だん‐りょく【弾力】例文一覧 30件

  1. ・・・そうしてこれらの人々が皆、黄ばんだ、弾力のない顔を教壇の方へ向けていた。教壇の上では蓄音機が、鼻くたのような声を出してかっぽれか何かやっていた。 蓄音機がすむと、伊津野氏の開会の辞があった。なんでも、かなり長いものであったが、おきのどく・・・<芥川竜之介「水の三日」青空文庫>
  2. ・・・つき歩いていた時分の生活とても、それは決して今の生活と較べて自由とか幸福とか云う程のものではなかったけれど、併しその時分口にしていた悲痛とか悲惨とか云う言葉――それ等は要するに感興というゴム鞠のような弾力から弾き出された言葉だったのだ。併し・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  3. ・・・ 貴嬢の目と二郎が目と空にあいし時のさまをわれいつまでか忘るべき、貴嬢は微かにアと呼びたもうや真蒼になりたまいぬ、弾力強き心の二郎はずかずかと進みて貴嬢が正面の座に身を投げたれど、まさしく貴嬢を見るあたわず両の掌もて顔をおおいたるを貴嬢・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  4. ・・・ かれはこの言葉のうち、何らの弾力あるものを感じなくなった。 山河月色、昔のままである。昔の知人の幾人かはこの墓地に眠っている。豊吉はこの時つくづくわが生涯の流れももはや限りなき大海近く流れ来たのを感じた。われとわが亡友との間、半透明の・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  5. ・・・しかるに幸か不幸か、彼の健康はいかにしても彼の嗜好に反する学術を忍んで学ぶほどの弾力を有していない。彼は二年間に赤十字社に三度入院した。医師に勧められて三度湯治に行った。そしてこの間彼の精神の苦痛は身体の病苦と譲らなかったのはすなわち彼自身・・・<国木田独歩「小春」青空文庫>
  6. ・・・それが青年を美しくし、弾力を与え、ものの考え方を純真ならしめる動機力なのだ。 私は青春をすごして、青春を惜しむ。そして青春が如何に人生の黄金期であったかを思うときにその幸福を惜しめとすすめたくなるのだ。そしてそれには童貞をなるだけ長く保・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  7. ・・・われわれの日常乗るバスの女車掌でさえも有閑婦人の持たない活々した、頭と手足の働きからこなされて出た、弾力と美しさをもっている。働かない婦人はだんだんと頭と心の動きと美しさとにおいて退歩しつつあるように見える。女優や、音楽家や、画家、小説家の・・・<倉田百三「婦人と職業」青空文庫>
  8. ・・・と同時に、別の弾力性のある若い女の声が闇の中にひゞいた。声の調子が、何か当然だというように横柄にきこえた。瞬間、栗本はいつもからの癇癪を破裂さした。暗い闇が好機だという意識が彼にあった。振り上げられた銃が馬の背に力いっぱいに落ちて行った。い・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  9. ・・・右の腕を、虚空を斫るように、猛烈に二三度振って、自分の力量と弾力との衰えないのを試めして見て、独り自ら喜んだ。それから書いたものをざっと読んで見た。かなりの出来である。格別読みづらくはない。いよいよ遣らなくてはならないとなると、遣れるものだ・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  10. ・・・今年の春、勝手口にあった藤を移植して桜にからませた、その葉が大変に茂っていたので、これに当たる風の力が過大になって、細い樹幹の弾力では持ち切れなくなったものと思われる。 これで見ても樹木などの枝葉の量と樹幹の大きさとが、いかによく釣合が・・・<寺田寅彦「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  11. ・・・そして多くの場合においてその惰性は恒同であり、弾力は変位に正比例するから運動の方程式は簡単である。しかしこの類型を神経の作用にまでも持って行こうとすると非常な困難がある。かりにあるものの変位がプラスであれば緊張、マイナスであれば弛緩の状態を・・・<寺田寅彦「笑い」青空文庫>
  12. ・・・もしくは伸縮方を解せぬ、弾力性のない文章と評しても構わないでしょう。汽車電車は無論人力さえ工夫する手段を知らないで、どこまでも親譲りの二本足でのそのそ歩いて行く文章であります。したがって散文的の感があるのです。散文的な文章とは馬へも乗れず、・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  13. ・・・ 此のしなやかなたよたよしい楓がそよりともしないと云うのは―― 若し指を触れたら温かい血行を感じ人間の皮膚の通りな弾力を感じるだろうと思う程「なまなましたふくらみ」を持って居る木は、私に植物と云うより寧ろどうしても動物――而かも人間・・・<宮本百合子「雨が降って居る」青空文庫>
  14. ・・・ぶつかって来る弾力のある重い体。ふざけて噛みつく擽ったさ迄、私には新鮮な、涙の出るような愉快だ。 良人は縁側に出、いつの間にか「マーク、マーク」と云う名をつけて仔犬を呼んだ。 マーク。アントニーを思い出し私は微笑した・・・<宮本百合子「犬のはじまり」青空文庫>
  15. ・・・ 映画俳優のすき、きらいにしたって、つまりは自分の生活の弾力からの判断である。細かく表現はされないが、何となく虫が好かない、そういうことは名優と云われる人に対しても私たちが自分のこととしては主張出来る筈のことである。そして、虫は好かない・・・<宮本百合子「女の歴史」青空文庫>
  16. ・・・ 笑い声の中に立ち上って、がっちりした体にコバルト色シャツのアーシャが、抑揚は本もののプロレタリアート詩人らしい弾力で、原稿を読みあげる。「きられる鉄片の火花と音楽。さまざまな形で社会主義建設の骨格になり輪となり、起重機となり、鋲と・・・<宮本百合子「子供・子供・子供のモスクワ」青空文庫>
  17. ・・・この作家の持ち前のなだらかに弾力ある生活の力は、少女時代から結婚生活十七年の今日までの間に、社会の歴史の推移について妻の境涯もなかなかの波瀾を経て来ていて、しかも、それぞれの時期を本気で精一杯に生きて来ている。十六の少女として父さんと浜で重・・・<宮本百合子「『暦』とその作者」青空文庫>
  18. ・・・現在行われている探偵小説、怪奇小説の類は退屈しているもの、毎日の生活感情に自主的弾力と方向とをもたないものが、面白がって熱中するのであろうと思う。この種の物語は最後に必ず解答が出て来るという厳然とした約束に立っている。しかもそこまでを、出来・・・<宮本百合子「作家のみた科学者の文学的活動」青空文庫>
  19. ・・・時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。 けれども、C先・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  20. ・・・肉体のいよいよ永い若々しさへの努力とともに、精神の若い弾力を保つ心がけこそ、新しい日本の女性の美の必要であると思う。        教壇の未亡人 勇士の未亡人で、新しい生活の道を教壇に見出したひとたちが、いよいよ一ヵ年の師範・・・<宮本百合子「女性週評」青空文庫>
  21. ・・・それとともに何となし社会の息づかいが乾いていて、何か素朴な、原形のままの人間感情のやさしさや、しなやかさや弾力を感じとりたくて、案外のような人も本を買っている。購買力が高まり、読書する人の層が全く従来の範囲から溢れて来ていることも明白で、そ・・・<宮本百合子「女性の書く本」青空文庫>
  22. ・・・ 日本の衣服についての再吟味が初まって幾何かの時が経っているが、婦人の衣服の改良案などが一つも訴えて来るものをもっていないのは、やはり改良して行こうとする心の動機に、弾力がないからだと思う。単一化そうとばかり方向がむけられていて、人間は・・・<宮本百合子「生活のなかにある美について」青空文庫>
  23. ・・・ 切身にだんだん弾力がついて来る。いつか元の父になり「人工呼吸は利いてきたが、とても生きられない、もう死ぬ」 Y、大きな声で「遺言! 遺言!」「今度買った地面は皆で二十七円だ。阿母さんのものにするつもりだ、あとは皆書つけ・・・<宮本百合子「一九二五年より一九二七年一月まで」青空文庫>
  24. ・・・ソヴェトの実際方針は根本的には一本であるけれども、弁証法的に非常に弾力をもっている。それだから一本調子でやって行くといっても、目的があって、そこへやろうという意味において一本調子であるけれども、或る人に云わせれば、どこに終局の目的があるか分・・・<宮本百合子「ソヴェト・ロシアの素顔」青空文庫>
  25. ・・・ けれども有難いことには、まだ倦怠を知らぬ活き活きとした生理的活動が、あの弾力に満ちた発育力のうちに、それ等の尊い感情の根元だけを辛うじて暖く大切に保存していてくれた。 何か一つの転機が、彼女の上に新らしい刺戟と感動とを齎しさえすれ・・・<宮本百合子「地は饒なり」青空文庫>
  26. ・・・作家はそういう人々の弾力を失った感受性を憐むと同時に、作家側として学びとるべき何ものかがその一見下らぬ言葉の中に籠っていることを知らなければならないのではないだろうか。 小説は、ただあった通りに書いたというだけではいわばそこには題材はあ・・・<宮本百合子「問に答えて」青空文庫>
  27. ・・・ この頃めっきり広がった苔にはビロードのやわらかみと快い弾力が有ってみどりの細い間を今朝働き出してまだ間のない茶色の小虫が這いまわって居るのも、白いなよなよとした花の一つ二つ咲いて居るのまで、はっきりした頭と、うるみのない輝いた眼とで私・・・<宮本百合子「日記」青空文庫>
  28. ・・・二人の中で、姉娘は足を引きずるようにして歩いているが、それでも気が勝っていて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折り折り思い出したように弾力のある歩きつきをして見せる。近い道を物詣りにでも歩くのなら、ふさわしくも見えそうな一群れであるが、・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>
  29. ・・・国から来た親類には、随分やかましい事を言われる様子で、お蝶はいつも神妙に俯向いて話を聞いていても、その人を帰した跡では、直ぐ何事もなかったように弾力を回復して、元気よく立ち働く。そしてその口の周囲には微笑の影さえ漂っている。一体お蝶は主人に・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  30. ・・・松の枝は幹から横に出ていて、強い弾力をもって上下左右に揺れるのであるが、欅の枝は幹に添うて上向きに出ているので、梢の方へ行くと、どれが幹、どれが枝とは言えないようなふうに、つまり箒のような形に枝が分かれていることになる。欅であるから弾力はや・・・<和辻哲郎「松風の音」青空文庫>