ちん‐ちょう【珍重】例文一覧 24件

  1. ・・・ 越の方だが、境の故郷いまわりでは、季節になると、この鶫を珍重すること一通りでない。料理屋が鶫御料理、じぶ、おこのみなどという立看板を軒に掲げる。鶫うどん、鶫蕎麦と蕎麦屋までが貼紙を張る。ただし安価くない。何の椀、どの鉢に使っても、おん・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  2. ・・・みょうが屋の商牌は今でも残っていて好事家間に珍重されてるから、享保頃には相応に流行っていたものであろう。二代目喜兵衛が譲り受けた軽焼屋はいつごろからの店であったか、これも解らぬが、その頃は最早軽焼屋の店は其処にも此処にもあってさして珍らしく・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・この場合、他の骨董品と同じく、数が少なければ、それだけ珍重されたのも、和本そのものが、すでに芸術的に出来ているがためです。 たとえ、今日洋装の書物が、耐久性からいっても、趣味の上からしても殆んど永久の蔵書に値しないかもしれぬが、なほ・・・<小川未明「書を愛して書を持たず」青空文庫>
  4. ・・・まずは珍重することかな。親父親父。親父は必ず逃がさんぞ。あれを巧く説き込んで。身脱けの出来ぬおれの負債を。うむ、それもよしこれもよし。さて謀をめぐらそうか。事は手ッ取り早いがいい。「兵は神速」だ。駈けを追ってすぐに取りかかろうぞ。よし。始め・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  5. ・・・自分はしばしば思うた、もし武蔵野の林が楢の類いでなく、松か何かであったらきわめて平凡な変化に乏しい色彩いちようなものとなってさまで珍重するに足らないだろうと。 楢の類いだから黄葉する。黄葉するから落葉する。時雨が私語く。凩が叫ぶ。一陣の・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  6. ・・・南方外国や支那から、おもしろい器物を取寄せたり、また古渡の物、在来の物をも珍重したりして、おもしろい、味のあるものを大に尊んだ。骨董は非常の勢をもって世に尊重され出した。勿論おもしろくないものや、味のないものや、平凡のものを持囃したのではな・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  7. ・・・このごろ、あなたの少しばかりの異風が、ゆがめられたポンチ画が、たいへん珍重されているということを、寂しいとは思いませんか。親友からの便りである。私はその一葉のはがきを読み、海を見に出かけた。途中、麦が一寸ほど伸びている麦畑の傍にさしかかり、・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  8. ・・・あたりまえの発見を、人よりおそく、一つ一つ、たんねんに珍重し、かなしみ、喜び、歎息している有様である。のろいのである。近ごろ、また、めっきり、のろくなった。いまは、まず少しずつ生活を建て直し、つつましい市井人の家をつくる。それが第一だ。太宰・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  9. ・・・他国では科学がとうの昔に政治の肉となり血となって活動しているのに、日本では科学が温室の蘭かなんぞのように珍重され鑑賞されているのでは全く心細い次第であろう。 その国の最高の科学が「主動的に」その全能力をあげて国政の枢機に参与し国防の計画・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  10. ・・・そうかと思うと一方で立体派や未来派のような舶来の不合理をそのままに鵜呑みにして有難がって模倣しているような不見識な人の多い中に、このような自分の腹から自然に出た些細な不合理はむしろ一服の清涼剤として珍重すべきもののような感がある。 鳥の・・・<寺田寅彦「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」青空文庫>
  11. ・・・ ダリヤは天竺牡丹といわれ稀に見るものとして珍重された。それはコスモスの流行よりも年代はずっと早かったであろう。チュリップ、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころ・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  12.  世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸という点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫の譏は免がれぬ。まして材をその一局部に取って纏ったものを書こうとすると到底万事原著による訳には・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  13. ・・・幻影の盾を南方の豎子に付与す、珍重に護持せよと。われ盾を翳してその所以を問うに黙して答えず。強いて聞くとき、彼両手を揚げて北の空を指して曰く。ワルハラの国オジンの座に近く、火に溶けぬ黒鉄を、氷の如き白炎に鋳たるが幻影の盾なり。……」この時戸・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  14. ・・・その前後に、これまでは決して插画を描かなかった小村雪岱、石井鶴三、中川一政などという画家たちが、装幀や插画にのり出して来て、その人々のその種の作品は、本格的な画家であるが故に珍重されつつ、その半面ではそのことで彼等の本格の仕事に一種派手やか・・・<宮本百合子「おのずから低きに」青空文庫>
  15. ・・・と云う厭うべき遁辞の裡に美化しようとするのみならず、小溝も飛べない弱さを、優美とし「珍重」する男性は、その遁辞を我からあおって、自分等の優越を誇って居ります。 此等に気焔を上げてしまいましたが、とにかく、此の積極的という事は、万事に就て・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  16. ・・・今日でもサラ・ブレッドが珍重されるように、ましてや自分の大事な宝物と思われる財産のゆずりうけをする男の子は、厳重に、父親からのサラ・ブレッドでなければならないと思われて来た。 婦人に対して、社会が、生存の基本になるモラルとして、貞操を要・・・<宮本百合子「貞操について」青空文庫>
  17. ・・・薄暗い部屋だから、眼に力をこめて凝視すると、画と実物の貝殼などとのパノラマ的効果が現れ、小っぽけな窓から海底を覗いて居るような幻覚が起らない限でもないのだ――大人にパノラマが珍重された時代が我々の一九二六年迄かえって来る。―― 間もなく・・・<宮本百合子「長崎の一瞥」青空文庫>
  18. ・・・社会主義リアリズムとよばれる創作方法が、プロレタリア文学運動者たちの珍重するソヴェトわたりの手品の鞠のように傍観されていた時代も、すぎた。 文学における社会性の課題、政治と文学との関係を文学の立場からもっと明らかにしなければならないとい・・・<宮本百合子「人間性・政治・文学(1)」青空文庫>
  19. ・・・ 学生達はゴーリキイを、生えぬきの民衆の子としてばつが悪い位珍重しながら、一方ではゴーリキイを、彼等流の教育で鍛えようとした。教師たちは、ゴーリキイに勝手に好きな本をよむことを許さなかった。読んだものについてのゴーリキイらしい批評を注意・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  20. ・・・ 一八八〇年代のロシアにおける急進的な学生達の姿は、ゴーリキイの思い出をとおして、髣髴と我らの前に立つ思いに打たれるのであるが、彼等はゴーリキイを生えぬきの民衆の子として珍重しつつ、ゴーリキイを、彼等流の教育で鍛えようとした。教師たちは・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」青空文庫>
  21. ・・・藤原氏の貴婦人達が着ていた七重八重の唐衣、藤原氏の紳士達がたいへん温いものだと珍重して着た綿衣、それらは、皆荘園の女奴隷達の指先から生み出されたものなのであった。 藤原氏一族の貴女の生活は、そのように不安定な土台の上に絢爛と咲いていたが・・・<宮本百合子「私たちの建設」青空文庫>
  22. ・・・これより先き寛永十三年には、同じ香木の本末を分けて珍重なされ候仙台中納言殿さえ、少林城において御薨去なされ候。かの末木の香は「世の中の憂きを身に積む柴舟やたかぬ先よりこがれ行らん」と申す歌の心にて、柴舟と銘し、御珍蔵なされ候由に候。 某・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書」青空文庫>
  23. ・・・ついで正保二年松向寺殿も御逝去遊ばされ、これより先き寛永十三年には、同じ香木の本末を分けて珍重なされ候仙台中納言殿さえ、少林城において御逝去なされ候。かの末木の香は、「世の中の憂きを身に積む柴舟やたかぬ先よりこがれ行らん」と申す歌の心にて、・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」青空文庫>
  24. ・・・もしこれをしも背理なものとして感覚派なるものに向って攻撃するものがありとすれば、それは前世紀の遺物として珍重するべきかの「風流」なるものと等しく物さびたある批評家達の頭であろう。風流なるものは畢竟ある時代相から流れ出た時代感覚とその時代の生・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>