ちょう‐ぼ〔チヤウ‐〕【帳簿】例文一覧 24件

  1. ・・・事務室のまん中の大机には白い大掛児を着た支那人が二人、差し向かいに帳簿を検らべている。一人はまだ二十前後であろう。もう一人はやや黄ばみかけた、長い口髭をはやしている。 そのうちに二十前後の支那人は帳簿へペンを走らせながら、目も挙げずに彼・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  2. ・・・あの主計官は忙しそうにあちらの帳簿を開いたり、こちらの書類を拡げたりしていた。それが彼の顔を見ると、「俸給ですね」と一言云った。彼も「そうです」と一言答えた。が、主計官は用が多いのか、容易に月給を渡さなかった。のみならずしまいには彼の前へ軍・・・<芥川竜之介「保吉の手帳から」青空文庫>
  3. ・・・ 食事が済むと煙草を燻らす暇もなく、父は監督に帳簿を持って来るように命じた。監督が風呂はもちろん食事もつかっていないことを彼が注意したけれども、父はただ「うむ」と言っただけで、取り合わなかった。 監督は一抱えもありそうな書類をそこに・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  4. ・・・「もっとも今も話したようなわけで、破産騒ぎまでしたあげくだから、取引店の方から帳簿まで監督されてる始末なんで、場合が場合だから、二階へ兄さんたちを置いてるとなると小面倒なことを言うかもしれませんが、しかしそれとてもたいしたことではないん・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  5. ・・・ しばらく見ない間にすっかり大人びた小店員が帳簿を繰った。 堯はその口上が割合すらすら出て来る番頭の顔が変に見え出した。ある瞬間には彼が非常な言い憎さを押し隠して言っているように見え、ある瞬間にはいかにも平気に言っているように見えた・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  6. ・・・「イヤ帳簿の調査もあるからお前先へ寝ておくれ」と言って自分は八畳の間に入り机に向った。然し妻は容易に寝そうもないので、「早くお寝みというに」 自分はこれまで、これほど角のある言葉すら妻に向って発したことはないのである。妻は不審そ・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  7. ・・・サアそれもチャンと返して帳簿を整理しておかんと今のうまい口に行く事ができない。そこでこの四五日その十五円の調達にずいぶん駆け回りましたよ。やっと三十間堀の野口という旧友の倅が、返済の道さえ立てば貸してやろうという事になり、きょう四時から五時・・・<国木田独歩「二老人」青空文庫>
  8. ・・・ 電燈がついてから、看護長が脇の下に帳簿をはさんで、にこ/\しながら這入って来た。その笑い方は、ぴりッとこっちの直観に触れるものがあった。看護長は、帳簿を拡げ、一人一人名前を区切って呼びだした。空虚な返事がつづいた。「ハイ。」「・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  9. ・・・ そのころのこと、戸籍調べの四十に近い、痩せて小柄のお巡りが玄関で、帳簿の私の名前と、それから無精髯のばし放題の私の顔とを、つくづく見比べ、おや、あなたは……のお坊ちゃんじゃございませんか? そう言うお巡りのことばには、強い故郷の訛があ・・・<太宰治「黄金風景」青空文庫>
  10. ・・・私は、こっそり帳場へ行って、このたびの祝宴の出費について、一切を記して在る筈の帳簿をしらべた。帳場の叔父さんの真面目くさった文字で、歌舞の部、誰、誰、と五人の芸者の名前が書き並べられて、謝礼いくら、いくらと、にこりともせず計算されていた。私・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  11. ・・・が、でもこの黙殺の仕方は、少しも高慢の影は無く、ひとりひとり違った心の表情も認められず、一様にうつむいてせっせと事務を執っているだけで、来客の出入にもその静かな雰囲気は何の変化も示さず、ただ算盤の音と帳簿を繰る音が爽やかに聞こえて、たいへん・・・<太宰治「東京だより」青空文庫>
  12. ・・・ある時は仕官懸命の地をうらやみ、まさか仏籬祖室の扉の奥にはいろうとは、思わなかったけれど、教壇に立って生徒を叱る身振りにあこがれ、機関車あやつる火夫の姿に恍惚として、また、しさいらしく帳簿しらべる銀行員に清楚を感じ、医者の金鎖の重厚に圧倒さ・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  13. ・・・しかもそれはこれに併行する経済的の帳簿の示す数字によって制約されつつ進行するのである。細かく言えば高価なフィルムの代価やセットの値段はもちろん、ロケーションの汽車賃弁当代から荷車の代までも予算されなければならないのである。これを、詩人が一本・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  14. ・・・自分の椅子に社長をすわらせたつもりにして、その前に帳簿を並べて説明とお世辞の予習をする。それが大きな声で滔々と弁じ立てるのでちっともおかしくなくて不愉快である。これが、もしか黙ってああしたしぐさだけをやっているのであったら見ている観客には相・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  15. ・・・そして帳簿をつけてしまうと、ばたんと掛硯の蓋をして、店の間へ行って小説本を読みだした。 その時入口の戸の開く音がして、道太が一両日前まで避けていた山田の姉らしい声がした。 道太は来たのなら来たでいいと思って観念していたが、昨日思いが・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  16. ・・・酒場の番をしている男が三四人、帳簿係の女が五六人、料理人が若干人、事務員が二三人。是等の人達の上に立って営業の事務一切を掌る支配人が一人、其助手が一人あった。数え来れば少からぬ人員となる。是の人員が一団をなして業を営む時には、ここに此の一団・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  17. ・・・それを合算すると、つまり銀行の帳簿のように収入と支出と平均します。すなわち人のためにする仕事の分量は取りも直さず己のためにする仕事の分量という方程式がちゃんと数字の上に現われて参ります。もっとも吝で蓄めている奴があるかも知れないが、これは例・・・<夏目漱石「道楽と職業」青空文庫>
  18. ・・・一 尚お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の出納を帳簿に記して勘定の出来るまでは随分易きことに非ず。父母の心して教う可き所なり。又台所の世帯万端、固より女子の知る・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  19. ・・・わたくしが役所の机で古い帳簿から写しものをしていますと給仕が来てわたくしの肩をつっついて、「所長さんがすぐ来いって。」と云いました。 わたくしはすぐペンを置いてみんなの椅子の間を通り、間の扉をあけて所長室にはいりました。 すると・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  20. ・・・ 若主人は、山岸家と書いた厚い帳簿――それもこの人が新らしく始めたのを繰りながら、「いいや何、何ですよ、 貴方が今御話しなすった様な事情があったにしろ又なかったにしろ、川窪さんにあれだけのものを御返しするのは義務なんですから・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  21. ・・・ その変に捩くれた万年筆を持った男が、帳簿を繰り繰り、九段にこんな家があるが、どうですね、少々権利があって面倒だが、などと云っている時であった。 格子の内に、白い夏服を着、丸顔で髪の黒い一人の外国人が入って来る。 そして、貸家が・・・<宮本百合子「思い出すこと」青空文庫>
  22. ・・・   商売 帳簿を立て並べた長い台に向って、土間に、白キャラコの覆いのよごれた粗末な腰かけが三四脚おいてある。薄禿げで、口のまわりに大きい皺のある小柄な主人が縞の着物に黒ラシャ前垂をかけ、台に坐り筆で何か書いている。主人の背・・・<宮本百合子「日記」青空文庫>
  23. ・・・低い方の山の書類の処理は、折々帳簿を出して照らし合せて見ることがあるばかりで、ぐんぐんはかが行く。三件も四件も烟草休なしに済ましてしまうことがある。済んだのは、検印をして、給仕に持たせて、それぞれ廻す先へ廻す。書類中には直ぐに課長の処へ持っ・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  24. ・・・ 父伊兵衛は恐らくは帳簿と書出とにしか文字を書いたことはあるまい。然るに竜池は秦星池を師として手習をした。狂歌は初代弥生庵雛麿の門人で雛亀と称し、晩年には桃の本鶴廬また源仙と云った。また俳諧をもして仙塢と号した。 父伊兵衛は恐らくは・・・<森鴎外「細木香以」青空文庫>