てい‐しゃ【停車】例文一覧 30件

  1. ・・・ このお嬢さんに遇ったのはある避暑地の停車場である。あるいはもっと厳密に云えば、あの停車場のプラットフォオムである。当時その避暑地に住んでいた彼は、雨が降っても、風が吹いても、午前は八時発の下り列車に乗り、午後は四時二十分着の上り列車を・・・<芥川竜之介「お時儀」青空文庫>
  2. ・・・これは私があの新橋停車場でわざわざ迎えに出た彼と久闊の手を握り合った時、すでに私には気がついていた事でした。いや恐らくは気がついたと云うよりも、その冷静すぎるのが気になったとでもいうべきなのでしょう。実際その時私は彼の顔を見るが早いか、何よ・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  3.         一 お蓮が本所の横網に囲われたのは、明治二十八年の初冬だった。 妾宅は御蔵橋の川に臨んだ、極く手狭な平家だった。ただ庭先から川向うを見ると、今は両国停車場になっている御竹倉一帯の藪や林が、時雨勝な・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  4.      一 レエン・コオト 僕は或知り人の結婚披露式につらなる為に鞄を一つ下げたまま、東海道の或停車場へその奥の避暑地から自動車を飛ばした。自動車の走る道の両がわは大抵松ばかり茂っていた。上り列車に間に合うかどうか・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  5. ・・・これは新停車場へ向って、ずっと滝の末ともいおう、瀬の下で、大仁通いの街道を傍へ入って、田畝の中を、小路へ幾つか畝りつつ上った途中であった。 上等の小春日和で、今日も汗ばむほどだったが、今度は外套を脱いで、杖の尖には引っ掛けなかった。行る・・・<泉鏡花「若菜のうち」青空文庫>
  6. ・・・ある夜、店から抜け出た彼は、足の向くままに、停車場を指してやってきました。けれども、もとより汽車賃がなかったので、どうすることもできません。見ますと、故郷の方へ立つ夜行列車が出ようとしています。 彼はせめて貨車の中にでも身を隠すことがで・・・<小川未明「海へ」青空文庫>
  7. ・・・車のあとより車の多くは旅鞄と客とを載せて、一里先なる停車場を指して走りぬ。膳の通い茶の通いに、久しく馴れ睦みたる婢どもは、さすがに後影を見送りてしばし佇立めり。前を遶る渓河の水は、淙々として遠く流れ行く。かなたの森に鳴くは鶇か。 朝夕の・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  8. ・・・ 地下室に下りていって、外套箱を開けオーバーを出して着ながら、すぐに八時二十分の汽車で郊外の家へ帰ろうと思った。停車場は銀行から二町もなかった。自家も停車場の近所だったから、すぐ彼はうちへ帰れて読みかけの本が読めるのだった。その本は少し・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  9. ・・・いよいよみんなに暇乞いして停車場の方へ行く時が来て見ると、住慣れた家を離れるつもりであの小山の古い屋敷を出て来た時の心持がはっきりとおげんの胸に来た。その時こそ、おげんはほんとうに一切から離れて自分の最後の「隠れ家」を求めに行くような心地も・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  10. ・・・「先日、お母上様のお言いつけにより、お正月用の餅と塩引、一包、キウリ一樽お送り申し上げましたところ、御手紙に依れば、キウリ不着の趣き御手数ながら御地停車場を御調べ申し御返事願上候、以上は奥様へ御申伝え下されたく、以下、二三言、私、明けて・・・<太宰治「帰去来」青空文庫>
  11. ・・・夜に大学へ行き、朝には京王線の新築された小さい停車場の、助役さんの肩書で、べんとう持って出掛けます。この助役さんは貴方へ一週間にいちどずつ、親兄弟にも言わぬ大事のことがらを申し述べて、そうして、四週間に一度ずつ、下女のように、ごみっぽい字で・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  12. ・・・無数の黒色の旅客が、この東洋一とやらの大停車場に、うようよ、蠢動していた。すべて廃残の身の上である。私には、そう思われて仕方がない。ここは東北農村の魔の門であると言われている。ここをくぐり、都会へ出て、めちゃめちゃに敗れて、再びここをくぐり・・・<太宰治「座興に非ず」青空文庫>
  13. ・・・そのとしの暑中休暇に、故郷へ帰る途中、汽車がそのASという温泉場へも停車したので、私は、とっさの中に覚悟をきめ、飛鳥の如く身を躍らせて下車してしまった。 その夜、私は浪と逢った。浪は、太って、ずんぐりして、ちっとも美しくなかった。私は、・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  14. ・・・ トンネルを出て、電車の速力がやや緩くなったころから、かれはしきりに首を停車場の待合所の方に注いでいたが、ふと見馴れたリボンの色を見得たとみえて、その顔は晴れ晴れしく輝いて胸は躍った。四ツ谷からお茶の水の高等女学校に通う十八歳くらいの少・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  15. ・・・前の方の線路を見るとそこから日比谷まで十数台も続いて停車している。乗客はゾロゾロ下り始めたが、私はゆっくり腰をかけていた。すると私の眼の前で車掌が乗客の一人と何かしら押問答を始めた。切符の鋏穴がちがっているというのである。 この乗客は三・・・<寺田寅彦「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  16. ・・・たまたま停まる停車場に下りる人もなければ乗る人もない。低い綿雲が垂れ下がって乙供からは小雨が淋しくふり出した。野辺地の浜に近い灌木の茂った斜面の上空に鳶が群れ飛んでいた。近年東京ではさっぱり鳶というものを見たことがなかったので異常に珍しくな・・・<寺田寅彦「札幌まで」青空文庫>
  17. ・・・ そんなことを考えているうちに人形町辺の停留場へ来るとストップの自働信号でバスはしばらく停車した。安全地帯に立っていた中年の下町女が何気なしにバスの間を覗いていたがふと自分の前の少女を見付けてびっくりしたような顔をして穴の明くほど見詰め・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  18. ・・・ 停車場へ着いてポンペイ行きに乗る。客車の横腹に Fumatori と大きく書いてあるのを、行く先の駅名かと思ったら、それは喫煙車という事であった。客車の中は存外不潔であった。汽車は江に沿うてヴェスヴィオのふもとを走って行った、ふもとか・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  19. ・・・――高島貞喜は、学生たちが停車場から伴ってきたが、黒い詰襟の学生服を着、ハンチングをかぶった小男は、ふとい鼻柱の、ひやけした黒い顔に、まだどっかには世なれない少年のようなあどけなさがあった。「フーン、これがボルか」 会場の楽屋で、菜・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  20. ・・・昭和廿二年十月        ○ 松杉椿のような冬樹が林をなした小高い岡の麓に、葛飾という京成電車の静な停車場がある。 線路の片側は千葉街道までつづいているらしい畠。片側は人の歩むだけの小径を残して、農家の生垣が柾木・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  21. ・・・われわれが新橋の停車場を別れの場所、出発の場所として描写するのも、また僅々四、五年間の事であろう。 今では日吉町にプランタンが出来たし、尾張町の角にはカフェエ・ギンザが出来かかっている。また若い文学者間には有名なメイゾン・コオノスが小網・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  22. ・・・次に停車した地蔵阪というのは、むかし百花園や入金へ行く人たちが堤を東側へと降りかける処で、路端に石地蔵が二ツ三ツ立っていたように覚えているが、今見れば、奉納の小さな幟が紅白幾流れともなく立っている。淫祠の興隆は時勢の力もこれを阻止することが・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  23. ・・・車掌は受取ったなり向うを見て、狼狽てて出て行き数寄屋橋へ停車の先触れをする。尾張町まで来ても回数券を持って来ぬので、今度は老婆の代りに心配しだしたのはこの手代で。しかしさすがに声はかけず、鋭い眼付で瞬き一ツせず車掌の姿に注目していた。車の硝・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  24. ・・・始め停車場を出発した時、汽車はレールを真直に、東から西へ向って走っている。だがしばらくする中に、諸君はうたた寝の夢から醒める。そして汽車の進行する方角が、いつのまにか反対になり、西から東へと、逆に走ってることに気が付いてくる。諸君の理性は、・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  25. ・・・もうじき白鳥の停車場だから。ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川の遠くを飛んでいたって、ぼくはきっと見える。」そして、カムパネルラは、円い板のようになった地図を、しきりにぐるぐるまわして見ていました。まったくその中に、白くあらわされた・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  26. ・・・わたくしが写真器と背嚢をたくさんもってセンダードの停車場に下りたのは、ちょうど灯がやっとついた所でした。わたくしは大学のすぐ近くのホテルからの客を迎える自動車へほかの五六人といっしょに乗りました。採って来たたくさんの標本をもってその巨きな建・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  27. ・・・少くともここに押しよせた連中は二十分の停車時間の間に、たった一人ののぼせた売子から箱かインク・スタンドか、或はYのようにモスクワから狙いをつけて来ている巻煙草いれかを、我ものにし、しかも大抵間違いなく釣銭までとろうと決心して、ゆずることなく・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  28. ・・・ 翌朝早く停車場からすぐ来た宮部の実父は、あまり息子に似て居ないので皆に驚ろかれた。 体の小柄な、黒い顔のテカテカした年より大変老けて見える父親は、素末な紺がすりに角帯をしめて、関西の小商人らしい抜け目がないながら、どっか横柄な様な・・・<宮本百合子「黒馬車」青空文庫>
  29. ・・・ 第十三回革命記念日の数日前、一九三〇年十一月一日の朝、モスクワの白露バルチック線停車場は鳴り響く音楽と数百の人々が熱心に歌うインターナショナルの歌声で震えた。各国からの代表、歓び勇んでやって来たプロレタリア作家たちの到着だ。みんなは、・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  30. ・・・ 電車の停車場の近くへ来ると、ちょうど自分の乗るはずの上り電車が出て行くのが見えた。「運が悪いな、もう二三分早く出て来たら。」と思った。待合へはいってから何げなしに正面の大時計を見ると、いつのまにかたいへん時間がたっている。変だなと思っ・・・<和辻哲郎「停車場で感じたこと」青空文庫>