ちょう‐しょう〔テウセウ〕【嘲笑】例文一覧 30件

  1. ・・・が、いつも反対の嘲笑を受けるばかりだった。その後も、――いや、最近には小説家岡田三郎氏も誰かからこの話を聞いたと見え、どうも馬の脚になったことは信ぜられぬと言う手紙をよこした。岡田氏はもし事実とすれば、「多分馬の前脚をとってつけたものと思い・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2. ・・・私にはその顔全体が、ある悪意を帯びた嘲笑を漲らしているような気さえしたのである。「どうです、これは。」 田代君はあらゆる蒐集家に共通な矜誇の微笑を浮べながら、卓子の上の麻利耶観音と私の顔とを見比べて、もう一度こう繰返した。「これ・・・<芥川竜之介「黒衣聖母」青空文庫>
  3. ・・・そうしてそれが来るのを待つまでもなく、本間さんの方へ向き直って、鼻眼鏡の後に一種の嘲笑の色を浮べながら、こんな事をしゃべり出した。「西南戦争ですか。それは面白い。僕も叔父があの時賊軍に加わって、討死をしたから、そんな興味で少しは事実の穿・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  4. ・・・ 渠は唇頭に嘲笑したりき。       二 相本謙三郎はただ一人清川の書斎に在り。当所もなく室の一方を見詰めたるまま、黙然として物思えり。渠が書斎の椽前には、一個数寄を尽したる鳥籠を懸けたる中に、一羽の純白なる鸚鵡あり、・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  5. ・・・弱音を吹いて見たところで、いたずらに嘲笑を買うまでで、だれあって一人同情をよせるものもない。だれだってそうだといわれて見るとこれきりの話だ。 省作も今は、なあにという気になった。今日の稲刈りで、よし田ん中へ這ったって、苦しいのなんのとい・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  6. ・・・皆二人に対する嘲笑かの様に聞かれる。いっそ早く学校へ行ってしまいたくなった。決心が定まれば元気も恢復してくる。この夜は頭も少しくさえて夕飯も心持よくたべた。学校のこと何くれとなく母と話をする。やがて寝に就いてからも、「何だ馬鹿馬鹿しい、・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・文学を勉強しようと思っている青年が先輩から、まず志賀直哉を読めと忠告されて読んでみても、どうにも面白くなくて、正直にその旨言うと、あれが判らぬようでは困るな、勉強が足らんのだよと嘲笑され、頭をかきながら引き下って読んでいるうちに、何だか面白・・・<織田作之助「大阪の可能性」青空文庫>
  8. ・・・地元曾根崎署の取締りを嘲笑するやうに、今日もまた検挙網のど真中で堂堂と煙草を売つてゐる一人の闇商人曰く―― 警察や専売局がいくら自由市場の煙草を取締つても無駄ですよ。専売局自身が倉庫から大量持ち出して、横流しをしてるんですからねえ」・・・<織田作之助「大阪の憂鬱」青空文庫>
  9. ・・・内枠だから有利だとしたり気にいってみても追っつかぬ位で、さすがの人々も今日は一番がはいるぞと気づいたが、しかしもうそろそろ風向きが変る頃だと、わざと一番を敬遠したくなる競馬心理を嘲笑するように、やはり単で来て、本命のくせに人気が割れたのか意・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  10. ・・・時には嘲笑的にそしてわざと下品に。そしてそれが彼等の凱歌のように聞える――と云えば話になってしまいますが、とにかく非常に不快なのです。 電車の中で憂鬱になっているときの私の顔はきっと醜いにちがいありません。見る人が見ればきっとそれをよし・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  11. ・・・私は腑甲斐ない一人の私を、人里離れた山中へ遺棄してしまったことに、気味のいい嘲笑を感じていた。 樫鳥が何度も身近から飛び出して私を愕ろかした。道は小暗い谿襞を廻って、どこまで行っても展望がひらけなかった。このままで日が暮れてしまってはと・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  12. ・・・吾とは何ぞやWhat am I ?なんちょう馬鹿な問を発して自から苦ものがあるが到底知れないことは如何にしても知れるもんでない、とこう言って嘲笑を洩らした人があります。世間並からいうとその通りです、然しこの問は必ずしもその答を求むるが為めに・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  13. ・・・しかるにその脚本にはその田舎くさい、正直なのを同情するよりは、嘲笑する気味がありありと現われて居ます。時代の風潮は左母二郎のようなのを愛して居るのであります。また、谷峨という作者の書いたものや、振鷺亭などという人の書いたものを見ますれば、左・・・<幸田露伴「馬琴の小説とその当時の実社会」青空文庫>
  14. ・・・音楽的なもの、示威的なもの、嘲笑的なもの……等々。 夜になって、シーンと静まりかえっているとき、何処かの独房から、このくさめとせきが聞えてくる。その癖から、それが誰かすぐ分る。それを聞くと、この厚いコンクリートの壁を越えて、口で云えない・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  15. ・・・ この長男が、いまに急に成長し、父母の心配を憤り嘲笑するようになってくれたら! 夫婦は親戚にも友人にも誰にも告げず、ひそかに心でそれを念じながら、表面は何も気にしていないみたいに、長男をからかって笑っている。 母も精一ぱいの努力で生きて・・・<太宰治「桜桃」青空文庫>
  16. ・・・人の無礼な嘲笑に対して、堪忍出来なかった。いつでも人に、無条件で敬服せられていなければすまないようであった。けれどもこの世の中の人たちは、そんなに容易に敬服などするものでない。大隅君は転々と職を変えた。 ああ、もう東京はいやだ、殺風景す・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  17. ・・・他人の甘さを嘲笑しながら、自分の甘さを美徳のように考えたがる。「生活とは何ですか。」「わびしさを堪える事です。」 自己弁解は、敗北の前兆である。いや、すでに敗北の姿である。「敗北とは何ですか。」「悪に媚笑する・・・<太宰治「かすかな声」青空文庫>
  18. ・・・この映画に現われて来る登場人物のうちで誰が一番幸福な人間かと思って見ると、天晴れ衆人の嘲笑と愚弄の的になりながら死ぬまで騎士の夢をすてなかったドンキホーテと、その夢を信じて案山子の殿様に忠誠を捧げ尽すことの出来たサンチョと、この二人にまさる・・・<寺田寅彦「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  19. ・・・なんだかドイツ人の群集の中で英国人のある特性そのものが嘲笑の目的物になっているような気がした。そしてその特性は自分もあまり好かないものであるのにかかわらず、この時はなんだか聴衆の悪じゃれを不愉快に感じた。それでもやっぱりおかしい事はおかしか・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  20. ・・・鵞鳥の立場を問題にする人があらばそれは天下の嘲笑を買うに過ぎないであろう。鵞鳥は商品であるからである。人間もまた商品でありうる。その場合にはいやがる書物をぎゅうぎゅう詰め込むのもまたやむを得ないことであろう。そういう場合にこの飼料となる書籍・・・<寺田寅彦「読書の今昔」青空文庫>
  21. ・・・あらゆる多くの人々の、あらゆる嘲笑の前に立って、私は今もなお固く心に信じている。あの裏日本の伝説が口碑している特殊な部落。猫の精霊ばかりの住んでる町が、確かに宇宙の或る何所かに、必らず実在しているにちがいないということを。・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  22. ・・・ 片岡氏は、当時のブルジョア道徳が逆宣伝的に、階級闘争に従う前衛のはなはだしく困難な生活の中に、不可避的に起ったさまざまの恋愛錯雑を嘲笑したのに対し、抗議としてこの小説を書かれた。そのことは、同じ小説の中の文句でもはっきり宣言せられてい・・・<宮本百合子「新しい一夫一婦」青空文庫>
  23. ・・・にからんで国内をつよくひろい幅で流れまわったこのたびのアメリカ大統領選挙の予測の方向につりこまれて、複雑な現実がひきおこす誤差に思いも及ばず、一二の雑誌がみっともなかったとしても、その現象をいたずらに嘲笑することはできない。はい、という言葉・・・<宮本百合子「現代史の蝶つがい」青空文庫>
  24. ・・・右からは古いインテリゲンツィアの残りに、嘲笑された。「ソヴェトになってから、いい芸術的作品なんぞ一つも出来ようはずがありませんよ。第一、今の作家はロシア語そのものの美しささえ知らないじゃないですか!」 不安な、ソヴェト文学の無風状態・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  25. ・・・ かれはその食事をも終わることができなく、嘲笑一時に起こりし間を立ち去った。 かれは恥じて怒って呼吸もふさがらんばかりに痛憤して、気も心もかきむしられて家に帰った。元来を言えばかれは狡猾なるノルマン地方の人であるから人々がかれを詰っ・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  26. ・・・細い目のちょいと下がった目尻に、嘲笑的な微笑を湛えて、幅広く広げた口を囲むように、左右の頬に大きい括弧に似た、深い皺を寄せている。 綾小路はまだ饒舌る。「そんなに僕の顔ばかし見給うな。心中大いに僕を軽侮しているのだろう。好いじゃないか。・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  27. ・・・そして、安次を最も残忍な方法で放逐して了ったならば、彼は秋三の嘲笑を一瞬にして見返すことが出来るように思われた。七 安次は股引の紐を結びながら裏口へ出て来ると、水溜の傍の台石に腰を下ろした。彼は遠い物音を聞くように少し首を延・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  28. ・・・人および物に対する同情と理解との欠乏は、自分の心の全面に嘲笑と憤怒とを漲らしめた。人に頼ることを恥じるとともに、人に活らき掛けることをも好まなかった。孤立が誇りであった。友情は愛ではなくてただ退屈しのぎの交際であった。関係はただ自分の興味を・・・<和辻哲郎「自己の肯定と否定と」青空文庫>
  29. ・・・彼は自己の醜さを嘲笑する。しかし醜さを焼き滅ぼそうとする熱欲があるからではない。彼は他人の弱所を突いて喜ぶ。しかし悪を憎む道徳的疳癪からではない。 ――ここまで考えて来ると、ふと私は一つの危険を感じ出した。彼らの現わす傾向については、た・・・<和辻哲郎「転向」青空文庫>
  30. ・・・宗教の信仰に救われて全能者の存在を霊妙の間に意識し断乎たる歩武を進めて Im schnen, Im guten, Im ganzen, に生くべく猛進するわが理想であると言ったら、ある人は嘲笑した。我れに取っては最も明白合理なる信念である。・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>