つくり‐かわ〔‐かは〕【作り皮/革】例文一覧 30件

  1. ・・・甚太夫は菖蒲の裁付に黒紬の袷を重ねて、同じ紬の紋付の羽織の下に細いの襷をかけた。差料は長谷部則長の刀に来国俊の脇差しであった。喜三郎も羽織は着なかったが、肌には着込みを纏っていた。二人は冷酒の盃を換わしてから、今日までの勘定をすませた後・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・ 谷村博士はこう云いながら、マロックの巻煙草入れを出した。「当年は梅雨が長いようです。」「とかく雲行きが悪いんで弱りますな。天候も財界も昨今のようじゃ、――」 お絹の夫も横合いから、滑かな言葉をつけ加えた。ちょうど見舞いに・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  3. ・・・もしこの椅子のようなものの四方に、肘を懸ける所にも、背中で倚り掛かる所にも、脚の所にも白い紐が垂れていなくって、金属で拵えた首を持たせる物がなくって、乳色の下鋪の上に固定してある硝子製の脚の尖がなかったなら、これも常の椅子のように見えて、・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・境内を切って、ひらひらと、石段口の常夜燈にひたりと附くと、羽に点れたように灯影が映る時、八十年にも近かろう、皺びた翁の、彫刻また絵画の面より、頬のやや円いのが、萎々とした禰宜いでたちで、蚊脛を絞り、鹿の古ぼけた大きな燧打袋を腰に提げ、燈心・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  5. ・・・ 人の事は云われないが、連の男も、身体つきから様子、言語、肩の瘠せた処、色沢の悪いのなど、第一、屋財、家財、身上ありたけを詰込んだ、と自ら称える古鞄の、象を胴切りにしたような格外の大さで、しかもぼやけた工合が、どう見ても神経衰弱という・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  6. ・・・ 吉弥のお袋の出した電報の返事が来たら、三人一緒に帰京する約束であったが、そうも出来ないので、妻は吉称の求めるままに少しばかり小遣いを貸し与え、荷物の方づけもそこそこにして、僕の鞄は二人に託し井筒屋の主人と住職とにステーションまで送ら・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・君の名を知らんもんだからね、どんな容子の人だと訊くと、鞄を持ってる若い人だというので、(取次がその頃私が始終提げていたの合切袋テッキリ寄附金勧誘と感違いして、何の用事かと訊かしたんだ。ところが、そんなら立派な人の紹介状を持って来ようとツウ・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  8. ・・・そして、いつも、いつも、こんなひどいめにあわされるなら、が破れて、はやく、役にたたなくなってしまいたいとまで思いました。 こんなことを思っていましたとき、彼は、力まかせに蹴飛ばされました。そして、やぶの中へ飛び込んでしまいました。まり・・・<小川未明「あるまりの一生」青空文庫>
  9. ・・・女たちは塗りの台に花模様の向をつけた高下駄をはいて、島田の髪が凍てそうに見えた。蛇の目の傘が膝の横に立っていた。 二時間経って、客とその傘で出て来た。同勢五人、うち四人は女だが、一人は裾が短く、たぶん大阪からの遠出で、客が連れて来たの・・・<織田作之助「雪の夜」青空文庫>
  10. ・・・暗い敷台の上には老師の帰りを待っているかのようにのスリッパが内へ向けて揃えられてあり、下駄箱の上には下駄が載って、白い籐のステッキなども見えたが、私の二度三度の強い咳払いにも、さらに内からは反響がなかった。お留守なのかしら?……そうも思っ・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  11. ・・・と、私は床の間の本箱の側に飾られた黒のトランクや、具のついた柳行李や、籐の籠などに眼を遣りながら、言った。「まあね。がこれでまだ、発つ朝に塩瀬へでも寄って生菓子を少し仕入れて行かなくちゃ……」 壁の衣紋竹には、紫紺がかった派手な・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  12. ・・・ その少女はつつましい微笑を泛べて彼の座席の前で釣に下がっていた。どてらのように身体に添っていない着物から「お姉さん」のような首が生えていた。その美しい顔は一と眼で彼女が何病だかを直感させた。陶器のように白い皮膚を翳らせている多いうぶ・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  13. ・・・ 原を横ぎる時、自分は一個の手提包を拾った。 五月十五日 どうして手提包を拾ったかその手続まで詳わしく書くにも当るまい。ただ拾ったので、足にぶつかったから拾ったので、拾って取上げて見ると手提包であったのである。 拾うと・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  14. ・・・てこちらを向く暇もなく、広い土間を三歩ばかりに大股に歩いて、主人の鼻先に突ったッた男は年ごろ三十にはまだ二ツ三ツ足らざるべく、洋服、脚絆、草鞋の旅装で鳥打ち帽をかぶり、右の手に蝙蝠傘を携え、左に小さな包を持ってそれをわきに抱いていた。・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  15.       一 彼の出した五円札が贋造紙幣だった。野戦郵便局でそのことが発見された。 ウスリイ鉄道沿線P―の村に於ける出来事である。 拳銃の這入っているのサックを肩からはすかいに掛けて憲兵が、大地を踏みなら・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  16. ・・・雪に汚れた足袋の爪先の痕は美しい青畳の上に点々と印されてあった。中 南北朝の頃から堺は開けていた。正平の十九年に此処の道祐というものの手によって論語が刊出され、其他文選等の書が出されたことは、既に民戸の繁栄して文化の豊かな・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  17. ・・・そのほかにその樽を二つずつはこぶ車が百だい、その車を引っぱる綱も二百本いります。それから水夫を二百人集めておもらいなさい。」と言いました。 ウイリイはそれをすっかりととのえてもらって、船へつみこみました。二百人の水夫も乗りこみました。・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  18. ・・・馬車使はちょっととび下りて馬の頬をしめなおしています。肉屋がのぞいて見ますと、中には二十ぴきばかりの犬がごろごろしています。まさか、うちの犬はいないだろうな、と、よく見ようとするとたんに、「わうわう。」と、かなしそうなうなり声を上げた犬が・・・<鈴木三重吉「やどなし犬」青空文庫>
  19. ・・・私は紺色の長いマントをひっかけ、純白の手袋をはめていた。私はひとつカフェにつづけて二度は行かなかった。きまって五円紙幣を出すということに不審を持たれるのを怖れたのである。「ひまわり」への訪問は、私にとって二月ぶりであった。 そのころ私・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  20. ・・・おれの事だからいつだかわからんと云ったような事を云うてザブ/\とすまし、机の上をザット片付けて鞄へ入れるものは入れ、これでよしとヴァイオリンを出して second position の処を開けてヘ調の「アンダンテ」をやる。1st とちがっ・・・<寺田寅彦「高知がえり」青空文庫>
  21. ・・・道太は手廻りの小物のはいっているバスケットを辰之助にもってもらい、自分はの袋を提げて、扇子を使いながら歩いていた。山では病室の次ぎの間に、彼は五日ばかりいた。道太の姉や従姉妹や姪や、そんな人たちが、次ぎ次ぎににK市から来て、山へ登ってきて・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  22. ・・・この哀愁は迷信から起る恐怖と共に、世のるにつれて今や全く湮滅し尽したものである。わたくし等が少年の頃には風の音鐘の響犬の声按摩の笛などが無限の哀愁を覚えさせたばかりではない。夜の闇と静寂とさえもが直に言い知れぬ恐怖の泉となった。之に反して・・・<永井荷風「巷の声」青空文庫>
  23. ・・・栗毛の駒の逞しきを、頭も胸もに裹みて飾れる鋲の数は篩い落せし秋の夜の星宿を一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼を据える。 曲がれる堤に沿うて、馬の首を少し左へ向け直すと、今までは横にのみ見えた姿が、真正面に鏡にむかって進・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  24. ・・・右の足には黄の半靴を穿いている。左の足には磨り切れた、控鈕留の漆塗の長靴を穿いている。その左の方を脱いで、冷たいのも感ぜぬらしく、素足を石畳の上に載せた。それから靴の中底を引き出した。それから靴の踵に填めてある、きたない綿を引き出した。綿・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  25. ・・・百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしばるといえども、その文運はいぜんたるのみならず、騒乱の際にも、日に増し月に進み、文明を世界に耀かしたるは、ひっきょう、その文学の独立せるがゆえならん。かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  26. ・・・水かけ論の蛙かな苗代の色紙に遊ぶ蛙かな心太さかしまに銀河三千尺夕顔のそれは髑髏か鉢叩蝸牛の住はてし宿やうつせ貝  金扇に卯花画白かねの卯花もさくや井出の里鴛鴦や国師の沓も錦あたまから蒲団かぶれば海鼠かな・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  27. ・・・ セララバアドは小さなの水入れを肩からつるして首を垂れてみんなの問やアラムハラドの答をききながらいちばんあとから少し笑ってついて来ました。 林はだんだん深くなりかしの木やくすの木や空も見えないようでした。 そのときサマシャード・・・<宮沢賢治「学者アラムハラドの見た着物」青空文庫>
  28. ・・・兵士の運転手がガソリンをつめている間に、マリアはいつもながらの小さい白カラーのついた黒い服の上に外套をはおり、ボルドーへも彼女とともに旅をした例の丸帽子をかぶり、すり切れた黄色いの鞄を持ち、運転手とならんでそのほろつきの自動車に乗った。運・・・<宮本百合子「キュリー夫人」青空文庫>
  29. ・・・ 将軍家がこういう手続きをする前に、熊本花畑の館では忠利の病がかになって、とうとう三月十七日申の刻に五十六歳で亡くなった。奥方は小笠原兵部大輔秀政の娘を将軍が養女にして妻せた人で、今年四十五歳になっている。名をお千の方という。嫡子六丸・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  30. ・・・殊に、零点の置きどころを改するというような、いわば、既成の仮設や単一性を抹殺していく無謀さには、今さら誰も応じるわけにはいくまいと思われる。しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意・・・<横光利一「微笑」青空文庫>