだけの骨董を珍重したのである。食色の慾は限りがある、またそれは劣等の慾、牛や豚も通有する慾である。人間はそれだけでは済まぬ。食色の慾が足り、少しの閑暇があり、利益や権力の慾火は断えず燃ゆるにしてもそれ・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  17. ・・・多くは其個個が有せる迷信・貪欲・愚癡・妄執・愛着の念を払い得難き性質・境遇等に原因するのである、故に見よ、彼等の境遇や性質が若し一たび改変せられて、此等の事情から解脱するか、或は此等の事情を圧倒するに足るべき他の有力なる事情が出来する時には・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  18. ・・・原はこれから家を挙げて引越して来るにしても、角筈か千駄木あたりの郊外生活を夢みている。足ることを知るという哲学者のように、原は自然に任せて楽もうと思うのであった。 美しい洋傘を翳した人々は幾群か二人の側を通り過ぎた。互に当時の流行を競い・・・<島崎藤村「並木」青空文庫>
  19. ・・・ 自分を駄目だと思い得る人は、それだけでも既に尊敬するに足る人物である。半可通は永遠に、洒々然たるものである。天才の誠実を誤り伝えるのは、この人たちである。そうしてかえって、俗物の偽善に支持を与えるのはこの人たちである。日本には、半可通・・・<太宰治「十五年間」青空文庫>
  20. ・・・けれども、成功者すなわち世の手本と仰がれるように、失敗者もまた、われらの亀鑑とするに足ると言ったら叱られるであろうか。人の振り見てわが振り直せ、とかいう諺さえあるようではないか。この世に無用の長物は見当らぬ。いわんや、その性善にして、その志・・・<太宰治「花吹雪」青空文庫>
  21. ・・・そうしてそのモンタージュの必然的な正確さから言ってもその推移のリズムの美しさから言っても、そのままに今の映画製作者の模範とするに足るものは至るところに見いださるるであろう。しかし現代の日本人から忘れられ誤解されている連句は本家の日本ではだれ・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  22. ・・・このような熱力学第二方則の完全な否定は、実にわれわれ固有の世界観を根底よりくつがえすに足るものである。 時を逆行させることによって起こるもう一つの不思議は、決定的の世界が不決定になることである。たとえば摩擦のある撞球台の上で球をころがす・・・<寺田寅彦「映画の世界像」青空文庫>
  23. ・・・わたくしの一生涯には独特固有の跡を印するに足るべきものは、何一つありはしなかった。 日本の歴史は少年のころよりわたくしに対しては隠棲といい、退嬰と称するが如き消極的処世の道を教えた。源平時代の史乗と伝奇とは平氏の運命の美なること落花の如・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  24. ・・・これと同じようにあなた方と云うやはり一箇の団体の意識の内容を検して見るとたとえ一カ月に亘ろうが一年に亘ろうが一カ月には一カ月を括るべき炳乎たる意識があり、また一年には一年を纏めるに足る意識があって、それからそれへと順次に消長しているものと私・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  25. ・・・ ゆえに政府たる者が人民の権を認むると否とに際して、その加減の難きは、医師の匕の類に非ず、これを想い、またこれを思い、ただに三思のみならず、三百思もなお足るべからずといえども、その細目の適宜を得んとするは、とうてい人智の及ぶところに非ざ・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  26. ・・・ことにその題目が風月の虚飾を貴ばずして、ただちに自己の胸臆をしくもの、もって識見高邁、凡俗に超越するところあるを見るに足る。しこうして世人は俊頼と文雄を知りて、曙覧の名だにこれを知らざるなり。 曙覧の事蹟及び性行に関しては未だこれを聞く・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  27. ・・・名状し難い献身、堅忍、労作、巨大な客観的な見とおしとそれを支えるに足る人間情熱の総量の上に、徐々に推しすすめられて来ている。決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於て無限の複雑さ、真実さをもって交錯しあっているの・・・<宮本百合子「こわれた鏡」青空文庫>
  28. ・・・予がこれに費した時間も、前後通算して一週間にだに足るまい。予がもし小説家ならば、天下は小説家の多きに勝えぬであろう。かように一面には当時の所謂文壇が、予に実に副わざる名声を与えて、見当違の幸福を強いたと同時に、一面には予が医学を以て相交わる・・・<森鴎外「鴎外漁史とは誰ぞ」青空文庫>
  29. ・・・「そうしようか、藁三十束で足るかお前?」「足るとも。三畳敷位の小っちゃいのでけっこうやさ。それで安次も一生落ちつけるのや、有難いもんやないか。」「あんな奴、抛っとけ。」秋三は笑いながら云った。「阿呆ばっかし云うて!」とお留は・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  30. ・・・しかしながら、目前の問題としては、洋画の内の想像画に見るに足るものなく、日本画の内の写生画もまた見るに堪えないのである。 それは何ゆえであるか。 素人の考えではあるが、洋画の行き方で豊太閤の顔を描き出すことは、容易ではあるまい。いか・・・<和辻哲郎「院展遠望」青空文庫>