ちん‐たい【沈滞】例文一覧 28件

  1. ・・・ いわゆる中庸という迷信に付随しているような沈滞は、このごとき人の行く手にはさらに起こらない。その人が死んで倒れるまで、その前には炎々として焔が燃えている。心の奥底には一つの声が歌となるまでに漲り流れている。すべての疲れたる者はその人を・・・<有島武郎「二つの道」青空文庫>
  2. ・・・ 椿岳の画の豪放洒脱にして伝統の画法を無視した偶像破壊は明治の初期の沈滞萎靡した画界の珍とする処だが、更にこの畸才を産んだ時代に遡って椿岳の一家及び環境を考うるのは明治の文化史上頗る興味がある。 加うるに椿岳の生涯は江戸の末李より明・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・その結果はおそらく沈滞した日本画界に画時代的の影響を及ぼすようなものになりはしないか。そうなったら自分も一つやってみようかなどとこのようなたわいもない夢のような事を思うのもやはり美術シーズンの空気に酔わされた影響かもしれない。 勝手なこ・・・<寺田寅彦「昭和二年の二科会と美術院」青空文庫>
  4. ・・・学風の新鮮を保ち沈滞を防ぐためにはやはりなるべく毛色のちがった人材を集めるほうがかえっていいかもしれないのである。同じことは他のあらゆる集団についても言われるであろう。 それはとにかく、ある時東海道の汽車に乗ったら偶然梅ヶ谷と向かい合い・・・<寺田寅彦「相撲」青空文庫>
  5. ・・・これは少し変った言い分のようであるが、しかし一般に云って、同じ団体がそう永く無事に続くということ自身が沈滞と硬化とを意味する場合が多い。これは政党でも学術団体でも、芸術団体でも同様である。どこでもやはり時々「野獣の群」が出なければ新しい生命・・・<寺田寅彦「二科展院展急行瞥見記」青空文庫>
  6. ・・・一方では季題や去り嫌いや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れて一編の波瀾曲折を豊富にするという案である。 なん・・・<寺田寅彦「俳諧瑣談」青空文庫>
  7. ・・・滑っこく磨き込まれている様子は、丁度多くの人手にかかって丁寧に拭き込まれた桐の手あぶりの光沢に等しく、いつも重そうな瞼の下に、夢を見ているようなその眼色には、照りもせず曇りも果てぬ晩春の空のいい知れぬ沈滞の味が宿っている――とでもいいたい位・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  8. ・・・時代は忽然三、四十年むかしに逆戻りしたような心持をさせたが、そういえば溝の水の流れもせず、泡立ったまま沈滞しているさまも、わたくしには鉄漿溝の埋められなかった昔の吉原を思出させる。 わたくしは我ながら意外なる追憶の情に打たれざるを得ない・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  9. ・・・ 自分はいつも忙しかるべきこの横町の思いもかけぬ夜のような寂寞と沈滞とに、新しい強い興味に誘われながら歩いて来た時、立続く倉の屋根に遮られて見えない奥の方から勢よく長唄の三味線の響いて来るのを聞いたのである。炎天の明い寂寞の中に二挺の三・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  10. ・・・しかしながら文学美術工芸よりして日常一般の風俗流行に至るまで、新しき時代が促しつくらしめる凡てのものが過去に比較して劣るとも優っておらぬかぎり、われわれは丁度かの沈滞せる英国の画界を覚醒したロセッチ一派の如く、理想の目標を遠い過去に求める必・・・<永井荷風「霊廟」青空文庫>
  11. ・・・けれどもそれが道心を沈滞せしめて向下堕落の傾向を助長する結果を生ずるならばそれは作家か読者かどっちかが悪いので、不善挑撥もまたけっしてこの種の文学の主意でない事は論理的に証明できるのである。したがって善悪両面ともに感激性の素因に乏しいという・・・<夏目漱石「文芸と道徳」青空文庫>
  12. ・・・僕らはそのまえのいわゆる沈滞時代に属するのだ。 学校を出てから、伊予の松山の中学の教師にしばらく行った。あの『坊っちゃん』にあるぞなもしの訛を使う中学の生徒は、ここの連中だ。僕は『坊っちゃん』みたようなことはやりはしなかったよ。しかしあ・・・<夏目漱石「僕の昔」青空文庫>
  13. ・・・歴史とともに前進する批判精神を失って沈滞した文化・文学の上に、さも何かの新しい発展的理論であるかのように精神総動員的な全体主義文化論が提唱されて来ていた。文学は、当時の軍人、官吏、実業家の中心問題をその中心課題とすべきだという「大人の文学論・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」青空文庫>
  14. ・・・ そこに、彼の生きたロシアの革命的沈滞期の社会が明かに反映しているのである。 もっと後の時代でも、例えばドイツの漫画家グロッスの仕事を見ると、彼の諷刺家としての階級性がよく分る。グロッスの貪婪なブルジョア、冷酷な淫猥なブルジョア女、・・・<宮本百合子「新たなプロレタリア文学」青空文庫>
  15. ・・・ 昨年は一般に批評の沈滞した年としてかえりみられている。民主主義文学運動が沈滞して、批評の沈滞がひきおこされた点からだけ見ようとしているひともあったようだ。しかし、批評が無力であった根本の原因は、ある人のいうように、民主主義文学も「たか・・・<宮本百合子「現代文学の広場」青空文庫>
  16. ・・・三年頃まで文学の主潮はプロレタリア文学にあり、日本の歴史のふくむ複雑な数多の原因によってこの潮流の方向が変えられると共に、文学は、その背景である社会一般の生活感情にあらわれた一種の混迷とともに画期的な沈滞と無気力に陥った。 この時分から・・・<宮本百合子「今日の文学と文学賞」青空文庫>
  17. ・・・ この文芸復興の叫びには、プロレタリア文学の仕事に当時従っていた人々の中から呼応するものが現れたのみならず、ブルジョア文壇の数年来沈滞していた空気にも一味新鮮な刺戟を与えたように見えた。文芸復興は当時にあっては素朴な形で言われた。小説家・・・<宮本百合子「今日の文学の鳥瞰図」青空文庫>
  18. ・・・を与えられた石川達三、高見順、石川淳、太宰治、衣巻省三その他多くの作家が、言葉どおりの意味での新進ではなく、過去数年の間沈滞して移動の少なかった純文学既成作家に場面を占められて作品発表の機会を十分持ち得ないでいた人々であり、長年の文学修業と・・・<宮本百合子「今日の文学の展望」青空文庫>
  19. ・・・したのに、正常な展開の可能が自他の条件にかけていて、文学によりひろい歴史性をもたらす次の成長へ順調にのびられず、自身の存在の確信のよりどころを失っているような状態であることをさして、作家と文学の敗北、沈滞が云われていると思う。そして、同じ原・・・<宮本百合子「作家と時代意識」青空文庫>
  20. ・・・時に、他の一方ではプロレタリア文学運動のそのような混乱を目撃することによってますます自身の生きる現在の社会の紛糾に圧され、懐疑的になり、無気力に陥った小市民的インテリゲンチアの気分が、ブルジョア文学の沈滞として反映したのであった。 折か・・・<宮本百合子「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」青空文庫>
  21. ・・・(欠伸何と云う沈滞しきった有様だ。又この間のように面白いことでも起って呉れないかな。目が醒めるぜ。ミーダ 人間のアーリアン族を大喧嘩させたことか?ヴィンダー うむ。思っても溜飲が下る。目覚ましかったじゃあないか。俺達の仕事で彼処まで・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  22. ・・・生活そのものに生新溌剌な意欲が漲って、文学でも新しい境地の開拓が自然に人々を誘っているような時代、批評の精神も沈滞していよう筈はないのである。 時代によって、人間の善意の表現も極々の転形を示すのだが、今日私たち日本の文学の成長の可能は、・・・<宮本百合子「地の塩文学の塩」青空文庫>
  23. ・・・この少壮貴族・将校を中心とする叛乱の計画は一貴族の卑劣な裏切りによって悲劇的失敗をとげ、その後一時沈滞した解放運動は、四〇年代になるとモスクワ大学の研究会となって、再び若々しく甦って来た。ゲルツェン会とスタンケウィッチ会とがそれであった。ツ・・・<宮本百合子「ツルゲーネフの生きかた」青空文庫>
  24. ・・・素人の考えとして私は、洋画をかく婦人たちが、洋画の本質と自分の日常生活とにある筈の進歩性というものに無条件でたよりすぎている為に、いつしか反対の沈滞に陥りかかっているのではないかと考えた。 日本の社会では確に洋画を女にならわせる親は進歩・・・<宮本百合子「帝展を観ての感想」青空文庫>
  25. ・・・年来生活の活々した流れや笑を失った家と庭にはどこやらあらそえない沈滞が不健康にくろずみ澱んでいる。そこへただ一点、精気を凝して花弁としたような熾んな牡丹の風情は、石川の心にさえ一種の驚きと感嘆をまき起した。「――見事に咲きましたな、旦那・・・<宮本百合子「牡丹」青空文庫>
  26. ・・・ 何故なら、性格の最も生産的な時期といえる成年、中年の時代が、時には余り沈滞した光彩ないものとして一般に感じられることが多くあり過ぎますから。〔一九二三年一月〕<宮本百合子「われを省みる」青空文庫>
  27. ・・・グレシア正教の寺院を沈滞のままに委せて、上辺を真綿にくるむようにして、そっとして置いて、黔首を愚にするとでも云いたい政治をしている。その愚にせられた黔首が少しでも目を醒ますと、極端な無政府主義者になる。だからツアアルは平服を著た警察官が垣を・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  28. ・・・従って彼らの表現欲は内生が沈滞し、平凡をきわめているに比べて、滑稽なほど不釣合に烈しい。 表現を迫る内生とその表現の方法との間にかくのごとき虚偽や不釣合があり得るとすれば、私が芸術創作について言った事は一般には通じない事になる。すなわち・・・<和辻哲郎「創作の心理について」青空文庫>