つう‐ろ【通路】例文一覧 30件

  1. ・・・坦々砥の如き何間幅の大通路を行く時も二葉亭は木の根岩角の凸凹した羊腸折や、刃を仰向けたような山の背を縦走する危険を聯想せずにはいられなかった。日常家庭生活においても二葉亭の家庭は実の親子夫婦の水不入で、シカモ皆好人物揃いであったから面倒臭い・・・<内田魯庵「二葉亭追録」青空文庫>
  2. ・・・道頓堀からの食傷通路と、千日前からの落語席通路の角に当っているところに「めをとぜんざい」と書いた大提灯がぶら下っていて、その横のガラス箱の中に古びたお多福人形がにこにこしながら十燭光の裸の電灯の下でじっと坐っているのである。暖簾をくぐって、・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  3. ・・・道頓堀からの通路と千日前からの通路の角に当っているところに古びた阿多福人形が据えられ、その前に「めおとぜんざい」と書いた赤い大提灯がぶら下っているのを見ると、しみじみと夫婦で行く店らしかった。おまけに、ぜんざいを註文すると、女夫の意味で一人・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  4. ・・・解脱への通路である。書を読んで終に書を離れるのが知識階級の真理探究の順路である。 現代青年学生は盛んに、しかしながら賢明に書を読まねばならぬ。しかしながら最後には、人間教養の仕上げとしての人間完成のためには、一切の書物と思想とを否定せね・・・<倉田百三「学生と読書」青空文庫>
  5. ・・・そして前にいったように、恋愛は娘が母となるための通路である。聖母にまで高まり、浄まらなければならない娘の恋が肉体と感覚をこえんとする要請を持っていなければならないのは当然である。この意味でプラトニックな要請を持っていないものは処女ではない。・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  6. ・・・窓が二つあって、一方は公園の通路に添い、一方は深い木の葉に掩われている。その窓際には一段と高い床が造りつけてあって、そこに支那風の毛氈なぞも敷きつめてある。部屋の装飾はすべて広瀬さんの好みらしく、せいぜい五組か六組ほどの客しか迎えられない狭・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  7. ・・・私と北さんは、通路をへだてて一つずつ、やっと席をとった。北さんは、老眼鏡を、ひょいと掛けて新聞を読みはじめた。落ちついたものだった。私はジョルジュ・シメノンという人の探偵小説を読みはじめた。私は長い汽車の旅にはなるべく探偵小説を読む事にして・・・<太宰治「帰去来」青空文庫>
  8. ・・・それらの通路の中には国道もあり間道もあり、また人々によって通い慣れた道と、そうでないのとがある。それで今甲の影像の次に乙の影像を示された観客はその瞬間においてその観客の通い慣れた甲乙間の通路の心像を電光に照らされるごとく認識するのであろう。・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  9. ・・・しかるに現在の科学の国土はまだウパニシャドや老子やソクラテスの世界との通路を一筋でももっていない。芭蕉や広重の世界にも手を出す手がかりをもっていない。そういう別の世界の存在はしかし人間の事実である。理屈ではない。そういう事実を無視して、科学・・・<寺田寅彦「科学者とあたま」青空文庫>
  10. ・・・全館に警鈴が鳴り渡りかねてから手ぐすね引いている火災係が各自の部署につき、良好な有力な拡声機によって安全なる避難路が指示され、群集は落ち着き払ってその号令に耳をすまして静かに行動を起こし、そうして階段通路をその幅員尺度に応じて二列三列あるい・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  11. ・・・これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分にからすうりの花が咲いているということを、前からちゃんと承知しており、またそこまでの通路をあらかじめすっかり研究しておいたかのように真一文字・・・<寺田寅彦「からすうりの花と蛾」青空文庫>
  12. ・・・これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分に烏瓜の花が咲いているということを、前からちゃんと承知しており、またそこまでの通路をあらかじめすっかり研究しておいたかのように真一文字に飛ん・・・<寺田寅彦「烏瓜の花と蛾」青空文庫>
  13. ・・・ 室内を縦断する通路の自分とは反対側の食卓に若い会社員らしいのが三人、注文したうなぎどんぶりのできるのを待つ間の談笑をしている。もっぱら談話をリードしているその中の一人が何か二言三言言ったと思うと他の二人が声をそろえて爆笑する、それに誘・・・<寺田寅彦「三斜晶系」青空文庫>
  14. ・・・ことに瀬戸内海のように外洋との通路がいくつもあり、内海の中にもまた瀬戸が沢山あって、いくつもの灘に分れているところでは、潮の満干もなかなか込み入って来てこれを詳しく調べるのはなかなか難しいのです。しかし、航海の頻繁なところであるから潮の調査・・・<寺田寅彦「瀬戸内海の潮と潮流」青空文庫>
  15. ・・・また、日本はその地理的の位置から自然にいろいろな渡り鳥の通路になっているので、これもこの国の季節的景観の多様性に寄与するところがはなはだ多い。雁やつばめの去来は昔の農夫には一種の暦の役目をもつとめたものであろう。 野獣の種類はそれほど豊・・・<寺田寅彦「日本人の自然観」青空文庫>
  16. ・・・一度通路ができてしまえばもうそれきりである。 夜おそく仕事でもしている時に頭の上に忍びやかな足音がしたり、どこかでつつましく物をかじる音がしたりするうちはいいが、寝入りぎわをはげしい物音に驚かされたり、買ったばかりの書物の背皮を無惨に食・・・<寺田寅彦「ねずみと猫」青空文庫>
  17. ・・・ 寒くなると、爺さんは下駄棚のかげになった狭い通路の壁際で股火をしながら居睡をしているので、外からも、内からも、殆ど人の目につかない事さえあった。 或年花の咲く頃であったろう。わたくしは爺さんが何処から持って来たものか、そぎ竹を丹念・・・<永井荷風「草紅葉」青空文庫>
  18. ・・・吉原から浅草に至る通路の重なるものは二筋あった。その一筋は大門を出て堤を右手に行くこと二、三町、むかしは土手の平松とかいった料理屋の跡を、そのままの牛肉屋常磐の門前から斜に堤を下り、やがて真直に浅草公園の十二階下に出る千束町二、三丁目の通り・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  19. ・・・ これと向合いになった車庫を見ると、さして広くもない構内のはずれに、燈影の見えない二階家が立ちつづいていて、その下六尺ばかり、通路になった処に、「ぬけられます。」と横に書いた灯が出してある。 わたくしは人に道をきく煩いもなく、構内の・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  20. ・・・デッキには新聞紙を敷いて三四人も寝ていた。通路にさえ三十人も立ったり、蟠ったりしていた。眼ばかりパチパチさせて、心は眠ってるのもあった。東京の空気を下の関までそっくり運ぼうとでもするように車室内の空気はムンムン沈澱していた。「図太え野郎・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  21. ・・・――(汽車の食堂は普通の食堂シベリアに雪はあるかと訊いた男が通路のむこう側のテーブルでやっぱりクロパートカをたべている伴れの眼鏡に話しかけた。 ――どうだね、君んところのは? 目立たぬ位肩をもちあげ、 ――まあこんなもんだろう。・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  22. ・・・鳥打帽をかぶり、半外套をひっかけた大きな体の連中が、二人分の座席に三人ずつ腰かけ、通路まで三重ぐらいに詰って、黙って、ミッシリ、ミッシリ押し合っている。 電車は段々モスク市の中心をはずれた。 東南の終点で降りると、工場街だ。広場を前・・・<宮本百合子「「鎌と鎚」工場の文学研究会」青空文庫>
  23. ・・・そういう技術的な専門通路が、からたち垣の一重外を通っているのであるから、自然、うちへも何度か顔を見せぬ君子が出没した。 私が六つぐらいだった或る夏の夜、蚊帳を吊って弟たち二人はとうにねかされ、私だけ母とその隣りの長四畳の部屋で、父のテー・・・<宮本百合子「からたち」青空文庫>
  24. ・・・案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピアノの音がしはじめた。「セルマシストロイ」は巨大工場で未完成だ。各部がまだクラブを・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」青空文庫>
  25. ・・・そこを歩いてゆくとだんだん通路が爪先あがりになっていくみたいだ。一定の方向をむいてあんまり静粛にどっさり並んでいる人間の間をひとりだけ歩いているとそんな気になるのだ。 白い壁について煌々あたりを輝やかしているいくつもの電燈のカーボン線を・・・<宮本百合子「三月八日は女の日だ」青空文庫>
  26. ・・・若し通路に危険がなく、公園にでも近ければ、子供は独りで一定の時間まで遊ばせられる。朝顔を洗うこと、挨拶すること、自分の着物を出来る丈自分で始末して、玩具や靴、帽子等に対して責任感を持たせられる。小さいながら、年相当一人の紳士とし、又は淑女と・・・<宮本百合子「男女交際より家庭生活へ」青空文庫>
  27. ・・・きまった通路を、きまった場所へ、きまった目的のために、きまった時間内にしか歩かせられない。一本の通路の、どっち側を歩くかということさえ歩く人間の気まかせにはさせられない歩行の間、特に独房にいるものは、自分の一歩、一歩を体じゅうで味い、歩くと・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  28. ・・・ 俥が漸々入る露路のとっつきにある彼女等の格子戸は、前に可愛い二本の槇を植えて、些か風情を添えて居るものの、隣家の煉瓦塀に面して、家への通路らしい落付きは何処にも無かった。 朝、日が昇ると一緒に硝子窓から射込む光線が縞に成って寝室に・・・<宮本百合子「われらの家」青空文庫>
  29. ・・・脆弱であった四肢には次第に充実した筋力が満ち男性は山野を馳け廻って狩もすれば、通路の安全を妨げる大岩も楽々揺がせるようになる。 女性は、いつかふくよかな胸と輝く瞳とを得、素朴な驚異の下に、新たな生命をこの地上に齎して来る。――毛皮を纏い・・・<宮本百合子「われを省みる」青空文庫>
  30. ・・・であるが、しかしタリム盆地で発達した芸術や宗教がシナの本部の方へ入り込んで来る際に、敦煌から蘭州を経て長安や洛陽の古い文化圏に来たことは確かであろうし、蘭州と長安との中ほどにある麦積山がこの文化流入の通路にあって、いち早くその感化を受けたで・・・<和辻哲郎「麦積山塑像の示唆するもの」青空文庫>