つ・きる【尽きる/×竭きる】例文一覧 30件

  1. ・・・どこまで駈けても、高粱は尽きる容子もなく茂っている。人馬の声や軍刀の斬り合う音は、もういつの間にか消えてしまった。日の光も秋は、遼東と日本と変りがない。 繰返して云うが、何小二は馬の背に揺られながら、創の痛みで唸っていた。が、彼の食いし・・・<芥川竜之介「首が落ちた話」青空文庫>
  2. ・・・――あれは風の音であろうか――あの日以来の苦しい思が、今夜でやっと尽きるかと思えば、流石に気の緩むような心もちもする。明日の日は、必ず、首のない私の死骸の上に、うすら寒い光を落すだろう。それを見たら、夫は――いや、夫の事は思うまい、夫は私を・・・<芥川竜之介「袈裟と盛遠」青空文庫>
  3. ・・・ その時お栄は御弾きをしながら、祖母の枕もとに坐っていましたが、隠居は精根も尽きるほど、疲れ果てていたと見えて、まるで死んだ人のように、すぐに寝入ってしまったとか云う事です。ところがかれこれ一時間ばかりすると、茂作の介抱をしていた年輩の・・・<芥川竜之介「黒衣聖母」青空文庫>
  4. ・・・ ちょうどこの時分、父の訃に接して田舎に帰ったが、家計が困難で米塩の料は尽きる。ためにしばしば自殺の意を生じて、果ては家に近き百間堀という池に身を投げようとさえ決心したことがあった。しかもかくのごときはただこれ困窮の余に出でたことで、他・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  5. ・・・顔の厭に平べッたい、前歯の二、三本欠けた、ちょっと見ても、愛相が尽きる子だ。菊子が青森の人に生んで、妹にしてあると言ったのは、すなわち、これらしい。話しばかりに聴いて想像していたのと違って、僕が最初からこの子を見ていたなら、ひょッとすると、・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  6. ・・・       *    *    * 万年屋の女房はすっかり悄げ返っていたが、銭占屋に貰った五十銭が尽きると、間もなく三州屋にいるその亭主の所へ転げこんだ。で、元の鞘に収った万年屋夫婦は、白と千草の風呂敷包を二人で背負分けてどこへか・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  7. ・・・ なぜなら、大阪の闇市場の特色はこの一語に尽きるからである。 例えば主食を売っている。闇煙草を売っている。金さえ持って闇市場へ行けば、いつでも、たとえ夜中でも、どこかで米の飯が食べられるし、煙草が買えるのである。といえば、東京の人人・・・<織田作之助「大阪の憂鬱」青空文庫>
  8. ・・・林が尽きると野に出る。     四 十月二十五日の記に、野を歩み林を訪うと書き、また十一月四日の記には、夕暮に独り風吹く野に立てばと書いてある。そこで自分は今一度ツルゲーネフを引く。「自分はたちどまった、花束を拾い上・・・<国木田独歩「武蔵野」青空文庫>
  9. ・・・これで西伯利亜のパルチザンの種も尽きるでありましょう。と、ね。」「はい。――若し、我軍の損傷は? ときかれましたら、三人の軽傷があったばかりであります。その中、一人は、非常に勇敢に闘った優秀な将校でありました。と云います。」「うむ、・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  10. ・・・そうして毎日出て本所から直ぐ鼻の先の大川の永代の上あたりで以て釣っていては興も尽きるわけですから、話中の人は、川の脈釣でなく海の竿釣をたのしみました。竿釣にも色ありまして、明治の末頃はハタキなんぞという釣もありました。これは舟の上に立ってい・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  11. ・・・寿命が尽きる前にゃあ気が弱くなるというが、我アひょっとすると死際が近くなったかしらん。これで死んだ日にゃあいい意気地無しだ。「縁起の悪いことお云いでないよ、面白くもない。そんなことを云っているより勢いよくサッと飲んで、そしていい考案でも・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  12. ・・・ で、世界の魔法について語ったら、一月や二月で尽きるわけのものではない。例えば魔法の中で最も小さな一部の厭勝の術の中の、そのまた小さな一部のマジックスクェアーの如きは、まことに言うに足らぬものである。それでさえ支那でも他の邦でも、それに・・・<幸田露伴「魔法修行者」青空文庫>
  13. ・・・シロオテの物語は、尽きるところなかった。 白石は、ときどき傍見をしていた。はじめから興味がなかったのである。すべて仏教の焼き直しであると独断していた。 白石のシロオテ訊問は、その日を以ておしまいにした。白石はシロオテの裁断につい・・・<太宰治「地球図」青空文庫>
  14. ・・・玄関からまっすぐに長い廊下が通じていて、廊下の板は、お寺の床板みたいに黒く冷え冷えと光って、その廊下の尽きるところ、トンネルの向う側のように青いスポット・ライトを受けて、ぱっと庭園のその大滝が望見される。葉桜のころで、光り輝く青葉の陰で、ど・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  15. ・・・どんな人でも、僕の家に間借りして、同じ屋根の下に住んでみたら、田舎教師という者のケチ臭いみじめな日常生活には、あいそが尽きるに違いないんだ。殊につい最近、東京から疎開して来たばかりの若い娘さんの眼には、もうとても我慢の出来ない地獄絵のように・・・<太宰治「春の枯葉」青空文庫>
  16. ・・・世界の尽きる時が来ても、一寸もこの闇の外に踏み出すことは出来ぬ。そしていつまで経っても、死ぬと云うことは許されない。浮世の花の香もせぬ常闇の国に永劫生きて、ただ名ばかりに生きていなければならぬかと思うと、何とも知れぬ恐ろしさにからだがすくむ・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  17. ・・・やはり夜の神秘な感じは夏の夜に尽きるようである。      三 暑さの過去帳 少年時代に昆虫標本の採集をしたことがある。夏休みは標本採集の書きいれ時なので、毎日捕虫網を肩にして旧城跡の公園に出かけたものである。南国の炎天・・・<寺田寅彦「夏」青空文庫>
  18. ・・・少なくも人間の思想が進化し新しい観念や概念が絶えず導入され、また人間の知恵が進歩して新しい事物が絶えず供給されている間は新しい俳句の種の尽きる心配は決してないであろう。 話が少し横道にそれてしまったが、ここで言わんとしたことは、俳句が最・・・<寺田寅彦「俳句の精神」青空文庫>
  19. ・・・ 土堤の尽きるはるか向うに、桜に囲まれた山荘庵という丘があった。この見はるかす何十町という田圃や畑の地主は、その山荘庵の丘の上の屋敷に住んでいる大野という人であった。 善ニョムさん達は、この「大野さん」を成り上り者と蔭口云うように、・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  20. ・・・他の一筋は堤の尽きるところ、道哲の寺のあるあたりから田町へ下りて馬道へつづく大通である。電車のないその時分、廓へ通う人の最も繁く往復したのは、千束町二、三丁目の道であった。 この道は、堤を下ると左側には曲輪の側面、また非常門の見えたりす・・・<永井荷風「里の今昔」青空文庫>
  21. ・・・遥のかなたに小名木川の瓦斯タンクらしいものが見え、また反対の方向には村落のような人家の尽きるあたりに、草も木もない黄色の岡が、孤島のように空地の上に突起しているのが見え、その麓をいかにも急設したらしい電車線路が走っている。と見れば、わたくし・・・<永井荷風「元八まん」青空文庫>
  22. ・・・ 日は必ず沈み、日は必ず尽きる。死はやがて晩かれ早かれ来ねばならぬ。 生きている中、わたくしの身に懐しかったものはさびしさであった。さびしさのあったばかりにわたくしの生涯には薄いながらにも色彩があった。死んだなら、死んでから後にも薄・・・<永井荷風「雪の日」青空文庫>
  23. ・・・南から北へ――町が尽きて、家が尽きて、灯が尽きる北の果まで通らねばならぬ。「遠いよ」と主人が後から云う。「遠いぜ」と居士が前から云う。余は中の車に乗って顫えている。東京を立つ時は日本にこんな寒い所があるとは思わなかった。昨日までは擦れ合・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  24. ・・・ 一時間ほどで林は尽きる尽きると云わんよりは、一度に消えると云う方が適当であろう。ふり返る、後は知らず、貫いて来た一筋道のほかは、東も西も茫々たる青草が波を打って幾段となく連なる後から、むくむくと黒い煙りが持ち上がってくる。噴火口こそ・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  25. ・・・如露の水が尽きる頃には白い羽根から落ちる水が珠になって転がった。文鳥は絶えず眼をぱちぱちさせていた。 昔紫の帯上でいたずらをした女が、座敷で仕事をしていた時、裏二階から懐中鏡で女の顔へ春の光線を反射させて楽しんだ事がある。女は薄紅くなっ・・・<夏目漱石「文鳥」青空文庫>
  26. ・・・黒板に向って一回転をなしたといえば、それで私の伝記は尽きるのである。しかし明日ストーヴに焼べられる一本の草にも、それ相応の来歴があり、思出がなければならない。平凡なる私の如きものも六十年の生涯を回顧して、転た水の流と人の行末という如き感慨に・・・<西田幾多郎「或教授の退職の辞」青空文庫>
  27. ・・・の悪評が手始めで、内所の後評、廓内の評判、検査場で見た他楼の花魁の美醜、検査医の男振りまで評し尽して、後連とさし代われば、さし代ッたなりに同じ話柄の種類の異ッたのが、後からも後からも出て来て、未来永劫尽きる期がないらしく見えた。「いよい・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  28. ・・・食うても食うても尽きる事ではない。時々後ろの方から牛が襲うて来やしまいかと恐れて後振り向いて見てはまた一散に食い入った。もとより厭く事を知らぬ余であるけれども、日の暮れかかったのに驚いていちご林を見棄てた。大急ぎに山を下りながら、遥かの木の・・・<正岡子規「くだもの」青空文庫>
  29. ・・・マリヤは、しんから科学の学問がすきで、そこに尽きることのない研究心と愛着とを誘われ、そういう人間の知慧のよろこびにひかれて、その勉強のためには、雄々しく辛苦を凌ぐ粘りと勇気がもてたのでした。このことは、彼女が同じソルボンヌ大学で既に数々の重・・・<宮本百合子「キュリー夫人の命の焔」青空文庫>
  30. ・・・彼等は、毎日毎日いつ尽きるとも知れない見物人と、飽々する説明の暗誦と、同じ変化ない宝物どもの行列とに食傷しきっているらしい。不感症にかかっているようだ。悠くり心静かに一枚の絵でも味おうと思えば、我々はこれ等の宝物に食われかけている不幸な人々・・・<宮本百合子「宝に食われる」青空文庫>