つう‐せつ【痛切】例文一覧 30件

  1. ・・・何か失望に似たものを、――それさえ痛切には感じた訣ではない。保吉は現に売店の猫が二三日行くえを晦ました時にも、全然変りのない寂しさを感じた。もし鎮守府司令長官も頓死か何か遂げたとすれば、――この場合はいささか疑問かも知れない。が、まず猫ほど・・・<芥川竜之介「お時儀」青空文庫>
  2. ・・・ 答 我ら河童はいかなる芸術にも河童を求むること痛切なればなり。 会長ペック氏はこの時にあたり、我ら十七名の会員にこは心霊学協会の臨時調査会にして合評会にあらざるを注意したり。 問 心霊諸君の生活は如何? 答 諸君の生活と異・・・<芥川竜之介「河童」青空文庫>
  3. ・・・ 独逸に対する彼の敵意は勿論僕には痛切ではなかった。従って僕は彼の言葉に多少の反感の起るのを感じた。同時にまた酔の醒めて来るのも感じた。「僕はもう帰る。」「そうか? じゃ僕は……」「どこかこの近所へ沈んで行けよ。」 僕等・・・<芥川竜之介「彼 第二」青空文庫>
  4. ・・・しかし私は議論というものはとうてい議論に終わりやすくって互いの論点がますます主要なところからはずれていくのを、少しばかりの議論の末に痛切に感じたから、私は単に自分の言い足らなかった所を補足するのに止めておこうと思う。そしてできるなら、諸家に・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  5. ・・・従って、もしも此処に真に国家と個人との関係に就いて真面目に疑惑を懐いた人があるとするならば、その人の疑惑乃至反抗は、同じ疑惑を懐いた何れの国の人よりも深く、強く、痛切でなければならぬ筈である。そして、輓近一部の日本人によって起されたところの・・・<石川啄木「性急な思想」青空文庫>
  6. ・・・人間は誰とて無事をこいねがうの念の無いものは無い筈であるが、身に多くの係累者を持った者、殊に手足まといの幼少者などある身には、更に痛切に無事を願うの念が強いのである。 一朝禍を蹈むの場合にあたって、係累の多い者ほど、惨害はその惨の甚しい・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  7. ・・・文人の社会的地位が今一層高くなければならぬ事を痛切に感ずる。 有体に言うと今の文人の多くは各々蝸牛の殻を守るに汲々として互いに相褒め合ったり罵り合ったりして聊かの小問題を一大事として鎬を削ってる。毎日の新聞、毎月の雑誌に論難攻撃は絶えた・・・<内田魯庵「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」青空文庫>
  8. ・・・此に於てか痛切に吾々の脳裡に『何処より何処へ行くか』という考えも起るのである。又『此の地上に生れ出でゝ果して何を為すがために生活するか』という様な問題も考えられるのである。そして終に、肉体と精神とを挙げて犠牲にするだけの偶像を何物にも見出し・・・<小川未明「絶望より生ずる文芸」青空文庫>
  9. ・・・何の主義によらず唱えらるゝに至った動機、世間が之を認めたまでには、痛切な根柢と時勢に対する悲壮な反抗と思想上の苦闘があったことを知らなければならぬ。だから、批評家が一朝机上の感想で、之を破壊することは不可能であるし、また無理だと思う。 ・・・<小川未明「若き姿の文芸」青空文庫>
  10. ・・・ ところが、今、小沢はその辛さを痛切に味わねばならなかった。 実は、この細工谷町で異様な裸の娘を拾ったというのも、小沢が宿なしだったからである。 小沢は両親も身寄りもない孤独な男だったが、それでも応召前は天下茶屋のアパートに住ん・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  11. ・・・確かにわれわれが倫理的な問いを持つにいたった痛切な原因にはこの時と処と人とによってモラールが異なるところに発する不安と当惑とがあるのである。 これに対してリップスはいう。一つの比論をとれば、物理的真理において、真理そのものを万物の真相は・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  12. ・・・予言者には宇宙の真理とひとつになったという宗教的霊覚がなければならぬのは勿論であるが、さらに特に己れの生きている時代相への痛切な関心と、鋭邁な批判と、燃ゆるが如き本能的な熱愛とをもっていなければならない。普通妥当の真理への忠実公正というだけ・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  13. ・・・悲劇になる、痛切な、身を以て苦るしんだ、そのことを喜劇として表現し、諷刺文学として表現して、始めて、価値がある。殊に、モリエールの晩年の「タルチーフ」や、「厭人家」などは、喜劇と云っていゝか、悲劇と云っていゝか分らないものだ。それだけに、打・・・<黒島伝治「愛読した本と作家から」青空文庫>
  14. ・・・ということを、佐左木俊郎を見る時、痛切に感じるのである。 ――「成程今までの我々の農民文学は、日本農業の特殊性をさながらの姿で写しとった。それは、農林省の『本邦農業要覧』にあらわれた数字よりも、もっと正確に日本農民の生活を描きだしていた・・・<黒島伝治「農民文学の問題」青空文庫>
  15. ・・・通訳は、前よりも、もっと痛切な声で叫んだ。「倒れました。倒れました。倒れて夢中で手と頭を振っとります。」「三人やられたね。――一人は将校だ。脚をやられたらしい。」「どうして司令官は、こんなことをやらせるんです! 悲惨です! 悲惨です・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  16. ・・・虚偽を去り矯飾を忘れて、痛切に自家の現状を見よ、見て而してこれを真摯に告白せよ。この以上適当な題言は今の世にないのでないか。この意味で今は懺悔の時代である。あるいは人間は永久にわたって懺悔の時代以上に超越するを得ないものかも知れぬ。 以・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  17. ・・・と、地団駄踏んで、その遺言書に記してあったようだが、私も、いまは、その痛切な嘆きには一も二も無く共鳴したい。たかが熊本君ごときに、酒を飲む人の話は、信用できませんからね、と憫笑を以て言われても、私には、すぐに撥ね返す言葉が無い。冷水摩擦を毎・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  18. ・・・自分の体がこの世の中になくなるということが痛切に悲しいのだ。かれの胸にはこれまで幾度も祖国を思うの念が燃えた。海上の甲板で、軍歌を歌った時には悲壮の念が全身に充ち渡った。敵の軍艦が突然出てきて、一砲弾のために沈められて、海底の藻屑となっても・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  19. ・・・そう思ってみると、一年に一回ずつ特別な日を設けて、それを理由などかまわずとにもかくにもめでたい日ときめてしまって強いてめでたがり、そうしてそのたびに発生するいろいろな迷惑をいっそう痛切に受難することにもなかなか深い意義があるような気がしてく・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  20. ・・・幸いに近年は農林省方面でも海洋観測の必要を痛切に認識して系統的な調査もようやくその緒に就いたようで、誠に喜ばしい次第である。 ともかくも、こういう大切な観測事業をその日暮しその年暮しになりやすい恐れのある官僚政治の管下から完全に救出して・・・<寺田寅彦「新春偶語」青空文庫>
  21. ・・・         二 新しい学説が学界から喜んで迎えられるならば、それはその説がその当代の学界の痛切な要求にうまく適合するからであることは明らかである。もう十年も前から世界中の学者が口をもぐもぐさせて云おうとしていたが、適当・・・<寺田寅彦「スパーク」青空文庫>
  22. ・・・と歌った懐古の情の悲しさに比較すれば、自分が芝の霊廟に対して傾注する感激の底には、かえって一層の痛切一層の悲惨が潜んでいなければならぬはずだと思うのである。 ポンペイの古都は火山の灰の下にもなお昔のままなる姿を保存していた実例がある。仏・・・<永井荷風「霊廟」青空文庫>
  23. ・・・ そのくせ周囲の空気には名状すべからざる派出な刺激があって、一方からいうと前後を忘れ、自我を没して、この派出な刺激を痛切に味いたいのだから困ります。その意味からいうと、美々しい女や華奢な男が、天地神明を忘れて、当面の春色に酔って、優越な・・・<夏目漱石「虚子君へ」青空文庫>
  24. ・・・しかしてこの人間の絶対的価値ということが、己が子を失うたような場合に最も痛切に感ぜられるのである。ゲーテがその子を失った時“Over the dead”というて仕事を続けたというが、ゲーテにしてこの語をなした心の中には、固より仰ぐべき偉大な・・・<西田幾多郎「我が子の死」青空文庫>
  25. ・・・この事情を知りつくしている筈だと思う。 戦争のない日本を創りたい。この痛切な願望を、胸に抱かない一人の婦人もあり得まい。戦争をひきおこす日本の反動勢力を、私たちの社会から排除する、ということは、架空の道を通って実現することではない。今こ・・・<宮本百合子「合図の旗」青空文庫>
  26. ・・・今日は男も女も、それが地みちの生活をしている人であるならば、字づらだけでの男女平等や解放だけで民主主義というものはあり得ないということを痛切に感じて来ている。あらゆる日本の婦人が今日ほどの時間を台所にしばりつけられていて、どうして封建性から・・・<宮本百合子「明日をつくる力」青空文庫>
  27. ・・・この中には嫡子光貞のように江戸にいたり、また京都、そのほか遠国にいる人だちもあるが、それがのちに知らせを受けて歎いたのと違って、熊本の館にいた限りの人だちの歎きは、わけて痛切なものであった。江戸への注進には六島少吉、津田六左衛門の二人が立っ・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  28. ・・・市中至る所太郎兵衛のうわさばかりしている中に、それを最も痛切に感ぜなくてはならぬ太郎兵衛の家族は、南組堀江橋際の家で、もう丸二年ほど、ほとんど全く世間との交通を絶って暮らしているのである。 この予期すべき出来事を、桂屋へ知らせに来たのは・・・<森鴎外「最後の一句」青空文庫>
  29. ・・・六、七年前銀座裏で食事をして外へ出たとき、痛切にシンガポールの場末を思い出したことがある。往来から夜の空の見える具合がそういう連想を呼び起こしたのかと思われるが、その時には新しく建設せられる東京がいかにも植民地的であるのを情けなく思った。し・・・<和辻哲郎「城」青空文庫>
  30. ・・・ 私は近ごろほど自分が日本人であることを痛切に意識したことはない。そしてすべて世界的になっている永遠の偉人が、おのおのその民族の特質を最も好く活かしている事実に、私は一種の驚異の情をもって思い至った。最も特殊なものが真に普遍的になる。そ・・・<和辻哲郎「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」青空文庫>