ちゅう‐ちょ〔チウ‐〕【××躇】例文一覧 30件

  1. ・・・左近は思わず躊躇した。その途端に侍の手が刀の柄前にかかったと思うと、重ね厚の大刀が大袈裟に左近を斬り倒した。左近は尻居に倒れながら、目深くかぶった編笠の下に、始めて瀬沼兵衛の顔をはっきり見る事が出来たのであった。        二・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・いろいろと躊躇しています。王子はしきりとおせきになります。しかたなく胸のあたりの一枚をめくり起こしてそれを首尾よく寡婦の窓から投げこみました。寡婦は仕事に身を入れているのでそれには気がつかず、やがて御飯時にしたくをしようと立ち上がった時、ぴ・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  3. ・・・戸口で一秒時間程躊躇した。「あれだ。あれだ。」フレンチは心臓の鼓動が止まるような心持になって、今こそある事件が始まるのだと燃えるようにそれを待っているのである。 罪人は気を取り直した様子で、広間に這入って来た。一刹那の間、一種の、何物を・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・ 北海道人、特に小樽人の特色は何であるかと問われたなら、予は躊躇もなく答える。曰く、執着心のないことだと。執着心がないからして都府としての公共的な事業が発達しないとケナス人もあるが、予は、この一事ならずんばさらに他の一事、この地にてなし・・・<石川啄木「初めて見たる小樽」青空文庫>
  5. ・・・ と謂うに任せ、渠は少しも躊躇わで、静々と歩を廊下に運びて、やがて寝室に伴われぬ。 床にはハヤ良人ありて、新婦の来るを待ちおれり。渠は名を近藤重隆と謂う陸軍の尉官なり。式は別に謂わざるべし、媒妁の妻退き、介添の婦人皆罷出つ。 た・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  6. ・・・這入りづらい訣はないと思うても、どうしても這入りづらい。躊躇する暇もない、忽門前近く来てしまった。「政夫さん……あなた先になって下さい。私極りわるくてしょうがないわ」「よしとそれじゃ僕が先になろう」 僕は頗る勇気を鼓し殊に平気な・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・お玉ヶ池に住んでいた頃、或人が不斗尋ねると、都々逸端唄から甚句カッポレのチリカラカッポウ大陽気だったので、必定お客を呼んでの大酒宴の真最中と、暫らく戸外に佇立って躊躇していたが、どうもそうらしくもないので、やがて玄関に音なうと、ピッタリ三味・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・彼の両親ははじめ躊躇した。婚約をしてもすぐまた戦地へ戻って行かねばならぬからである。しかし、先方はそれを承知だと、仲人に説き伏せられてみると、彼の両親もそしてまた彼も萬更ではなかった。 早速見合いがおこなわれた。まだ十八になったばかしの・・・<織田作之助「十八歳の花嫁」青空文庫>
  9. ・・・見終って先生は多少躊躇してる風だったが、「何しろ困りましたですなあ。しかしそういう御事情で出京なさったということでもあり、それにS君の御手紙にも露骨に言えという注文ですから申しあげますが、まあほとんどと言いたいですね。とてもあなたの御希・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  10. ・・・これは余程思切った事で、若し医師が駄目と言われたら何としようと躊躇しましたが、それでも聞いておく必要は大いにあると思って、決心して診察室へはいりました。医師の言われるには、まだ足に浮腫が来ていないようだから大丈夫だが、若し浮腫がくればもう永・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  11. ・・・でも、はじめの間はなにか躊躇していたようですけれど。 K君は自分の影を見ていた、と申しました。そしてそれは阿片のごときものだ、と申しました。 あなたにもそれが突飛でありましょうように、それは私にも実に突飛でした。 夜光虫が美しく・・・<梶井基次郎「Kの昇天」青空文庫>
  12. ・・・と言ったぎり自分が躊躇しているので斎藤は不審そうに自分を見ていたが、「イヤ失敬」と言って去って終った。十歩を隔てて彼は振返って見たに違ない。自分は思わず頸を縮めた。 母に会ったら、何と切出そう。新町に近づくにつれて、これが心配でならぬ。・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  13. ・・・金を払うのに古い一円札ばかり十円出すのだったら躊躇するぐらいだ。彼女は番頭に黙って借りて帰ったモスリンと絣を、どう云ってその訳を話していゝか思案している。心を傷めている。――彼はいつのまにかお里の心持になっていた。――番頭が、三反持ってかえ・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  14. ・・・捨ててしまっても勿体ない、取ろうかとすれば水中の主が生命がけで執念深く握っているのでした。躊躇のさまを見て吉はまた声をかけました。 「それは旦那、お客さんが持って行ったって三途川で釣をする訳でもありますまいし、お取りなすったらどんなもの・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  15. ・・・そのために、そこに打ち込まれることを恐れて、若しも運動が躊躇されると考えるものがいるとしたら、俺は神にかけて誓おう――「全く、のん気なところですよ。」と。 第一、俺は見覚えの盆踊りの身振りをしながら、時々独房の中で歌い出したものだ―・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  16. ・・・この意識の消しがたいがために、義務道徳、理想道徳の神聖の上にも、知識はその皮肉な疑いを加えるに躊躇しない、いわく、結局は自己の生を愛する心の変形でないかと。 かようにして、私の知識は普通道徳を一の諦めとして成就させる。けれども同時にその・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  17. ・・・と、にっこりしたが、何だか躊躇の色が見える。二人で行ったとて誰が咎めるものかと思う。「だってあんまりですから」と、ややあって言う。「何が」「でもたった今これを始めたばかりですから」「ついでに仕上げてしまいたいのですか」「・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  18. ・・・生れて、いまだ一度も嘘言というものをついたことがないと、躊躇せず公言している。それは、どうかと思われるけれど、しかし、剛直、潔白の一面は、たしかに具有していた。学校の成績は、あまりよくなかった。卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  19. ・・・ ベルンの大学は彼を招かんとして躊躇していた。やっと彼の椅子が出来ると間もなく、チューリヒの大学の方で理論物理学の助教授として招聘した。これが一九〇九年、彼が三十一歳の時である。特許局に隠れていた足掛け八年の地味な平和の生活は、おそらく・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  20. ・・・ 姉はしばらく躊躇した果てに、やっと入ってきた。見るとふみ江もいっしょであった。 ふみ江は母とは反対に、相変らず派手な姿をして、子供をかかえていた。道太は子供が脊髄病のために、たぶん片方の脚が利かないであろうことを聞き知って、心を痛・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  21. ・・・尋でその舞台開の夕にも招待を受くるの栄に接したのであったが、褊陋甚しきわが一家の趣味は、わたしをしてその後十年の間この劇場の観棚に坐することを躊躇せしめたのである。その何がためなるやは今日これを言う必要がない。 今日ここに言うべき必要あ・・・<永井荷風「十日の菊」青空文庫>
  22. ・・・有繋に彼も躊躇した。恐怖心が湧起した時には彼には惜しい何物もなかった。それで居て彼は蚊帳の釣手を切って愚弄されたことや何ということはなしに只心外で堪らなくなる。商人は太十に勧めた。太十はそれが余りに廉いと思うとぐっと胸がこみあげて「構わ・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  23. ・・・その中にあなたの家を訪ねた時に思いきって這入ろうかイヤ這入るまいかと暫く躊躇した、なるべくならお留守であればよい、更に逢わぬといってくれれば可いと思ったというような露骨な事が書いてある。昔私らの書生の頃には、人を訪問していなければ可いがと思・・・<夏目漱石「教育と文芸」青空文庫>
  24. ・・・ しかし、ドンコ釣りを躊躇させる一時期がある。ドンコほど夫婦愛が深く、また、父性愛の強いものはない。産卵期になるといつもアベックだが、卵を産んでしまうと、雌はどこかへ行ってしまう。あとを守るのは雄だ。卵のところを離れず、いつもヒレを動か・・・<火野葦平「ゲテ魚好き」青空文庫>
  25. ・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念と・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  26. ・・・やや躊躇していたが、このあたりには人家も畑も何もない事であるからわざわざかような不便な処へ覆盆子を植えるわけもないという事に決定して終に思う存分食うた。喉は乾いて居るし、息は苦しいし、この際の旨さは口にいう事も出来ぬ。 明治廿六年の夏か・・・<正岡子規「くだもの」青空文庫>
  27. ・・・みんな躊躇してみちをあけた。おれが一番さきになる。こっちもみちはよく知らないがなあにすぐそこなんだ。路から見えたら下りるだけだ。防火線もずうっとうしろになった。〔あれが小桜山だろう。〕けわしい二つの稜を持ち、暗くて雲かげにいる。少し名前・・・<宮沢賢治「台川」青空文庫>
  28. ・・・と念を押した。「へえ、どうせ美味しいものは出来ませんですが、致して見ましょう」「賄ともで幾何です?」 神さんは「さあ」と躊躇した。「生憎ただ今爺が御邸へまいっていてはっきり分りませんが――賄は一々指図していただく・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・ 花房は右の片足を敷居に踏み掛けたままで、はっと思って、左を床の上へ運ぶことを躊躇した。 横に三畳の畳を隔てて、花房が敷居に踏み掛けた足の撞突が、波動を病人の体に及ぼして、微細な刺戟が猛烈な全身の痙攣を誘い起したのである。 家族・・・<森鴎外「カズイスチカ」青空文庫>
  30. ・・・しかしあとから駅夫が大声を出して追い駈けて来たりすると気の毒だと思ってちょっと躊躇する。その間に駅夫が釣銭を持って来る。わずか一分ほどの間だったが、そのためイライラさせられたので、急いで泥道を駈け出した。見ると停留場に電車がとまっている。よ・・・<和辻哲郎「停車場で感じたこと」青空文庫>