ちょう‐ろう〔テウ‐〕【嘲弄】例文一覧 30件

  1. ・・・彼の妻や子でさえも、彼のこの所作を、やはり荊棘の冠をかぶらせるのと同様、クリストに対する嘲弄だと解釈した。そして往来の人々が、いよいよ面白そうに笑い興じたのは、無理もない話である。――石をも焦がすようなエルサレムの日の光の中に、濛々と立騰る・・・<芥川竜之介「さまよえる猶太人」青空文庫>
  2. ・・・のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに気がつくと、いよいよ彼を嘲弄した。吉助は愚物ながら、悶々の情に堪えなかったものと見えて、ある夜私に住み慣れた三郎治の家を出奔した。 それから三年の間、吉助の消息は杳として誰も知るものがなかった。・・・<芥川竜之介「じゅりあの・吉助」青空文庫>
  3. ・・・ と嘲弄するごとく、わざと丁寧に申しながら、尻目に懸けてにたりとして、向へ廻り、お雪の肩へその白い手を掛けました。 畜生! 飛附いて扶けようと思ったが、動けるどころの沙汰ではないので、人はかような苦しい場合にも自ら馬鹿々々しい滑稽の・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  4. ・・・菊子の病気を冷笑する心は、やがてまた僕の妻のそれを嘲弄する心になった。僕の胸があまり荒んでいて、――僕自身もあんまり疲れているので、――単純な精神上のまよわしや、たわいもない言語上のよろこばせやで満足が出来ない。――同情などは薬にしたくも根・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  5. ・・・そして姉も弟も初めのうちは小学校に出していたのが、二人とも何一つ学び得ず、いくら教師が骨を折ってもむだで、到底ほかの生徒といっしょに教えることはできず、いたずらに他の腕白生徒の嘲弄の道具になるばかりですから、かえって気の毒に思って退学をさし・・・<国木田独歩「春の鳥」青空文庫>
  6. ・・・(乙、目を雑誌より放し、嘲弄の色を帯びて相手を見る。甲、両手を上沓に嵌御覧よ。あの人の足はこんなに小さいのよ。そして歩き付きが意気だわ。お前さんまだあの人の上沓を穿いて歩くとこは見たことがないでしょう。御覧よ・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  7. ・・・並べて勉強して来た男なのですが、何かにつけて要領よく、いまは文部省の、立派な地位にいて、ときどき博士も、その、あいつと、同窓会などで顔を合せることがございまして、そのたびごとに、あいつは、博士を無用に嘲弄するのでございます。気のきかない、げ・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  8. ・・・どんなに嘲弄されて来たことか。ああ、もう、いやだ。堪えられるところ迄は、堪えて来たのだ。怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。私は今まであの人を、どんなにこっそり庇ってあげたか。誰も、ご存じ無いのです。あの人ご自身だって、それに気が・・・<太宰治「駈込み訴え」青空文庫>
  9. ・・・ものを飲んでいやがる、おやじ、おれにもその生葡萄酒ちょうものを一杯ついでもらいたい、ふむ、これが生葡萄酒か、ぺっぺ、腐った酢の如きものじゃないか、ごめんこうむる、あるじ勘定をたのむ、いくらだ、とわれを嘲弄せんとする意図あからさまなる言辞を吐・・・<太宰治「花吹雪」青空文庫>
  10. ・・・Nichts イブセンの劇より発し少しずつヨオロッパ人の口の端に上りしこの言葉が、流れ流れて、今では、新聞当選のたよりげなき長編小説の中にまで、易々とはいりこんでいたのを、ちらと見て、私自身、嘲弄されたと思いこみむっとなった。私の思・・・<太宰治「もの思う葦」青空文庫>
  11. ・・・よう、よう、よう、ようと居酒屋のなかから嘲弄の声が聞えた。六七人のならずものの声なのである。番傘を右手にささげ持ちながら次郎兵衛は考える。あああ。喧嘩の上手になりたいな。人間、こんな莫迦げた目にあったときには理窟もくそもないものだ。人に触れ・・・<太宰治「ロマネスク」青空文庫>
  12. ・・・一体被告の申立ては法廷を嘲弄しているものと認めます」と、裁判官達は云った。 おれは死刑を宣告せられた。それから法廷を侮辱した科によって、同時に罰金二十マルクに処せられた。「被告の所有者たる襟は没収する限りでないから、一応被告に下げ渡・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  13. ・・・で知られている瀧沢敬一が、世界平和のための積極的な発言者であるジョリオ・キューリー博士を政治的な嘲弄の言葉で通信にかいているのを見れば、平和を希う世界の良心に加えられた侮蔑と感じずにいられないのである。現代は、わたしたちが思っているよりも更・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」青空文庫>
  14. ・・・などと叫ぶアナウンサアの声がわり込み、音楽と野球実景放送とがしばらくあやめも分らずもつれ合ったあげく、拡声器はブブブ、ヒューと、自身の愚劣さを嘲弄するように喚いて、終には一二分何も聞えないようになってしまうのであった。 ああいう沈黙生活・・・<宮本百合子「芸術が必要とする科学」青空文庫>
  15.  一九三〇年の夏のことだ。 ソヴェト同盟では、世界のブルジョア学者、政治家が口を揃えて嘲弄した生産拡張の五ヵ年計画をあらゆる革命的勤労者の支持と、偉大な努力とで、第二年目を終ろうとしている。ソヴェト全土に燃えるような飛躍・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」青空文庫>
  16. ・・・ ソヴェト同盟の大衆にとって、こういう種類の諷刺が、ほんとの諷刺としてうけとれず、そこにブルガーコフの傍観主義や底意地のわるい嘲弄を感じたのは、むしろ自然であった。 大体、文学をこめてのプロレタリア芸術一般にとって、諷刺的手法が正し・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  17. ・・・ そして、嘲弄するように、「マ、そうやってがんばって見るさ」 ポケットから赤い小さいケースに入った仁丹を出して噛みながら云った。「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そ・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  18. ・・・或いはいくらか嘲弄的にもふれられる。ある読者からフロイドをどう考えるか、という質問もあった。 わたしの生活と文学との通って来た特別な道行きをさかのぼってみると、わたしは、常にコンプレックスを解く方向へ努力しつづけて来た人間であった。互に・・・<宮本百合子「心に疼く欲求がある」青空文庫>
  19. ・・・ 日本の平和擁護のための運動に対して傍観的であり、あるいは嘲弄的であるのは、福田恆存一人ではない。福田恆存がそこに加っていないということで日本の「平和を守る会」や「知識人の会」が、その動機と行動において、ほんとの程度がわからないという客・・・<宮本百合子「五〇年代の文学とそこにある問題」青空文庫>
  20. ・・・的社会の相の不安につれて、いわゆるインテリゲンチアに対する嘲弄が文学その他の文化の面に現れていることである。 歴史はわれわれに実例を以て真に多数者の利害の上に立った文化を建設して行くためには、その基礎となる生産関係の解決問題と共に、進歩・・・<宮本百合子「今日の文化の諸問題」青空文庫>
  21. ・・・として責任ある作家の一人であるゾシチェンコがソヴェト市民の無邪気な意識の立ちおくれを、次第にあくどい嘲弄のための嘲弄の方向へ導いた場合、心ある読者が沈黙していられようか。民主的推進こそ日本のわれわれの生きる力の根源である時に、インテリゲンツ・・・<宮本百合子「政治と作家の現実」青空文庫>
  22. ・・・ある種のサークル指導者が、新日本文学会の評論家、作家をよんで、話すことだけは話させておいて、それっきり、あとを発展的に生かさないで、ときには嘲弄的な批評を加えることがあるという風なことが実在するとすれば、それは、民主的文学をそだてる大局から・・・<宮本百合子「その柵は必要か」青空文庫>
  23. ・・・フロラとヒルダは一緒になって、家の手伝いばかりしているアンナを嘲弄します。何ぞと云うと「法王様が仰云って?」と云います。アンナは、何だか旧教くさく、尼さんくさいからと云うので。 ロザリーは、どちらにもつかず、公平な態度を保っていましたが・・・<宮本百合子「「母の膝の上に」(紹介並短評)」青空文庫>
  24. ・・・ ジャン・ジャック・ルソーを嘲弄し、サン・シモンをせせら笑う。何ものも信じない。幻滅を通った七月革命後のフランスの堕落とバルザック。こういう彼が現代において「秩序ある社会を希望する人々」としてカトリーヌをあげている。 そういう社会を・・・<宮本百合子「バルザックについてのノート」青空文庫>
  25. ・・・この頃はいつ召集があるかもしれないような事情のなかで、自分たちが本気でそれを守り高めようとして暮している夫婦生活の平凡な真面目さが、何かに嘲弄されているような嫌な気もするのであった。 北向きの三畳が多喜子の家では仕事部屋になっていて、東・・・<宮本百合子「二人いるとき」青空文庫>
  26. ・・・常識としては、他にいくつかのことが考えられるであろうが、その一つとして、謂わば自分のうちの座敷へひとをよんでおいて、そこが自分のうちだというその場の気分的なものから妙に鼻ぱしをつよくして座談会の席上に嘲弄的、揶揄的口調を弄ぶようなことがある・・・<宮本百合子「文学における今日の日本的なるもの」青空文庫>
  27. ・・・この言葉は極東裁判の、長い間の調査、それからまた最後の判決決定――世界の理性を嘲弄しているものです。東條は死んでも信念は死なないと云い、ファシズムの存続が明言されていることは、きわめて厳粛に、きわめて真面目にわたしども人民が考えなければなら・・・<宮本百合子「平和運動と文学者」青空文庫>
  28. ・・・ 彼等の性わるな嘲弄の中には、ゴーリキイがまだ女の愛撫を経験したことがないことが、最も容赦ない材料としてとりあげられるのであった。 崖上の小さい、だがその存在の意味は大きいデレンコフの店では、やがてパン屋を開くことを考え出した。・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  29. ・・・老人が役所を出ずるや、人々はその周囲を取り囲んでおもしろ半分、嘲弄半分、まじめ半分で事の成り行きを尋ねた。しかしたれもかれのために怒ってくれるものはなかった。そこでかれは糸の一条を語りはじめた。たれも信ずるものがない、みんな笑った。かれは道・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  30. ・・・ 秋三は嘲弄した微笑を勘次に投げた。「ええか、頼んだぞ。」と彼は云うと、威勢好く表へ立った。 勘次は秋三の微笑から冷たい風のような寒さを感じた。彼は暫く庭の上を見詰めたまま動けなかった。「すまんこっちゃわ、えらい厄介かけての・・・<横光利一「南北」青空文庫>