つぎ‐の‐ま【次の間】例文一覧 30件

  1. ・・・ 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間の戸口へ行って、「恵蓮。恵蓮」と呼び立てました。 その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下ぶくれの頬は、まるで蝋のような色をしてい・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・ Mの次の間へ引きとった後、僕は座蒲団を枕にしながら、里見八犬伝を読みはじめた。きのう僕の読みかけたのは信乃、現八、小文吾などの荘助を救いに出かけるところだった。「その時蜑崎照文は懐ろより用意の沙金を五包みとり出しつ。先ず三包みを扇にの・・・<芥川竜之介「海のほとり」青空文庫>
  3. ・・・ 彼等がそんな事を話している内に、お絹はまだ顔を曇らせたまま、急に長火鉢の前から立上ると、さっさと次の間へはいって行った。「やっと姉さんから御暇が出た。」 賢造は苦笑を洩らしながら、始めて腰の煙草入れを抜いた。が、洋一はまた時計・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  4. ・・・ と言うと、次の間の――崖の草のすぐ覗く――竹簀子の濡縁に、むこうむきに端居して……いま私の入った時、一度ていねいに、お時誼をしたまま、うしろ姿で、ちらりと赤い小さなもの、年紀ごろで視て勿論お手玉ではない、糠袋か何ぞせっせと縫っていた。・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  5. ・・・ところが、次の間つきで、奥だけ幽にともれていて、あとが暗い。一方が洗面所で、傍に大きな石の手水鉢がある、跼んで手を洗うように出来ていて、筧で谿河の水を引くらしい……しょろ、しょろ、ちゃぶりと、これはね、座敷で枕にまで響いたんだが、風の声も聞・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  6. ・・・造次の間八田巡査は、木像のごとく突っ立ちぬ。さらに冷然として一定の足並みをもて粛々と歩み出だせり。ああ、恋は命なり。間接にわれをして死せしめんとする老人の談話を聞くことの、いかに巡査には絶痛なりしよ。ひとたび歩を急にせんか、八田は疾に渠らを・・・<泉鏡花「夜行巡査」青空文庫>
  7. ・・・ お千代も次の間から飛んできて父を抑える。お千代はようやく父をなだめ、母はおとよを引き立てて別間へ連れこむ。この場の騒ぎはひとまず済んだが、話はこのまま済むべきではない。      七 おとよの父は平生ことにおとよを愛し・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  8. ・・・其の次の間にも、二三人いたようだ。大きな宿屋は、至って静かだ。たゞ、海から吹いて来る風が開け放たれた室に入った。海は、さながら、鏡の面に息を吹きかけて、曇った程にしか見られない。彼の、北国の海の上を走るような、黒い陰気な雲の片影すらなかった・・・<小川未明「舞子より須磨へ」青空文庫>
  9. ・・・ お光は頷いて、着物着更えに次の間へ入った。雇い婆は二階へ上るし、小僧は食台を持って洗槽元へ洗い物に行くし、後には為さん一人残ったが、お光が帯を解く音がサヤサヤと襖越しに聞える。「お上さん」と為さんは声をかける。「何だね?」と襖・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  10. ・・・生の事に思し召され候わば大違いに候、妻のことに候、あの言葉少なき女が貞夫でき候て以来急に口数多く相成り近来はますますはげしく候、そしてそのおしゃべりの対手が貞夫というに至っては実に滑稽にござ候、先夜も次の間にて貞夫を相手に何かわからぬことを・・・<国木田独歩「初孫」青空文庫>
  11. ・・・そして次の間をあけると酒肴の用意がしてある。それを運びこんで女と徳二郎はさし向かいにすわった。 徳二郎はふだんにないむずかしい顔をしていたが、女のさす杯を受けて一息にのみ干し、「いよいよ何日と決まった?」と女の顔をじっと見ながらたず・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  12. ・・・船頭は客よりも後ろの次の間にいまして、丁度お供のような形に、先ずは少し右舷によって扣えております。日がさす、雨がふる、いずれにも無論のこと苫というものを葺きます。それはおもての舟梁とその次の舟梁とにあいている孔に、「たてじ」を立て、二のたて・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  13. ・・・彼は顫えがとまらなかった。何度も室の中を行ったり来たりした。彼は次の間を仕切っている襖をフトあけてみた。乱雑に着物がぬぎ捨てられてある、女の部屋らしく、鏡台がすぐ側にあった。その小さい引出しが開けられたままになっていたり、白粉刷毛が側に転が・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  14. ・・・すっと部屋を素通りして、次の間に行ってしまった。顔色も悪く、ぎょっとするほど痩せて、けわしい容貌になっていた。次の間にも母の病気見舞いの客がひとり来ているのだ。兄はそのお客としばらく話をして、やがてその客が帰って行ってから、「常居」に来て、・・・<太宰治「故郷」青空文庫>
  15. ・・・細君らしい二十五、六の女がかいがいしく襷掛けになって働いていると、四歳くらいの男の児と六歳くらいの女の児とが、座敷の次の間の縁側の日当たりの好いところに出て、しきりに何ごとをか言って遊んでいる。 家の南側に、釣瓶を伏せた井戸があるが、十・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  16. ・・・ 店のすぐ次の間に案内された。そこは細長い部屋で、やはり食堂兼応接間のようなものであったが、B君のうちのが侘しいほど無装飾であったのと反対に、ここは何かしらゴタゴタとうるさいほど飾り立ててあった。 壁を見ると日本の錦絵が沢山貼りつけ・・・<寺田寅彦「異郷」青空文庫>
  17. ・・・すると家々ではかねて玄関かその次の間に用意してある糯米やうるちやあずきや切り餅を少量ずつめいめいの持っている袋に入れてやる。みんなありがとうともなんとも言わずにそれをもらって次の家へと回って行くのである。 平生は行ったこともない敷居の高・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  18. ・・・その要件の話がすんだあとで、いろいろ雑談をしているうちに、どういうきっかけであったか、先生が次の間からヴァイオリンを持ち出して来られた。まずその物理的機構について説明された後に、デモンストレーションのために「君が代」を一ぺんひいて聞かされた・・・<寺田寅彦「田丸先生の追憶」青空文庫>
  19. ・・・先生はのそのそ置炬燵から次の間へ這出して有合う長煙管で二、三服煙草を吸いつつ、余念もなくお妾の化粧する様子を眺めた。先生は女が髪を直す時の千姿万態をば、そのあらゆる場合を通じて尽くこれを秩序的に諳じながら、なお飽きないほどの熱心なる観察者で・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  20. ・・・女が三四人次の間に黙って控えていた。遺骸は白い布で包んでその上に池辺君の平生着たらしい黒紋付が掛けてあった。顔も白い晒しで隠してあった。余が枕辺近く寄って、その晒しを取り除けた時、僧は読経の声をぴたりと止めた。夜半の灯に透かして見た池辺君の・・・<夏目漱石「三山居士」青空文庫>
  21. ・・・ なるほど奇麗だ。次の間へ籠を据えて四尺ばかりこっちから見ると少しも動かない。薄暗い中に真白に見える。籠の中にうずくまっていなければ鳥とは思えないほど白い。何だか寒そうだ。 寒いだろうねと聞いてみると、そのために箱を作ったんだと云う・・・<夏目漱石「文鳥」青空文庫>
  22. ・・・ 次の間の長火鉢で燗をしながら吉里へ声をかけたのは、小万と呼び当楼のお職女郎。娼妓じみないでどこにか品格もあり、吉里には二三歳の年増である。「だッて、あんまりうるさいんだもの」「今晩もかい。よく来るじゃアないか」と、小万は小声で・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  23.  朝蚊帳の中で目が覚めた。なお半ば夢中であったがおいおいというて人を起した。次の間に寝て居る妹と、座敷に寐て居る虚子とは同時に返事をして起きて来た。虚子は看護のためにゆうべ泊ってくれたのである。雨戸を明ける。蚊帳をはずす。この際余は口の・・・<正岡子規「九月十四日の朝」青空文庫>
  24. ・・・是非死ぬとなりャ遺言もしたいし辞世の一つも残さなけりャ外聞が悪いし……………ヤア何だか次の間に大勢よって騒いで居るナ「ビョウキキトク」なんていう電報を掛けるとか何とかいってるのだろう。ナニ耳のそばで誰やら話ししかけるようだ、何かいう事ないか・・・<正岡子規「墓」青空文庫>
  25. ・・・店の次の間に大きな唐金の火鉢を出して主人がどっかり座っていた。「旦那さん、先ころはどうもありがどうごあんした」 あの山では主のような小十郎は毛皮の荷物を横におろして叮ねいに敷板に手をついて言うのだった。「はあ、どうも、今日は何の・・・<宮沢賢治「なめとこ山の熊」青空文庫>
  26. ・・・ 一太の母は、不平そうに慍ったような表情を太い縦皺の切れ込んだ眉間に浮べたまま次の間に来た。小さい餉台の上に赭い素焼の焜炉があり、そこへ小女が火をとっていた。一太は好奇心と期待を顔に現して、示されたところに坐った。「今じき何か出来る・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  27. ・・・ 自分は次の間に、お節は父親のそばに分れて部屋を暗くすると二人ともが安心と疲れが一時に出て五分とたたない中に快さそうな寝息をたてて居た。 翌朝いつまでも栄蔵は起きなかった。お節があやしんで体にさわった時には氷より冷たく強ってしまって・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  28. ・・・ 祖母は次の間に入って暫く箪笥の引出しを開けたりしめたりして居たが、出て来た時には手に帳面を持って居た。 帳面を始めっから繰って見て渋い渋い顔をした祖母は、「今度で十六俵だよ。と云いながら、何とはなし重々しい様子で菊・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  29. ・・・ 待合にしてある次の間には幾ら病人が溜まっていても、翁は小さい煙管で雲井を吹かしながら、ゆっくり盆栽を眺めていた。 午前に一度、午後に一度は、極まって三十分ばかり休む。その時は待合の病人の中を通り抜けて、北向きの小部屋に這入って、煎・・・<森鴎外「カズイスチカ」青空文庫>
  30. ・・・ 表側は、玄関から次の間を経て、右に突き当たる西の詰が一番好い座敷で、床の間が附いている。爺さんは「一寸御免なさい」と云って、勝手へ往ったが、外套と靴とを置いて、座布団と煙草盆とを持って出て来た。そして百日紅の植わっている庭の方の雨戸が・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>