て‐あて【手当(て)】例文一覧 30件

  1. ・・・母は枕もとの看護婦に、後の手当をして貰いながら、昨夜父が云った通り、絶えず白い括り枕の上に、櫛巻きの頭を動かしていた。「慎太郎が来たよ。」 戸沢の側に坐っていた父は声高に母へそう云ってから、彼にちょいと目くばせをした。 彼は父と・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・青森の親元へ沙汰をする、手当薬療、息子の腰が立つと、手が切れた。むかいに来た親は、善知鳥、うとうと、なきながら子をくわえて皈って行く。片翼になって大道に倒れた裸の浜猫を、ぼての魚屋が拾ってくれ、いまは三河島辺で、そのばさら屋の阿媽だ、と煮こ・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  3. ・・・ 肺病のある上へ、驚いたがきっかけとなって心臓を痛めたと、医者が匙を投げてから内証は証文を巻いた、但し身附の衣類諸道具は編笠一蓋と名づけてこれをぶったくり。 手当も出来ないで、ただ川のへりの長屋に、それでも日の目が拝めると、北枕に水・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  4. ・・・ 騒がぬ顔して、皆には、宮浜が急に病気になったから今手当をして来る。かねて言う通り静にしているように、と言聞かしておいて、精々落着いて、まず、あの児をこの控所へ連れ出して来たんだ。 処で、気を静めて、と思うが、何分、この風が、時々、・・・<泉鏡花「朱日記」青空文庫>
  5. ・・・ 知事――その三年前に亡くなった事は、私も新聞で知っていたのです――そのいくらか手当が残ったのだろうと思われます。当時は町を離れた虎杖の里に、兄妹がくらして、若主人の方は、町中のある会社へ勤めていると、この由、番頭が話してくれました。一・・・<泉鏡花「雪霊記事」青空文庫>
  6. ・・・ その頃は医術も衛生思想も幼稚であったから、疱瘡や痲疹は人力の及び難ない疫神の仕業として、神仏に頼むより外に手当の施こしようがないように恐れていた。それ故に医薬よりは迷信を頼ったので、赤い木兎と赤い達磨と軽焼とは唯一無二の神剤であった。・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・俺は決してお前を憎むのではないが暫らく余焔の冷めるまで故郷へ帰って謹慎していてもらいたいといって、旅費その他の纏まった手当をくれた。その外に、修養のための書籍を二、三十冊わざわざ自分で買って来てYの退先きへ届けてくれたそうだ。普通の常識では・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  8. ・・・医者の不養生というほどでもなかったろうが、平生頑健な上に右眼を失ってもさして不自由しなかったので、一つはその頃は碌な町医者がなかったからであろう、碌な手当もしないで棄て置いたらしい。が、不自由しなかったという条、折には眼が翳んだり曇ったりし・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  9. ・・・ その家は貧しくて、かぜから肺炎を併発したのに手当ても十分することができなかった。小さな火鉢にわずかばかりの炭をたいたのでは、湯気を立てることすら不十分で、もとより室を暖めるだけの力はなかった。しかし、炭をたくさん買うだけの資力のないも・・・<小川未明「三月の空の下」青空文庫>
  10. ・・・そのために手当を貰っているという説を成すものもあった。私は手当云々は信じられなかったが、しかし自治委員の前では自分の思う所を述べられないと思った。が、たった一つ彼等の眼をくらますことの出来ないものがあった。それは私の髪の毛である。ある日それ・・・<織田作之助「髪」青空文庫>
  11. ・・・私は暫く考えていましたが、願わくば臨終正念を持たしてやりたいと思いまして「もうお前の息苦しさを助ける手当はこれで凡て仕尽してある。是迄しても楽にならぬでは仕方がない。然し、まだ悟りと言うものが残っている。若し幸にして悟れたら其の苦痛は無くな・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  12. ・・・吉田はその話のなかから、もうなんの手当もできずに死んでしまったその女の弟、それを葬ろうとして焼場に立っている姉、そして和尚と言ってもなんだか頼りない男がそんなことを言って焼け残った骨をつついている焼場の情景を思い浮かべることができるのだった・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  13. ・・・私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」 私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加・・・<梶井基次郎「檸檬」青空文庫>
  14. ・・・なくして手当たり次第に読書することは、その割合いに効果乏しく、また批判の基準というものが立ちがたい。 自ら問いを持ち、その問いが真摯にして切実なものであるならば、その問いに対する解答の態度が同様なものである書物を好むであろう。まず問いを・・・<倉田百三「学生と読書」青空文庫>
  15. ・・・しかし、空襲で家は焼かれ、その二十六になる末娘は大やけどをして、医者の手当も受けたけれど、象さんが来た、象さんが来た、とうわごとを言って、息を引きとったという。「象の夢でも見ていたのでごいしょうか。ばかな夢を見るもんでごいす。けえっ。」・・・<太宰治「親という二字」青空文庫>
  16. ・・・「療養所で手当をしてもらおう。」と言った僕の声は嗄れていた。 ツネちゃんは歩けない様子であった。僕は自分の左脇にかかえるようにしてツネちゃんを療養所に連れ込み、医務室へ行った。出血の多い割に、傷はわずかなものだった。医者は膝頭に突き・・・<太宰治「雀」青空文庫>
  17. ・・・う感じで、また上の五歳の女の子は、からだは割合丈夫でしたが、甲府で罹災する少し前から結膜炎を患い、空襲当時はまったく眼が見えなくなって、私はそれを背負って焔の雨の下を逃げまわり、焼け残った病院を捜して手当を受け、三週間ほど甲府でまごまごして・・・<太宰治「たずねびと」青空文庫>
  18. ・・・ 戦場で負傷したきずに手当てをする余裕がなくて打っちゃらかしておくと、化膿してそれに蛆が繁殖する。その蛆がきれいに膿をなめつくしてきずが癒える。そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で・・・<寺田寅彦「蛆の効用」青空文庫>
  19. ・・・ まず手近な盆栽や菓子やコップなどと手当たり次第にかいてみた。始めのうちはうまいのかまずいのかそんな事はまるで問題にならなかった。そういう比較的な言葉に意味があろうはずはなかった。画家の数は幾万人あっても自分は一人しかいないのであった。・・・<寺田寅彦「自画像」青空文庫>
  20. ・・・ 戦場で負傷した傷に手当をする余裕がなくて打っちゃらかしておくと化膿してそれにうじが繁殖する。そのうじがきれいに膿をなめ尽くして傷が癒える。そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後特に外科医のほうで注意・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  21. ・・・だが、今は私は、一銭の傷害手当もなく、おまけに懲戒下船の手続をとられたのだ。 もう、セコンドメイトは、海事局に行っているに違いない。 浚渫船は蒸汽を上げた。セーフチーバルヴが、慌てて呻り出した。 運転手がハンドルを握った。静寂が・・・<葉山嘉樹「浚渫船」青空文庫>
  22. ・・・ 応急手当が終ると、――私は船乗りだったから、負傷に対する応急手当は馴れていた――今度は、鉄窓から、小さな南瓜畑を越して、もう一つ煉瓦塀を越して、監獄の事務所に向って弾劾演説を始めた。 ――俺たちは、被告だが死刑囚じゃない、俺たちの・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  23. ・・・例えば小児が腹痛すればとて例の妙薬黒焼など薬剤学上に訳けの分らぬものを服用せしむ可らず、事急なれば医者の来るまで腰湯パップ又は久しく通じなしと言えば灌腸を試むる等、外用の手当は恐る/\用心して施す可きも、内服薬は一切禁制にして唯医者の来診を・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  24. ・・・なお万一の僥倖を期して屈することを為さず、実際に力尽きて然る後に斃るるはこれまた人情の然らしむるところにして、その趣を喩えていえば、父母の大病に回復の望なしとは知りながらも、実際の臨終に至るまで医薬の手当を怠らざるがごとし。これも哲学流にて・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  25. ・・・カールが受取るべき手当も貰うどころではなくなった。しかし、イエニーは空皿を並べたテーブルにカールとその友人を招くことが出来るだろうか。 カールはパリ発行の『フォールベルツ』誌へ寄稿しはじめた。現代社会の発展は生産のもっと合理的な方法によ・・・<宮本百合子「カール・マルクスとその夫人」青空文庫>
  26. ・・・読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手当を出すので子供を生む。家族手当をやめよ、賃銀を労働者一人の能率払いにせよ、と書いている。『中央公論』は、仄聞するところによると十万の出版部数をもっているそうだ。『中央公論』をよ・・・<宮本百合子「鬼畜の言葉」青空文庫>
  27. ・・・あわれに打ちくだかれた骨の正しい手当、また傷の中の小銃弾や大砲の弾丸の破片をX光線の透写によって発見する装置が、この恐ろしい近代戦になくてもよいのであろうか。 キュリー夫人は科学上の知識から、大規模の殺戮が何を必要としているかを見た。罪・・・<宮本百合子「キュリー夫人」青空文庫>
  28. ・・・ 五助は身分の軽いものではあるが、のちに殉死者の遺族の受けたほどの手当は、あとに残った後家が受けた。男子一人は小さいとき出家していたからである。後家は五人扶持をもらい、新たに家屋敷をもらって、忠利の三十三回忌のときまで存命していた。五助・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  29. ・・・ 医師が来て、三右衛門に手当をした。 親族が駆け附けた。蠣殻町の中邸から来たのは、三右衛門の女房と、伜宇平とである。宇平は十九歳になっている。宇平の姉りよは細川長門守興建の奥に勤めていたので、豊島町の細川邸から来た。当年二十二歳であ・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  30. ・・・とうとう下女の親許へ出掛けて行って、いずれ妻にするからと云って、一旦引き取らせて手当を遣っていた。そのうちにどうかしようと思ったが、親許が真面目なので、どうすることも出来ない。宮沢は随分窮してはいたのだが、ひと算段をしてでも金で手を切ろうと・・・<森鴎外「独身」青空文庫>