ちかく【近く】例文一覧 50件

  1. ・・・喜三郎はその夜、近くにある祥光院の門を敲いて和尚に仏事を修して貰った。が、万一を慮って、左近の俗名は洩らさずにいた。すると寺の本堂に、意外にも左近と平太郎との俗名を記した位牌があった。喜三郎は仏事が終ってから、何気ない風を装って、所化にその・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・見る見る大きく近くなって来て、そのてっぺんにはちらりちらりと白い泡がくだけ始めました。Mは後から大声をあげて、「そんなにそっちへ行くと駄目だよ、波がくだけると捲きこまれるよ。今の中に波を越す方がいいよ」 といいました。そういわれれば・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  3.  ずっと早く、まだ外が薄明るくもならないうちに、内じゅうが起きて明りを附けた。窓の外は、まだ青い夜の霧が立ち籠めている。その霧に、そろそろ近くなって来る朝の灰色の光が雑って来る。寒い。体じゅうが微かに顫える。目がいらいらする。無理に早く・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・       十 その中に最も人間に近く、頼母しく、且つ奇異に感じられたのは、唐櫃の上に、一個八角時計の、仰向けに乗っていた事であった。立花は夢心地にも、何等か意味ありげに見て取ったので、つかつかと靴を近けて差覗いたが、もの・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  5. ・・・ 水層はいよいよ高く、四ツ目より太平町に至る十五間幅の道路は、深さ五尺に近く、濁流奔放舟をもって渡るも困難を感ずるくらいである。高架線の上に立って、逃げ捨てたわが家を見れば、水上に屋根ばかりを見得るのであった。 水を恐れて雨に懊悩し・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  6. ・・・ 朝の八時近くであったから、まだ菊子のお袋もいた。「先生、済まない御無沙汰をしていまして――一度あがるつもりですが」と、挨拶をするお袋の言葉などには、僕はもう頓着しなかった。「菊ちゃんの病気はどうです?」僕は敵の本陣に切り込んだ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・ 呉服橋で電車を降りて店の近くへ来ると、ポンプの水が幾筋も流れてる中に、ホースが蛇のように蜒くっていた。其水溜の中にノンキらしい顔をした見物人が山のように集っていた。伊達巻の寝巻姿にハデなお召の羽織を引掛けた寝白粉の処班らな若い女がベチ・・・<内田魯庵「灰燼十万巻」青空文庫>
  8. ・・・北海沿岸特有の砂丘は海岸近くに喰い止められました、樅は根を地に張りて襲いくる砂塵に対していいました、ここまでは来るを得べししかしここを越ゆべからずと。北海に浜する国にとりては敵国の艦隊よりも恐るべき砂丘は、戦闘艦ならずし・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  9. ・・・つばめたちも、船に乗りおくれてはならぬと思って、その時分には、海岸の近くにきて、気をつけていました。そして、波間に、赤い船が見えると、「キイ、キイ……。」といって、喜んで鳴いたのです。 早く見つけたつばめは、それをまだ知らない友だち・・・<小川未明「赤い船とつばめ」青空文庫>
  10. ・・・ ここから故郷へは二百里近くもある。帰るに旅費はなし、留まるには宿もない。止むなくんば道々乞食をして帰るのだが、こうなってもさすがにまだ私は、人の門に立って三厘五厘の合力を仰ぐまでの決心はできなかった。見えか何か知らぬがやっぱり恥しい。・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  11. ・・・ 夕暮近く湯殿へ行った。うまい工合に誰もいなかった。小柄で、痩せて、貧弱な裸を誰にも見られずに済んだと、うれしかった。湯槽に浸ると、びっくりするほど冷たかった。その温泉は鉱泉を温める仕掛けになっているのだが、たぶん風呂番が火をいれるのを・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  12. ・・・唸声は顕然と近くにするが近処に人が居そうにもない。はッ、これはしたり、何の事た、おれおれ、この俺が唸るのだ。微かな情ない声が出おるわい。そんなに痛いのかしら。痛いには違いあるまいが、頭がただもう茫と無感覚になっているから、それで分らぬのだろ・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13.      一 掃除をしたり、お菜を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗めていた。すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと開け・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・僕の窓は崖の近くにあって、僕の部屋からはもう崖ばかりしか見えないんです。僕はよくそこから崖路を通る人を注意しているんですが、元来めったに人の通らない路で、通る人があったって、全く僕みたいにそこでながい間町を見ているというような人は決してあり・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  15.       一 秋の中過、冬近くなると何れの海浜を問ず、大方は淋れて来る、鎌倉も其通りで、自分のように年中住んで居る者の外は、浜へ出て見ても、里の子、浦の子、地曳網の男、或は浜づたいに往通う行商を見るばかり、都人士ら・・・<国木田独歩「運命論者」青空文庫>
  16. ・・・人の道、天の理、心の自律――近くは人間学的倫理学の強調するような「世の中の道」にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格とい・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  17. ・・・波止場や、そこに一艘つないである和船や、発動機船会社の貯油倉庫を私は、窓からいつまでもあきずに眺めたりする。波止場近くの草ッ原の雑草は、一カ月見ないうちに、病人の顎ひげのように長く伸び乱れているのである。 やがて歩けるようになると私は杖・・・<黒島伝治「海賊と遍路」青空文庫>
  18. ・・・ごく懇意でありまたごく近くである同じ谷中の夫の同僚の中村の家を訪い、その細君に立話しをして、中村に吾家へ遊びに来てもらうことを請うたのである。中村の細君は、何、あなた、ご心配になるようなことではございますまい、何でもかえってお喜びになるよう・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  19. ・・・ ごじゃ/\と書類の積まさった沢山の机を越して、窓際近くで、顎のしゃくれた眼のひッこんだ美しい女の事務員が、タイプライターを打ちながら、時々こっちを見ていた。こういう所にそんな女を見るのが、俺には何んだか不思議な気がした。 持ちもの・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  20. ・・・と江戸で逢ったる長兵衛殿を応用しおれはおれだと小春お夏を跳ね飛ばし泣けるなら泣けと悪ッぽく出たのが直打となりそれまで拝見すれば女冥加と手の内見えたの格をもってむずかしいところへ理をつけたも実は敵を木戸近く引き入れさんざんじらしぬいた上のにわ・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  21. ・・・私たちが坂の下の石段を降りるのを足音できき知るほど、もはや三年近くもお徳は私の家に奉公していた。主婦というもののない私の家では、子供らの着物の世話まで下女に任せてある。このお徳は台所のほうから肥った笑顔を見せて、半分子供らの友だちのような、・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  22. ・・・青年はその笑顔に励まされて、感動したような様子で、手に持った帽をまた被って、老人の肩に手をかけて、自分の青ざめた、今叫んだので少し赤くなった顔を、老人の顔に近く寄せて、暫く目を見合せた。そして老人がまだ口を開く隙のないうちに、あわただしく、・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  23. ・・・ 東洋協會講演會に於いて、堯舜禹の實在的人物に非ざるべき卑見を述べてより已に三年、しかもこの大膽なる臆説は多くの儒家よりは一笑に附せられしが、林〔泰輔〕氏の篤學眞摯なる、前に『東洋哲學』に、近く『東亞研究』に、高説を披瀝して教示せ・・・<白鳥庫吉「『尚書』の高等批評」青空文庫>
  24.        一 むかしむかし、或山の上にさびしい湖水がありました。その近くの村にギンという若ものが母親と二人でくらしていました。 或日ギンが、湖水のそばへ牛をつれていって、草を食べさせていますと、じきそばの水の・・・<鈴木三重吉「湖水の女」青空文庫>
  25. ・・・その時一羽の鳩が森のおくから飛んで来て、寝ついたなりで日をくらす九十に余るおばあさんの家の窓近く羽を休めました。 物の二十年も臥せったなりのこのおばあさんは、二人のむすこが耕すささやかな畑地のほかに、窓越しに見るものはありませなんだが、・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  26. ・・・ 私は大学へはいってからは、戸塚の、兄の家のすぐ近くの下宿屋に住み、それでも、お互い勉強の邪魔をせぬよう、三日にいちどか、一週間にいちど顔を合せて、そのときには必ず一緒にまちへ出て、落語を聞いたり、喫茶店をまわって歩いたりして、そのうち・・・<太宰治「兄たち」青空文庫>
  27. ・・・ 床近く蟋蟀が鳴いていた。苦痛に悶えながら、「あ、蟋蟀が鳴いている……」とかれは思った。その哀切な虫の調べがなんだか全身に沁み入るように覚えた。 疼痛、疼痛、かれはさらに輾転反側した。 「苦しい! 苦しい! 苦しい!」 ・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  28. ・・・遠い恒星の光が太陽の近くを通過する際に、それが重力の場の影響のために極めてわずか曲るだろうという、誰も思いもかけなかった事実を、彼の理論の必然の結果として鉛筆のさきで割り出し、それを予言した。それが云わば敵国の英国の学者の日蝕観測の結果から・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  29. ・・・ 実際また彼女の若い時分、身分のいい、士たちが、禄を金にかえてもらった時分には、黄金の洪水がこの廓にも流れこんで、その近くにある山のうえに、すばらしい劇場が立ったり、麓にお茶屋ができたりして、絃歌の声が絶えなかった。道太は少年のころ、町・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  30. ・・・もし陛下の御身近く忠義こうこつの臣があって、陛下の赤子に差異はない、なにとぞ二十四名の者ども、罪の浅きも深きも一同に御宥し下されて、反省改悟の機会を御与え下されかしと、身を以て懇願する者があったならば、陛下も御頷きになって、我らは十二名の革・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>