ちょく‐ぜん【直前】例文一覧 30件

  1. ・・・、伏せをしたように頭を低めて、馬の背中にぴたりと体をつけたまま、手綱をしゃくっている騎手の服の不気味な黒と馬の胴につけた数字の1がぱっと観衆の眼にはいり、1か7か9か6かと眼を凝らした途端、はやゴール直前で白い息を吐いている先頭の馬に並び、・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  2. ・・・死の直前、あッしまった、こんな筈ではなかったと、われながら不思議であったろう。わけがわからなかったであろう。観念の眼を閉じて、安らかに大往生を遂げたとは思えない。思いたくない。あの面魂だ。剥いでも剥いでも、たやすく芯を見せない玉葱のような強・・・<織田作之助「武田麟太郎追悼」青空文庫>
  3. ・・・飛びこむ直前までそのうえで遊びたわむれていたあの岩がなくなった。こんな筈はない。どちらかが夢だ。がったん、電車は、ひとつ大きくゆれて見知らぬ部落の林へはいった。微笑ましきことには、私はその日、健康でさえあったのだ。かすかに空腹を感じたのであ・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  4. ・・・あれは昨年十月ぼくの負傷直前の制作です。いま、ぼくはあれに対して、全然気恥しい気持、見るのもいやな気持に駆られています。太宰さんの葉書なりと一枚欲しく思っています。ぼくはいま、ある女の子の家に毎晩のように遊びに行っては、無駄話をして一時頃帰・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  5. ・・・正確に書きたいと思うから、なるべくは眠りに落ちる直前までの事を残さず書いてみたいし、実に、めんどうな事になるのである。それに、日記というものは、あらかじめ人に見られる日のことを考慮に入れて書くべきものか、神と自分と二人きりの世界で書くべきも・・・<太宰治「作家の像」青空文庫>
  6. ・・・七月の二十八日朝に甲府を出発して、大月附近で警戒警報、午後二時半頃上野駅に着き、すぐ長い列の中にはいって、八時間待ち、午後十時十分発の奥羽線まわり青森行きに乗ろうとしたが、折あしく改札直前に警報が出て構内は一瞬のうちに真暗になり、もう列も順・・・<太宰治「十五年間」青空文庫>
  7. ・・・それから五年経って、僕が中学校を卒業する直前に、父は狂い死しました。母が死んでから、もう、元気がないようでしたが、それから、すこし、まあ遊びはじめたのでしょうね、店は可成大きかったのですが、衰運の一途でした。あのときは全国的に呉服屋が、いけ・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  8. ・・・女の局員たちの噂では、なんでも、宮城県のほうで戦災に遭って、無条件降伏直前に、この部落へひょっこりやって来た女で、あの旅館のおかみさんの遠い血筋のものだとか、そうして身持ちがよろしくないようで、まだ子供のくせに、なかなかの凄腕だとかいう事で・・・<太宰治「トカトントン」青空文庫>
  9. ・・・そのような愚直の、謂わば盲進の状態に在るとき、私は、神の特別のみこころに依り、数々の予告を賜って、けれども、かなしいかな、その予告の真意を解くことができず、どろぼう襲来の直前まで、つい、うっかり、警戒を怠っていたということに就いては、寛大の・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  10. ・・・それから、飲食店閉鎖の命令の出る直前に、もういちど、上役のお供で「さくら」に行き、スズメに逢った。「閉鎖になっても、この家へおいでになって私を呼んで下さったら、いつでも逢えますわよ。」 鶴はそれを思い出し、午後七時、日本橋の「さくら・・・<太宰治「犯人」青空文庫>
  11. ・・・この技術によって観客の目は対象物の直前に肉薄する。従って顔の小じわの一つ一つ、その筋肉の微細な運動までが異常に郭大される。指先の神経的な微動でもそれが恐ろしくこくめいに強調されて見える。それだから大写しの顔や手は、決して「芝居」をしてはいけ・・・<寺田寅彦「生ける人形」青空文庫>
  12. ・・・      三 別れの曲 ショパンがパリのサロンに集まった名流の前で初演奏をしようとする直前に、祖国革命戦突発の飛報を受取る。そうして激昂する心を抑えてピアノの前に坐り所定曲目モザルトの一曲を弾いているうちにいつか頭が変にな・・・<寺田寅彦「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」青空文庫>
  13. ・・・ 拳闘場の鉄梯子道の岐路でこの二人が出会っての対話の場面と、最後に監獄の鉄檻の中で死刑直前に同じ二人が話をする場面との照応にはちょっとしたおもしろみがある。 ゲーブルの役の博徒の親分が二人も人を殺すのにそれが観客にはそれほどに悪逆無・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  14. ・・・それが事件の直前にちょうどこの百貨店で火災時の消防予行演習が行なわれていたためもあっていっそうの効力を発揮したようであるが、あの際もしもあの建物の中で遭難した人らにもう少し火災に関する一般的科学知識が普及しており、そうして避難方法に関する平・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  15. ・・・その時の庫次爺の顔を四十余年後の今朝ありありと思い浮べたのである。どうしてそんなことを想い出したかが分からない。その直前にどんなことを考えていたかと思って聊か覚束ない寝覚めの記憶を逆に追跡したが、どうもその前の連鎖が見付からない。しかし、そ・・・<寺田寅彦「KからQまで」青空文庫>
  16. ・・・真夜中に荒波が岸をはい上がってテントの直前数メートルの所まで押し寄せたときは、もうひと波でさらわれるかと思った。そのときの印象がよほど強く深かったと見えて、それから長年月の後までも時々夢魔となって半夜の眠りを脅かしたそうである。また同じ島に・・・<寺田寅彦「小浅間」青空文庫>
  17. ・・・理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほんとうに破壊が起こり始めたが最後、もう始めの微分方程式も境界条件も全部無効になるから、これらの理論はその後の事がらについては・・・<寺田寅彦「自然界の縞模様」青空文庫>
  18. ・・・ところが連句の最後の花の座の直前一二句の複雑な曲折から、花の座を経過して最後の短句に入ってゆるやかに静かに終局するあの心持ちが実によくこの楽曲終節の感じに似ているのである。 これと同様なことは歌仙の他の部分と楽曲のこれに対応する部分につ・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  19. ・・・の中には、ニイチェが非常に著るしく現れて居り、死を直前に凝視してゐたこの作者が、如何に深くニイチェに傾倒して居たかがよく解る。 西洋の詩人や文学者に、あれほど広く大きな影響をあたへたニイチェが、日本ではただ一人、それも死前の僅かな時期に・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  20. ・・・も一九二九年の夏のロンドンで、十月にアメリカに経済恐慌がおこる直前のロンドンであった。そのころ、イギリスの失業者数は三百万人から四百万人もあった。高度に発達した資本主義国は、そのころ急速に資本の独占化にすすんで、いわゆる合理化の結果、どこで・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」青空文庫>
  21. ・・・これは男の封建性とか一部の今日の特権者の腐敗という小さい問題ではない、金と女と酒という、もっともひくい所から人間の値うちが証明されてくる――その点からさえも彼等が落第であるということを選挙直前のもっとも適切なときに自分から証明したものです。・・・<宮本百合子「泉山問題について」青空文庫>
  22. ・・・ 事務員や女教員その他のところに働いている婦人たちのほかに、工場で働く婦人労働者が去年末にすでに二百二十三万八千人あって、事変直前にくらべれば三十六万人の急増を示しており、今年一杯では更に数万の若い婦人が勤労に従うこととなった。それでも・・・<宮本百合子「女性の現実」青空文庫>
  23. ・・・事変直前と去年の十一月とを比べると、婦人労働者の数は三十六万人の増加で、二百二十三万人になっている。時局産業では、男よりも女の増員率がずっと高くて、昭和十三年でさえ二年前の約倍の十万六千八百人が機械工場で働くようになって来ている。それでもま・・・<宮本百合子「働く婦人」青空文庫>
  24. ・・・一九四五年秋以来、創作のほかに可能の最大な範囲で講演、各種の委員会、選挙闘争など活動をつづけ、一昨年夏、第一回文化会議の直前高血圧と心臓機能障害によって医師から活動の制限をうけました。  その後、昨年夏、再び心臓障害と高血圧に苦しみ、十・・・<宮本百合子「文学について」青空文庫>
  25. ・・・加賀家は肥前守斉広卿の代が斉泰卿の代に改まる直前である。上杉家は弾正大弼斉定、浅野家は安芸守斉賢の代である。 父伊兵衛は恐らくは帳簿と書出とにしか文字を書いたことはあるまい。然るに竜池は秦星池を師として手習をした。狂歌は初代弥生庵雛麿の・・・<森鴎外「細木香以」青空文庫>
  26. ・・・大嘗会というのは、貞享四年に東山天皇の盛儀があってから、桂屋太郎兵衛の事を書いた高札の立った元文三年十一月二十三日の直前、同じ月の十九日に五十一年目に、桜町天皇が挙行したもうまで、中絶していたのである。・・・<森鴎外「最後の一句」青空文庫>
  27. ・・・自分の跨がっている坑の直前は背丈位の石垣になっていて、隣の家の横側がその石垣と密接している。物音はその一番奥の所でしている。表から磚の積んだのが見えている辺である。これだけの事を考えて、小川君はとうとう探検に出掛ける決心をしたそうだ。無論便・・・<森鴎外「鼠坂」青空文庫>
  28. ・・・徹夜をした人の目のように、軽い充血の痕の見えている目は、余り周囲の物を見ようともせずに、大抵直前の方向を凝視している。この男の傍には、少し背後へ下がって、一人の女が附き添っている。これも支度が極地味な好みで、その頃流行った紋織お召の単物も、・・・<森鴎外「百物語」青空文庫>
  29. ・・・しかし、戦局は全面的に日本の敗色に傾いている空襲直前の、新緑のころである。噂にしても、誰も明るい噂に餓えかつえているときだった。細やかな人情家の高田のひき緊った喜びは、勿論梶をも揺り動かした。「どんな武器ですかね。」「さア、それは大・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・そのゆえにまたこの女御は、后たち九百九十九人の憎悪を一身に集めた。あらゆる排斥運動や呪詛が女御の上に集中してくる。ついに深山に連れて行かれ、首を切られることになる。その直前にこの后は、山中において王子を産んだ。そうして、首を切られた後にも、・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>