つる‐べ【釣瓶】例文一覧 14件

  1. ・・・夕餉前のわずかな時間を惜しんで、釣瓶落としに暮れてゆく日ざしの下を、彼らはわめきたてる蝙蝠の群れのように、ひらひらと通行人にかけかまいなく飛びちがえていた。まともに突っかかって来る勢いをはずすために、彼は急に歩行をとどめねばならなかったので・・・<有島武郎「卑怯者」青空文庫>
  2. ・・・私はちょっと其処へ掛けて、会釈で済ますつもりだったが、古畳で暑くるしい、せめてのおもてなしと、竹のずんど切の花活を持って、庭へ出直すと台所の前あたり、井戸があって、撥釣瓶の、釣瓶が、虚空へ飛んで猿のように撥ねていた。傍に青芒が一叢生茂り、桔・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  3. ・・・ 敷居の外の、苔の生えた内井戸には、いま汲んだような釣瓶の雫、――背戸は桃もただ枝の中に、真黄色に咲いたのは連翹の花であった。 帰りがけに密と通ると、何事もない。襖の奥に雛はなくて、前の壇のも、烏帽子一つ位置のかわったのは見えなかっ・・・<泉鏡花「雛がたり」青空文庫>
  4. ・・・近間ではあるし、ここを出たら、それこそ、ちちろ鳴く虫が糸を繰る音に紛れる、その椎樹――(釣瓶(小豆などいう怪ものは伝統的につきものの――樹の下を通って見たかった。車麩の鼠に怯えた様子では、同行を否定されそうな形勢だった処から、「お町さん、念・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  5. ・・・ 姑が一人、小姑が、出戻と二人、女です――夫に事うる道も、第一、家風だ、と言って、水も私が、郊外の住居ですから、釣瓶から汲まされます。野菜も切ります。……夜はお姑のおともをして、風呂敷でお惣菜の買ものにも出ますんです。――それを厭うもの・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  6. ・・・冬の日は釣瓶おとしというより、梢の熟柿を礫に打って、もう暮れて、客殿の広い畳が皆暗い。 こんなにも、清らかなものかと思う、お米の頸を差覗くようにしながら、盆に渋茶は出したが、火を置かぬ火鉢越しにかの机の上の提灯を視た。 信仰に頒・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  7. ・・・ 彼のいた所からは見えなかったが、その仕掛ははね釣瓶になっているらしく、汲みあげられて来る水は大きい木製の釣瓶桶に溢れ、樹々の緑が瑞みずしく映っている。盥の方の女の人が待つふりをすると、釣瓶の方の女の人は水をあけた。盥の水が躍り出して水・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  8. ・・・撥ね釣瓶はポンプになった。浮塵子がわくと白熱燈が使われた。石油を撒き、石油ランプをともし、子供が脛まで、くさった水苔くさい田の中へ脚をずりこまして、葉裏の卵を探す代りに。 苅った稲も扱きばしで扱き、ふるいにかけ、唐臼ですり、唐箕にかけ、・・・<黒島伝治「浮動する地価」青空文庫>
  9. ・・・ 或時長頭丸即ち貞徳が公を訪うた時、公は閑栖の韵事であるが、和らかな日のさす庭に出て、唐松の実生を釣瓶に手ずから植えていた。五葉の松でもあればこそ、落葉松の実生など、余り佳いものでもないが、それを釣瓶なんどに植えて、しかもその小さな実生・・・<幸田露伴「魔法修行者」青空文庫>
  10. ・・・ 家の南側に、釣瓶を伏せた井戸があるが、十時ころになると、天気さえよければ、細君はそこに盥を持ち出して、しきりに洗濯をやる。着物を洗う水の音がざぶざぶとのどかに聞こえて、隣の白蓮の美しく春の日に光るのが、なんとも言えぬ平和な趣をあたりに・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  11. ・・・一日暑い盛りに門へ出たら、木陰で桶屋が釣瓶や桶のたがをはめていた。きれいに掃いた道に青竹の削りくずや鉋くずが散らばって楝の花がこぼれている。桶屋は黒い痘痕のある一癖ありそうな男である。手ぬぐい地の肌着から黒い胸毛を現わしてた・・・<寺田寅彦「花物語」青空文庫>
  12. ・・・そをくみあげる小さな一つの 釣瓶昼はひねもす 夜はよもすがらささやかに 軋り まわれど水は つきずわが おもい 絶ゆることなし。或時は、疲れたる手を止め瞳遠き彼方を見る。美しい五月の自然白雲の・・・<宮本百合子「五月の空」青空文庫>
  13. ・・・ お豊さんは台所の棚から手桶をおろして、それを持ってそばの井戸端に出て、水を一釣瓶汲み込んで、それに桃の枝を投げ入れた。すべての動作がいかにもかいがいしい。使命を含んで来たご新造は、これならば弟のよめにしても早速役に立つだろうと思って、・・・<森鴎外「安井夫人」青空文庫>
  14. ・・・が、またぶらぶら流し元まで戻って来ると俎を裏返してみたが急に彼は井戸傍の跳ね釣瓶の下へ駆け出した。「これは甘いぞ、甘いぞ。」 そういいながら吉は釣瓶の尻の重りに縛り付けられた欅の丸太を取りはずして、その代わり石を縛り付けた。 暫・・・<横光利一「笑われた子」青空文庫>