つ・る【×吊る/釣る】例文一覧 30件

  1. ・・・肩を聳やかし、眉を高く額へ吊るし上げて、こう返事をした。「だって嫌なお役目ですからね。事によったら御気分でもお悪くおなりなさいますような事が。」奥さんはいよいよたじろきながら、こう弁明し掛けた。 フレンチの胸は沸き返る。大声でも出し・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  2. ・・・手頃な丸太棒を差荷いに、漁夫の、半裸体の、がッしりした壮佼が二人、真中に一尾の大魚を釣るして来た。魚頭を鈎縄で、尾はほとんど地摺である。しかも、もりで撃った生々しい裂傷の、肉のはぜて、真向、腮、鰭の下から、たらたらと流るる鮮血が、雨路に滴っ・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  3. ・・・――旅のあわれを味わおうと、硝子張りの旅館一二軒を、わざと避けて、軒に山駕籠と干菜を釣るし、土間の竈で、割木の火を焚く、侘しそうな旅籠屋を烏のように覗き込み、黒き外套で、御免と、入ると、頬冠りをした親父がその竈の下を焚いている。框がだだ広く・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  4. ・・・――心中の相談をしている時に、おやじが蜻蛉釣る形の可笑さに、道端へ笑い倒れる妙齢の気の若さ……今もだ……うっかり手水に行って、手を洗う水がないと言って、戸を開け得ない、きれいな女と感じた時は、娘のような可愛さに、唇の触ったばかりでも。」・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  5. ・・・弁当包みを枝へ釣る。天気のよいのに山路を急いだから、汗ばんで熱い。着物を一枚ずつ脱ぐ。風を懐へ入れ足を展して休む。青ぎった空に翠の松林、百舌もどこかで鳴いている。声の響くほど山は静かなのだ。天と地との間で広い畑の真ン中に二人が話をしているの・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・畳一枚ほどに切れている細長い囲炉裡には、この暑いのに、燃木が四、五本もくべてあって、天井から雁木で釣るした鉄瓶がぐらぐら煮え立っていた。「どうも、毎度、子供がお世話になって」と、炉を隔てて僕と相対したお貞婆さんが改まって挨拶をした。・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・その前に、彼は、いまごろどこをほってもみみずの見つからないことを知っていましたから、飯粒を餌にして釣る考えで、自分の食べる握り飯をその分に大きく造って持ってゆきました。 小川は、みんな雪にうずまっていました。また池にもいっぱい雪が積もっ・・・<小川未明「北の国のはなし」青空文庫>
  8. ・・・君のお父さん、釣るのはうまい?」「なにうまいもんか、いつも僕のほうがたくさん釣るのさ。ふなをあげるから、遊びにこない。」と、木田はすすめたのでした。「いこうか、じゃ、うちへ帰ったら、かばんを置いてすぐにね。」 遊びにゆく約束をし・・・<小川未明「すいれんは咲いたが」青空文庫>
  9. ・・・ 玄関の六畳の間にランプが一つ釣るしてあって、火桶が三つ四つ出してある、その周囲は二人三人ずつ寄っていて笑うやらののしるやら、煙草の煙がぼうッと立ちこめていた。 今井の叔父さんがみんなの中でも一番声が大きい、一番元気がある、一番おも・・・<国木田独歩「鹿狩り」青空文庫>
  10. ・・・山岸の一方が淵になって蒼々と湛え、こちらは浅く瀬になっていますから、私どもはその瀬に立って糸を淵に投げ込んで釣るのでございます。見上げると両側の山は切り削いだように突っ立って、それに雑木や赭松が暗く茂っていますから、下から瞻ると空は帯のよう・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  11. ・・・なぜかと言いますと、他の、例えばキス釣なんぞというのは立込みといって水の中へ入っていたり、あるいは脚榻釣といって高い脚榻を海の中へ立て、その上に上って釣るので、魚のお通りを待っているのですから、これを悪く言う者は乞食釣なんぞと言う位で、魚が・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  12. ・・・京都出来のものを朝鮮へ埋めて置いて、掘出させた顔で、チャンと釣るなぞというケレン商売も始まるのである。もし真に掘出しをする者があれば、それは無頼溌皮の徒でなければならぬ。またその掘出物を安く買って高く売り、その間に利を得る者があれば、それは・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  13. ・・・季節にもよるが、鰻を釣るので「珠数子釣り」というをやらかして居る。これは娯楽にやる人もあり、営業にやる人もある。珠数子釣りは鉤は無くて、餌を綰ねて輪を作る、それを鰻が呑み込んだのをたまで掬って捕るという仕方なのだ。面白くないということはない・・・<幸田露伴「夜の隅田川」青空文庫>
  14. ・・・高い天井からは炉の上に釣るした煤けた自在鍵がある。炉に焚く火はあかあかと燃えて、台所の障子にも柱にも映っている。いそいそと立ち働くお新が居る。下女が居る。養子も改まった顔付で奥座敷と台所の間を往ったり来たりしている。時々覗きに来る三吉も居る・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  15. ・・・更けて自分は袖の両方の角を摘んで、腕を斜に挙げて灯し火の前に釣るす。赤い袖の色に灯影が浸みわたって、真中に焔が曇るとき、自分はそぞろに千鳥の話の中へはいって、藤さんといっしょに活動写真のように動く。自分の芝居を自分で見るのである。始めから終・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  16. ・・・自分では、もっとも、おいしい奉仕のつもりでいるのだが、人はそれに気づかず、太宰という作家も、このごろは軽薄である、面白さだけで読者を釣る、すこぶる安易、と私をさげすむ。 人間が、人間に奉仕するというのは、悪い事であろうか。もったいぶって・・・<太宰治「桜桃」青空文庫>
  17. ・・・魚釣る人のすがたが、眼にとまった。「いっそ、一生、釣りでもして、阿呆みたいに暮そうかな。」「だめさ。魚の心が、わかりすぎて。」 ふたり、笑った。「たいてい、わかるだろう? 僕がサタンだということ。僕に愛された人は、みんな、だいな・・・<太宰治「秋風記」青空文庫>
  18. ・・・そのほかにも、かれ、蚊帳吊るため部屋の四隅に打ちこまれてある三寸くぎ抜かばやと、もともと四尺八寸の小女、高所の釘と背のびしながらの悪戦苦闘、ちらと拝見したこともございました。 いま庭の草むしっている家人の姿を、われ籐椅子に寝ころんだまま・・・<太宰治「二十世紀旗手」青空文庫>
  19. ・・・(河童を釣る話とかいう種類のものが多かった。一例として「えんこう」の話をとると、夕涼みに江ノ口川の橋の欄干に腰をかけているとこの怪物が水中から手を延ばして肛門を抜きに来る。そこで腰に鉄鍋を当てて待構えていて、腰に触る怪物の手首をつかまえてぎ・・・<寺田寅彦「重兵衛さんの一家」青空文庫>
  20. ・・・ところが同じ巻の終わりに近く、同人が「このしろを釣る」という句を出してその次の自分の番に「水鶏の起こす寝ざめ」を持ち出している。これだけならば不思議はないのであるが、次の巻のいちばん初めのその人の句が「卵産む鶏」であって、その次が「干鰯俵の・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  21. ・・・政治家と相結んで国家的公共の事業を企画し名を売り利を釣る道を知らず、株式相場の上り下りに千金を一攫する術にも晦い。僕は文士である。文士は芸術家の中に加えられるものであるが、然し僕はもう老込んでいるから、金持の後家をだます体力に乏しく、また工・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  22. ・・・ やがてわが部屋の戸帳を開きて、エレーンは壁に釣る長き衣を取り出す。燭にすかせば燃ゆる真紅の色なり。室にはびこる夜を呑んで、一枚の衣に真昼の日影を集めたる如く鮮かである。エレーンは衣の領を右手につるして、暫らくは眩ゆきものと眺めたるが、・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  23. ・・・ギージという革紐にて肩から釣るす種類でもない。上部に鉄の格子を穿けて中央の孔から鉄砲を打つと云う仕懸の後世のものでは無論ない。いずれの時、何者が錬えた盾かは盾の主人なるウィリアムさえ知らぬ。ウィリアムはこの盾を自己の室の壁に懸けて朝夕眺めて・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  24. ・・・肩から四角な箱を腋の下へ釣るしている。浅黄の股引を穿いて、浅黄の袖無しを着ている。足袋だけが黄色い。何だか皮で作った足袋のように見えた。 爺さんが真直に柳の下まで来た。柳の下に子供が三四人いた。爺さんは笑いながら腰から浅黄の手拭を出した・・・<夏目漱石「夢十夜」青空文庫>
  25. ・・・したがって、海底での貝の身をエサにしている河豚の味がよくなるわけだが、この河豚を釣るのはそう簡単ではない。ソコブクの一コン釣りといって、名人芸の一つにされている。私もしばしば試みたけれども、十数回のうちで、たった一度しか成功しなかった。・・・<火野葦平「ゲテ魚好き」青空文庫>
  26. ・・・ 彼はもう何だか、わざわざ切角こうやって生きている蚯蚓の命まで奪って僅かばかりの小魚を釣るにも及ばないような心持になって、草の上に針を投げ出すと、そのまま煙草をふかし始めた。 さっきまでは居る影さえしなかった鳶が、いつの間にかすぐ目・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  27. ・・・で散々囲りの若草はふみにじられ、池の周囲に堤を築かれ堤の内面はコンクリートでかためられ、外面には芝を植えられて「この池の魚釣る事無用」「みだりに入るべからず」と云う立札が立ち、役人のいる処や、標示板の立ったはもう二年ほど前の事である。 ・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  28. ・・・供出に対する強権発動によって、地方では首を吊る者が出ている。米がなければ身ぐるみ剥ぐといわれ、それが行われている。「勅令」によってこのことが行われているのである。 主権在民の憲法が、偽りなく主権を人民の上に保証するものでなくては日本は立・・・<宮本百合子「矛盾とその害毒」青空文庫>
  29. ・・・人の魚を釣るのを見ているような態度で、交際社会に臨みたくはない。ゴルキイのような vagabondage をして愉快を感じるには、ロシア人のような遺伝でもなくては駄目らしい。やはりけちな役人の方が好いかも知れないと思って見る。そしてそう思う・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  30. ・・・彼は実をもって人に迫らずに虚をもって人を釣るのである。彼が偉いか偉くないか、私は知らない。 私は彼に悩まされることを愧じる。しかしその刺激のゆえに彼に感謝する。一一 私はこういう事を夢みている。――私は自分の体験から、私・・・<和辻哲郎「生きること作ること」青空文庫>