ちゃ‐わん【茶×碗】例文一覧 30件

  1. ・・・食卓の上には、昨夜泊った叔母の茶碗も伏せてあった。が、叔母は看護婦が、長い身じまいをすませる間、母の側へその代りに行っているとか云う事だった。 親子は箸を動かしながら、時々短い口を利いた。この一週間ばかりと云うものは、毎日こう云う二人き・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・「はい、その癖ここにさっきから、御茶碗を洗って居りましたんですが――やっぱり人間眼の悪いと申す事は、仕方のないもんでございますね。」 婆さんは水口の腰障子を開けると、暗い外へ小犬を捨てようとした。「まあ御待ち、ちょいと私も抱いて・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  3. ・・・ 帳場は妻のさし出す白湯の茶碗を受けはしたがそのまま飲まずに蓆の上に置いた。そしてむずかしい言葉で昨夜の契約書の内容をいい聞かし初めた。小作料は三年ごとに書換えの一反歩二円二十銭である事、滞納には年二割五分の利子を付する事、村税は小作に・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  4. ・・・けれども茶碗を探してそれに水を入れるのは婆やの方が早かった。僕は口惜しくなって婆やにかぶりついた。「水は僕が持ってくんだい。お母さんは僕に水を……」「それどころじゃありませんよ」 と婆やは怒ったような声を出して、僕がかかって行く・・・<有島武郎「碁石を呑んだ八っちゃん」青空文庫>
  5. ・・・ もう飛ついて、茶碗やら柄杓やら。諸膚を脱いだのもあれば、腋の下まで腕まくりするのがある。 年増のごときは、「さあ、水行水。」 と言うが早いか、瓜の皮を剥くように、ずるりと縁台へ脱いで赤裸々。 黄色な膚も、茶じみたのも、・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  6. ・・・ と茶碗に堆く装ったのである。 その時、間の四隅を籠めて、真中処に、のッしりと大胡坐でいたが、足を向うざまに突き出すと、膳はひしゃげたように音もなく覆った。「あれえ、」 と驚いて女房は腰を浮かして遁げさまに、裾を乱して、ハタ・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  7. ・・・ 母は入れた茶を夫のと娘のと自分のと三つの茶碗についで配り、座についてその話を聞こうとしている。「おとよ、ほかの事ではないがの、お前の縁談の事についてはずれの旦那が来てくれて今帰られたところだ。お前も知ってるだろう、早船の斎藤よ、あ・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  8. ・・・ふだん枕元に、スタンドや灰皿や紅茶茶碗や書物、原稿用紙などをごてごてと一杯散らかして、本箱や机や火鉢などに取りかこまれた蒲団のなかに寝る癖のある私には、そのがらんとした枕元の感じが、さびしくてならなかった。にわかに孤独が来た。 旅行鞄か・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  9. ・・・この子どこの子、ソバ屋の継子、上って遊べ、茶碗の欠けで、頭カチンと張ってやろ。こんな唄をわざわざ教えてくれたのはおきみ婆さんで、おきみ婆さんはいつも千日前の常盤座の向いの一名「五割安」という千日堂で買うてくる五厘の飴を私にくれて言うのには、・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  10. ・・・そしてその顔色の悪い子供も黙って、馴れない手つきで茶碗をかきこんでいたのである。彼はそれを見ながら、落魄した男の姿を感じた。その男の子供に対する愛を感じた。そしてその子供が幼い心にも、彼らの諦めなければならない運命のことを知っているような気・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  11. ・・・七十を越した、兄の祖母で、勝子の曽祖母にあたるお祖母さんが、勝子を連れて川へ茶碗を漬けに行った。その川というのが急な川で、狭かったが底はかなり深かった。お祖母さんは、いつでも兄達が捨てておけというのに、姉が留守だったりすると、勝子などを抱き・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  12. ・・・しばらくすると、刺身、煮肴、煮〆、汁などが出て飯を盛った茶碗に香物。 桂はうまそうに食い初めたが、僕は何となく汚らしい気がして食う気にならなかったのをむりに食い初めていると、思わず涙が逆上げてきた。桂正作は武士の子、今や彼が一家は非運の・・・<国木田独歩「非凡なる凡人」青空文庫>
  13. ・・・と母親が叱っても、茶碗を引っくり返すくらいなところもないと母のなつかしみはつくまい。人間としての本質の要所要所で厳格でありたい。 母としての女性の使命はこのほかにまた、「時代を産む母」としてのそれがあることを忘れてはならぬ。女性の天賦の・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  14. ・・・入の飯を食いつづけた後、一日だけまぜものなしの内地米に戻ると、はじめて本当に身につくものを食った感じで、その身につくものが快よく胃の腑から直ちに血管にめぐって行くようで、子供らは、なんばいもなんばいも茶碗を出すのである。 そして、あゝや・・・<黒島伝治「外米と農民」青空文庫>
  15. ・・・そして、大きな茶碗で兵営の小豆飯を食わされる。 新しく這入った兵士たちは、本当に国家のために入営したのであるか? それが目出度いことであり、名誉なことであるか? 兵士は、その殆んどすべてが、都市の工場で働いていた者たちか、或は、農村・・・<黒島伝治「入営する青年たちは何をなすべきか」青空文庫>
  16. ・・・ 主客の間にこんな挨拶が交されたが、客は大きな茶碗の番茶をいかにもゆっくりと飲乾す、その間主人の方を見ていたが、茶碗を下へ置くと、「君は今日最初辞退をしたネ。」と軽く話し出した。「エエ。」と主人は答えた。「なぜネ。」・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  17. ・・・ 蓋付きの茶碗二個。皿一枚。ワッパ一箇。箸一ぜん。――それだけ入っている食器箱。フキン一枚。土瓶。湯呑茶碗一個。 黒い漆塗の便器。洗面器。清水桶。排水桶。ヒシャク一個。 縁のない畳一枚。玩具のような足の低い蚊帳。 それに番号・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  18. ・・・ 小娘は珈琲茶碗を運んで来た。婆さんも牛乳の入物を持って勝手の方から来た。その後から、マルも随いて入って来た。「マルも年をとりまして御座いますよ。この節は風邪ばかり引いて、嚔ばかり致しております」 こう婆さんが話した。大塚さんは・・・<島崎藤村「刺繍」青空文庫>
  19. ・・・おまえとわかれて、たちどころに私は、チョッキのボタンを全部、むしり取ってしまって、それから煙草の吸殻を、かたっぱしから、ぽんぽんコーヒー茶碗にほうりこんでやった。あれは、愉快だった。実に、痛快であった。ひとりで、涙の出るほど、大笑いした。私・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  20. ・・・大勢で車座に坐って茶碗でも石塊でも順々に手渡しして行く。雷の音が次第に急になって最後にドシーンと落雷したときに運拙くその廻送中の品を手に持っていた人が「罰」を受けて何かさせられるのである。 パリに滞在中下宿の人達がある夜集まって遊んでい・・・<寺田寅彦「追憶の冬夜」青空文庫>
  21. ・・・「茶入れやお茶碗なんか、家にはずいぶんよいものもあったけれど、下の戸袋のなかへしまいこんでおいたものは、いつの間にかお客がみんな持っていってしもうて……」お絹はそんな話をしながら、「軸ものも何やら知らんけれど、いいものだそうだ。たぶ・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  22. ・・・残りのものは一升樽を茶碗飲みにして、準備の出来るのを待って居る騒ぎ。兎や角と暇取って、いよいよ穴の口元をえぶし出したのは、もう午近くなった頃である。私は一同に加って狐退治の現状を目撃したいと云ったけれど、厳しく母上に止められて、母上と乳母の・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  23. 「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯の穂を細めながら尋ねた。 津田君がこう云った時、余ははち切れて膝頭の出そうなズボンの上で、相馬焼の茶碗の糸底を三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍ら・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  24. ・・・ 彼は手紙の終りにある住所と名前を見ながら、茶碗に注いであった酒をぐっと一息に呻った。「へべれけに酔っ払いてえなあ。そうして何もかも打ち壊して見てえなあ」と怒鳴った。「へべれけになって暴れられて堪るもんですか、子供たちをどうしま・・・<葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」青空文庫>
  25. ・・・ネギの白味、豚の白味、茶碗の欠片、白墨など。細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いものに向かって近づいて来る。食べに来るわけではなく、・・・<火野葦平「ゲテ魚好き」青空文庫>
  26. ・・・と、持ッて来た茶碗小皿などを茶棚へしまいかけた。「なにもう寝なくッても――こんなに明るくなッちゃア寝てもいられまい。何しろ寒くッて、これじゃアたまらないや。お熊どん、私の着物を出してもらおうじゃないか」「まアいいじゃアありませんか。・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・蕪村かつて大高源吾より伝わる高麗の茶碗というをもらいたるを、それも咸陽宮の釘隠しの類なりとて人にやりしことあり。またある時松島にて重さ十斤ばかりの埋木の板をもらいて、辛うじて白石の駅に持ち出でしが、長途の労れ堪うべくもあらずと、旅舎に置きて・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  28. ・・・ 婆さんが出てから振返って見ると、朱塗りの丸盆の上に椀と飯茶碗と香物がのせられ、箱火鉢の傍の畳に直に置いてあった。陽子は立って行って盆を木箱の上にのせた。上り端の四畳の彼方に三畳の小間がある。そこが夫婦の寝起きの場所で夕飯が始まったらし・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・飲んでしまうと、茶碗の底に滓が沢山淀んでいる。木村は茶を飲んでしまうと、相変らずゆっくり構えて、絶間なくこつこつと為事をする。低い方の山の書類の処理は、折々帳簿を出して照らし合せて見ることがあるばかりで、ぐんぐんはかが行く。三件も四件も烟草・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  30. ・・・ 茶の間へ行くと、灸の茶碗に盛られた御飯の上からはもう湯気が昇っていた。青い野菜は露の中に浮んでいた。灸は自分の小さい箸をとった。が、二階の女の子のことを思い出すと彼は箸を置いて口を母親の方へ差し出した。「何によ。」と母は訊いて灸の・・・<横光利一「赤い着物」青空文庫>