つん‐と例文一覧 16件

  1. ・・・お座敷着で、お銚子を持って、ほかの朋輩なみに乙につんとすましてさ。始は僕も人ちがいかと思ったが、側へ来たのを見ると、お徳にちがいない。もの云う度に、顋をしゃくる癖も、昔の通りだ。――僕は実際無常を感じてしまったね。あれでも君、元は志村の岡惚・・・<芥川竜之介「片恋」青空文庫>
  2. ・・・これはつんと尖った鼻の先へ、鉄縁の鼻眼鏡をかけたので、殊にそう云う感じを深くさせた。着ているのは黒の背広であるが、遠方から一見した所でも、決して上等な洋服ではないらしい。――その老紳士が、本間さんと同時に眼をあげて、見るともなくこっちへ眼を・・・<芥川竜之介「西郷隆盛」青空文庫>
  3. ・・・向うがつんとしているので、今度は僕から物を言いたくなった。「どうだい、僕もまた一つ蕎麦をふるまってもらおうじゃアないか?」「あら、もう、知ってるの?」「へん、そんなことを知らないような馬鹿じゃアねい。役者になりたいからよろしく頼・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  4. ・・・文子は私の顔を見ても、つんと素知らぬ顔をしていたが、むりもない、私はこれまで一度も文子と口を利いたことはなかったし、それに文子はまだ十二だった。しかし十六の私は文子がつんとしたは、私の丁稚姿のせいだと早合点してしまい、きゅうに瀬戸物町という・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  5. ・・・ コンクールを受けた連中はいずれもうやうやしく審査員に頭を下げ、そして両足をそろえて、つつましく弾くのだったが、寿子はつんとぎこちない頭の下げ方をして、そしていきなり股をひらいて、大きく踏ん張ると、身体を揺り動かしながら、弾き出すのだっ・・・<織田作之助「道なき道」青空文庫>
  6. ・・・駆け寄ったのへつんと頭を下げるなり、女学生は柳吉の所へ近寄って低い声で「お祖父さんの病気が悪い、すぐ来て下さい」 柳吉と一緒に駆けつける事にしていた。が、柳吉は「お前は家に居りイな。いま一緒に行ったら都合が悪い」蝶子は気抜けした気持でし・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  7. ・・・ 娘は不意を突かれたように、暫らくだまっていたが、やがて、つんと顎を上げると、「――あるわ」 もう昂然とした口調だった。「ふうん」 小沢は何か情けなかった。「――好きな男と……?」「好きな男なんかあれへん」「・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  8. ・・・ ちょっと見には、つんとしてなにかかげの濃い冷い感じのある顔だったが、結局は疳高い声が間抜けてきこえるただの女だった。坂田のような男に随いて苦労するようなところも、いまにして思えば、あった。 あれはどないしてる? どないにして暮らし・・・<織田作之助「雪の夜」青空文庫>
  9. ・・・鼻をかむのにさえ、両手の小指をつんとそらして行った。洗練されている、と人もおのれも許していた。その男が、或る微妙な罪名のもとに、牢へいれられた。牢へはいっても、身だしなみがよかった。男は、左肺を少し悪くしていた。 検事は、男を、病気も重・・・<太宰治「あさましきもの」青空文庫>
  10. ・・・そのころ地平、縞の派手な春服を新調して、部屋の中で、一度、私に着せて見せて、すぐ、おのが失態に気づいて、そそくさと脱ぎ捨てて、つんとすまして見せたが、かれ、この服を死ぬるほど着て歩きたく、けれども、こうして部屋の中でだけ着て、うろうろしてい・・・<太宰治「喝采」青空文庫>
  11. ・・・と真面目な口調で言って、「僕は、親にさえ、こういう醜い顔を見せた事はないのですからね。」つんとして見せた。 佐伯は、すぐに笑いを鎮めて、熊本君のほうに歩み寄り、「読書かね?」と、からかうような口調で言い熊本君の傍にある机の、下を手さ・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  12. ・・・毛皮は耳がつんと立って丁度小さな犬が蹲って居るように見える。太十はそれが酷く不憫に見えた。彼は愁然として毛皮を手に提げて見た。「おっつあん可哀想になったか」と二人はいった。「それじゃあとはおらが始末すっからな」 棒をそこへ投・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  13. ・・・ それから棚から鉄の棒をおろして来て椅子へどっかり座って一ばんはじのあまがえるの緑色のあたまをこつんとたたきました。「おい。起きな。勘定を払うんだよ。さあ。」「キーイ、キーイ、クヮア、あ、痛い、誰だい。ひとの頭を撲るやつは。」・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  14. ・・・ 今日逢って何を云われるのか、自分に対してどんな考を持って居るか、 こんな事は、一向考えずと好い事なんだ、と云うようにのんきらしく棒のような足を二本つんと前に張ってコーモリを立てて日にてらされる右の方をかばいながら海を見て居る。 私・・・<宮本百合子「砂丘」青空文庫>
  15. ・・・ 幸、性格的に自分は甘たるい、つんとした、そして弱い生活を嫌う傾向を持って生れた。その為に、素朴な、実質的な、草の如き単純さと同時の真に充実した生活を営むべきことと、営みたいことの希願だけは強くあった。 故に、Aとの結婚は自分を、人・・・<宮本百合子「小さき家の生活」青空文庫>
  16. ・・・人間が春と秋とをよろこぶ様に自分達には嬉しい冬が来るのに、たった一人ぽっつんと塀の中に、かこいの中に羽根をきられてこもって居ると云う事は身を切られるよりも辛く思われた。「このまんま飛び出してしまいたい」 男がもは稲妻の様に斯う思った・・・<宮本百合子「芽生」青空文庫>