だん‐ぺん【断片】例文一覧 30件

  1. ・・・したがって断片的でなければならぬ。――まとまりがあってはならぬ。(まとまりのある詩すなわち文芸上の哲学は、演繹的には小説となり、帰納的には戯曲となる。詩とそれらとの関係は、日々の帳尻そうして詩人は、けっして牧師が説教の材料を集め、淫売婦があ・・・<石川啄木「弓町より」青空文庫>
  2. ・・・椿岳小伝はまた明治の文化史の最も興味の深い一断片である。 椿岳の名は十年前に日本橋の画博堂で小さな展覧会が開かれるまでは今の新らしい人たちには余り知られていなかった。展覧会が開かれても、案内を受けて参観した人は極めて小部分に・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・よし新聞や何かで断片的には読んでいるとしても、私はやはり初期の作が好きだ。特に短篇に好きなものがある。「文鳥」のようなものが佳いと思う。「猫」、「坊ちやん」、「草枕」、「ロンドン塔」、「カーライル博物館」、こんなものが好きだ。 要するに・・・<内田魯庵「温情の裕かな夏目さん」青空文庫>
  4. ・・・偶々二三の人が著述に成功して相当の産を作った例外の例があっても、斯ういう文壇の当り屋でも今日の如く零細なる断片的文章を以てパンに換える事は決して出来なかった。 夫故、当時に在っては文人自身も文学を以て生活出来ると思わなかった。文人が公民・・・<内田魯庵「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」青空文庫>
  5. ・・・人生自然の零細な断片的な投影に過ぎないものでも、それはわれ/\の注意力如何によって極めて微妙な思想へまで導いてゆくものである。 読むことから、そして見ることから、われ/\の随時に獲たあるものに対して、統一を与え組織を与えるものは、実に思・・・<小川未明「文章を作る人々の根本用意」青空文庫>
  6.      断片 一 夜になるとその谷間は真黒な闇に呑まれてしまう。闇の底をごうごうと溪が流れている。私の毎夜下りてゆく浴場はその溪ぎわにあった。 浴場は石とセメントで築きあげた、地下牢のような感じの共同湯であった・・・<梶井基次郎「温泉」青空文庫>
  7. ・・・水は清く澄んで、大空を横ぎる白雲の断片を鮮かに映している。水のほとりには枯蘆がすこしばかり生えている。この池のほとりの径をしばらくゆくとまた二つに分かれる。右にゆけば林、左にゆけば坂。君はかならず坂をのぼるだろう。とかく武蔵野を散歩するのは・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  8. ・・・然主義者としての花袋の面目もある訳だが、それだけに、戦場の戦闘開始前に於ける兵士や部隊の動きや、満洲の高粱のある曠野が、空想でない、しっかりした真実味に富んだ線の太い筆で描かれていながら、一つの戦地の断片に終って、全体としての戦争は浮びあが・・・<黒島伝治「明治の戦争文学」青空文庫>
  9. ・・・それは十二文豪の一篇として書いたものだが、すっかり書き終らなかったもので、丁度病中に細君が私の処へその原稿を持って来て、これを纏めて呉れないかという話があって、その断片的な草稿を文字の足りない処を書き足して、一冊の本に纏めたという縁故もあり・・・<島崎藤村「北村透谷の短き一生」青空文庫>
  10. ・・・きょうの日まで、私は、その女性について、ほんの断片的にしか語らず私ひとりの胸にひめていた。けれども私の誇るべき一先輩が、早く書かなけれあ、君、子供が雪兎を綿でくるんで机の引き出しにしまって置くようなもので、溶けてしまうじゃないか。あとでひと・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  11. ・・・ 私は左に、私の忘れ得ぬ事実だけを、断片的に記そうと思う。断片断片の間をつなごうとして、あの思想家たちは、嘘の白々しい説明に憂身をやつしているが、俗物どもには、あの間隙を埋めている悪質の虚偽の説明がまた、こたえられずうれしいらしく、俗・・・<太宰治「苦悩の年鑑」青空文庫>
  12. ・・・ われより若きものへ自信つけさせたく、走り書。断片の語なれども、私は、狂っていません。 社会制裁の目茶目茶は医師のはんらんと、小市民の医師の良心に対する盲目的信仰より起った。たしかに重大の一因である。ヴェルレエヌ氏の施療病院に於・・・<太宰治「HUMAN LOST」青空文庫>
  13. ・・・と言うも、これは、遁走の一方便にすぎないのであって、作家たる男が、毎月、毎月、このような断片の言葉を吐き、吐きためているというのは、ほめるべきことでない。「言い得て、妙である。」「かれは、勉強している。」「なるほど、くるしんでい・・・<太宰治「碧眼托鉢」青空文庫>
  14. ・・・けれども、先日、私は、作家の書簡集、日記、断片をすべてくだらないと言ってしまった。いまでも、そう思っている。よし、とゆるした私の書簡は私の手で発表する。以下、二通。 保田君。 ぼくもまた、二十代なのだ。舌焼け、胸焦げ、空高き雁の声を・・・<太宰治「もの思う葦」青空文庫>
  15. ・・・彼の会話の断片を基にしたジャーナリストの評論や、またそれの下手な受売りにどれだけの信用が措けるかは疑問である。ただ煙の上がる処に火があるというあまりあてにならない非科学的法則を頼みにして、少しばかりの材料をここに紹介する。 彼の人間に対・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  16. ・・・微細な断片が想像の力で補充されて頭の中には色々な大きな色彩の模様が現われて来た。 普通の白地に黒インキで印刷した文字もあった。大概やっと一字、せいぜいで二字くらいしか読めない。それを拾って読んでみると例えば「一同」「円」などはいいが「盪・・・<寺田寅彦「浅草紙」青空文庫>
  17. ・・・を通過して平たくひしゃげた綿の断片には種子の皮の色素が薄紫の線条となってほのかに付着していたと思う。 こうして種子を除いた綿を集めて綿打ちを業とするものの家に送り、そこで糸車にかけるように仕上げしてもらう。この綿打ち作業は一度も見たこと・・・<寺田寅彦「糸車」青空文庫>
  18. ・・・もしこの漆黒の髪がなかったら浮世絵の顔の線などは無意味な線の断片の集合に堕落してしまって画面全体に対する存在理由の希薄なものになってしまいそうである。 頭髪の輪郭をなしているいろいろの曲線がまた非常に重要な役目をしている。歌麿以前の名家・・・<寺田寅彦「浮世絵の曲線」青空文庫>
  19. ・・・もしS先生の御遺族なりあるいは親しかった人達を尋ねて聞いて歩いたら、あるいはその断片でも回収する望みがないでもないかと思われる。 こんな風に、先生の御遺族や、また御弟子達の思いも付かない方面に隠れ埋もれた資料が存外沢山あるかもしれない、・・・<寺田寅彦「埋もれた漱石伝記資料」青空文庫>
  20. ・・・自分はただ断片的なる感想を断片的に記述する事を以て足れりとせねばならぬ。 われわれ過渡期の芸術家が一度びこの霊廟の内部に進入って感ずるのは、玉垣の外なる明治時代の乱雑と玉垣の内なる秩序の世界の相違である。先ず案内の僧侶に導かれるまま、手・・・<永井荷風「霊廟」青空文庫>
  21. ・・・ 生涯の大勢は構わないその日その日を面白く暮して行けば好いという人があるように、芝居も大体の構造なんか眼中におく必要がない、局部局部を断片的に賞翫すればよいという説――二宮君のような説ですが、まあその説に同意してみたらどんなものでしょう・・・<夏目漱石「虚子君へ」青空文庫>
  22. ・・・ここに集められている旅行記は断片的だ。それに、書きかたが、多く、自分の古い技術のかたによって書かれている。つまり、まあ気取ってるのだ。 だから、パラッと頁をくって見て、買わない人もうんとあるだろう。自分は、こういうかたで書いた本はこれを・・・<宮本百合子「若者の言葉(『新しきシベリアを横切る』)」青空文庫>
  23. ・・・ また一九四一年にはいってからは、ほんの断片的な執筆しかなくて、それも前半期以後は全く途絶えてしまっているのは、一九四一年の一月から太平洋戦争を準備していた権力によってはげしい言論抑圧が進行し、宮本百合子の書いたものは、批判的であり、非・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」青空文庫>
  24. ・・・をかいた頃、作者は自分の見ているソヴェトの現実が、どんなに巨大な機構のうちの小さくて消極的な断片であり、しかも海岸の棒杭にひっかかっている一本の枝とそこについているしぼんだ花のような題材にすぎないかということは理解しなかったのである。 ・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」青空文庫>
  25. ・・・第一次大戦の惨苦のあとをまだまざまざと感じているヨーロッパの人々、特に青年はジャックの上に、自分たちの物語のいくつかの断片を実感し、不安に空気をゆすぶっている嵐の前兆に対して自分の青春の価値と意義を最も自覚のある方法で堅持しようとしたのであ・・・<宮本百合子「生きつつある自意識」青空文庫>
  26. ・・・ ウウウウ ハアハア 胸はひどく波打って居た。 覚えとれ、鬼め。 ほんにほんに憎い女子やどうぞしてくれる、わしは子供の時からお主にひどい目に会わされてる。 断片的に、上ずった声で叫んだ。 その恐し・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  27. ・・・これは不断片附けてある時は、腰掛が卓の上に、脚を空様にして載せられているのだが、丁度弁当を使う時刻なので、取り卸されている。それが食事の跡でざっと拭くだけなので、床と同じ薄墨色になっている。 一体役所というものは、随分議会で経費をやかま・・・<森鴎外「食堂」青空文庫>
  28. ・・・生の美しさは個性と持続とのなかからのみ閃めき出るように思える。断片的な享楽の美は私には迷わしにほかならない。 またたとえそれを一つの態度として許しても、そこには内在的な批評の余地があろうと思う。すなわち彼らは果たしてその態度を徹底させて・・・<和辻哲郎「転向」青空文庫>
  29. ・・・私はあえて筆を執ろうとする自分の無謀にも驚かざるを得ない。しかも今私は二、三の事を書きたい衝動に駆られ初めた。私は断片的になる危険を冒して一気に書き続けようと思う。(もうすぐに先生の死後九日目が初まる。田舎の事とてあたりは地の底に沈んで行く・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>
  30. ・・・すなわちそれは「断片」となっているのである。そうしてみると、胴体から引き離した首はそれ自身「人」の表現として立ち得るにかかわらず、首から離した胴体は断片に化するということになる。顔が人の存在にとっていかに中心的地位を持つかはここに露骨に示さ・・・<和辻哲郎「面とペルソナ」青空文庫>