ちょう‐じょう〔チヤウジヤウ〕【頂上】例文一覧 30件

  1. ・・・ もう一息で、頂上の境内という処だから、団扇太鼓もだらりと下げて、音も立てず、千箇寺参りの五十男が、口で石段の数取りをしながら、顔色も青く喘ぎ喘ぎ上るのを――下山の間際に視たことがある。 思出す、あの……五十段ずつ七折ばかり、繋いで・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  2. ・・・ 頂上には城あとが残っています。高い石垣に蔦葛がからみついて、それが真紅に染まっているあんばいなど得も言われぬ趣でした。昔は天主閣の建っていた所が平地になって、いつしか姫小松まばらにおいたち、夏草すきまなく茂り、見るからに昔をしのばす哀・・・<国木田独歩「春の鳥」青空文庫>
  3. ・・・ 山は頂上で、次の山に連っていた。そしてそれから、また次の山が、丁度、珠数のように遠くへ続いていた。 遠く彼方の地平線まで白い雪ばかりだ。スメターニンはやはり見当がつかなかった。 中隊は、丘の上を蟻のように遅々としてやって来てい・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  4. ・・・ 村は、歓喜の頂上にある者も、憤慨せる者も、口惜しがっている者も、すべてが悉く高い崖の上から、深い谷間の底へ突き落されてしまった。喜ぶことはやさしかった。高い所から深いドン底へ墜落するのは何というつらいことだろう! 荒された土地には・・・<黒島伝治「浮動する地価」青空文庫>
  5. ・・・山の頂上を暫らく行くと、又、次の谷間へ下るようになっていた。谷間には沼があった。それが氷でもれ上っていた。沼の向う側には雪に埋れて二三の民屋が見えた。 二人は、まだ一頭も獲物を射止めていなかった。一度、耳の長いやつを狩り出したのであった・・・<黒島伝治「雪のシベリア」青空文庫>
  6. ・・・七月の十三日の午前五時半にツェルマットという処から出発して、名高いアルプスのマッターホルンを世界始まって以来最初に征服致しましょうと心ざし、その翌十四日の夜明前から骨を折って、そうして午後一時四十分に頂上へ着きましたのが、あの名高いアルプス・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  7. ・・・それから襟の一番頂上まで来ると、また立ち止まった。その時女が箸を机の上におくと今虱が這いでてきたところが、かゆいらしく、顎を胸にひいて、後首をのばし、小指でちょっとかいた。龍介はだまっていた。虱はそれから少し今来た方へもどりかけたが、すぐや・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  8. ・・・ 昨年、九月、甲州の御坂峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い出来ではない。あたらしく力を得て、とにかくこれを完成させぬうちは、東京へ帰る・・・<太宰治「I can speak」青空文庫>
  9. ・・・ひるすぎのことであったが、初秋の日ざしはまだ絶壁の頂上に明るく残っていた。学生が、絶壁のなかばに到達したとき、足だまりにしていた頭ほどの石ころがもろくも崩れた。崖から剥ぎ取られたようにすっと落ちた。途中で絶壁の老樹の枝にひっかかった。枝が折・・・<太宰治「魚服記」青空文庫>
  10. ・・・ふと、この同じ瞬間、どこかの可哀想な寂しい娘が、同じようにこうしてお洗濯しながら、このお月様に、そっと笑いかけた、たしかに笑いかけた、と信じてしまって、それは、遠い田舎の山の頂上の一軒家、深夜だまって背戸でお洗濯している、くるしい娘さんが、・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  11. ・・・そうして頂上の峠の海抜九百五十メートルまで、実に四百五十メートルの高さをわずかの時間の間に客車の腰掛に腰かけたままで上昇する。そうして普通の上空気温低下率から計算しても約摂氏五度ほどの気温降下を経験する。それで乗客の感覚の上では、恰度かなり・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  12. ・・・焔は空洞の腹を嘗めて頂上の暗い穴に吸い込まれる。穴の奥でひとしきりゴオと風の音がすると、焔は急に大きくなって下の石炭が活きて輝き始める。 炉の前に、大きな肘掛椅子に埋もれた、一人の白髪の老人が現われる。身動き一つしないで、じっと焔を見詰・・・<寺田寅彦「ある幻想曲の序」青空文庫>
  13. ・・・では、二人の女の髷の頂上の丸んだ線は、二人の襟と二つの団扇に反響して顕著なリズムを形成している。写楽の女の変な目や眉も、これが髷の線の余波として見た時に奇怪な感じは薄らいでただ美しい節奏を感じさせる。 顔の輪郭の線もまた重要な因子になっ・・・<寺田寅彦「浮世絵の曲線」青空文庫>
  14. ・・・見はらしのきく頂上へきて、岩の上にひざを抱いてすわると、熊本市街が一とめにみえる。田圃と山にかこまれて、樹木の多い熊本市は、ほこりをあびてうすよごれてみえた。裁判所の赤煉瓦も、避雷針のある県庁や、学校のいらかも、にぶく光っている坪井川の流れ・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  15. ・・・ それは、富士山の頂上を、ケシ飛んで行く雲の行き来であった。 麓の方、巷や、農村では、四十年来の暑さの中に、人々は死んだり、殺したり、殺されたりした。 空気はムンムンして、人々は天ぷらの油煙を吸い込んでいた。 一方には、一方・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  16. ・・・畢竟するに其親愛が虚偽にもせよ、男子が世にもあられぬ獣行を働きながら、婦人をして柔和忍辱の此頂上にまで至らしめたるは、上古蛮勇時代の遺風、殊に女大学の教訓その頂上に達したるの結果に外ならず。即ち累世の婦人が自から結婚契約の権利を忘れ、仮初に・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  17. ・・・よくその子の性質を察して、これを教えこれを導き、人力の及ぶ所だけは心身の発生を助けて、その天稟に備えたる働きの頂上に達せしめざるべからず。概していえば父母の子を教育するの目的は、その子をして天下第一流の人物、第一流の学者たらしめんとするにあ・・・<福沢諭吉「教育の事」青空文庫>
  18. ・・・文明の進歩、一切万事、意の如くならざるはなしと信じて、かえってその教育を人間世界に用うるの工風を忘れたるの罪なりと答えざるをえず。人間世界は存外に広くして存外に俗なるものなり。文明の頂上と称する国々に於てもなおかつ然り。まして日本の如き、そ・・・<福沢諭吉「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」青空文庫>
  19. ・・・もとより茶店が一軒あるわけでもない。頂上近く登ったと思う時分に向うを見ると、向うは皆自分の居る処よりも遥に高い山がめぐっておる。自分の居る山と向うの山との谷を見ると、何町あるかもわからぬと思うほど下へ深く見える。その大きな谷あいには森もなく・・・<正岡子規「くだもの」青空文庫>
  20. ・・・高い高い錐のような山の頂上に片脚で立っているのです。 ホモイはびっくりして泣いて目をさましました。       * 次の朝ホモイはまた野に出ました。 今日は陰気な霧がジメジメ降っています。木も草もじっと黙り込みました。ぶなの・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  21. ・・・そして又一あしでもう頂上に来ていたんだ。それからあの昔の火口のあとにはいって僕は二時間ねむった。ほんとうにねむったのさ。するとね、ガヤガヤ云うだろう、見るとさっきの人たちがやっと登って来たんだ。みんなで火口のふちの三十三の石ぼとけにね、バラ・・・<宮沢賢治「風野又三郎」青空文庫>
  22. ・・・五、天気輪の柱 牧場のうしろはゆるい丘になって、その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、ぼんやりふだんよりも低く連って見えました。 ジョバンニは、もう露の降りかかった小さな林のこみちを、どんどんのぼって行きました。まっく・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  23. ・・・まだすっかり出来上らないで頂上に赤旗がひるがえっていた。 十月三十日。 午後一時、ニージュニウージンスクへ止る一寸前、ひどい音がして思わず首をちぢめたら自分の坐っていたすぐよこの窓ガラスの外一枚が破れている。 ――小僧!・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  24. ・・・ 始め、妙に悪寒がして、腰が延びないほど疼いたけれ共、お金の思わくを察して、堪えて水仕事まで仕て居たけれ共、しまいには、眼の裏が燃える様に熱くて、手足はすくみ、頭の頂上から、鉄棒をねじり込まれる様に痛くて、とうとう床についてしまった。頭・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  25. ・・・一枝群を離れて冲って居る緑の頂上に鷹を小型にしたような力強い頭から嘴にかけての輪廓を、日にそむいて居る為、真黒く切嵌めた影絵のように見せて居る。囀ろうともせず、こせついた羽づくろいをしようともせず、立木の中の最も高い頂に四辺を眺めて居る小鳥・・・<宮本百合子「餌」青空文庫>
  26. ・・・ 馬車は崖の頂上へさしかかった。馬は前方に現れた眼匿しの中の路に従って柔順に曲り始めた。しかし、そのとき、彼は自分の胴と、車体の幅とを考えることは出来なかった。一つの車輪が路から外れた。突然、馬は車体に引かれて突き立った。瞬間、蠅は飛び・・・<横光利一「蠅」青空文庫>
  27. ・・・ 頂上まで来たとき、青い橙の実に埋った家の門を這入った。そこが技師の自宅で句会はもう始っていた。床前に坐らせられた正客の栖方の頭の上に、学位論文通過祝賀俳句会と書かれて、その日の兼題も並び、二十人ばかりの一座は声もなく句作の最中であった・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  28. ・・・頭だけが大きく浮き上り、頂上がひどく突角って髪が疎らで頭の地が赤味を帯んでいるのである。実物の春夫氏の頭はよく見て知っているにも拘らず、実物とは全く変っている夢の中のその無気味な頭を、誰だかこれが春夫氏の頭だ頭だとしきりに説明をするのである・・・<横光利一「夢もろもろ」青空文庫>
  29. ・・・薄明かりの坂路から怪物のように現われて来る逞しい牛の姿、前景に群がれる小さき雑草、頂上を黄橙色に照らされた土坡、――それらの形象を描くために用いた荒々しい筆使いと暗紫の強い色調とは、果たして「力強い」と呼ばるべきものだろうか。また自然への肉・・・<和辻哲郎「院展遠望」青空文庫>
  30. ・・・村から二、三町で松や雑木の林が始まり、それが子供にとって非常に広いと思われるほど続いて、やがて山の斜面へ移るのであるが、幼いころの茸狩りの場所はこの平地の林であり、小学校の三、四年にもなれば山腹から頂上へ、さらにその裏山へと探し回った。今で・・・<和辻哲郎「茸狩り」青空文庫>