たん‐なる【単なる】例文一覧 30件

  1. ○僕はこれからも今月のと同じような材料を使って創作するつもりである。あれを単なる歴史小説の仲間入をさせられてはたまらない。もちろん今のがたいしたものだとは思わないが。そのうちにもう少しどうにかできるだろう。○酒虫は材料を・・・<芥川竜之介「校正後に」青空文庫>
  2. ・・・何故と云えば、それらを活々と描写する事は、単なる一学究たる自分にとって、到底不可能な事だからである。 が、もし読者がそれに多少の困難を感ずるとすれば、ペックがその著「ヒストリイ・オブ・スタンフォオド」の中で書いている「さまよえる猶太人」・・・<芥川竜之介「さまよえる猶太人」青空文庫>
  3. ・・・そしてできるなら、諸家にも、単なる私の言説に対する批評でなしに――もちろん批評にはいつでも批評家自身の立場が多少の程度において現われ出るものではあるが――この問題に対する自分自身の正面からの立場を見せていただきたいと思う。それを知りたいと望・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  4. ・・・ああしているとやがておお事になると彼は思わずにはいられなくなった。単なる好奇心が少しぐらつきだして、後戻りしてその子供のために扉をしめる手伝いをしてやろうかとふと思ってみたが、あすこまで行くうちには牛乳瓶がもうごろごろと転げ出しているだろう・・・<有島武郎「卑怯者」青空文庫>
  5. ・・・だが、この椿岳の女道楽を単なる漁色とするは時代を無視した謬見である。 椿岳は物故する前二、三年、一時千束に仮寓していた。その頃女の断髪が流行したので、椿岳も妻女の頭髪を五分刈に短く刈らして、客が来ると紹介していう、これは同庵の尼でござい・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・作者の私生活と交渉のなかった単なる読者は最後の『回外剰筆』を読むまでは恐らく馬琴が盲したのを全く知らなかったろう。一体が何事にも執念く、些細な日常瑣事にすら余りクドクド言い過ぎる難があるが、不思議に失明については思切が宜かった。『回外剰筆』・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  7. ・・・この点は、成人を相手とする読物以上に骨の折れることであって、技巧とか、単なる経験有無の問題でなく天分にもよるのであるが、また、いかに児童文学の至難なるかを語る原因でもあります。 もし、その作者が、真実と純愛とをもって世上の子供達を見た時・・・<小川未明「新童話論」青空文庫>
  8.  ガンヂイーのカッダール主義は、単なる生活の単純化でないであろう。それには、多分に政治的の意味が含まれているからだ。しかし、それに、私達は、教えられるところがないだろうか。 私の子供時分には、まだ、周囲に封建時代の風習も、生活様式も・・・<小川未明「単純化は唯一の武器だ」青空文庫>
  9. ・・・ そんなにまで、いろいろと仕事に手を出すのは、単なる仕事好きとだけ考えられなかった。やはり金ではないかと私は思った。聴く所によると、彼はシナリオ料や脚本料など相当な高額を要求し、払いがおくれると矢のような催促をするそうである。おまけにそ・・・<織田作之助「鬼」青空文庫>
  10. ・・・しかし、肉体を描くということは、あくまで終極の目的ではなくて単なるデッサンに過ぎず、人間の可能性はこのデッサンが成り立ってはじめてその上に彩色されて行くのである。しかし、この色は絵画的な定着を目的とせず、音楽的な拡大性に漂うて行くものでなけ・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  11. ・・・それは母の声そっくりと言いたいほど上手に模してあった。単なる言葉だけでも充分自分は参っているところであった。友人の再現して見せたその調子は自分を泣かすだけの力を持っていた。 模倣というものはおかしいものである。友人の模倣を今度は自分が模・・・<梶井基次郎「泥濘」青空文庫>
  12. ・・・それは単なる皺でした。然し私の気がついたのはそれが一時的の皺ではないことでした。とにかく些細なことでした。然し私はそのときも自分のなにかがつかれたような気がしたのです。私は自分にもいつかそんなことを思ったときがあると思いました。確かにあった・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  13. ・・・正義をもって社会悪を克服するという倫理的な根拠なくして、単なる物的必然力によって、人間は犠牲的奉仕にまで感奮することは出来るものではない。 倫理思想は内側から社会を動かす原動力である。そして倫理学はその実践への機を含んでしかも、直接に発・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  14. ・・・ 読書とは単なる知性の領域にある事柄ではない。それは情意と、実践との世界に関連しているのである。特に東洋においては、それはむしろ実践のためにあるものなのであった。 しかしながら前にも述べた如く、良書とは自分の抱く生の問いにこたえ得る・・・<倉田百三「学生と読書」青空文庫>
  15. ・・・ 一方では、物置きなどへは持って行った記憶がないのを十分知っていながら、単なる気持を頼って、暗い、黴臭い物置きへ這入って探しまわった。「あんた、私の留守に誰れぞ来た!」 おず/\彼女は清吉の枕元へ行って訊ねた。「いや。誰れも・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  16. ・・・「資本主義は、極く少数の特に富有で強力な国家を極端まで押しやり、それらの少数国家は、世界住民の約十分ノ一か、多く見積って高々五分ノ一しか擁しないに拘らず、単なる『利札切り』で全世界を掠奪しているのである。」 だから××××戦争は、掠奪者・・・<黒島伝治「反戦文学論」青空文庫>
  17. ・・・而してその当然の解釈が、信ぜず従わずをもって単なる現状の告白とせず、進んでこれを積極の理想とするに傾くとすれば、これも私には疑惑圏内の一要素となるばかりで、最後の解決とはならない。 かくのごとくしていわゆる人生観上の自然主義も私には疑い・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  18. ・・・僕は恥辱を忍んで言うのだけれど、なんの為に雑誌を作るのか実は判らぬのである。単なる売名的のものではなかろうか。それなら止した方がいいのではあるまいか。いつも僕はつらい思いをしている。こんなものを、――そんな感じがして閉口して居る。殆ど自分一・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  19. ・・・ここはね、単なる宿屋さ。」 私は、むっとして顔を挙げました。 暗い電燈の下で、黙ってうつむいて蒸パンを食べていらっしゃる奥さまの眼に、その時は、さすがに涙が光りました。私はお気の毒のあまり、言葉につまっていましたら、奥さまはうつむき・・・<太宰治「饗応夫人」青空文庫>
  20. ・・・日記を見てから、小林秀三君はもう単なる小林秀三君ではなかった。私の小林秀三君であった。どこに行ってもその小林君が生きて私の身辺についてまわってきているのを感じた。 かれの眼に映ったシーン、風景、感じ、すべてそれは私のものであった。私はそ・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  21. ・・・などと自分で云っているが、単なるボスウェリズムでない事は明らかに認められる。 時々アインシュタインに会って雑談をする機会があるので、その時々の談片を題目とし、それの注釈や祖述、あるいはそれに関する評論を書いたものが纏まった書物になったと・・・<寺田寅彦「アインシュタインの教育観」青空文庫>
  22. ・・・ 日本橋橋畔のへリオトロープは単なる子供のいたずらであったであろうが、同じようなのでただの悪戯ではない場合があり得る。例えば某ビルディングの某会社のある窓の内に執務している甲某にその友人乙某が百メートルも先の街上から何かしらある信号を送・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  23. ・・・卒業の少し前から話が続いているので、自分たちだけには単なる「あのこと」でいっさいの経過が明らかに頭に浮かむせいか、べつだん改まって相手の名前などは口へ出さないで済ますことが多かったのである。 女は妻の遠縁に当たるものの次女であった。その・・・<夏目漱石「手紙」青空文庫>
  24. ・・・人間としてもっとも広くかつ高き理想を有した人で始めて他を感化する事ができるのでありますから、文芸は単なる技術ではありません。人格のない作家の作物は、卑近なる理想、もしくは、理想なき内容を与うるのみだからして、感化力を及ぼす力もきわめて薄弱で・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  25. ・・・国家に世界史的使命の自覚なく、単なる帝国主義の立場に立つかぎり、又逆にその半面に、階級闘争と云うものを免れない。十九世紀以来、世界は、帝国主義の時代たると共に、階級闘争の時代でもあった。共産主義と云うのは、全体主義的ではあるが、その原理は、・・・<西田幾多郎「世界新秩序の原理」青空文庫>
  26. ・・・自己は自己の対象となることはできない。自己の対象となるものは自己ではない。然らば自己は単に不可知的か。単に不可知的なるものは、無と択ぶ所はない。自己は単なる無か。自己を不可知的というものは、何物か。対象的に知ることのできない自己は、最も能く・・・<西田幾多郎「デカルト哲学について」青空文庫>
  27. ・・・彼等の中で、比較的忠実に読んだ人さへが、単なる英雄主義者として、反キリストや反道徳の痛快なヒーローとして、単純な感激性で崇拝して居たこと、あたかも大正期の文壇でトルストイやドストイェフスキイやを、単なる救世軍の大将として、白樺派の人々が崇拝・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  28. ・・・文学は、今日もう単なる個人の業績の問題ではなくなった。文学が歴史の鏡であるという事実はいよいよ明白である。   一九四七年十月〔一九四七年十二月〕<宮本百合子「あとがき(『作家と作品』)」青空文庫>
  29. ・・・此の恐るべき文学の包括力が、マルクスをさえも一個の単なる素材となすのみならず、宇宙の廻転さえも、及び他の一切の摂理にまで交渉し得る能力を持っているとするならば、われわれの文学に対する共通の問題は、一体、いかなる所にあるのであろうか。それは、・・・<横光利一「新感覚派とコンミニズム文学」青空文庫>
  30. ・・・しかし民衆運動が勃興して後には、由緒の代わりに実力が物をいうようになった。単なる家柄の代わりに実際の統率力や民衆を治める力が必要となったのである。だから政治的才能の優れた統率者が、いわゆる「群雄」として勃興して来た。彼らを英雄たらしめたのは・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>