ちん‐せい【沈静】例文一覧 13件

  1. ・・・死を宣告される前のような、奇怪な不安と沈静とが交る交る襲って来た。不安が沈静に代る度にクララの眼には涙が湧き上った。クララの処女らしい体は蘆の葉のように細かくおののいていた。光りのようなその髪もまた細かに震えた。クララの手は自らアグネスの手・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  2. ・・・ちょいと内証で、人に知らせないように遣る、この早業は、しかしながら、礼拝と、愛撫と、謙譲と、しかも自恃をかね、色を沈静にし、目を清澄にして、胸に、一種深き人格を秘したる、珠玉を偲ばせる表顕であった。 こういううちにも、舞台――舞台は二階・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  3. ・・・岩――もその通りで、町の方は新しい建物もでき、きらびやかな店もできて万、何となく今の世のさまにともなっているが、士族屋敷の方はその反対で、いたるところ、古い都の断礎のような者があって一種言うべからざる沈静の気がすみずみまで行き渡っている。・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  4. ・・・木の葉落ちつくせば、数十里の方域にわたる林が一時に裸体になって、蒼ずんだ冬の空が高くこの上に垂れ、武蔵野一面が一種の沈静に入る。空気がいちだん澄みわたる。遠い物音が鮮かに聞こえる。自分は十月二十六日の記に、林の奥に座して四顧し、傾聴し、睇視・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  5. ・・・ある科学者はかくのごとき場合にあまりはなはだしく興奮してしばらく心の沈静するまでは筆を取る事さえできなかったという話である。アルキメーデスが裸体で風呂桶から飛び出したのも有名な話である。 それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用・・・<寺田寅彦「科学者と芸術家」青空文庫>
  6. ・・・ 向こう側の三人の爆笑とそれに続く沈静との週期的交代の観察に気を取られて、しばらく前方の老人の事を忘れていたが、突然、実に突然にその老人が卓上の呼び鈴をやけくそにたたきつけるけたたましい音に驚かされてそのほうに注意をよびもどされた。・・・<寺田寅彦「三斜晶系」青空文庫>
  7. ・・・しかしこの十一句目に至ってそこで始めて次にきたるべき沈静への導音ででもあるかのように月の座が出現する。そうしてその後につづく秋季結びが裏へその余韻を送るのである。かくしていよいよ最後の花の座が、あたかも静寂な暮れ方の空をいろどる夕ばえのごと・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  8. ・・・自分は山の手の書斎の沈静した空気が、時には余りに切なく自分に対して、休まずに勉強しろ、早く立派なものを書け、むつかしい本を読めというように、心を鞭打つ如く感じさせる折には、なりたけ読みやすい本を手にして、この待合所の大きな皮張の椅子に腰をか・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  9. ・・・風は沈静して、高い枯草の間から小禽の群が鋭い声を放ちながら、礫を打つようにぱっと散っては消える。曳舟の機械の響が両岸に反響しながら、次第に遠くなって行く。 わたくしは年もまさに尽きようとする十二月の薄暮。さながら晩秋に異らぬ烈しい夕栄の・・・<永井荷風「放水路」青空文庫>
  10. ・・・猛烈なものでも、沈静なものでも、形式の整ったものでも、放縦にしてまとまらぬうちに面白味のあるものでも、精緻を極めたものでも、一気に呵成したものでも、神秘的なものでも、写実的なものでも、朧のなかに影を認めるような糢糊たるものでも、青天白日の下・・・<夏目漱石「作物の批評」青空文庫>
  11. ・・・ 一、二、三、四、 五十一、五十二、 四百、四百一、四百二、 千二百十、千二百十一、千二百十二、 彼のやや沈静した頭が、千二百十二を数え終わった時、再び彼は顔の辺りに、人間の体温を感じた。が、彼はこんどはいきなり冷水をぶ・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  12. ・・・積極的美とはその意匠の壮大、雄渾、勁健、艶麗、活溌、奇警なるものをいい、消極的美とはその意匠の古雅、幽玄、悲惨、沈静、平易なるものをいう。概して言えば東洋の美術文学は消極的美に傾き、西洋の美術文学は積極的美に傾く。もし時代をもって言えば国の・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  13. ・・・次第次第にそのステップは熱し、高まって、優しく激しい幾旋回かののち、曲は再び沈静して夫妻は互に互の体を支えあいながら、顔をふるるばかりに近く互に見入りながら、消えてゆく音楽の余韻の裡に立っている。 本当にこうも踊れる男と女とが、こういう・・・<宮本百合子「表現」青空文庫>