てい‐えん〔‐ヱン〕【庭園】例文一覧 30件

  1. ・・・ すべて旧藩侯の庭園だ、と言うにつけても、贈主なる貴公子の面影さえ浮ぶ、伯爵の鸚鵡を何としょう。 霊廟の土の瘧を落し、秘符の威徳の鬼を追うよう、たちどころに坊主の虫歯を癒したはさることながら、路々も悪臭さの消えないばかりか、口中の臭・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  2. ・・・今では堀田伯の住邸となってる本所の故宅の庭園は伊藤の全盛時代に椿岳が設計して金に飽かして作ったもので、一木一石が八兵衛兄弟の豪奢と才気の名残を留めておる。地震でドウなったか知らぬが大方今は散々に荒廃したろう。(八兵衛の事蹟については某の著わ・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  3. ・・・ 当時の欧化熱の中心地は永田町で、このあたりは右も左も洋風の家屋や庭園を連接し、瀟洒な洋装をした貴婦人の二人や三人に必ず邂逅ったもんだ。ダアクの操り人形然と妙な内鰐の足どりでシャナリシャナリと蓮歩を運ぶものもあったが、中には今よりもハイ・・・<内田魯庵「四十年前」青空文庫>
  4. ・・・ 木が、やっと元気を快復して、はっきりと見、また聞くようになったのは、ある大きな盆栽師の庭園でありました。そして、自分は珍しい支那鉢に植えられて、一段高い、だんの上に載せられていたのでした。 夜になると、風は吹いたけれど、あのむちを・・・<小川未明「しんぱくの話」青空文庫>
  5. ・・・君はきっと、銀座か新宿のデパアトの屋上庭園の木柵によりかかり、頬杖ついて、巷の百万の屋根屋根をぼんやり見おろしたことがあるにちがいない。巷の百万の屋根屋根は、皆々、同じ大きさで同じ形で同じ色あいで、ひしめき合いながらかぶさりかさなり、はては・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  6. ・・・探偵小説家の父親の銅像に、いつくしみの瞳をそそぎつつ、右手のだらだら坂を下り、庭園に出たのである。これは、むかし、さるお大名のお庭であった。池には鯉と緋鯉とすっぽんがいる。五六年まえまでには、ひとつがいの鶴が遊んでいた。いまでも、この草むら・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  7. ・・・今朝おまえは、ドミチウスめを抱いて庭園を散歩しながら、ドミチウスや、私たちは、どうしてこんなに不仕合せなのだろうね、と恨みごとを並べて居った。わしは、それを聞いてしまった。隠すな。謀叛の疑い充分。ドミチウスと二人で死ぬがよい。『ドミチウ・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  8. ・・・ 剣術の上手な若い殿様が、家来たちと試合をして片っ端から打ち破って、大いに得意で庭園を散歩していたら、いやな囁きが庭の暗闇の奥から聞えた。「殿様もこのごろは、なかなかの御上達だ。負けてあげるほうも楽になった。」「あははは。」・・・<太宰治「水仙」青空文庫>
  9. ・・・朝の黄金の光が颯っと射し込み、庭園の桃花は、繚乱たり、鶯の百囀が耳朶をくすぐり、かなたには漢水の小波が朝日を受けて躍っている。「ああ、いい景色だ。くにの女房にも、いちど見せたいなあ。」魚容は思わずそう言ってしまって、愕然とした。乃公は未・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  10. ・・・なるほど玄関も、ものものしく、庭園には大きい滝があった。玄関からまっすぐに長い廊下が通じていて、廊下の板は、お寺の床板みたいに黒く冷え冷えと光って、その廊下の尽きるところ、トンネルの向う側のように青いスポット・ライトを受けて、ぱっと庭園のそ・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  11. ・・・今度の家は前のせまくるしい住居とちがって広い庭園に囲まれていたので、そこで初めて自由に接することの出来た自然界の印象も彼の生涯に決して無意味ではなかったに相違ない。 彼の家族にユダヤ人種の血が流れているという事は注目すべき事である。後年・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  12. ・・・どこかの大きな庭園を歩いているような気もする。有名な河童橋は河風が寒く、穂高の山塊はすっかり雨雲に隠されて姿を見せない。この橋の両側だけに人間の香いがするが、そこから六百山の麓に沿うて二十余町の道の両側にはさまざまな喬木が林立している、それ・・・<寺田寅彦「雨の上高地」青空文庫>
  13. ・・・ 木深い庭園の噴水の側に薔薇の咲き乱れたパアゴラがある。その蔭に男女の姿が見える。どこかで夜の鶯の声が聞える。 石炭がはじけて凄まじい爆音が聞えると、黒い煙がひとしきり渦巻いて立ち昇る。 物恐ろしい戦場が現われる。鍋の物のいりつ・・・<寺田寅彦「ある幻想曲の序」青空文庫>
  14. ・・・大学の地面が足りなくなって、あらゆる庭園や木立ちがつぶされる時が来ても、あの池は保存しておいてもらいたい。景色や風致がどうであるというのではなくて、何かしら学術上の研究資料の供給所として、あるいは一つの実験用水槽として保存してほしいのである・・・<寺田寅彦「池」青空文庫>
  15. ・・・それでもし数千坪の庭園を所有する事ができるならば、思い切って広い芝生の一方には必ずさまざまな樹林を造るだろうと思う。そして生気に乏しいいわゆる「庭木」と称する種類のものより、むしろ自然な山野の雑木林を選みたい。 しかしそのような過剰の許・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  16. ・・・娼家の跡は商舗または下宿屋の如きものとなったが、独八幡楼の跡のみ、其の庭園の向ヶ岡の阻崖に面して頗幽邃の趣をなしていたので、娼楼の建物をその儘に之を温泉旅館となして営業をなすものがあった。当時都下の温泉旅館と称するものは旅客の宿泊する処では・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  17. ・・・ 水戸の御家人や旗本の空屋敷が其処此処に売物となっていたのをば、維新の革命があって程もなく、新しい時代に乗じた私の父は空屋敷三軒ほどの地所を一まとめに買い占め、古びた庭園や木立をそのままに広い邸宅を新築した。私の生れた時には其の新しい家・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  18. ・・・ 逢うごとにいつもその悠然たる貴族的態度の美と洗錬された江戸風の性行とが、そぞろに蔵前の旦那衆を想像せしむる我が敬愛する下町の俳人某子の邸宅は、団十郎の旧宅とその広大なる庭園を隣り合せにしている。高い土塀と深い植込とに電車の響も自ずと遠・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  19. ・・・日本という庭園的の国土に生ずる秩序なき、淡泊なる、可憐なる、疲労せる生活及び思想の、弱く果敢き凡ての詩趣を説明するものであろう。八 然り、多年の厳しい制度の下にわれらの生活は遂に因襲的に活気なく、貧乏臭くだらしなく、頼りなく・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  20. ・・・吾妻橋を渡ると久しく麦酒製造会社の庭園になっていた旧佐竹氏の浩養園がある。しかしこの名園は災禍の未だ起らざる以前既に荒廃して殆その跡を留めていなかった。枕橋のほとりなる水戸家の林泉は焦土と化した後、一時土砂石材の置場になっていたが、今や日な・・・<永井荷風「向嶋」青空文庫>
  21. ・・・ カーライルが麦藁帽を阿弥陀に被って寝巻姿のまま啣え煙管で逍遥したのはこの庭園である。夏の最中には蔭深き敷石の上にささやかなる天幕を張りその下に机をさえ出して余念もなく述作に従事したのはこの庭園である。星明かなる夜最後の一ぷくをのみ終り・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  22. ・・・ 本田家は、それが大正年間の邸宅であろうとは思われないほどな、豪壮な建物とそれを繞る大庭園と、塀とで隠して静に眠っているように見えた。 邸宅の後ろは常磐木の密林へ塀一つで、庭の続きになっていた。前は、秋になると、大倉庫五棟に入り切れ・・・<葉山嘉樹「乳色の靄」青空文庫>
  23. ・・・他人の醜美は我が形体の苦楽に関係なきものなれども、その美を欲するはあたかも我が家屋を装い庭園を脩め、自からこれを観て快楽を覚ゆるの情に異ならず。家屋庭園の装飾はただちに我が形体の寒熱痛痒に感ずるに非ざれども、精神の風致を慰るの具にして、戸外・・・<福沢諭吉「教育の目的」青空文庫>
  24. ・・・ただに方言のみならず、衣服、飲食の品類より、家屋・庭園・装飾・玩弄の物にいたるまでも、一時一世の流行にほかなるを得ず。流行のものを衣服し、流行のものを飲食し、流行の家屋におり、流行の物を弄ぶ。 この点より見れば、人はあたかも社会の奴隷に・・・<福沢諭吉「徳育如何」青空文庫>
  25. わかい、気のやさしい春は庭園に美しい着物を着せ      ――明るい時―― 林町の家の、古風な縁側にぱっと麗らかな春の白い光が漲り、部屋の障子は開け放たれている。室内の高い長押にちらちらする日影。時計・・・<宮本百合子「雲母片」青空文庫>
  26.  八月のある日、わたしは偶然新聞の上に一つの写真を見た。その写真にとられている外国人の一家団欒の情景が、わたしの目をひいた。背景には、よく手入れされたひろい庭園と芝生の上に、若い父親が肱を立ててはらばい、かたわらの赤ン坊を見・・・<宮本百合子「権力の悲劇」青空文庫>
  27. ・・・家の、大体の建築を自分でする等と云う事は、不可能と知れていますが、少くとも、庭園に対する注意、室内装飾の或る部分は、家を営む者達の手――心でどうかなると思われます。 植木屋を手伝い、男――良人や男の子等は、花壇作り樹木の植つけ等を、分に・・・<宮本百合子「書斎を中心にした家」青空文庫>
  28. ・・・通俗的な日本式庭園の型をまねて更に一層貧弱な結果を示したに過ぎない。 私は、庭が、せめてありのままの自然の一部を区切って僅の修正を施した程度のものでありたい。本当の野山をいくら捜してもない樹木の配置、木と木との組み合わせ等を狭い都会・・・<宮本百合子「素朴な庭」青空文庫>
  29. ・・・映画では気の毒な月並の手法で、長椅子にかけたまま宙を見つめるカッスル夫人の前に、幻の良人が庭園の並木の間を次第に彼方へ遠のきつつ独り踊ってゆく姿を出しているのである。それならそれでいいから、その幻の踊りの姿に我ともなく体をひき立てられ、どう・・・<宮本百合子「表現」青空文庫>
  30. ・・・京都で庭園を見て回った人々は必ず記憶していられることと思うが、京都では杉苔やびろうど苔が実によく育っている。ことに杉苔が目につく。あれが一面に生い育って、緑の敷物のように広がっているのは、実に美しいものである。桂離宮の玄関前とか、大徳寺真珠・・・<和辻哲郎「京の四季」青空文庫>