だん‐ぱつ【断髪】例文一覧 21件

  1. ・・・しかし女の断髪は勿論、パラソルや踵の低い靴さえ確に新時代に出来上っていた。「幸福らしいね。」「君なんぞは羨しい仲間だろう。」 O君はK君をからかったりした。 蜃気楼の見える場所は彼等から一町ほど隔っていた。僕等はいずれも腹這・・・<芥川竜之介「蜃気楼」青空文庫>
  2. ・・・すると向うから断髪にした女が一人通りかかった。彼女は遠目には美しかった。けれども目の前へ来たのを見ると、小皺のある上に醜い顔をしていた。のみならず妊娠しているらしかった。僕は思わず顔をそむけ、広い横町を曲って行った。が、暫らく歩いているうち・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  3. ・・・その頃女の断髪が流行したので、椿岳も妻女の頭髪を五分刈に短く刈らして、客が来ると紹介していう、これは同庵の尼でございますと。大抵のお客は挨拶にマゴマゴしてしまった。その頃であった、或る若い文人が椿岳を訪ねると、椿岳は開口一番「能く来なました・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  4. ・・・入口の隅のクリスマスの樹――金銀の眩い装飾、明るい電灯――その下の十いくつかのテーブルを囲んだオールバックにいろいろな色のマスクをかけた青年たち、断髪洋装の女――彼らの明るい華かな談笑の声で、部屋の中が満たされていた。自分は片隅のテーブルで・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  5. ・・・彼女は断髪をして薄い夏の洋装をしていた。しかしそれには少しもフレッシュなところがなかった。むしろ南京鼠の匂いでもしそうな汚いエキゾティシズムが感じられた。そしてそれはそのカフェがその近所に多く住んでいる下等な西洋人のよく出入りするという噂を・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  6. ・・・婦人の断髪はやや下火でも、洋装はまだこれからというころで、思い思いに流行の風俗を競おうとするような女学校通いの娘たちが右からも左からもあの電車の交差点に群がり集まっていた。 私たち親子のものが今の住居を見捨てようとしたころには、こんな新・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  7. ・・・グラスをしばらく見つめてから、深い溜息とともにカウンタア・ボックスの少女の方をちらと見あげた。断髪の少女は、花のように笑った。私は荒鷲のようにたけりたけって、グラスをつかんだ。飲んだ。ああ、私はそのときのほろにがい酒の甘さを、いまだに忘れる・・・<太宰治「断崖の錯覚」青空文庫>
  8. ・・・左手に坐っていた断髪の女が、乙彦の膝を軽くおさえた。「困ったわね。雨が降ってるのよ。」「雨。」「ええ。」 逢ったばかりの、あかの他人の男女が、一切の警戒と含羞とポオズを飛び越え、ぼんやり話を交している不思議な瞬間が、この世に、在・・・<太宰治「火の鳥」青空文庫>
  9. ・・・とにかくそこいらを歩いている普通十人並の娘達と同じような着物に、やはりありふれたようなショールを肩へかけて、髪は断髪を後ろへ引きつかねている。しかし白粉気のない顔の表情はどこかそこらの高等女学校生徒などと比べては年の割にふけて見えるのである・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  10. ・・・地球磁力や気象の観測を受け持って来たただ一人の婦人部員某夫人は、男のように短く切りつめた断髪で、青い着物を着ていた。どこか小鳥のような感じのする人で仏語のほかは話さなかったようである。そのほかの若い生物学者や地質学者やみんなまじめで上品で気・・・<寺田寅彦「北氷洋の氷の割れる音」青空文庫>
  11. ・・・ くさりを切らした洋装の娘が断髪を風に吹きなびかして、その犬のあとを追いかけて同じく榛の木の土堤上に現われたのも善ニョムさんは、わからなかった。 赤白マダラの犬は、主人の呼声を知らぬふりで飛び跳ねながら、並樹土堤から、今度は一散に麦・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  12. ・・・この苗木のもとに立って、断髪洋装の女子と共に蓄音機の奏する出征の曲を聴いて感激を催す事は、鬢糸禅榻の歎をなすものの能くすべき所ではない。巴里には生きながら老作家をまつり込むアカデミイがある。江戸時代には死したる学者を葬る儒者捨場があった。大・・・<永井荷風「正宗谷崎両氏の批評に答う」青空文庫>
  13. ・・・その後、廃藩置県、法律改定、学校設立、新聞発行、商売工業の変化より廃刀・断髪等の件々にいたるまで、その趣を見れば、我が日本を評してこれを新造の一国と云わざるをえず。人あるいはこの諸件の変革を見て、その原因を王政維新の一挙に帰し、政府をもって・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  14. ・・・花の如く、玉の如く、愛すべく、貴むべく、真に児女子の風を備えて、かの東京の女子が、断髪素顔、まちだかの袴をはきて人を驚かす者と、同日の論にあらざるなり。 この学校は中学の内にてもっとも新なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達・・・<福沢諭吉「京都学校の記」青空文庫>
  15. ・・・そのときの彼女たちは、断髪に日の丸はちまきをしめて、日本の誇る産業戦士であった――寮でしらみにくわれながらも。彼女たちの働く姿は新聞に映画にうつされた。あなたがたの双肩に日本の勝利はゆだねられています、第一線の花形です、というほめ言葉を、そ・・・<宮本百合子「偽りのない文化を」青空文庫>
  16. ・・・着物の上にネンネコをひっかけ、断髪にもその着物の裾にも埃あくたをひきずっている。体全体から嘔きたくなるような悪臭がした。弁当を出し入れする戸口のところに突立ったなりどうしても坐らず、グー、グー喉を鳴らしている。 どの監房でも横にはなって・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  17. ・・・薄色の髪の毛を簡単な断髪にして、黒っぽい上衣の胸に、彼女の功績を語る勲章がさげられている。衿もとには、昔のソヴェトに決して見られなかった美しいレースの衿がのぞいている。オルガ・ベルホルツの写真の中の顔は、私たちを感動させる表情をたたえている・・・<宮本百合子「新世界の富」青空文庫>
  18. ・・・ 地味な、断髪の女が机と机との間をしずかに歩いている。肩ごしに女たちの手帳をのぞき、時々必要な注意を与えている。日本女のすぐそばまで来た時、二十七八の女の手帳をのぞき低い声で、 ――これは間違ってる。 注意を与えた。 ――こ・・・<宮本百合子「スモーリヌイに翻る赤旗」青空文庫>
  19. ・・・の色が見える首、 ○ただ一かわの樹木と鉄柵で内幸町の通りと遮断され 木の間から黄色い電車、緑色の水瓜のようなバス、自動車がとび過るのが見ゆ ○プラタナスの下のベンチ 緑色のコートをきた女、断髪の女とかけて居る。断髪の方の髪の工合・・・<宮本百合子「一九二七年春より」青空文庫>
  20. ・・・ 手風琴をひいている断髪の女が輪のなかに、前で、二人の労働婦人がロシア踊りをおどっている。 男と女が組で踊るところを、男役を買ってでている女が、これはまたなんと威勢のいいことだ! 着ぶくれたアガーシャ小母さんである。音楽にあわせ、・・・<宮本百合子「ソヴェト同盟の三月八日」青空文庫>
  21. ・・・或る読売雑誌には、かっちゃんと呼んで断髪兵児帯姿の良子嬢をはったあんちゃんの一人が、いかにも町の若者らしい情感をもってかっちゃんがそこいらの女給などは夢にも知らぬカメラの話、ヨットの話、華美な夏の鎌倉の遊楽生活を話したりするをきいて、映画的・・・<宮本百合子「花のたより」青空文庫>