ちん‐せん【沈潜】例文一覧 30件

  1. ・・・的必然のヴェールをひきさくことによって、無に沈潜し、人間を醜怪と見、必然に代えるに偶然を以てし、ここに自由の極限を見るのである。サルトルの「アンティミテ」という小説を、私はそんなに感心しているわけでもないし、むしろドイツのケストネルが書いた・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  2. ・・・流れ流れて仮寝の宿に転がる姿を書く時だけが、私の文章の生き生きする瞬間であり、体系や思想を持たぬ自分の感受性を、唯一所に沈潜することによって傷つくことから守ろうとする走馬燈のような時の場所のめまぐるしい変化だけが、阿呆の一つ覚えの覘いであっ・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  3. ・・・は人間の心を沈潜させ敬虔にさせ、しみじみとさせずにはおかない。私は必ずしも感傷的にとはいわない。何故なら深い別れというものは涙を噛みしめ、この生のやむなき事実に忍従したもので、そこには知性も意志も働いた上のことだからである。 人間が合い・・・<倉田百三「人生における離合について」青空文庫>
  4. ・・・ 前便にくらべると、苦しみが沈潜して、何か充実している感じである。私は、三田君に声援を送った。けれども、まだまだ三田君を第一等の日本男児だとは思っていなかった。まもなく、函館から一通、お便りをいただいた。 太宰さん、御元気ですか。・・・<太宰治「散華」青空文庫>
  5. ・・・うたい上げられた調子はあるが沈潜して読者の心をうち、ともに憤激せしめる迫力は欠けている。 皮相的な、浮きあがった表現の著しい例をわれわれは、この小説のクライマックスともいうべき「共同視察」の場面に発見する。ドヤドヤと視察者が入ってくる。・・・<宮本百合子「一連の非プロレタリア的作品」青空文庫>
  6. ・・・「左翼文学が今日沈潜期にあることを思って喧嘩すぎての棒ちぎりといった疚しさを抱かせられたが」云々と、石坂氏は対象を或る種の左翼的作家、或は思想運動者の上にだけ置いて物を云っているように見える。けれども日本の左翼運動の歴史的な退潮の原因は・・・<宮本百合子「落ちたままのネジ」青空文庫>
  7. ・・・単純な、適当な言葉で云えば非常な喜びで我を忘れる事も、深い懐疑に沈潜する事も、こわいのである。自分が失われるだろうと云う予感が先ず影で脅す、脅かされる丈の内容の力弱さが反射するのでもある。そこで、解らなく成りそうに成る人生に、何か統一を見出・・・<宮本百合子「概念と心其もの」青空文庫>
  8. ・・・モティーフを、自身の感情の奥深くまで沈潜させ、すっかりわがものとしきらなければ作品として生み出さない画家、決してただ与えられた刺戟に素早く反応して自分の空想に亢奮したままに作画してゆくような素質の芸術家ではなかったこと、これはケーテにとって・・・<宮本百合子「ケーテ・コルヴィッツの画業」青空文庫>
  9. ・・・その沈潜するこころもちをまぎらすように、わやわやとした声でかつて軍部に扈従して政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。 これらの現実にかかわらず、地球は、今日・・・<宮本百合子「五月のことば」青空文庫>
  10. ・・・一九四九年が、国内的に誰にとってもいい年でなかったという現実は、日本の民主主義運動のやりかたや、解放運動の科学的な理論の骨格そのものについて沈潜した再検討を必要とする人々の気持のモメントともなっている。 この荒い波は、直接間接文学に影響・・・<宮本百合子「五〇年代の文学とそこにある問題」青空文庫>
  11. ・・・分の心でどう思っていても、それにかかわらず、そういう変動の或るものには生じて来るのであって、しかもそれを凌いでゆくのは、結局自分たちの心の働きによるしかない、そこに真面目に生活を考えている人々の現代の沈潜的な態度があると思う。 真面目に・・・<宮本百合子「これから結婚する人の心持」青空文庫>
  12. ・・・作者はそれぞれ沈潜勇往して、この状況を拓いてゆくために労を惜んではならないのだろうと思う。 もし浅薄に、旧いしきたりに準じて作家と読者というものを形式上対置して、今の読者はものを知らないという風な観かたに止れば宇野浩二のような博識も、畢・・・<宮本百合子「今日の作家と読者」青空文庫>
  13. ・・・ 今日作家が、その歴史的であるべき覚悟の表現においていよいよ勁く文学的であるよりも一般化してしまう傾きを示しているという事実は、私たちの関心を十分そこに沈潜させる価値をもつ現象だと思う。何故なら、今転換期と称されている時期は非常に永い見・・・<宮本百合子「今日の文学の諸相」青空文庫>
  14. ・・・ 自身女性である中島湘煙が、なぜ女はみな魔がさしているような非条理におかれているかというその原因にまでふれ、沈潜して理解してゆこうとせず、かえって男の福沢諭吉が女のために懇切、現実的であったという事実は私たちに何を教えるだろう。それぞれ・・・<宮本百合子「女性の歴史の七十四年」青空文庫>
  15. ・・・計らず、企らまず、対象に向ってあるがままの我を、底の底まで沈潜させる。極度の静謐、すっかり境界がぼやけ、あらゆる固執を失った心と対象との間に、自ら湧き起る感興、想念と云うもので先ずその第一歩を踏み出すのが創作の最も自然な心の態度らしく感ぜら・・・<宮本百合子「透き徹る秋」青空文庫>
  16. ・・・ところで、昨今感じられているその飢渇感には、僅か二、三年前には知られなかった生活的な諸経験がたたみこまれているから、文学とは何であろうかという思いも、一層沈潜して強く流れかかっているのは注目すべきであると思う。 この一年二年は、時間・・・<宮本百合子「生産文学の問題」青空文庫>
  17. ・・・今日の歴史に生きるには、それに先行する時代から受けた苦しみそのものの中に沈潜して、そこから自分たちのこれからの新しい発展を辿りださねばならないという気持が、広汎にあります。そして、自分たちの経験を発展の母胎と見、それにいちおうは執しようとい・・・<宮本百合子「一九四六年の文壇」青空文庫>
  18. ・・・無礼を顧ずいえば、彼等は僧として、高邁な信仰を得ようとする熱意も失っていると同時に、芸術的美に沈潜することによって、更に純一な信心に甦るだけの強大な直観も持っていないようだ。自分達の本堂に在す仏を拝んでは、次の瞬間に冷静な美術批評家ぶって見・・・<宮本百合子「宝に食われる」青空文庫>
  19. ・・・どこまで人間精神の経歴としてその中に沈潜して省察し、収穫し、芸術化してゆくであろうか。このことは、作品のなかにトピックとして或は題材として世相を盛るということよりは遙にむずかしく深く、そして文学を文学たらしめるものであるのだと思う。〔一九四・・・<宮本百合子「地の塩文学の塩」青空文庫>
  20. ・・・ こんな、不合理なことを、彼女自身は何の矛盾も感ぜずに体ごと、その涙の中に沈潜して行くことが出来たのである。 実に屡々、これと大差ない奇怪な感情の陶酔に貫かれながら、どこにも統一のない彼女の生活は、だんだん彼女の年と、境遇とに比べて・・・<宮本百合子「地は饒なり」青空文庫>
  21. ・・・しかし、七篇をとおして流れている云うに云えない生真面目な、本気な、沈潜した作者たちの創作の情熱は、少くとも日本の、浅い文学の根が、ジャーナリズムの奔流に白々と洗いさらされている作品たちとは、まるで出発点からちがったものであることを痛感させた・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  22. ・・・は、その親しみぶかい沈潜した文章をとおして、ボルシェヴィキーの気魄を犇々と読者に感銘せしめる小説である。「オルグ」を書いた時代、前衛を描きながらも同志小林自身の実感はその境地に至らず、描かれた人物だけがどこやら公式的に凄み、肩をいからしてい・・・<宮本百合子「同志小林の業績の評価によせて」青空文庫>
  23. ・・・るけれども、日本というものが益々世界的規模で考えられるようになり、日本文学というものが従って拡大された世界文学の動きの中で考えられる時代に来つつあるとすれば、作家の生活感情の具体的な周密沈着な現実への沈潜と、その沈潜において世界史的実感が把・・・<宮本百合子「遠い願い」青空文庫>
  24. ・・・ 極言すれば、理想を高唱するものも、それに鼓舞されて一躍新生涯を創始しようとする者も、またはそれを傍観するものも、共に、貧弱な沈潜力の所有者であるようにさえ感ぜられる。 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよ・・・<宮本百合子「深く静に各自の路を見出せ」青空文庫>
  25. ・・・全く考えに沈潜する習慣を失った、散漫で、お喋りな人間――自分に何も分っていないということについて、全く気づいていない人間をつくるに役立っている。よくならされた犬のように、ヒントで支配される隷属的人民をつくるための方法であるとさえ云える。・・・<宮本百合子「文学と生活」青空文庫>
  26. ・・・更に日本の文学が文芸思潮というものを喪ったまま動いて来ているこの数年来の実情に沈潜して思いを致せば、今日文学に地方分散の傾向の見えはじめたことの内に含まれている要素が、どんなに錯雑した過程に立つものであるかも深く考えられるわけである。中村氏・・・<宮本百合子「文学と地方性」青空文庫>
  27. ・・・そして「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望」に捕えられた。 ゴーリキイは屡々泥棒のバシュキンやけいず買いのトルーソフなどとカザンカ川を越えて野原へ、灌木の茂みの中に入ってゆき、いかがわしい彼等の商売のこと、更にもっと頻繁に、生活・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  28. ・・・「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒され」た。けれども、屑拾い小僧であり、板片のかっぱらいであった小さいゴーリキイを、かっぱらいの徒党のうちへつなぎきりにしなかった彼の天質の健全な力が、この場合にも一つの新しい疑問の形をとっ・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」青空文庫>
  29. ・・・ けれども――そう確かにけれども、私共の言葉の裡には、私共でなければ感得し得ない何物かがあることも事実ではないだろうか、 そして、又、具体的の説明が出来ない程深く深く底の底まで沈潜して居るその「気分」は、何と云う強靭さで私の背骨を繋・・・<宮本百合子「無題」青空文庫>
  30. ・・・ゴーリキイは、灼熱された石炭の中に投げ込まれた一片の鉄のように自分を感じ、強烈で新鮮な印象に充たされながら、「彼等の辛辣な環境に沈潜して見ようという希望を呼び醒された」のであった。 然し、時が経つにつれ、ゴーリキイの心に一つのつよい疑い・・・<宮本百合子「逝けるマクシム・ゴーリキイ」青空文庫>