ち‐り【地理】例文一覧 30件

  1. ・・・ 地理に通じない叔母の返事は、心細いくらい曖昧だった。それが何故か唐突と、洋一の内に潜んでいたある不安を呼び醒ました。兄は帰って来るだろうか?――そう思うと彼は電報に、もっと大仰な文句を書いても、好かったような気がし出した。母は兄に会い・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・ナポレオンはまだ学生だった時、彼の地理のノオト・ブックの最後に「セエント・ヘレナ、小さい島」と記していた。それは或は僕等の言うように偶然だったかも知れなかった。しかしナポレオン自身にさえ恐怖を呼び起したのは確かだった。…… 僕はナポレオ・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  3. ・・・たとい地理にしていかなりとも。 ――松島の道では、鼓草をつむ道草をも、溝を跨いで越えたと思う。ここの水は、牡丹の叢のうしろを流れて、山の根に添って荒れた麦畑の前を行き、一方は、角ぐむ蘆、茅の芽の漂う水田であった。 道を挟んで、牡丹と・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  4. ・・・「御主人の前で、何も地理を説く要はない。――御修繕中でありました。神社へ参詣をして、裏門の森を抜けて、一度ちょっと田畝道を抜けましたがね、穀蔵、もの置蔵などの並んだ処を通って、昔の屋敷町といったのへ入って、それから榎の宮八幡宮――この境・・・<泉鏡花「半島一奇抄」青空文庫>
  5. ・・・ これは、私にとって、特殊的な場合でありますが、長男は、来年小学校を出るのですが、図画、唱歌、手工、こうしたものは自からも好み、天分も、その方にはあるのですが、何にしても、数学、地理、歴史というような、与えられたる事実を記憶したりする学・・・<小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」青空文庫>
  6. ・・・はいる目的によって、また地理的な便利、不便利によって、どうもぐりこもうと、勝手である。誰も文句はいわない。 しかし、少くとも寺と名のつく以上、れっきとした表門はある。千日前から道頓堀筋へ抜ける道の、丁度真中ぐらいの、蓄音機屋と洋品屋の間・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  7. ・・・私にとって、大阪人とは地理的なものを意味しない。スタンダールもアランも私には大阪人だ。すこし強引なようだが、私は大阪人というものをそのように広く解している。義理人情の世界、経済の世界が大阪ではない。元禄の大坂人がどんな風に世の中を考え、どん・・・<織田作之助「わが文学修業」青空文庫>
  8. ・・・別して鹿狩りについてはつの字崎の地理に詳しく犬を使うことが上手ゆえ、われら一同の叔父たちといえども、素人の仲間での黒人ながら、この連中に比べては先生と徒弟の相違がある、されば鹿狩りの上の手順などすべて猟師の言うところに従わなければならなかっ・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  9. ・・・ と、彼は、それと同じことを、鮮人部落の地理や、家の格好や、その内部の構造や、美しい娘のことなどを、執拗に憲兵隊で曹長に訊ねられたことを思い出した。「女というものは恐ろしいもんだよ。そいつはいくらでも金を吸い取るからな。」 松本・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  10. ・・・そのあたりの地理は詳細には分らなかった。 だが、そこの鉄橋は始終破壊された。枕木はいつの間にか引きぬかれていた。不意に軍用列車が襲撃された。 電線は切断されづめだった。 HとSとの連絡は始終断たれていた。 そこにパルチザンの・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  11. ・・・そして、対岸の河岸が、三十メートル突きだして、ゆるく曲線を描いている関係から、舟は、流れの中へ放りだせば、ひとりでに流れに押されて、こちらの河岸へ吸いつけられるようにやってくる。地理的関係がめぐまれていた。支那人は、警戒兵が寝静まったころを・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  12. ・・・さてまたひそかにおもうに、武光のとなえも甚だ故なきに似て、地理の書などにもその説を欠けり。けだし疑うらくはここらを領せし人の名などより、たけ光の庄、たけ光の山などとの称の起りたるならんか。いと古くより秩父の郡に拠りて栄えたる丹の党には、その・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  13. ・・・きては夙に西人が種々の科學的研究あり、又近く橋本〔増吉〕文學士の研究もあれど、卑見を以てするに、嵎夷、暘谷は東方日出の個所を指し、南交は南方、昧谷は西方日沒の處、朔方は北方を意味し、何れもある格段なる地理的地點を指したるものなりとは認むる能・・・<白鳥庫吉「『尚書』の高等批評」青空文庫>
  14. ・・・だいたい日本のどの辺に多くいるのか、それはあのシーボルトさんの他にも、和蘭人のハンデルホーメン、独逸人のライン、地理学者のボンなんて人も、ちょいちょい調べていましたそうで、また日本でも古くは佐々木忠次郎とかいう人、石川博士など実地に深山を歩・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  15. ・・・というような頗る不親切な記述があったばかりで、他はどの頁をひっくり返してみても、地理的なことはなんにも書かれてありません。実にぶっきらぼうな態度であります。作者が肉体的に疲労しているときの描写は必ず人を叱りつけるような、場合によっては、怒鳴・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  16. ・・・教授用フィルムに簡単な幻燈でも併用すれば、従来はただ言葉の記載で長たらしくやっている地理学などの教授は、世界漫遊の生きた体験にも似た活気をもって充たされるだろう。そして地図上のただの線でも、そこの実景を眼の当りに経験すれば、それまでとはまる・・・<寺田寅彦「アインシュタインの教育観」青空文庫>
  17. ・・・      ハルツの旅 地理学の学生の仲間にはいって、ハルツを見に行った。霧の深い朝であった。霧が晴れかかった時に、線路の横の畑の中に一疋の駄馬がしょんぼり立っているのが見えた。その馬のからだ一面から真白な蒸気が仰山に立ち昇・・・<寺田寅彦「異郷」青空文庫>
  18. ・・・ 上野の始て公園地となされたのは看雨隠士なる人の著した東京地理沿革誌に従えば明治六年某月である。明治十年に至って始て内国勧業博覧会がこの公園に開催せられた。当時上野なる新公園の状況を記述するもの箕作秋坪の戯著小西湖佳話にまさるものはある・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  19. ・・・ これは後に知ったことであるが、仮名垣魯文の門人であった野崎左文の地理書に委しく記載されているとおり、下総の国栗原郡勝鹿というところに瓊杵神という神が祀られ、その土地から甘酒のような泉が湧き、いかなる旱天にも涸れたことがないというのであ・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  20. ・・・たとえば英語の教師が英語に熱心なるのあまり学生を鞭撻して、地理数学の研修に利用すべき当然の時間を割いてまでも難句集を暗誦させるようなものである。ただにそれのみではない、わが専攻する課目のほか、わが担任する授業のほかには天下又一の力を用いるに・・・<夏目漱石「作物の批評」青空文庫>
  21. ・・・両君の後を慕って馳け出す、これが巡公でなくって先日の御娘さんだったらやはりすぐさま馳け出されるかどうだかの問題はいざとならなければ解釈がつかないから質問しない方がいいとして先へ進む、さて両君はこの辺の地理不案内なりとの口実をもって覚束なき余・・・<夏目漱石「自転車日記」青空文庫>
  22. ・・・私は、こんな情趣の深い町を見たことがなかった。一体こんな町が、東京の何所にあったのだろう。私は地理を忘れてしまった。しかし時間の計算から、それが私の家の近所であること、徒歩で半時間位しか離れていないいつもの私の散歩区域、もしくはそのすぐ近い・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  23. ・・・ が、乳色の、磨硝子の靄を通して灯を見るように、監獄の厚い壁を通して、雑音から街の地理を感得するように、彼の頭の中に、少年が不可解な光を投げた。 靄の先の光は、月であるか、電燈であるか、又は窓であるか、は解らなかったが光である事は疑・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  24. ・・・左れば今の女子を教うるに純然たる昔の御殿風を以てす可らざるは言うまでもなきことなれども、幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  25. ・・・これらへはまず翻訳書を教え、地理・歴史・窮理学・脩心学・経済学・法律学等を知らしむべし。 いわゆる洋学校は人を導くべき人才を育する場所なれば、もっぱら洋書を研究し、難字をも読み、難文をも翻訳して、後進の便利を達すべきなり。方今の有様・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  26. ・・・一、二の例をいうて見ると、山水の景勝を書くのを目的としたものや、地理地形を書くことを目的としたものや、風俗習慣を書くことを目的としたものや、あるいはその地の政治経済教育の有様より物産に至るまで細かに記する事を目的としたもの、あるいは個人的に・・・<正岡子規「徒歩旅行を読む」青空文庫>
  27. ・・・それは大へん小さくて、地理学者や探険家ならばちょっと標本に持って行けそうなものではありましたがまだ全くあたらしく黄いろと赤のペンキさえ塗られていかにも異様に思われ、その前には、粗末ながら一本の幡も立っていました。 私は老人が、もう食事も・・・<宮沢賢治「雁の童子」青空文庫>
  28. ・・・日本が地理的に大陸からぐるりを海できりはなされているという偶然の条件を、もうこれ以上人民の歴史の不幸の原因としてはならないと思う。わたしたちの世間知らずのために、種々さまざまのあることないことを外国についてきかされっぱなしで半信半疑でいるこ・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」青空文庫>
  29. ・・・ ところが、或る日、五時間目の地理が済んで、皆と一緒に芳子さんも家へ帰ろうとして居りますと、受持の先生からお使が来ました。小使は、先生が御用ですからお帰りに教員室に来て下さいと云って、丸い、禿げた頭を振りながら出て行きました。「何の・・・<宮本百合子「いとこ同志」青空文庫>
  30. ・・・暫くして座敷へ這入って、南アフリカの大きい地図をひろげて、この頃戦争が起りそうになっている Transvaal の地理を調べている。こんな風で一日は暮れた。 三四日立ってからの事である。もう役所は午引になっている。石田は馬に蹄鉄を打たせ・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>