つの・る【募る】例文一覧 14件

  1. ・・・予は意外な所へ引張り込まれて、落つきかねた心の不安が一層強く募る。尻の据りが頗る悪い。見れば食器を入れた棚など手近にある。長火鉢に鉄瓶が掛かってある。台所の隣り間で家人の平常飲み食いする所なのだ。是は又余りに失敬なと腹の中に熱いうねりが立つ・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  2. ・・・ダンヌンチオも日本だったら義兵を募る事も軍資を作る事も決して出来なかったろう。西洋では詩人や小説家の国務大臣や商売人は一向珍らしくないが、日本では詩人や小説家では頭から対手にされないで、国務大臣は魯か代議士にだって選出される事は覚束ない。こ・・・<内田魯庵「二葉亭追録」青空文庫>
  3. ・・・ 寒さは、募るばかりでありました。そして、腹はだんだん空いてきました。もはや、この荒野の中で、のたれ死にをするよりほかになかったのでした。「ああ、ほんとうに、とんだことになったもんだ。いくら金もうけになるといって、自分の命がなくなっ・・・<小川未明「宝石商」青空文庫>
  4. ・・・偶ま中路暑に苦み樹下に憩い携うる所の一新聞紙を披いて之を閲するに、中に載する有りチシヨンの博士会一文題を発し賞を懸けて能く応ずる者あるを募る。其題に曰く学術技科の進闡せしをば人の心術風俗に於て益有りしと為す乎将た害ありしと為す乎とルーソー之・・・<幸徳秋水「文士としての兆民先生」青空文庫>
  5. ・・・兄の怒りは、募る一方である。 幽かに、表の街路のほうから、人のざわめきが聞えて来る。しばらくして、宿の廊下が、急にどたばた騒がしくなり、女中さんたちの囁き、低い笑声も聞える。私は、兄の叱咤の言よりも、そのほうに、そっと耳をすましていた。・・・<太宰治「一燈」青空文庫>
  6. ・・・ それからまた○○などで全国の科学研究機関にサーキュラーを発して、数々のかなり漠然たる研究題目とそれに対して支給すべき零細の金額とを列挙してそれらの問題の研究引受人を募ることがあるようであるが、あれなどもやはりこのイブラヒム老人の入れ歯・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  7. ・・・この像の仕上げのために喜捨を募るという張り札がしてある。回廊の引っ込んだ所には、僧侶が懺悔をきく所がいくつもある。一昨年始めてイタリアのお寺でこの懺悔をしているところを見ていやな感じがしてから、この仕掛けを見るごとに僧侶を憎み信徒をかわいく・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  8. ・・・あまりに募る迫害に恐れたのか、それともまた子猫がもう一人前になったのか、縁の下の産所も永久に見捨ててどこかへ移って行った。それでも時々隣の離れの庇の上に母子の姿を見かける事はあった。子猫は見るたびごとに大きくなっているようであった。そしても・・・<寺田寅彦「ねずみと猫」青空文庫>
  9. ・・・冬が容捨もなく迫って来て木枯しが吹き募るある夜、散歩の帰り途に暗闇阪近くなった時、自分の数間前を肩をすぼめて俯向いて行く銀杏返しの女がある。たいていの店は早く仕舞って、寂れた町に渦巻き立つ砂ほこりの中を小きざみに行く後姿が非常に心細げに見え・・・<寺田寅彦「やもり物語」青空文庫>
  10. ・・・塔を繞る音、壁にあたる音の次第に募ると思ううち、城の内にて俄かに人の騒ぐ気合がする。それが漸々烈しくなる。千里の深きより来る地震の秒を刻み分を刻んで押し寄せるなと心付けばそれが夜鴉の城の真下で破裂したかと思う響がする。――シーワルドの眉は毛・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  11. ・・・それだからいいようなものの、火の手は次第に募る。放ってはおけない。――勘助は井戸水をくみ上げながら、いやはやと思った。これは、大火事より都合がわるい。見物は、だらしなく、ワアハハハと笑うきりで手助けはしないし、火より先にけんかをやめさせる必・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  12. ・・・ 益々元気旺盛な行進がつづいて、うれしい思いが募るにつれ、私は、もっと音楽をと願った。もっといろいろの歌を、と心に叫んだ。来年こそ、私たちは、もっともっと素晴らしい音楽を先頭に立てて行進するだろう。紙や布もたっぷり買って種々様々の意・・・<宮本百合子「メーデーに歌う」青空文庫>
  13. ・・・不安が募るにつれ、非常警報器を引けと云う者まで出た。駅の構内に入る為めに、列車が暫く野っぱの真中で徐行し始めた時には、乗客は殆ど総立ちになった。何か異様が起った。今こそ危いと云う感が一同の胸を貫き、じっと場席にいたたまれなくさせたのだ。・・・<宮本百合子「私の覚え書」青空文庫>
  14. ・・・私の愛は恋人が醜いゆえにますます募るのである。 私は絶えずチクチク私の心を刺す執拗な腹の虫を断然押えつけてしまうつもりで、近ごろある製作に従事した。静かな歓喜がかなり永い間続いた。そのゆえに私は幸福であった。ある日私はかわいい私の作物を・・・<和辻哲郎「生きること作ること」青空文庫>