つがり【連り/鎖り/×縋り】例文一覧 22件

  1. ・・・その上はただ清水寺の観世音菩薩の御冥護にお縋り申すばかりでございます。」 観世音菩薩! この言葉はたちまち神父の顔に腹立たしい色を漲らせた。神父は何も知らぬ女の顔へ鋭い眼を見据えると、首を振り振りたしなめ出した。「お気をつけなさい。・・・<芥川竜之介「おしの」青空文庫>
  2. ・・・この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっと地獄からぬけ出せるのに相違ございません。いや、うまく行くと、極楽へはいる事さえも出来ましょう。そうすれば、もう針の山へ追い上げられる事もなくなれば、血の池に沈められる事もある筈はございませ・・・<芥川竜之介「蜘蛛の糸」青空文庫>
  3. ・・・お栄はそれを見ると同時に、急にこおろぎの鳴く声さえしない真夜中の土蔵が怖くなって、思わず祖母の膝へ縋りついたまま、しくしく泣き出してしまいました。が、祖母はいつもと違って、お栄の泣くのにも頓着せず、その麻利耶観音の御宮の前に坐りながら、恭し・・・<芥川竜之介「黒衣聖母」青空文庫>
  4. ・・・所が泣き伏した女を後に、藪の外へ逃げようとすると、女は突然わたしの腕へ、気違いのように縋りつきました。しかも切れ切れに叫ぶのを聞けば、あなたが死ぬか夫が死ぬか、どちらか一人死んでくれ、二人の男に恥を見せるのは、死ぬよりもつらいと云うのです。・・・<芥川竜之介「藪の中」青空文庫>
  5. ・・・――処へ、土地ところには聞馴れぬ、すずしい澄んだ女子の声が、男に交って、崖上の岨道から、巌角を、踏んず、縋りつ、桂井とかいてあるでしゅ、印半纏。」「おお、そか、この町の旅籠じゃよ。」「ええ、その番頭めが案内でしゅ。円髷の年増と、その・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  6. ・・・助かるすべもありそうな、見た処の一枝の花を、いざ船に載せて見て、咽喉を突かれてでも、居はしまいか、鳩尾に斬ったあとでもあるまいか、ふと愛惜の念盛に、望の糸に縋りついたから、危ぶんで、七兵衛は胸が轟いて、慈悲の外何の色をも交えぬ老の眼は塞いだ・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  7. ・・・いきなり縋り寄って、寝ている夜具の袖へ手をかけますと、密と目をあいて私の顔を見ましたっけ、三日四日が間にめっきりやつれてしまいました、顔を見ますと二人とも声よりは前へ涙なんでございます。 物もいわないで、あの女が前髪のこわれた額際まで、・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  8. ・・・ と、ミリヤアドの枕の許に僵れふして、胸に縋りてワッと泣きぬ。 誓えとならば誓うべし。「どうぞ、早く、よくなって、何にも、ほかに申しません。」 ミリヤアドは目を塞ぎぬ。また一しきり、また一しきり、刻むがごとき戸外の風。 ・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  9. ・・・ が、一刻も早く東京へ――唯その憧憬に、山も見ず、雲も見ず、無二無三に道を急いで、忘れもしない、村の名の虎杖に着いた時は、杖という字に縋りたい思がした。――近頃は多く板取と書くのを見る。その頃、藁家の軒札には虎杖村と書いてあった。 ・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  10. ・・・八人の船子は効無き櫓柄に縋りて、「南無金毘羅大権現!」と同音に念ずる時、胴の間の辺に雷のごとき声ありて、「取舵!」 舳櫓の船子は海上鎮護の神の御声に気を奮い、やにわに艪をば立直して、曳々声を揚げて盪しければ、船は難無く風波を凌ぎ・・・<泉鏡花「取舵」青空文庫>
  11. ・・・ いつもかかることのある際には、一刀浴びたるごとく、蒼くなりて縋り寄りし、お貞は身動だもなし得ざりき。 病者は自ら胸を抱きて、眼を瞑ること良久しかりし、一際声の嗄びつつ、「こう謂えばな、親を蹴殺した罪人でも、一応は言訳をすること・・・<泉鏡花「化銀杏」青空文庫>
  12. ・・・ と小春は襟も帯も乱れた胸を、かよわく手でおさえて、片手で外套の袖に縋りながら、蒼白な顔をして、涙の目でなお笑った。「おほほほほほ、堪忍、御免なすって、あははははは。」 妙齢だ。この箸がころんでも笑うものを、と憮然としつつ、駒下・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  13. ・・・と呼吸せわしく、お香は一声呼び懸けて、巡査の胸に額を埋めわれをも人をも忘れしごとく、ひしとばかりに縋り着きぬ。蔦をその身に絡めたるまま枯木は冷然として答えもなさず、堤防の上につと立ちて、角燈片手に振り翳し、水をきっと瞰下ろしたる、ときに寒冷・・・<泉鏡花「夜行巡査」青空文庫>
  14. ・・・行っちゃ帰り、行っちゃ帰り、ちょうど二十日の間、三七二十一日目の朝、念が届いてお宮の鰐口に縋りさえすれば、命の綱は繋げるんだけれども、婆に邪魔をされてこの坂が登れないでは、所詮こりゃ扶からない、ええ悔しいな、たとえ中途で取殺されるまでも、お・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  15. ・・・呼吸を殺して従い行くに、阿房はさりとも知らざる状にて、殆ど足を曳摺る如く杖に縋りて歩行み行けり。 人里を出離れつ。北の方角に進むことおよそ二町ばかりにて、山尽きて、谷となる。ここ嶮峻なる絶壁にて、勾配の急なることあたかも一帯の壁に似たり・・・<泉鏡花「妖僧記」青空文庫>
  16. ・・・極度に気が弱って、いまは、無智な頑迷の弟子たちにさえ縋りつきたい気持になっているのにちがいない。可哀想に。あの人は自分の逃れ難い運命を知っていたのだ。その有様を見ているうちに、私は、突然、強力な嗚咽が喉につき上げて来るのを覚えた。矢庭にあの・・・<太宰治「駈込み訴え」青空文庫>
  17. ・・・壁に凭れ、柱に縋り、きざな千鳥足で船室から出て、船腹の甲板に立った。私は目をみはった。きょろきょろしたのである。佐渡は、もうすぐそこに見えている。全島紅葉して、岸の赤土の崖は、ざぶりざぶりと波に洗われている。もう、来てしまったのだ。それにし・・・<太宰治「佐渡」青空文庫>
  18. ・・・何が、だってだ、そんなに強く叱咤されても、一向に感じないみたいにニタニタと醜怪に笑って、さながら、蹴られた足にまたも縋りつく婦女子の如く、「それでは希望が無くなりますもの。」男だか女だか、わかりやしない。「いったい私は、どうしたらいいのかな・・・<太宰治「鉄面皮」青空文庫>
  19. ・・・いつまでも墓に縋りついてはならぬ。「もし爾の右眼爾を礙かさば抽出してこれをすてよ」。愛別、離苦、打克たねばならぬ。我らは苦痛を忍んで解脱せねばならぬ。繰り返して曰う、諸君、我々は生きねばならぬ、生きるために常に謀叛しなければならぬ、自己に対・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  20. ・・・ 縋りつくようにきかれた男は、苦笑ときの毒さとを交ぜてぼんやり答えている。「困っちゃったわ、全く。今日はじめて出たのに、こんな目に会って……」 半分啜り上げるような早口で歎く娘は、空のリュックを吊って前へうしろへ揺られているので・・・<宮本百合子「一刻」青空文庫>
  21. ・・・変に縋りつくようなところがある。双方から近よると、石川は、「何だね、お君どんじゃないか」と云った。飯田の小間使いであった。「何か用かい」 君は息が切れて口が利けない。口が利けないまま、石川の着ている羅紗のもじりの袖を掴んでぎ・・・<宮本百合子「牡丹」青空文庫>
  22. ・・・みのえは一筋に油井の声に縋りつきながら、一生懸命「ねろ、ねろ、ねろ」 呪文を称え、ぎっしり自分も眼を瞑った。息を殺して子供の寝息をうかがうみのえの前に、切ない待ち遠しさが光った道になって横わった。             ○・・・<宮本百合子「未開な風景」青空文庫>