ちょう‐ない〔チヤウ‐〕【町内】例文一覧 30件

  1. ・・・     一五 馬車 僕が小学校へはいらぬ前、小さい馬車を驢馬に牽かせ、そのまた馬車に子供を乗せて、町内をまわる爺さんがあった。僕はこの小さい馬車に乗って、お竹倉や何かを通りたかった。しかし僕の守りをした「つうや」はなぜかそ・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  2. ・・・同じ町内に同じ名の人が五人も十人もあった時、それによって我々の感ずる不便はどれだけであるか。その不便からだけでも、我々は今我々の思想そのものを統一するとともに、またその名にも整理を加える必要があるのである。 見よ、花袋氏、藤村氏、天渓氏・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  3. ・・・が、とにかく、これは問屋、市場へ運ぶのではなく、漁村なるわが町内の晩のお菜に――荒磯に横づけで、ぐわッぐわッと、自棄に煙を吐く艇から、手鈎で崖肋腹へ引摺上げた中から、そのまま跣足で、磯の巌道を踏んで来たのであった。 まだ船底を踏占めるよ・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  4. ・・・(――同町内というではないが、信也氏は、住居 小浜屋の芸妓姉妹は、その祝宴の八百松で、その京千代と、――中の姉のお民――――小股の切れた、色白なのが居て、二人で、囃子を揃えて、すなわち連獅子に骨身を絞ったというのに――上の姉のこ・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  5.        一「杢さん、これ、何?……」 と小児が訊くと、真赤な鼻の頭を撫でて、「綺麗な衣服だよう。」 これはまた余りに情ない。町内の杢若どのは、古筵の両端へ、笹の葉ぐるみ青竹を立てて、縄を渡したのに、・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  6. ・・・ 両側に軒の並んだ町ながら、この小北の向側だけ、一軒づもりポカリと抜けた、一町内の用心水の水溜で、石畳みは強勢でも、緑晶色の大溝になっている。 向うの溝から鰌にょろり、こちらの溝から鰌にょろり、と饒舌るのは、けだしこの水溜からはじま・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  7. ・・・刑事と威した半纏着は、その実町内の若いもの、下塗の欣八と云う。これはまた学問をしなそうな兄哥が、二七講の景気づけに、縁日の夜は縁起を祝って、御堂一室処で、三宝を据えて、頼母子を営む、……世話方で居残ると……お燈明の消々時、フト魔が魅したよう・・・<泉鏡花「菎蒻本」青空文庫>
  8. ・・・ 水の溜ってる面積は五、六町内に跨がってるほど広いのに、排水の落口というのは僅かに三か所、それが又、皆落口が小さくて、溝は七まがりと迂曲している。水の落ちるのは、干潮の間僅かの時間であるから、雨の強い時には、降った水の半分も落ちきらぬ内・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  9. ・・・地震の火事で丸焼けとなったが、再興して依然町内の老舗の暖簾といわれおる。 椿岳の米三郎は早くから絵事に志ざした風流人であって、算盤を弾いて身代を肥やす商売人肌ではなかった。初めから長袖を志望して、ドウいうわけだか神主になる意でいたのが兄・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  10. ・・・元は佃島の者で、ここへ引っ越して来てからまだ二年ばかりにもならぬのであるが、近ごろメッキリ得意も附いて、近辺の大店向きやお屋敷方へも手広く出入りをするので、町内の同業者からはとんだ商売敵にされて、何のあいつが吉新なものか、煮ても焼いても食え・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  11. ・・・家の隣りは駄菓子屋だが、夏になると縁台を出して氷水や蜜豆を売ったので、町内の若い男たちの溜り場であった。安子が学校から帰って、長い袂の年頃の娘のような着物に着替え、襟首まで白粉をつけて踊りの稽古に通う時には、もう隣りの氷店には五六人の若い男・・・<織田作之助「妖婦」青空文庫>
  12. ・・・ 電灯屋、新聞屋、そばや、洋食屋、町内のつきあい――いろんなものがやって来る。室の中に落着いて坐ってることが出来ない。夜も晩酌が無くては眠れない。頭が痛んでふらふらする。胸はいつでもどきん/\している。…… と云って彼は何処へも訪ね・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  13. ・・・次第に財産も殖え、体重も以前の倍ちかくなって、町内の人たちの尊敬も集り、知事、政治家、将軍とも互角の交際をして、六十八歳で大往生いたしました。その葬儀の華やかさは、五年のちまで町内の人たちの語り草になりました。再び、妻はめとらなかったのであ・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  14. ・・・まずまあ、この町内では有名になれる。人の細君と駈落ちしたまえ。え?」 僕はどうでもよかった。酒に酔ったときの青扇の顔は僕には美しく思われた。この顔はありふれていない。僕はふとプーシュキンを思い出したのである。どこかで見たことのある顔と思・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  15. ・・・たとい親身の兄弟でも、同じ屋根の下に住んで居れば、気まずい事も起るものだ、と二人とも口に出しては言わないが、そんなお互の遠慮が無言の裡に首肯せられて、私たちは同じ町内ではあったが、三町だけ離れて住む事にしたのである。それから三箇月経って、こ・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  16. ・・・私は、ことし二十四になりますけれども、それでもお嫁に行かず、おむこさんも取れずにいるのは、うちの貧しいゆえもございますが、母は、この町内での顔ききの地主さんのおめかけだったのを、私の父と話合ってしまって、地主さんの恩を忘れて父の家へ駈けこん・・・<太宰治「燈籠」青空文庫>
  17. ・・・呉服屋の豊田さんなら、私の家と同じ町内でしたから、私はよく知っているのです。先代の太左衛門さんは、ふとっていらっしゃいましたから、太左衛門というお名前もよく似合っていましたが、当代の太左衛門さんは、痩せてそうしてイキでいらっしゃるから、羽左・・・<太宰治「トカトントン」青空文庫>
  18. ・・・いわゆるイニシアルでも、T. T. とだけでは、例えば自分と同番地の町内につい近頃まで四人もいた。しかし、T. T. H. Y. という風に四字の組合せならば暗合のチャンスはずっと少なくなる。尤も大井愛といったような姓名だと Oo I Ai・・・<寺田寅彦「KからQまで」青空文庫>
  19. ・・・これからそろそろ庭へ出て睡蓮の池の水をのんで、そうして彼の仕事の町内めぐりにとりかかるのであろう。自分はこれから寝て、明日はまた、次に来る来年の「試験」の準備の道程に覚束ない分厘の歩みを進めるのである。・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  20. ・・・するとまもなく玄関の天井から蛆が降り出した。町内の掃除人夫を頼んで天井裏へ上がって始末をしてもらうまでにはかなり不愉快な思いをしなければならなかった。それ以来もう猫いらずの使用はやめてしまった。猫いらずを飲んだ人は口から白い煙を吐くそうであ・・・<寺田寅彦「ねずみと猫」青空文庫>
  21. ・・・もしもその町内の親爺株の人の例えば三割でもが、そんな精密な地震予知の不可能だという現在の事実を確実に知っていたなら、そのような流言の卵は孵化らないで腐ってしまうだろう。これに反して、もしそういう流言が、有効に伝播したとしたら、どうだろう。そ・・・<寺田寅彦「流言蜚語」青空文庫>
  22. ・・・たとえば収賄の嫌疑で予審中でありながら○○議員の候補に立つ人や、それをまた最も優良なる候補者として推薦する町内の有志などの顔がそれである。しかしまた俗流の毀誉を超越して所信を断行している高士の顔も涼しかりそうである。しかしこの二つの顔の区別・・・<寺田寅彦「涼味数題」青空文庫>
  23. ・・・と鳶の頭清五郎がさしこの頭巾、半纒、手甲がけの火事装束で、町内を廻る第一番の雪見舞いにとやって来た。「へえッ、飛んでもねえ。狐がお屋敷のをとったんでげすって。御維新此方ア、物騒でげすよ。お稲荷様も御扶持放れで、油揚の臭一つかげねえもんだ・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  24. ・・・もっとも滑稽物や何かで帽子を飛ばして町内中逐かけて行くと云ったような仕草は、ただそのままのおかしみで子供だって見ていさえすれば分りますから質問の出る訳もありませんが、人情物、芝居がかった続き物になると時々聞かれます。その問ははなはだ簡単でた・・・<夏目漱石「中味と形式」青空文庫>
  25. ・・・ 庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被って、夕方になると水菓子屋の店先へ腰をかけて、往来の女の顔を眺めている。そうしてしきりに感心している。そのほかにはこれと云うほどの特色もない。・・・<夏目漱石「夢十夜」青空文庫>
  26. ・・・火事の起らない先に火事装束をつけて窮屈な思いをしながら、町内中駈け歩くのと一般であります。必竟ずるにこういう事は実際程度問題で、いよいよ戦争が起った時とか、危急存亡の場合とかになれば、考えられる頭の人、――考えなくてはいられない人格の修養の・・・<夏目漱石「私の個人主義」青空文庫>
  27. ・・・けれども、ここの町内のは小さく三角形の頂きをもったものではなくて、四分板へいきなり名誉戦死者の軍人としての階級も大書して、それを門傍の塀へ、塀いっぱいの高さに釘づけにしてある。火事にあって立ちのき先を四分板へ大書しておく、あの感じで、それは・・・<宮本百合子「今日の耳目」青空文庫>
  28. ・・・二日三日の夜には、皆気が立ち、町内の有志が抜刀で、ピストルを持ち、歩いた。四日頃からそのような武器を持つことはとめられ、みな樫の棍棒を持つことになった。 やりをかつぎ、闇からぬきみをつき出されたりした。 ◎野沢さんの空屋の部屋で、何・・・<宮本百合子「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」青空文庫>
  29. ・・・けれども、一つ町内でそういう風に戦時景気に便乗していくらかでも甘い目を見た家の数と、毎日毎日、日の丸をふって働き手を戦争へ送り出し、そのために日々の生計が不安になっていった家の数をくらべて見たらどうだったろう。どんな町でも村でも、目立って景・・・<宮本百合子「便乗の図絵」青空文庫>
  30. ・・・初めはちょうど軒下に生まれた犬の子にふびんを掛けるように町内の人たちがお恵みくださいますので、近所じゅうの走り使いなどをいたして、飢え凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を捜しますにも、なるたけ二人が離れないようにいたして、い・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>