つき【突き】例文一覧 31件

  1. ・・・ ところが寛文七年の春、家中の武芸の仕合があった時、彼は表芸の槍術で、相手になった侍を六人まで突き倒した。その仕合には、越中守綱利自身も、老職一同と共に臨んでいたが、余り甚太夫の槍が見事なので、さらに剣術の仕合をも所望した。甚太夫は竹刀・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・その音を聞きつけて、往来の子供たちはもとより、向こう三軒両隣の窓の中から人々が顔を突き出して何事が起こったかとこっちを見る時、あの子供と二人で皆んなの好奇的な眼でなぶられるのもありがたい役廻りではないと気づかったりして、思ったとおりを実行に・・・<有島武郎「卑怯者」青空文庫>
  3. ・・・とその魚売が笊をひょいと突きつけると、煮染屋の女房が、ずんぐり横肥りに肥った癖に、口の軽い剽軽もので、「買うてやらさい。旦那さん、酒の肴に……はははは、そりゃおいしい、猪の味や。」と大口を開けて笑った。――紳士淑女の方々に高い声では申兼・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  4. ・・・出てからちょっとふり返って見たが、かの女は――分ったのか、分らないのか――突き放されたままの位置で、畳に左の手を突き、その方の袂の端を右の手で口へ持って行った。目は畳に向いていた。 その翌日、午前中に、吉弥の両親はいとま乞いに来た。僕が・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  5. ・・・商売運の目出たい笑名は女運にも果報があって、老の漸く来らんとするころとうとう一の富を突き当てて妙齢の美人を妻とした。 尤も笑名はその時は最早ただの軽焼屋ではなかった。将軍家大奥の台一式の御用を勤めるお台屋の株を買って立派な旦那衆となって・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・その無邪気も、光明も希望も、快活も、やがて奪い去られてしまって、疲れた人として、街頭に突き出される日の、そう遠い未来でないことを感ずることから、涙ぐむのであった。 人間性を信じ、人間に対して絶望をしない私達もいかんともし難い桎梏の前に、・・・<小川未明「人間否定か社会肯定か」青空文庫>
  7. ・・・ 男は眼鏡を突きあげながら、言った。そして、売店で買物をしていた女の方に向って、「糸枝!」 と、名をよんだ。「はい」 女が来ると、「もう直き、汽車が来るよって、いまのうち挨拶させて貰い」「はい」 女はいきなり・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  8.      一 喬は彼の部屋の窓から寝静まった通りに凝視っていた。起きている窓はなく、深夜の静けさは暈となって街燈のぐるりに集まっていた。固い音が時どきするのは突き当っていく黄金虫の音でもあるらしかった。 そこは入・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  9. ・・・これ、後楯がついていると思って、大分強いなと煙管にちょっと背中を突きて、ははははと独り悦に入る。 光代は向き直りて、父様はなぜそう奥村さんを御贔負になさるの。と不平らしく顔を見る。なぜとはどういう心だ。誉めていいから誉めるのではないか。・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  10. ・・・壁の落つる音ものすごく玉突き場の方にて起これり。ためらいいし人々一斉に駆けいでたり。室に残りしは二郎とわれと岡村のみ、岡村はわが手を堅く握りて立ち二郎は卓のかなたに静かに椅子に倚れり。この時十蔵室の入り口に立ちて、君らは早く逃げたまわずやと・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  11. ・・・ 松木は、防寒靴をはき、ズボンのポケットに両手を突きこんで、炊事場の入口に立っていた。 風に吹きつけられた雪が、窓硝子を押し破りそうに積りかかっていた。谷間の泉から湧き出る水は、その周囲に凍てついて、氷の岩が出来ていた。それが、丁度・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  12. ・・・草を茵とし石を卓として、谿流のえいかいせる、雲烟の変化するを見ながら食うもよし、かつ価も廉にして妙なりなぞとよろこびながら、仰いで口中に卵を受くるに、臭鼻を突き味舌を刺す。驚きて吐き出すに腐れたるなり。嗽ぎて嗽げども胸わろし。この度は水の椀・・・<幸田露伴「突貫紀行」青空文庫>
  13. ・・・と云って、お前の母を突き殺すでもするように指差しながら、「この伊藤のあんさんのお蔭なんだ。あんさんがこっちにいたとき、よく息子の進とこさ遊ぶに来る来ると思ってだら、碌でもないことば教えて、引張りこみやがっただ。腕のいゝ旋盤工だから、んでなか・・・<小林多喜二「母たち」青空文庫>
  14. ・・・疾から吹っ込ませたる浅草市羽子板ねだらせたを胸三寸の道具に数え、戻り路は角の歌川へ軾を着けさせ俊雄が受けたる酒盃を小春に注がせてお睦まじいとおくびより易い世辞この手とこの手とこう合わせて相生の松ソレと突きやったる出雲殿の代理心得、間、髪を容・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  15. ・・・三郎は次郎のあばれ屋ともちがい、また別の意味で、よく私のほうへ突きかかって来た。何をこしらえて食わせ、何を買って来てあてがっても、この子はまだ物足りないような顔ばかりを見せた。私の姉の家のほうから帰って来たこの子は、容易に胸を開こうとしなか・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  16. ・・・もっと端的にわれらの実行道徳を突き動かす力が欲しい、しかもその力は直下に心眼の底に徹するもので、同時に讃仰し羅拝するに十分な情味を有するものであって欲しい。私はこの事実をわれらの第一義欲または宗教欲の発動とも名づけよう。あるいはこんなことを・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  17. ・・・赤ん坊を竹籠へ入れて、軒へぶらぶら釣り下げて、時々手を挙げて突きながら、網の破れをかがっている女房がある。縁先の蓆に広げた切芋へ、蠅が真っ黒に集って、まるで蠅を干したようになっているのがある。だけれど、初やに聞くというのは、何だか、小母さん・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  18. ・・・それでも、私どもは何とかして、先生のお家だけでも突きとめて置きたくて、二、三度あとをつけてみた事もありましたが、そのたんびに、うまく巻かれてしまうのです。そのうちに東京は大空襲の連続という事になりまして、何が何やら、大谷さんが戦闘帽などかぶ・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  19. ・・・ 今日もそこに来て耳をてたが、電車の来たような気勢もないので、同じ歩調ですたすたと歩いていったが、高い線路に突き当たって曲がる角で、ふと栗梅の縮緬の羽織をぞろりと着た恰好の好い庇髪の女の後ろ姿を見た。鶯色のリボン、繻珍の鼻緒、おろし立て・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  20. ・・・ほんとうにやるせのない子供心の突きつめた心持ちを思わせるものがある。 池へ投身しようとして駆けて行くところで、スクリーンの左端へ今にも衝突しそうに見えるように撮っているのも一種の技巧である。これが反対に画面の右端を左へ向いて駆けって行く・・・<寺田寅彦「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」青空文庫>
  21. ・・・どうかすると、兄は悶えながら起きあがって、痩せた膝に両手を突きながら、体をゆすりゆすり苦痛を怺えていた。「人の知らない苦労するよ」 我慢づよい兄の口からそう言われると、道太は自分の怠慢が心に責められて、そう遠いところでもないのに、な・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  22. ・・・その題も『黄昏』と命じて、発端およそ百枚ばかり書いたのであるが、それぎり筆を投じて草稿を机の抽斗に突き込んでしまった。その後現在の家に移居してもう四、五年になる。その間に抽斗の草稿は一枚二枚と剥ぎ裂かれて、煙管の脂を拭う紙捻になったり、ラン・・・<永井荷風「十日の菊」青空文庫>
  23. ・・・西の空に見えた夕月がだんだん大きくなって東の空から蜀黍の垣根に出るようになって畑の西瓜もぐっと蔓を突きあげてどっしりと黄色な臀を据えた。西瓜は指で弾けば濁声を発するようになった。彼はそれを遠い市場に切り出した。昼間は壻の文造に番をさせて自分・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  24. ・・・ 筆を擱いて、そっと出て見ると、文鳥は自分の方を向いたまま、留り木の上から、のめりそうに白い胸を突き出して、高く千代と云った。三重吉が聞いたらさぞ喜ぶだろうと思うほどな美い声で千代と云った。三重吉は今に馴れると千代と鳴きますよ、きっと鳴・・・<夏目漱石「文鳥」青空文庫>
  25. ・・・私はこう怒鳴ると共に、今度は固めた拳骨で体ごと奴の鼻っ柱を下から上へ向って、小突き上げた。私は同時に頭をやられたが、然し今度は私の襲撃が成功した。相手は鼻血をタラタラ垂らしてそこへうずくまってしまった。 私は洗ったように汗まみれになった・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  26. ・・・纈り腮をわざと突き出したほど上を仰き、左の牙歯が上唇を噛んでいるので、高い美しい鼻は高慢らしくも見える。懐手をして肩を揺すッて、昨日あたりの島田髷をがくりがくりとうなずかせ、今月一日に更衣をしたばかりの裲襠の裾に廊下を拭わせ、大跨にしかも急・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・石塔の石を突きころがしたナ。失敬千万ナ。こんな奴が居るから幽霊に出たくなるのだ。ちょっと幽霊に出てあいつをおどかしてやろうか。しかし近頃は慾の深い奴が多いから、幽霊が居るなら一つふんじばって浅草公園第六区に出してやろうなんていうので幽霊捕縛・・・<正岡子規「墓」青空文庫>
  28. ・・・さあ僕等はもう黒雲の中に突き入ってまわって馳けたねえ、水が丁度漏斗の尻のようになって来るんだ。下から見たら本当にこわかったろう。『ああ竜だ、竜だ。』みんなは叫んだよ。実際下から見たら、さっきの水はぎらぎら白く光って黒雲の中にはいって、竜・・・<宮沢賢治「風野又三郎」青空文庫>
  29. ・・・ 私の膝に抱かれたまま、私の髪の毛をいじる事が大変すきで胸の中に両手を突き入れる事などは亡くなる少し前からちょくちょくして居た。 小さい丸い手で髪をさすったり顔をいじったりした揚句首にその手をからめて、自分の小さい躰に抱きしめて呉れ・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  30. ・・・ 彼女は緞帳の襞に顔を突き当て、翻るように身を躍らせて、広間の方へ馳け出した。ナポレオンは明らかに貴族の娘の侮辱を見た。彼は彼の何者よりも高き自尊心を打ち砕かれた。彼は突っ立ち上ると大理石の鏡面を片影のように辷って行くハプスブルグの娘の・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>