てい‐ち【低地】例文一覧 14件

  1. ・・・でも嬉やたった一ヵ所窓のように枝が透いて遠く低地を見下される所がある。あの低地には慥か小川があって戦争前に其水を飲だ筈。そう云えばソレ彼処に橋代に架した大きな砂岩石の板石も見える。多分是を渡るであろう。もう話声も聞えぬ。何国の語で話ていたか・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  2. ・・・無論その辺には彼に恰好な七円止まりというような貸家のあろう筈はないのだが、彼はそこを抜けて電車通りに出て電車通りの向うの谷のようになった低地の所謂細民窟附近を捜して見ようと思って、通りかゝったのであった。両側の塀の中からは蝉やあぶらやみんみ・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  3. ・・・樹木の茂った丘の崖下の低地の池のまわりには、今日も常連らしい半纏着の男や、親方らしい年輩の男や、番頭らしい男やが五六人、釣竿を側にして板の台に坐って、浮木を眺めている。そしてたまに大きなのがかかると、いやこれはタマだとか、タマではあるまいと・・・<葛西善蔵「遁走」青空文庫>
  4. ・・・手前隣りの低地には、杉林に接してポプラやアカシヤの喬木がもくもくと灰色の細枝を空に向けている。右隣りの畠を隔てて家主の茅屋根が見られた。 雪庇いの筵やら菰やらが汚ならしく家のまわりにぶら下って、刈りこまない粗葺きの茅屋根は朽って凹凸にな・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  5. ・・・一つの窓は樹木とそして崖とに近く、一つの窓は奥狸穴などの低地をへだてて飯倉の電車道に臨む展望です。その展望のなかには旧徳川邸の椎の老樹があります。その何年を経たとも知れない樹は見わたしたところ一番大きな見事なながめです。一体椎という樹は梅雨・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  6. ・・・翳ってしまった低地には、彼の棲んでいる家の投影さえ没してしまっている。それを見ると堯の心には墨汁のような悔恨やいらだたしさが拡がってゆくのだった。日向はわずかに低地を距てた、灰色の洋風の木造家屋に駐っていて、その時刻、それはなにか悲しげに、・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  7. ・・・背後は一帯の山つづきで、ちょうどその峰通りは西山梨との郡堺になっているほどであるから、もちろん樵夫や猟師でさえ踏み越さぬ位の仕方の無い勾配の急な地で、さて前はというと、北から南へと流れている笛吹川の低地を越してのその対岸もまた山々の連続であ・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  8. ・・・これに比べると低地の草木にはどこかだらしのない倦怠の顔付が見えるようである。 帰りに、峰の茶屋で車を下りて眼の上の火山を見上げた。代赭色を帯びた円い山の背を、白いただ一筋の道が頂上へ向って延びている。その末はいつとなく模糊たる雲煙の中に・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  9. ・・・ 私の郷里のように、また日本の大部分のように、どちらを見てもすぐ鼻の先に山がそびえていて、わずかの低地にはうっとうしい水田ばかりしかない土地に育ったものには、このような景色は珍しくて、そしていかにも明るく平和にのびのびした感じがする。こ・・・<寺田寅彦「写生紀行」青空文庫>
  10. ・・・フォスゲンやシュワルツワルドを遠くに見て、ライン地方の低地を過ぎて行くのである。至るところの緑野にポプラや楊の並み木がある。日が暮れかかって、平野の果てに入りかかった夕陽は遠い村の寺塔を空に浮き出させた。さびしい野道を牛車に牧草を積んだ農夫・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  11. ・・・今まで荷船の輻湊した狭い堀割の光景に馴らされていた眼には、突然濁った黄いろの河水が、岸の見えない低地の蘆をしたしつつ、満々として四方にひろがっているのを見ると、どうやら水害の惨状を望むが如く、俄に荒凉の気味が身に迫るのを覚えた。わたくしは東・・・<永井荷風「放水路」青空文庫>
  12. ・・・ 動坂の手前の焼跡に立つと、田端の陸橋が一望のうちに見えるようになったとおり、空襲のあとは、東と西に低地をもつ林町辺の地形がくっきりむき出された。そして、又おのずからこれまでにない眺望を与えている。森鴎外が住んでいた家は、団子坂をのぼっ・・・<宮本百合子「田端の汽車そのほか」青空文庫>
  13. ・・・ 低地にひろがった尾久方面も、高台も、今は一面の焼け野原となっていた。アスファルトの道ばたには、半分焦げのこった電柱だの、焼け垂れたままの電線、火熱でとけて又かたまったアスファルトのひきつれなどがあった。焼トタンのうずたかい暗い道の上で・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  14. ・・・素と私の家の向いは崖で、根津へ続く低地に接しているので、その崖の上には世に謂う猫の額程の平地しか無かった。そこに、根津が遊郭であった時代に、八幡楼の隠居のいる小さい寮があった。後にそれを買い潰して、崖の下に長い柱を立てて、私の家と軒が相対す・・・<森鴎外「二人の友」青空文庫>