ちょう‐じょう〔‐デフ〕【重畳】例文一覧 23件

  1. ・・・ それは重畳、では早速一同の話を順々にこれで聞くと致そう。「こりゃ童部たち、一座へ風が通うように、その大団扇で煽いでくれい。それで少しは涼しくもなろうと申すものじゃ。鋳物師も陶器造も遠慮は入らぬ。二人ともずっとこの机のほとりへ参れ。鮓売・・・<芥川竜之介「竜」青空文庫>
  2. ・・・曰く、「あらゆる行為の根底であり、あらゆる思索の方針である智識を有せざる彼等文芸家が、少しでも事を論じようとすると、観察の錯誤と、推理の矛盾と重畳百出するのであるが、これが原因を繹ねると、つまり二つに帰する。その一つは彼等が一時の状態を永久・・・<石川啄木「性急な思想」青空文庫>
  3.        一 このもの語の起った土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、市の両端を流れ、真中央に城の天守なお高く聳え、森黒く、濠蒼く、国境の山岳は重畳として、湖を包み、海に沿い、橋と、坂と、辻の柳、甍の浪の町を抱い・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  4. ・・・夏の日郊外の植木屋を訪ねて、高山植物を求め帰り道に、頭上高く飛ぶ白雲を見て、この草の生えていた岩石重畳たる峻嶺を想像して、無心の草と雲をなつかしく思い、童話の詩材としたこともありました。一生のうちには、山へもいつか上る機会があるように漠然と・・・<小川未明「春風遍し」青空文庫>
  5. ・・・それは思想もなにもないただ荒々しい岩石の重畳する風景だった。しかしそのなかでも最もひどかった咳の苦しみの最中に、いつも自分の頭へ浮かんで来るわけのわからない言葉があったことを吉田は思い出した。それは「ヒルカニヤの虎」という言葉だった。それは・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  6. ・・・波瀾重畳がこの商買の常である。そこへ素人が割込んだとて何が出来よう。今この波瀾重畳険危な骨董世界の有様を想見するに足りる談をちょっと示そう。但しいずれも自分が仮設したのでない、出処はあるのである。いわゆる「出」は判然しているので、御所望なら・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  7. ・・・きっと前途に重畳する難関を一つ一つしらみつぶしに枚挙されてそうして自分のせっかく楽しみにしている企図の絶望を宣告されるからである。委細かまわず着手してみると存外指摘された難関は楽に始末がついて、指摘されなかった意外な難点に出会うこともある。・・・<寺田寅彦「科学者とあたま」青空文庫>
  8. ・・・ 道ばたの白樺の樹皮を少しはがしてよく見ると、実に幾層にも幾層にも念入りにいろいろの層が重畳している。これにも何か深い「意味」があるであろうが、この薄層の一枚一枚にしるされた自然の暗号記録はわれわれには容易に読めない。まただれも読もうと・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  9. ・・・ この方面から考えると、地震というものの背景には我地球の外殻を構成している多様な地層の重畳したものがある。それが皺曲や断層やまた地下熔岩の迸出によって生じた脈状あるいは塊状の夾雑物によって複雑な構造物を形成している。その構造の如何なる部・・・<寺田寅彦「地震雑感」青空文庫>
  10. ・・・少なくも自分の場合では正月というととかくめでたからぬことが重畳して発生するように思われるのである。のみならず平日ならそれほどにも感じないような些細なめでたからぬことが、正月であるがために特にふめでたに感ぜられる。これはおそらくだれでも同様に・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  11. ・・・これは明らかに噴煙の頭に大きな渦環が重畳していることを示すと思われた。 仰角から推算して高さ七八キロメートルまでのぼったと思われるころから頂部の煙が東南になびいて、ちょうど自分たちの頭上の方向に流れて来た。 ホテルの帳場で勘定をすま・・・<寺田寅彦「小爆発二件」青空文庫>
  12. ・・・そういう場合には、眼前の数首の歌で一つの面を作っているとすると、その面の上にも下にもいくつもの面が限りもなく層状に重畳していて、つまり一つの立体的の世界がある、その世界の一つの断面がくっきり描かれているような気がします。それである一つの歌と・・・<寺田寅彦「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」青空文庫>
  13. ・・・九、十、十一、十二、十四等の音から成る詩句が色々に重畳しているというだけしか分りかねる。ただこういうものからだんだんに現在の短歌型式が発生して来たであろうということは、これらの詩の中で五および七の音数から成るものが著しく多数であることから想・・・<寺田寅彦「短歌の詩形」青空文庫>
  14. ・・・しかし統計に関する数理から考えてみると、一家なり一国なりにある年は災禍が重畳しまた他の年には全く無事な回り合わせが来るということは、純粋な偶然の結果としても当然期待されうる「自然変異」の現象であって、別に必ずしも怪力乱神を語るには当たらない・・・<寺田寅彦「天災と国防」青空文庫>
  15. ・・・句の外観上の表面に現われた甲の曲線から乙の曲線に移る間に通過するその径路は、実は幾段にも重畳した多様な層の間にほとんど無限に多義的な曲線を描く可能性をもっているのである。そうして連句というものの独自なおもしろみはまさにこの複雑な自由さにかか・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  16. ・・・ 社会の歩みは日本の今日の若い世代を片脚だけ鎖の切れたプロメシゥスのような存在にしているから、両性の友情の条件も実に波瀾重畳の趣である。男と女とのつき合いはまだまだ特殊な目で見られているのだから、どうしても、一方には責任を負わないことを・・・<宮本百合子「異性の友情」青空文庫>
  17. ・・・ 主人公となっている労働者の息子サーニが、優秀な機関手となり、コムソモールとなる迄の生活は、浮浪児の一人として波瀾重畳であり、社会的な犯罪にさえも近づいた時期があった。国内戦時代のことで、そのような悪童的な放浪の道はたまたま赤軍の装甲列・・・<宮本百合子「作品のテーマと人生のテーマ」青空文庫>
  18. ・・・ 更に十年経って、今日の世界の現実は、窮極における人間の理性というものを益々信ずべきことを私たちに教えていると思う。重畳する波瀾をとおして、もし私たちが女としてただ一つの善意さえ現実に成り出させようと願うなら、いつの時代よりも世紀の紛乱・・・<宮本百合子「時代と人々」青空文庫>
  19. ・・・歴史小説の題材としての蒋介石の生涯は東洋史の新たな本質を語るものであり、彼の波瀾重畳に作用を及ぼす力は尾崎秀実氏の「南京政府論」が分析されている種類だけのものではないであろう。今日及び明日の作家には、文学の大道から、今日おびただしい犠牲を通・・・<宮本百合子「文芸時評」青空文庫>
  20. ・・・執筆された当時から今日までには僅か五年足らずの年月しか経ていないのであるが、その間には此等の諸論策の筆者自身の身辺に重畳せる波瀾を生ぜしめた左翼運動の急激な画期的な動きがあり、同時に、プロレタリア文学の現状というものも、此等の論文を書かしめ・・・<宮本百合子「『文芸評論』出版について」青空文庫>
  21. ・・・一つの国の人間が先ず列をつくることを教えられ、やがて自分たちで列をつくるようになり、追々自分たちの生活の実際の向上のために列を組むように成長してゆく過程は、実に多岐であり波瀾重畳であると思う。ひとくちに人の列と云えばそれまでだが、列をなす一・・・<宮本百合子「列のこころ」青空文庫>
  22. ・・・ところがあの通りこの上もない出世をして、重畳の幸福と人の羨むにも似ず、何故か始終浮立ぬようにおくらし成るのに不審を打ものさえ多く、それのみか、御寵愛を重ねられる殿にさえろくろく笑顔をお作りなさるのを見上た人もないとか、鬱陶しそうにおもてなし・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>
  23. ・・・特に画の下方のうるさいほどな緑塊重畳においてそうである。 この画もまた川端氏の画と同じく遠のいて見る時に平板に感ぜられる。画面の前二尺か三尺のところに立つ時、初めて画家の努力が残りなく眼にはいって来るのである。これはおそらく絵の具の関係・・・<和辻哲郎「院展日本画所感」青空文庫>