たん‐てい【探偵】例文一覧 30件

  1. ・・・――里見探偵事務所はわかっている。事務所の誰?――吉井君?――よろしい。報告は?――何が来ていた?――医者?――それから?――そうかも知れない。――じゃ停車場へ来ていてくれ給え。――いや、終列車にはきっと帰るから。――間違わないように。さよ・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・粟野さんは今日も煙草の缶、灰皿、出席簿、万年糊などの整然と並んだ机の前に、パイプの煙を靡かせたまま、悠々とモリス・ルブランの探偵小説を読み耽っている。が、保吉の来たのを見ると、教科書の質問とでも思ったのか、探偵小説をとざした後、静かに彼の顔・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  3. ・・・僕は彼の目の中に探偵に近い表情を感じた。「どうです、僕の部屋へ話しに来ては?」 僕は挑戦的に話しかけた。すると彼は微笑しながら、「どこ、君の部屋は?」と尋ね返した。 僕等は親友のように肩を並べ、静かに話している外国人たちの中を僕・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  4. ・・・ 探偵でせえ無けりゃそれで好いんだ、馬鹿正直。而して暫くしてから、 だが虫かも知れ無え。こう見ねえ、斯うやって這いずって居る蠅を見て居ると、己れっちよりゃ些度計り甘めえ汁を嘗めているらしいや。暑さにもめげずにぴんぴんしたものだ。・・・<有島武郎「かんかん虫」青空文庫>
  5. ・・・いわゆる文壇餓殍ありで、惨憺極る有様であったが、この時に当って春陽堂は鉄道小説、一名探偵小説を出して、一面飢えたる文士を救い、一面渇ける読者を医した。探偵小説は百頁から百五十頁一冊の単行本で、原稿料は十円に十五円、僕達はまだ容易にその恩典に・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  6. ・・・ 突俯して、(ただ仰向であった―― で、背くぐみに両膝を抱いて、動悸を圧え、潰された蜘蛛のごとくビルジングの壁際に踞んだ処は、やすものの、探偵小説の挿画に似て、われながら、浅ましく、情ない。「南無、身延様――三百六十三段。南・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  7. ・・・一人だの、興行ぬしだの、手品師だの、祈祷者、山伏だの、……何を間違えた処で、慌てて魔法つかいだの、占術家だの、また強盗、あるいは殺人犯で、革鞄の中へ輪切にした女を油紙に包んで詰込んでいようの、従って、探偵などと思ったのでは決してない。 ・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  8. ・・・――……つもっても知れましょうが、講談本にも、探偵ものにも、映画にも、名の出ないほどの悪徒なんですから、その、へまさ加減。一つ穴のお螻どもが、反対に鴨にくわれて、でんぐりかえしを打ったんですね。……夜になって、炎天の鼠のような、目も口も開か・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  9. ・・・この家をめざしてからに、何遍も探偵が遣って来るだ。はい、麻畑と謂ってやりゃ、即座に捕まえられて、吾も、はあ、夜の目も合わさねえで、お前様を見張るにも及ばずかい、御褒美も貰えるだ。けンどもが、何も旦那様あ、訴人をしろという、いいつけはしなさら・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  10. ・・・あの馬鹿女郎め、今ごろはどこに何をしているか、一つ探偵をしてやろうと、うちわを持ったまま、散歩がてら、僕はそとへ出た。 井筒屋の店さきには、吉弥が見えなかった。 寝ころんでいたせいもあろう、あたまは重く、目は充血して腫れぼッたい。そ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  11. ・・・顔が熊の子のようで、愛くるしいので、きょうだいたちが、何かとかれにかまいすぎて、それがために、かれは多少おっちょこちょいのところがある。探偵小説を好む。ときどきひとり部屋の中で、変装してみたりなどしている。語学の勉強と称して、和文対訳のドイ・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  12. ・・・売店で、かず枝はモダン日本の探偵小説特輯号を買い、嘉七は、ウイスキイの小瓶を買った。新潟行、十時半の汽車に乗りこんだ。 向い合って席に落ちついてから、ふたりはかすかに笑った。「ね、あたし、こんな恰好をして、おばさん変に思わないかしら・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  13. ・・・私はジョルジュ・シメノンという人の探偵小説を読みはじめた。私は長い汽車の旅にはなるべく探偵小説を読む事にしている。汽車の中で、プロレゴーメナなどを読む気はしない。 北さんは私のほうへ新聞をのべて寄こした。受け取って、見ると、その頃私が発・・・<太宰治「帰去来」青空文庫>
  14. ・・・試験には、まだ十五分の間があった。探偵小説家の父親の銅像に、いつくしみの瞳をそそぎつつ、右手のだらだら坂を下り、庭園に出たのである。これは、むかし、さるお大名のお庭であった。池には鯉と緋鯉とすっぽんがいる。五六年まえまでには、ひとつがいの鶴・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  15. ・・・言った事だが、君は君自身に、どこかいいところがあると思っているらしいが、後代にまで名が残っている人たちは、もう君くらいの年齢の頃には万巻の書を読んでいるんだ、その書だって猿飛佐助だの鼠小僧だの、または探偵小説、恋愛小説、そんなもんじゃない、・・・<太宰治「鉄面皮」青空文庫>
  16. ・・・ 学校の校長が、私が話を聞きに行ったのを探偵にでも来たのかと思って、非常に恐れていたのも滑稽であった。 それから私は一度小林君の親たちの住んでいる家を訪ねた。やはり、小林君のことを小説にするとは言えないので、書画の話を聞くふりして出・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  17. ・・・無論同時に秘密警察署へも報告をいたしまして、私立探偵事務所二箇所へ知らせましたそうで。」「なるほど。シエロック・ホルムス先生に知らせたのだね。」 門番はおれの顔を見た。その見かたは慇懃ではあるが、変に思っているという見かたであった。・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  18. ・・・その問題は型式的には刑事探偵が偶には出くわす問題とおなじようなものかと思われた。 問題を分析するとつぎのようになる。 問題。宅の近所のA家は新聞所載のA家と同一か。同一ならばその家の猫Bと、宅の庭で見かけた猫Cと同一か。そうだとすれ・・・<寺田寅彦「ある探偵事件」青空文庫>
  19. ・・・それはとにかく、このヘリオトロープの信号は少なくも映画や探偵小説の一場面としてはこれも一遍だけは適当であろう。「モナリザの失踪」という映画に、ヒーローの寝ころんで「ナポレオンのイタリア侵入」を読んでいる横顔へ、女がいたずらの光束を送ると・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  20. ・・・たとえば探偵が容疑犯罪者と話しているおりから隣室から土人の女の歌が聞こえて来るのに気がついて耳をそばだてる。歌がやんで後にその女が現われるとすれば、そこに特殊なモンタージュ効果を生ずる。あるいは突然銃声が聞こえて窓ガラスに穴をあける、そこで・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  21. ・・・掏摸に金をすられた肥った年増の顔、その密告によって疑いの目を見張る刑事の典型的な探偵づら、それからポーラを取られた意趣返しの機会をねらう悪漢フレッド、そういう顔が順々に現われるだけでそれをながめる観客は今までに起こって来た事件の行きさつを一・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  22. ・・・諸君は探偵と云うものを見て、歯するに足る人間とは思わんでしょう。探偵だって家へ帰れば妻もあり、子もあり、隣近所の付合は人並にしている。まるで道徳的観念に欠乏した動物ではない。たまには夜店で掛物をひやかしたり、盆栽の一鉢くらい眺める風流心はあ・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  23. ・・・僕は少年時代に黒岩涙香やコナン・ドイルの探偵小説を愛読し、やや長じて後は、主としてポオとドストイェフスキイを愛読したが、つまり僕の遺伝的な天性気質が、こうした作家たちの変質性に類似を見付けた為なのだろう。 それはとにかく、これが僕を人嫌・・・<萩原朔太郎「僕の孤独癖について」青空文庫>
  24. ・・・ 署長さんは落ち着いて、卓子の上の鐘を一つカーンと叩いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵を呼びました。 さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署・・・<宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」青空文庫>
  25. ・・・ ネネムはこれはきっと探偵にちがいないと思いましたので、堅くなって答えました。「はい。私は書記が目的であります。」 するとその男は左手で短いひげをひねって一寸考えてから云いました。「ははあ、書記が目的か。して見ると何だな。お・・・<宮沢賢治「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」青空文庫>
  26. ・・・勿論、直接の感覚としては面白さを求めるとも見えるが、面白さの要素は心理的に綜合的なものであり、探偵小説、怪奇小説の類でさえ書かれている世界のリアリティーは、面白くない面白いを決定する重大な契機となっている。 面白さが読者大衆から要求され・・・<宮本百合子「今日の文学に求められているヒューマニズム」青空文庫>
  27. ・・・ 探偵小説の面白味というものの真髄はどこにあるのであろう。そして、外国ではどうか知らないが、何故日本では医学方面の専門家が、この探偵小説を執筆するのであろう。法医学的な分野で接近があり、心理学、神経病理学とのつながりがあるからなのだろう・・・<宮本百合子「作家のみた科学者の文学的活動」青空文庫>
  28. ・・・ かつては、世界で一番一人当りの貯金高の多かったイギリスの中流人の生活という安穏な日々の基盤の上に、ゴルフが流行し、同じ消閑慰安の目的にそうものとして探偵小説が発達したことには、必然があった。吉田首相がイギリスの探偵小説をよみ、日本の大・・・<宮本百合子「「下じき」の問題」青空文庫>
  29. ・・・先より話し易い心持で、探偵小説のことや、アメリカの学校のことなど喋った。着物でも夏であったが、黄麻の無地で、髪や容貌と似合っていた。 その時、別に立ち入った話をした訳ではなかったのに、数日後、私は俥に乗って田端の芥川さんの家を訪ねました・・・<宮本百合子「田端の坂」青空文庫>
  30. ・・・巴里で Emile Henry とかいう奴が探偵の詰所に爆裂弾を投げ込んで、五六人殺した。それから今一つの玉を珈琲店に投げ込んで、二人を殺して、あと二十人ばかりに怪我をさせた。そいつが死刑になる前に、爆裂弾をなんに投げ附けても好いという弁明・・・<森鴎外「食堂」青空文庫>