てい‐しゅ【亭主】例文一覧 30件

  1. ・・・何でも事の起りは、あの界隈の米屋の亭主が、風呂屋で、隣同志の紺屋の職人と喧嘩をしたのですな。どうせ起りは、湯がはねかったとか何とか云う、つまらない事からなのでしょう。そうして、その揚句に米屋の亭主の方が、紺屋の職人に桶で散々撲られたのだそう・・・<芥川竜之介「或日の大石内蔵助」青空文庫>
  2. ・・・ 常子も恐らくはこの例に洩れず、馬の脚などになった男を御亭主に持ってはいないであろう。――半三郎はこう考えるたびに、どうしても彼の脚だけは隠さなければならぬと決心した。和服を廃したのもそのためである。長靴をはいたのもそのためである。浴室の窓・・・<芥川竜之介「馬の脚」青空文庫>
  3. ・・・ 納戸へ通口らしい、浅間な柱に、肌襦袢ばかりを着た、胡麻塩頭の亭主が、売溜の銭箱の蓋を圧えざまに、仰向けに凭れて、あんぐりと口を開けた。 瓜畑を見透しの縁――そこが座敷――に足を投出して、腹這いになった男が一人、黄色な団扇で、耳も頭・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  4. ・・・円髷の年増と、その亭主らしい、長面の夏帽子。自動車の運転手が、こつこつと一所に来たでしゅ。が、その年増を――おばさん、と呼ぶでございましゅ、二十四五の、ふっくりした別嬪の娘――ちくと、そのおばさん、が、おばしアん、と云うか、と聞こえる……清・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  5. ・・・の十八日の夜の道を宵なので月もなく推量してたどって行くと脇道から人の足音がかるくたちどまったかと思うと大男が槍のさやをはらってとびかかるのをびっくりして逃げる時にふりかえって見ると最前情をかけてくれた亭主である。出家は言葉かけて「私は出家の・・・<著:井原西鶴 訳:宮本百合子「元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)」青空文庫>
  6. ・・・と、自分は亭主に角のない皮肉をあびせかけ、銚子を僕に向けて、「まア、一杯どうどす?――うちの人は、いつも、あないなことばかり云うとります。どうぞ、しかってやってお呉れやす。」「まア、こういう人間は云いたいだけ云わして置きゃア済むんで・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  7. ・・・はじめて家を持った時、などは、井筒屋のお貞(その時は、まだお貞の亭主の思いやりで、台どころ道具などを初め、所帯を持つに必要な物はほとんどすべて揃えてもらい、飯の炊き方まで手を取らないまでにして世話してもらったのであるが、月日の経つに従い、こ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・これが縁となって、正直と才気と綿密を見込まれて一層親しくしたが、或時、国の親類筋に亭主に死なれて困ってる家があるが入夫となって面倒を見てもらえまいかと頼まれた。喜兵衛は納得して幸手へ行き、若後家の入夫となって先夫の子を守育て、傾き掛った身代・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  9. ・・・そこで屋台店の亭主から、この町で最も忙しい商店の名を聞いて、それへ行って小僧でも下男でもいいから使ってくれと頼んだ。先方はむろん断った。いろいろ窮状を談して執念く頼んでみたが、旅の者ではあり、なおさら身元の引受人がなくてはときっぱり断られて・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  10. ・・・「私の亭主の苗字さ」と言って、女は無理に笑顔を作る。「え」と男は思わず目を見張って顔を見つめたが、苦笑いをして、「笑談だろう?」「あら、本当だよ。去年の秋嫁いて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱり佃にいた魚屋の吉新、吉田・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  11. ・・・そンでまア巧いこと乳にありついて、餓え死を免れたわけやが、そこのおばはんいうのが、こらまた随分りん気深い女子で、亭主が西瓜時分になると、大阪イ西瓜売りに行ったまンま何日も戻ってけえへんいうて、大騒動や。しまいには掴み合いの喧嘩になって、出て・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  12. ・・・夫婦一緒に出歩いたことのない水臭い仲で、お互いよくよく毛嫌いして、それでもたまに大将が御寮人さんに肩を揉ませると、御寮人さんは大将のうしろで拳骨を振り舞わし、前で見ている女子衆を存分に笑わせた揚句、御亭主の頭をごつんと叩いたりして、それが切・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  13. ・・・そしてまた、自分が嬶や子供の為めに自分を殺す気になれないと同じように、彼女だってまた亭主や子供の為めに乾干になると云うことは出来ないのだ」彼はまた斯うも思い返した。……「お父さんもう行きましょうよ」「もう飽きた?」「飽きちゃった・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  14. ・・・一生亭主と離れていても不自由ないという自信でも持ってるらしい口吻で、細君は言った。「そうだったかしれない」と耕吉も思った。「やはり俺のように愚かに生れついた人間は、自分自身に亡霊相手に一生を終る覚悟でいた方が、まだしもよかったらしい・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  15. ・・・なにも知らない温泉客が亭主の笑顔から値段の応対を強取しようとでもするときには、彼女は言うのである。「この人はちっと眠むがってるでな……」 これはちっとも可笑しくない! 彼ら二人は実にいい夫婦なのである。 彼らは家の間の一つを「商・・・<梶井基次郎「温泉」青空文庫>
  16. ・・・燦爛かなる扮装と見事なる髭とは、帳場より亭主を飛び出さして、恭しき辞儀の下より最も眺望に富みたるこの離座敷に通されぬ。三十前後の顔はそれよりも更けたるが、鋭き眼の中に言われぬ愛敬のあるを、客擦れたる婢の一人は見つけ出して口々に友の弄りものと・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  17. ・・・と、この店の亭主が言った。それぎりでたれもなんとも言わない、心のうちでは「長くあるまい」と言うのに同意をしているのである。「六銭しかない、これでなんでもいいから……」と言いさして、咳で、食わしてもらいたいという言葉が出ない。文公は頭の毛・・・<国木田独歩「窮死」青空文庫>
  18.  二葉亭主人の逝去は、文壇に取っての恨事で、如何にも残念に存じます。私は長谷川君とは対面するような何等の機会をも有さなかったので、親しく語を交えた事はありませんが、同君の製作をとおして同君を知った事は決して昨今ではありません。抑まだ私な・・・<幸田露伴「言語体の文章と浮雲」青空文庫>
  19. ・・・この弟のほうの子供は、宿屋の亭主でもだれでもやりこめるほどの理屈屋だった。 盆が来て、みそ萩や酸漿で精霊棚を飾るころには、私は子供らの母親の位牌を旅の鞄の中から取り出した。宿屋ずまいする私たちも門口に出て、宿の人たちと一緒に麻幹を焚いた・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  20. ・・・ こういったようなことから、後で女房が亭主に話すと、亭主はこの辺では珍らしい捌けた男なんだそうで、それは今ごろ始った話じゃないんだ。己の家の饅頭がなぜこんなに名高いのだと思う、などとちゃらかすので、そんならお前さんはもう早くから人の悪口・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  21. ・・・今になって思って見ればね、お前さんはあの約束をおしの人を亭主に持った方が好かったかも知れないと思うわ。そら。あの時そういったのは、わたしが初めよ。勘忍してお遣りとそう云ったわ。あの事をまだ覚えていて。あの時お前さんがわたしの・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  22. ・・・それから、ご亭主も、仕方無さそうに苦笑いして、「いや、まったく、笑い事では無いんだが、あまり呆れて、笑いたくもなります。じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばか・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  23. ・・・門番のおばさんでも、気の変な老紳士でも、メーゾン・レオンの亭主でも、悪漢とその手下でも、また町のオーケストラでも、やっぱり縦から見ても横から見てもパリの場末のそれらのタイプである。 レオンの店をだされたアンナが町の花屋の屋台の花をぼんや・・・<寺田寅彦「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」青空文庫>
  24. ・・・        * 金剛寺坂の笛熊さんというのは、女髪結の亭主で大工の本職を放擲って馬鹿囃子の笛ばかり吹いている男であった。按摩の休斎は盲目ではないが生付いての鳥目であった。三味線弾きになろうとしたが非常に癇が悪い。落話家の・・・<永井荷風「伝通院」青空文庫>
  25. ・・・「いや、それについて不思議な話があるんだがね、日本から手紙の届かない先に細君がちゃんと亭主の所へ行っているんだ」「行ってるとは?」「逢いに行ってるんだ」「どうして?」「どうしてって、逢いに行ったのさ」「逢いに行くにも・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  26. ・・・その人相を見るに、これは夫婦ぐらしで豆屋を始めて居て夫婦とも非常な稼ぎ手ではあるが、上さんの方がかえって愛嬌が少いので、上さんはいつも豆の熬り役で、亭主の方が紙袋に盛り役を勤めて居る。もっともこの亭主は上さんよりも年は二つ三つ若くて、上さん・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  27. ・・・あの女の人は孫娘らしい。亭主はきっと礦山ひるの青金の黄銅鉱や方解石に柘榴石のまじった粗鉱の堆を考えながら富沢は云った。女はまた入って来た。そして黙って押入れをあけて二枚のうすべりといの角枕をならべて置いてまた台所の方へ行った。 二人はす・・・<宮沢賢治「泉ある家」青空文庫>
  28. ・・・そこで二人目の子供を産んで半月立った或る夕方、茶の間に坐っていた女がいきなり亭主におこりつけた。「いやな人! 何故其那に蓮の花なんぞ買いこんで来たんだよ、縁起がわるい!」 亭主は働きのない、蒼い輓い顔をした小男であった。「――俺・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  29. ・・・ こう云っている所へ、木賃宿の亭主が来た。今家主の所へ呼ばれて江戸から来た手紙を貰ったら、山本様へのお手紙であったと云って、一封の書状を出した。九郎右衛門が手に受け取って、「山本宇平殿、同九郎右衛門殿、桜井須磨右衛門、平安」と読んだ時、・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  30. ・・・それは亭主に泣いてはならぬと云われたからである。女と云うものは涙をこらえることの出来るものである。 翌日は朝から晩まで、亭主が女房の事を思い、女房が亭主の事を思っている。そのくせ互に一言も物は言わない。 ある日の事である。ちょうど土・・・<著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外「破落戸の昇天」青空文庫>