ちへい‐せん【地平線】例文一覧 30件

  1. ・・・――どこまで行っても清冽な浅瀬。 早教育。――ふむ、それも結構だ。まだ幼稚園にいるうちに智慧の悲しみを知ることには責任を持つことにも当らないからね。 追憶。――地平線の遠い風景画。ちゃんと仕上げもかかっている。 女。――メリイ・・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  2. ・・・ 仁右衛門は黒い地平線をすかして見ながら、耳に手を置き添えて笠井の言葉を聞き漏らすまいとした。それほど寒い風は激しい音で募っていた。笠井はくどくどとそこに行き着く注意を繰返して、しまいに金が要るなら川森の保証で少し位は融通すると付加える・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  3. ・・・上げて来る潮で波が大まかにうねりを打って、船渠の後方に沈みかけた夕陽が、殆ど水平に横顔に照りつける。地平線に近く夕立雲が渦を巻き返して、驟雨の前に鈍った静かさに、海面は煮つめた様にどろりとなって居る。ドゥニパー河の淡水をしたたか交えたケルソ・・・<有島武郎「かんかん虫」青空文庫>
  4. ・・・ あのあたり、あの空…… と思うのに――雲はなくて、蓮田、水田、畠を掛けて、むくむくと列を造る、あの雲の峰は、海から湧いて地平線上を押廻す。 冷い酢の香が芬と立つと、瓜、李の躍る底から、心太が三ツ四ツ、むくむくと泳ぎ出す。 ・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  5. ・・・ 太陽はまだ地平線にあらわれないが、隣村のだれかれ馬をひいてくるものもある。荷車をひいてくるものもある。天秤の先へ風呂敷ようのものをくくしつけ肩へ掛けてくるもの、軽身に懐手してくるもの、声高に元気な話をして通るもの、いずれも大回転の波動・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  6. ・・・連日の雨で薄濁りの水は地平線に平行している。ただ静かに滑らかで、人ひとり殺した恐ろしい水とも見えない。幼い彼は命取らるる水とも知らず、地平と等しい水ゆえ深いとも知らずに、はいる瞬間までも笑ましき顔、愛くるしい眼に、疑いも恐れもなかったろう。・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  7. ・・・夢のように二里の路を走って、太陽がようやく地平線に現われた時分に戸村の家の門前まで来た。この家の竃のある所は庭から正面に見透して見える。朝炊きに麦藁を焚いてパチパチ音がする。僕が前の縁先に立つと奥に居たお祖母さんが、目敏く見つけて出てくる。・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  8. ・・・定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先は地平線のあたりで、一つになって見える。左の方の、黄いろみ掛かった畑を隔てて村が見える。停車場には、その村の名が付いているのである。右の方には砂地に草の生えた原が、眠たそうに・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  9. ・・・すると、高い黒のシルクハットをかぶって、黒の燕尾服を着て、黒塗りの馬車に乗った皇子の幻が浮かんで、あちらの地平線を横切るのが、ありありと見えるのでありました。 雨の降る日も、この黒塗りの馬車は駆けていきました。風の吹く日も、黒のシルクハ・・・<小川未明「赤い姫と黒い皇子」青空文庫>
  10. ・・・その日は風もなく、波も穏やかな日であったから、沖のかなたはかすんで、はるばると地平線が茫然と夢のようになって見えました。白い雲が浮かんでいるのが、島影のようにも、飛んでいる鳥影のようにも見えたのであります。 お姉さまは、いい声でうたいな・・・<小川未明「赤い船」青空文庫>
  11. ・・・ 日が沈むころになると、毎日のように、海岸をさまよって、青い、青い、そして地平線のいつまでも暗くならずに、明るい海に憧れるものが幾人となくありました。海は、永久にたえず美妙な唄をうたっています。その唄の声にじっと耳をすましていると、いつ・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  12. ・・・――手荒く窓を開きぬ。地平線上は灰色の雲重なりて夕闇をこめたり。そよ吹く風に霧雨舞い込みてわが面を払えば何となく秋の心地せらる、ただ萌え出ずる青葉のみは季節を欺き得ず、げに夏の初め、この年の春はこの長雨にて永久に逝きたり。宮本二郎は言うまで・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  13. ・・・僕は折り折り郊外を散歩しますが、この頃の冬の空晴れて、遠く地平線の上に国境をめぐる連山の雪を戴いているのを見ると、直ぐ僕の血は波立ちます。堪らなくなる! 然しです、僕の一念ひとたびかの願に触れると、こんなことは何でもなくなる。もし僕の願さえ・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  14. ・・・これには広い人生の海があり、はかり知れない運命の地平線があるのであって、決して一概に狭く固く考えるべきではない。多くの秀れた人々の伝記を読むのに一生にただ一つの愛しか持たないというような例は稀である。そこには苦痛を忘却さしてくれるいわゆるレ・・・<倉田百三「人生における離合について」青空文庫>
  15. ・・・ 夕日が、あかあかと彼方の地平線に落ちようとしていた。牛や馬の群が、背に夕日をあびて、草原をのろのろ歩いていた。十月半ばのことだ。 坂本は、「腹がへったなあ。」と云ってあくびをした。「内地に居りゃ、今頃、野良から鍬をかついで・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  16. ・・・ 殺し合いをしている兵士の群は、後方の地平線上に、次第に小さく、小さくうごめいていた。そして、ついには蟻のようになり、とうとう眼界から消えてしまった。       九 雪の曠野は、大洋のようにはてしがなかった。 山が・・・<黒島伝治「橇」青空文庫>
  17. ・・・馬琴に至りますと、杉や檜が天をむいて立つように、地平線とは直角をなして、即ち衆俗を抽んでて挺然として自ら立って居りますので、その著述は実社会と決して没交渉でも無関係でもありませんが、しかし並行はして居りませぬのです。時代の風潮は遊廓で優待さ・・・<幸田露伴「馬琴の小説とその当時の実社会」青空文庫>
  18. ・・・版の欠損の穴埋めが、どうやら出来て、それからはもう何の仕事をする気力も失ってしまったようで、けれども、一日中うちにいらっしゃるというわけでもなく、何か考え、縁側にのっそり立って、煙草を吸いながら、遠い地平線のほうをいつまでも見ていらして、あ・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  19. ・・・定木で引いた線のような軌道がずっと遠くまで光って走っていて、その先の地平線のあたりで、一つになって見える。左の方の、黄いろみ掛かった畑を隔てて村が見える。停車場には、その村の名が付いているのである。右の方には沙地に草の生えた原が、眠そうに広・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  20. ・・・赤い大きい日は地平線上に落ちんとして、空は半ば金色半ば暗碧色になっている。金色の鳥の翼のような雲が一片動いていく。高粱の影は影と蔽い重なって、荒涼たる野には秋風が渡った。遼陽方面の砲声も今まで盛んに聞こえていたが、いつか全くとだえてしまった・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  21. ・・・いや、三十七歳の今日、こうしてつまらぬ雑誌社の社員になって、毎日毎日通っていって、つまらぬ雑誌の校正までして、平凡に文壇の地平線以下に沈没してしまおうとはみずからも思わなかったであろうし、人も思わなかった。けれどこうなったのには原因がある。・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  22. ・・・その果てなき地平線のただ中をさして一隊の兵士が進む。前と同じ単調な太鼓とラッパの音がだんだんに遠くなって行く。野羊を引きふろしき包みを肩にしたはだしの土人の女の一群がそのあとにつづく。そうしていちばんあとから見えと因襲の靴を踏み脱ぎすてたヒ・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  23.          一      稲妻 晴れた夜、地平線上の空が光るのをいう。ドイツではこれを Wetterleuchten という。虚子の句に「一角に稲妻光る星月夜」とある。『説文』に曰く電は陰陽の激曜するな・・・<寺田寅彦「歳時記新註」青空文庫>
  24. ・・・と云う訳で、少しでも労力を節減し得て優勢なるものが地平線上に現われてここに一つの波瀾を誘うと、ちょうど一種の低気圧と同じ現象が開化の中に起って、各部の比例がとれ平均が回復されるまでは動揺してやめられないのが人間の本来であります。積極的活力の・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  25. ・・・――ただ何だか遠方の地平線に薄ぼんやりとあかるく夜が明けかかっているような所が見えるばかりだ。 未知の神、未知の幸福――これは象徴派のよく口にする所だが、あすこいらは私と同じ傾向に来て居るんじゃないかと思うね。併し彼等はまるで今迄とは性・・・<二葉亭四迷「私は懐疑派だ」青空文庫>
  26. ・・・それはだんだん数を増して来てもういまは列のように崖と線路との間にならび思わずジョバンニが窓から顔を引っ込めて向う側の窓を見ましたときは美しいそらの野原の地平線のはてまでその大きなとうもろこしの木がほとんどいちめんに植えられてさやさや風にゆら・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  27. ・・・「ええ、ああ、あの大きな橙の星は地平線から今上ります。おや、地平線じゃない。水平線かしら。そうです。ここは夜の海の渚ですよ」「まあ奇麗だわね、あの波の青びかり」「ええ、あれは磯波の波がしらです、立派ですねえ、行ってみましょう」・・・<宮沢賢治「シグナルとシグナレス」青空文庫>
  28.  朝の太陽が、一刻一刻と地平線の上にさしのぼって来るように、日本には人民が自身の幸福建設のために支配者として生活し得る可能がましています。 これまで永い間、重い歴史の蓋をかぶせられて、日本の老いも若きも、何と暗い無智におかれ、理・・・<宮本百合子「明日を創る」青空文庫>
  29. ・・・パッと展望が開いた。地平線まで密林が伐採されている。高圧線のヤグラが一定の間隔をおいてかなたへ。――いそいでもう一方を見たら、電線は鉄道線路を越えて、再びヒンデンブルグの前髪のような黒い密林のかなたへ遠くツグミの群がとび立った。今シベリアを・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  30. ・・・栗毛の馬の平原は狂人を載せてうねりながら、黒い地平線を造って、潮のように没落へと溢れていった。<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>