だんまり【黙り】例文一覧 21件

  1. ・・・すると新蔵はなおさらの事、別人のように黙りこんで、さっさと歩みを早めたそうですが、その内にまた与兵衛鮨の旗の出ている下へ来ると、急に泰さんの方をふり向いて、「僕はお敏に逢ってくりゃ好かった。」と、残念らしい口吻を洩しました。その時泰さんが何・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  2. ・・・ 監督を先頭に、父から彼、彼から小作人たちが一列になって、鉄道線路を黙りながら歩いてゆくのだったが、横幅のかった丈けの低い父の歩みが存外しっかりしているのを、彼は珍しいもののように後から眺めた。 物の枯れてゆく香いが空気の底に澱んで・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・そう思ったので帽子も被らないで、黙りで、ふいと出た。 直き町の角の煙草屋も見たし、絵葉がき屋も覗いたが、どうもその類のものが見当らない。小半町行き、一町行き……山の温泉の町がかりの珍しさに、古道具屋の前に立ったり、松茸の香を聞いたり、や・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  4. ・・・ 彼はますます不機嫌に黙りこんでしまった。私はすっかりてれて、悄げてしまった。「準備はもうすっかりできたのかね?」と、私は床の間の本箱の側に飾られた黒革のトランクや、革具のついた柳行李や、籐の籠などに眼を遣りながら、言った。「ま・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  5. ・・・その時間私とその友達とは音楽に何の批評をするでもなく黙り合って煙草を吸うのだったが、いつの間にか私達の間できまりになってしまった各々の孤独ということも、その晩そのときにとっては非常に似つかわしかった。そうして黙って気を鎮めていると私は自分を・・・<梶井基次郎「器楽的幻覚」青空文庫>
  6. ・・・というような気持でわざと黙り続けているのだった。しかし吉田がそう思って黙っているというのは吉田にしてみればいい方で、もしこれが気持のよくないときだったら自分のその沈黙が苦しくなって、というようなことから始まって、母親が自分のそんな意志を否定・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  7. ・・・喋べくりながら合品を使っていた女達が、不意につゝましげに黙りこんだ。井村は闇の中をうしろへ振りかえった。白服の、課長の眼鏡が、カンテラにキラ/\反射していた。「どうだい、どういうとこを掘っとるか?」 採鉱成績について、それが自分の成・・・<黒島伝治「土鼠と落盤」青空文庫>
  8. ・・・ それでまた両人は黙りこんで耳をすました。「やっぱり百姓の方がえい。」とばあさんはまた囁いた。「お、なんぼ貧乏しても村に居る方がえい。」とじいさんはため息をついた。「今から去んで日傭でも、小作でもするかい。どんなに汚いところ・・・<黒島伝治「老夫婦」青空文庫>
  9. ・・・黙って黙って黙り通しにしているの。わたしいつもこんな時は、そんなにしているのがお前さんの強みだと思ったわ。だけれど本当はそうじゃないかも知れないわ。お前さんにはなんにもいうことがないのかも知れないわ。お前さんはなんにも考えてはいないのかも知・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  10. ・・・中央の列の人はみんな申し合せたように黙りこんでいた。左右の席の人々が何となく緊張しているに反して中央の席の人々は、まるで別の国の人のように気楽そうに見えた。その中のある人は、演説のある最中に呑気相に席を立ってどこかへ出て行ったりした。その時・・・<寺田寅彦「議会の印象」青空文庫>
  11. ・・・クねずみはまたいやなせきばらいをやりましたので、タねずみはこんどというこんどはすっかりびっくりして半分立ちあがって、ぶるぶるふるえて目をパチパチさせて、黙りこんでしまいました。 クねずみは横の方を向いて、おひげをひっぱりながら、横目でタ・・・<宮沢賢治「クねずみ」青空文庫>
  12. ・・・ 二人は又黙り込んだ。 卓子の上のスタンドが和らかな深い陰翳をもって彼の顔半面を照し出した。彼方側を歩いているさほ子の顔は見えず、白い足袋ばかりがちらちら薄明りの中に動いて見えた。 十分ばかりも経った時、さほ子はやっと沈黙を破っ・・・<宮本百合子「或る日」青空文庫>
  13. ・・・ 白山羊も暫くで黙り、一寸首を曲げた。向い合わせに立ったまま白山羊と黒驢馬とは、月明りの屋根の上で浮れて居る書生達の唄を聞いて居る風であった。 唄が終った。四辺は非常に静かで虫の音がした。少し風も吹いた。 白山羊は、身震いするよ・・・<宮本百合子「黒い驢馬と白い山羊」青空文庫>
  14. ・・・ 母親は、不服げに、十分意味はさとらず、然しぼんやりそれが何か不利を招くと直覚して黙り込む。だが、すぐ別のことから、同じ問題へ立ち戻る。 親たちの日常生活は勤労階級の生活でなく、母親は若い頃からの文学的欲求や生来の情熱を、自分独特の・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  15. ・・・私は、気抜けしたように黙りこんで、広々とした耕地を瞰渡す客間の廊下にいた。茶の間の方から、青竹を何本切らなければならぬ、榊を何本と、神官が指図をしている声がした。皆葬式の仕度だ。東京で一度葬式があった。この時、私は種々深い感じを受けた。二度・・・<宮本百合子「この夏」青空文庫>
  16. ・・・燦らんとした天の耀きはわが 一筋の思 薄き紫の煙を徹してあわれ、わたしの心を盪かせよう   恍惚と  六月二十二日淋しい日々の生活――あわれな 我良人は蒼い顔をし 黙り神経質に パタパタと手づくりの活・・・<宮本百合子「初夏(一九二二年)」青空文庫>
  17. ・・・自分は少し疲れ、同時にいろいろな印象によって亢奮した心の状態で食堂で、夕飯をたべる間も、どっちかというと黙りこんで四辺を眺めていた。四十人ばかり、今夜アメリカに向って立つというペルシアの若者が英語と自分の国の言葉とで喋りながら、食堂の一方を・・・<宮本百合子「石油の都バクーへ」青空文庫>
  18. ・・・ 祖母は、いいともわるいとも云わず、暫く黙り、また云う。「百姓どもははあ、一寸でもよけい畑作ろうと思ってからに、桐の根まで掘り返すごんだうわ、それでいて芽を一本かいてくれない。それも心配だし、御不動様へつぶも上げなきゃあなるめえし」・・・<宮本百合子「祖母のために」青空文庫>
  19. ・・・ 何んもはあねえくなるまで、さっさとひっ剥だらええでねえけ、小面倒臭せえ。 乞食して暮しゃ、家も地面も入用んねえで、世話あねえわ!」 黙り返っているお石は、折々不意にはっきり独言しながら、ゴロンと炉辺に臥ころがったりした。 ・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  20. ・・・ つり革にさがっている方の元禄袖で、重吉から半ば顔をかくすようにして黙りこんでしまったひろ子を重吉は見上げた。「しょげたのかい?」 ひろ子は合点をした。「しょげることはないさ」「……あんなに、貞女と烈婦には決してなるまい・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  21. ・・・高田はあくまで喜ぶ様子もなく、その日は一日重く黙り通した。 高田が帰ってからも、梶は、今まで事実無根のことを信じていたのは、高田を信用していた結果多大だと思ったが、それにしても、梶、高田、憲兵たち、それぞれ三様の姿態で栖方を見ているのは・・・<横光利一「微笑」青空文庫>