たん‐そく【嘆息/×歎息】例文一覧 30件

  1. ・・・ 年とった支那人は歎息した。何だか急に口髭さえ一層だらりと下ったようである。「これは君の責任だ。早速上申書を出さなければならん。生憎乗客は残っていまいね?」「ええ、一時間ばかり前に立ってしまいました。もっとも馬ならば一匹いますが・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2. ・・・何小二はもう一度歎息して、それから急に唇をふるわせて、最後にだんだん眼をつぶって行った。        下 日清両国の間の和が媾ぜられてから、一年ばかりたった、ある早春の午前である。北京にある日本公使館内の一室では、公使館附・・・<芥川竜之介「首が落ちた話」青空文庫>
  3. ・・・ おとめはもとよりこの武士がわかいけれども勇気があって強くってたびたびの戦いで功名てがらをしたのをしたってどうかその奥さんになりたいと思っていたのですから、涙をはらはらと流しながら嘆息をして、なんのことばの出しようもありません。しまいに・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  4. ・・・ 聞く方が歎息して、「だってねえ、よくそれで無事でしたね。」 顔見られたのが不思議なほどの、懐かしそうな言であった。「まさか、蚊に喰殺されたという話もない。そんな事より、恐るべきは兵糧でしたな。」「そうだってねえ。今じゃ・・・<泉鏡花「女客」青空文庫>
  5. ・・・……大歎息とともに尻を曳いたなごりの笑が、更に、がらがらがらと雷の鳴返すごとく少年の耳を打つ!……「お煎をめしあがれな。」 目の下の崕が切立てだったら、宗吉は、お千さんのその声とともに、倒に落ちてその場で五体を微塵にしたろう。 ・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  6. ・・・ここで雨さえやむなら、心配は無いがなアと、思わず嘆息せざるを得なかった。 水の溜ってる面積は五、六町内に跨がってるほど広いのに、排水の落口というのは僅かに三か所、それが又、皆落口が小さくて、溝は七まがりと迂曲している。水の落ちるのは、干・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  7. ・・・予は思わず歎息が出た。 岡村もおかしいじゃないか、訪問するからと云うてやった時彼は懇に返事をよこして、楽しんで待ってる。君の好きな古器物でも席に飾って待つべしとまで云うてよこしながら、親父さんだって去年はあんなに親切らしく云いながら、百・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  8. ・・・とて、ただ筆硯に不自由するばかりでなく、書画を見ても見えず、僅かに昼夜を弁ずるのみなれば詮方なくて机を退け筆を投げ捨てて嘆息の余りに「ながらふるかひこそなけれ見えずなりし書巻川に猶わたる世は」と詠じたという一節がある。何という凄惻の悲史であ・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  9. ・・・と、見えなくなった顛末を語って吻と嘆息を吐いた。「まるきり踪跡が解らんのかい?」と重ねて訊くと、それ以来毎日役所から帰ると処々方々を捜しに歩くが皆目解らない、「多分最う殺されてしまったろう」と悄れ返っていた。「昨日は酒屋の御用が来て、こちら・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  10. ・・・と、からすは歎息いたしました。「なんのいけないことがあるもんですか、あなたの心がけですよ。幾日も、幾日も、南をさしてゆけば、しぜんにいかれますよ。」と、かもめはいいました。「たとえ、そこへいっても、どうして食べていけるかわかりません・・・<小川未明「馬を殺したからす」青空文庫>
  11. ・・・お姫さまは、つくづくと女の乞食をごらんになっていましたが、小さな歎息をなされました。「なんという、おまえの目は美しい目でしょう。」とおっしゃられました。 女の乞食は、お姫さまを見上げて、「そんなに、わたしの目がよろしければ、・・・<小川未明「お姫さまと乞食の女」青空文庫>
  12. ・・・この骸骨が軍服を着けて、紐釦ばかりを光らせている所を見たら、覚えず胴震が出て心中で嘆息を漏した、「嗚呼戦争とは――これだ、これが即ち其姿だ」と。 相変らずの油照、手も顔も既うひりひりする。残少なの水も一滴残さず飲干して了った。渇いて渇い・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13. ・・・ と嘆息させたのであるが、その時は幸いに無事だったが、月から計算してみて、七月中旬亡父の三周忌に帰郷した、その前後であるらしい。その前月おせいは一度鎌倉へつれ帰されたのだが、すぐまた逃げだしてき、その解決方に自分から鎌倉に出向いて行ったとこ・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  14. ・・・ と私はまたしても深い嘆息をしないわけに行かなかった。まったく救われない地獄の娑婆だという気がする。死んで行った人、雪の中の監獄のT君、そして自分らだってちっとも幸福ではない。 私も惨めであるが、Fも可哀相だった。彼は中学入学の予習をし・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  15. ・・・吉次は投げるように身を横にして手荒く団扇を使いホッとつく嘆息を紛らせばお絹『吉さんまだ風邪がさっぱりしないのじゃアないのかね。』『風邪を引いたというのは嘘だよ。』『オヤ嘘なの、そんならどうしたの。』『どうもしないのだよ。』・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  16. ・・・ああこのごろ、年若き男の嘆息つきてこの木立ちを当てもなく行き来せしこと幾度ぞ。 水瀦に映る雲の色は心失せし人の顔の色のごとく、これに映るわが顔は亡友の棺を枯れ野に送る人のごとし。目をあげて心ともなく西の空をながむればかの遠き蒼空の一線は・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  17. ・・・ 親爺は嘆息した。 柵をはずして、二人が糞に汚れた敷藁を出して新らしいのに換えていると、にや/\しながらいつも他人の顔いろばかり伺っている宇一がやって来た。 豚が新らしい敷藁を心地よがって、床板を蹴ってはねまわった。「お主ン・・・<黒島伝治「豚群」青空文庫>
  18. ・・・……彼は嘆息した。と、それと一緒に、又哀れげな呻きが出てきた。「どいつも、こいつも弱みその露助みたいに呻きやがって!」見廻りに来た、恩給に精通している看護長が苦々しく笑った。「痛いくらいが何だい! 日本の男子じゃないか! 死んどる者じゃ・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  19. ・・・ と、よく嘆息した。その三郎がめきめきと延びて来た時は、いつのまにか妹を追い越してしまったばかりでなく、兄の太郎よりも高くなった。三郎はうれしさのあまり、手を振って茶の間の柱のそばを歩き回ったくらいだ。そういう私が同じ場所に行って立って・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  20. ・・・くだいて、所かまわず吐きちらしてあるいて居られる由、また、さしたる用事もなきに、床より抜け出て、うろついてあるいて、電燈の笠に頭をぶっつけ、三つもこわせし由、すべて承り、奥さんの一難去ってまた一難の御嘆息も、さこそと思いますが、太宰ひとりが・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  21. ・・・とやっていた。しかし彼の古いティンダル効果の研究はいつのまにか現在物理学の前線へ向かってひそかにからめ手から近づきつつあった。研究資金にあまり恵まれなかった彼は「分光器が一つあるといいがなあ」と嘆息していた。そうして、やっと分光器が手に入っ・・・<寺田寅彦「時事雑感」青空文庫>
  22. ・・・ 息子は枕許で、嘆息と一緒に云った。   六 善ニョムさんが擲りつけた断髪娘は、地主の二番目娘で、二三日前東京から帰っているのだった。それが飼犬と一緒に散歩に出たのを、とっさんに腰がたたないほど、天秤棒で擲られたのだ・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  23. ・・・ 質屋の店を出て、二人は嘆息しながら表通を招魂社の鳥居の方へと歩いて行った。万源という料理屋の二階から酔客の放歌が聞える。二人は何というわけとも知らず、その方へと歩み寄ったが、その時わたしはふと気がついて唖々子の袖を引いた。万源の向側な・・・<永井荷風「梅雨晴」青空文庫>
  24. ・・・どうすることもできない、実に困ったと嘆息するだけで極めて悲観的の結論であります。こんな結論にはかえって到着しない方が幸であったのでしょう。真と云うものは、知らないうちは知りたいけれども、知ってからはかえってアア知らない方がよかったと思う事が・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  25. ・・・その辮髪は、支那人の背中の影で、いつも嘆息深く、閑雅に、憂鬱に沈思しながら、戦争の最中でさえも、阿片の夢のように逍遥っていた。彼らの姿は、真に幻想的な詩題であった。だが日本の兵士たちは、もっと勇敢で規律正しく、現実的な戦意に燃えていた。彼ら・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  26. ・・・と、吉里もうつむいて歎息する。「だがね、吉里さん、私しゃもうこれでいいんだ。お前さんとこうして――今朝こうして酌をしてもらッて、快い心持に酔ッて去りゃ、もう未練は残らない。昨夜の様子じゃ、顔も見せちゃアもらえまいと思ッて、お前さんに目ッ・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・我輩は直ちにその人を咎めずして、我が習俗の不取締にして人心の穎敏ならざるを歎息する者なり。これを要するに、今の紳士も学者も不学者も、全体の言行の高尚なるにかかわらず、品行の一点においては、不釣合に下等なる者多くして、俗言これを評すれば、御座・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  28. ・・・ほんとにわたしはなにも考えずにただ家の中で働いて来たばっかりだよ、という母の歎息を、若い世代がくりかえしたいと思っていないならば、そして、時間がなくて、ものを考えるどころじゃないわよ、というこんにちの若い主婦の苦悩をくりかえしたくないのなら・・・<宮本百合子「新しい卒業生の皆さんへ」青空文庫>
  29. ・・・られて眺めていると、やがて恍惚とした眼を開てフト僕の方を御覧になって、初て気が着て嬉しいという風に、僕をソット引寄て、手枕をさせて横に寐かし、何かいおうとして言い兼るように、出そうと思う言葉は一々長い歎息になって、心に畳まってる思いの数々が・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>
  30. ・・・たとえ眠られぬ真夜中に、堅い腰掛けの上で痛む肩や背や腰を自分でどうにもできないはかなさのため、幽かな力ない嘆息が彼らの口から洩れるにしても。 私はこんな空想にふけりながら、ぼんやり乳飲み児を見おろしている母親の姿をながめ、甘えるらしく自・・・<和辻哲郎「停車場で感じたこと」青空文庫>