ちん‐とう【枕頭】例文一覧 29件

  1. ・・・「御寝なります、へい、唯今女中を寄越しまして、お枕頭もまた、」「いいえ、煙草は飲まない、お火なんか沢山。」「でも、その、」「あの、しかしね、間違えて外の座敷へでも行っていらっしゃりはしないか、気をつけておくれ。」「それは・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  2. ・・・ 渠が寝られぬ短夜に……疲れて、寝忘れて遅く起きると、祖母の影が見えぬ…… 枕頭の障子の陰に、朝の膳ごしらえが、ちゃんと出来ていたのを見て、水を浴びたように肝まで寒くした。――大川も堀も近い。……ついぞ愚痴などを言った事のない祖母だ・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  3. ・・・ 扱帯の下を氷で冷すばかりの容体を、新造が枕頭に取詰めて、このくらいなことで半日でも客を断るということがありますか、死んだ浮舟なんざ、手拭で汗を拭く度に肉が殺げて目に見えて手足が細くなった、それさえ我儘をさしちゃあおきませなんだ、貴女は・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  4. ・・・       十 その瞼に朱を灌ぐ……汗の流るる額を拭って、「……時に、その枕頭の行燈に、一挺消さない蝋燭があって、寂然と間を照しておりますんでな。 ――あれは―― ――水天宮様のお蝋です―― と二つ並んだそ・・・<泉鏡花「菎蒻本」青空文庫>
  5. ・・・ 段の上にすッくと立って、名家の彫像のごとく、目まじろきもしないで、一場の光景を見詰めていた黒き衣、白き面、清せいく鶴に似たる判事は、衝と下りて、ずッと寄って、お米の枕頭に座を占めた。 威厳犯すべからざるものある小山の姿を、しょぼけ・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  6. ・・・東に向けて臥床設けし、枕頭なる皿のなかに、蜜柑と熟したる葡萄と装りたり。枕をば高くしつ。病める人は頭埋めて、小やかにぞ臥したりける。 思いしよりなお瘠せたり。頬のあたり太く細りぬ。真白うて玉なす顔、両の瞼に血の色染めて、うつくしさ、気高・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  7. ・・・ 妾宅では、前の晩、宵に一度、てんどんのお誂え、夜中一時頃に蕎麦の出前が、芬と枕頭を匂って露路を入ったことを知っているので、行けば何かあるだろう……天気が可いとなお食べたい。空腹を抱いて、げっそりと落込むように、溝の減った裏長屋の格子戸・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  8. ・・・名古屋の客に呼ばれて……お信――ええ、さっき私たち出しなに駒下駄を揃えた、あの銀杏返の、内のあの女中ですわ――二階廊下を通りがかりにね、……(お水枕頭にあるんですから。……これが襖越しのやりとりよ。…… 私?……私は毎朝のように、お・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  9. ・・・ しかるに巡査は二つ三つ婦人の枕頭に足踏みして、「おいこら、起きんか、起きんか」 と沈みたる、しかも力を籠めたる声にて謂えり。 婦人はあわただしく蹶ね起きて、急に居住まいを繕いながら、「はい」と答うる歯の音も合わず、その・・・<泉鏡花「夜行巡査」青空文庫>
  10. ・・・夜具は申すまでもなく、絹布の上、枕頭の火桶へ湯沸を掛けて、茶盆をそれへ、煙草盆に火を生ける、手当が行届くのでありまする。 あまりの上首尾、小宮山は空可恐しく思っております。女は慇懃に手を突いて、「それでは、お緩り御寝みなさいまし、ま・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  11. ・・・この頃の或る新聞に、沼南が流連して馴染の女が病気で臥ている枕頭にイツマデも附添って手厚く看護したという逸事が載っているが、沼南は心中の仕損いまでした遊蕩児であった。が、それほど情が濃やかだったので、同じ遊蕩児でも東家西家と花を摘んで転々する・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  12. ・・・ 眼が覚めてみると、此処は師団の仮病舎。枕頭には軍医や看護婦が居て、其外彼得堡で有名な某国手がおれの傷を負った足の上に屈懸っているソノ馴染の顔も見える。国手は手を血塗にして脚の処で暫く何かやッていたが、頓て此方を向いて、「君は命拾を・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13. ・・・ やがて、一同が枕頭に集って、綿の筆で口の内外へ水を塗ってやりました。私が「基次郎」と呼ぶと、病人はパッと眼を見開きますが「お母さんだぜ、分って居るか」と言っても何の手応えもなく直ぐまた眼を閉じて仕舞います。漸々と出る息が長く引く息は短・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  14. ・・・「寝ていなさるが枕頭に嬢様呼んで何か細い声で話をしておいでるようで……」「そうか」「まア上って晩まで遊んでおいでなされませえの」「晩にでも来る!」 細川は自分の竿を担ついで籠をぶらぶら下げ、浮かぬ顔をして、我家へと帰った・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  15. ・・・ 主人の少女は小さな箱から氷の片を二ツ三ツ、皿に乗せて出して、少年の枕頭に置て、「もう此限ですよ、また明日買ってあげましょうねエ」「風邪でもおひきなさったの!」と客なる少女は心配そうに言った。「もう快々んですよ。熱いこと、少し開・・・<国木田独歩「二少女」青空文庫>
  16. ・・・彼女は、清吉の枕頭に来て、風呂敷包を拡げて見せた。 染め絣、モスリン、銘仙絣、肩掛、手袋、などがあった。「これ、品の羽織にしてやろうと思うて……」 と彼女は銘仙絣を取って清吉に見せた。「うむ。」「この縞は綿入れにしてやろ・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  17. ・・・時々眼を開いて見ると、部屋の中まで入って来る饑えた鼠の朦朧と、しかも黒い影が枕頭に隠れたり顕れたりする。時には、自分の身体にまで上って来るような物凄い恐怖に襲われて、眼が覚めることが有った。深夜に、高瀬は妻を呼起して、二人で台所をゴトゴト言・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  18. ・・・夕刊を枕頭に置いてくれ。」 翌る朝、私は九時頃に起きた。たいてい私は八時前に起床するのだが、大隅君のお相手をして少し朝寝坊したのだ。大隅君は、なかなか起きない。十時頃、私は私の蒲団だけさきに畳む事にした。大隅君は、私のどたばた働く姿を寝・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  19. ・・・私が園子を抱えて、園子の小さい手を母の痩せた手のひらに押しつけてやったら、母は指を震わせながら握りしめた。枕頭にいた五所川原の叔母は、微笑みながら涙を拭いていた。 病室には叔母の他に、看護婦がふたり、それから私の一ばん上の姉、次兄の嫂、・・・<太宰治「故郷」青空文庫>
  20. ・・・一夜、三人の兵卒は、アグリパイナの枕頭にひっそり立った。一人は、死刑の宣告書を持ち、一人は、宝石ちりばめたる毒杯を、一人は短剣の鞘を払って。『何ごとぞ。』アグリパイナは、威厳を失わず、きっと起き直って難詰した。応えは無かった。 宣告・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  21. ・・・三井君は寝ながら、枕頭のお針仕事をしていらっしゃる御母堂を相手に、しずかに世間話をしていた。ふと口を噤んだ。それきりだったのである。うらうらと晴れて、まったく少しも風の無い春の日に、それでも、桜の花が花自身の重さに堪えかねるのか、おのずから・・・<太宰治「散華」青空文庫>
  22. ・・・ころされた蚊、一匹、一匹、はらのふとい死骸を、枕頭の「晩年」の表紙の上にならべて、家人が、うたう。盗汗の洪水の中で、眼をさまして家人の、そのような芝居に顔をしかめる。「気のきいたふうの夕刊売り、やめろ。」夕刊売り。孝女白菊。雪の日のしじみ売・・・<太宰治「創生記」青空文庫>
  23. ・・・眼のさめて在る限り、枕頭の商法の教科書を百人一首を読むような、あんなふしをつけて大声で読みわめきつづけている一受験狂に、勉強やめよ、試験全廃だ、と教えてやったら、一瞬ぱっと愁眉をひらいた。うしろ姿のおせん様というあだ名の、セル着たる二十五歳・・・<太宰治「HUMAN LOST」青空文庫>
  24. ・・・ 道太はやがて、兄の枕頭に行ってみた。兄は少しいらだっていたが、少し話をすると、じきに頷いてくれた。「それから私もちょっと用事ができて、きゅうにいったんかえることになりましたので」道太は話しだした。「どうもありがとう。わしはまあ・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  25. ・・・長火鉢の傍にしょんぼりと坐って汚れた壁の上にその影を映させつつ、物静に男の着物を縫っている時、あるいはまた夜の寝床に先ず男を寝かした後、その身は静に男の羽織着物を畳んで角帯をその上に載せ、枕頭の煙草盆の火をしらべ、行燈の燈心を少しく引込め、・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  26. ・・・再び瓦斯ストーブに火をつけ、読み残した枕頭の書を取ってよみつづけると、興趣の加わるに従って、燈火は々として更にあかるくなったように思われ、柔に身を包む毛布はいよいよ暖に、そして降る雪のさらさらと音する響は静な夜を一層静にする。やがて夜も明け・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  27. ・・・ 真夜中頃に、枕頭の違棚に据えてある、四角の紫檀製の枠に嵌め込まれた十八世紀の置時計が、チーンと銀椀を象牙の箸で打つような音を立てて鳴った。夢のうちにこの響を聞いて、はっと眼を醒ましたら、時計はとくに鳴りやんだが、頭のなかはまだ鳴ってい・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  28. ・・・臨終の枕頭の親友に彼は言った。「僕の病源は僕だけが知っている」 こう言って、切れ切れな言葉で彼は屍を食うのを見た一場を物語った。そして忌まわしい世に別れを告げてしまった。 その同じ時刻に、安岡が最期の息を吐き出す時に、旅行先で深・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  29. ・・・昔は一箇の美人が枕頭に座して飯の給仕をしてくれても嬉しいだろうと思うたその美人が、今我が枕頭に座って居ったとすれば我はこれに酬いるに「馬鹿野郎」という肝癪の一言を以てその座を逐払うに止まるであろう。野心、気取り、虚飾、空威張、凡そこれらのも・・・<正岡子規「病牀苦語」青空文庫>