てい‐ねい【丁寧/××嚀】例文一覧 33件

  1. ・・・ただその中で聊か滑稽の観があったのは、読みかけた太平記を前に置いて、眼鏡をかけたまま、居眠りをしていた堀部弥兵衛が、眼をさますが早いか、慌ててその眼鏡をはずして、丁寧に頭を下げた容子である。これにはさすがな間喜兵衛も、よくよく可笑しかったも・・・<芥川竜之介「或日の大石内蔵助」青空文庫>
  2. ・・・ 監督が丁寧に一礼して部屋を引き下がると、一種の気まずさをもって父と彼とは向かい合った。興奮のために父の頬は老年に似ず薄紅くなって、長旅の疲れらしいものは何処にも見えなかった。しかしそれだといって少しも快活ではなかった。自分の後継者であ・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・ 獄丁二人が丁寧に罪人の左右の臂を把って、椅子の所へ連れて来る。罪人はおとなしく椅子に腰を掛ける。居ずまいを直す。そして何事とも分からぬらしく、あたりを見廻す。この時熱を煩っているように忙しい為事が始まる。白い革紐は、腰を掛けている人を・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・「はいはい、これはまあ、御丁寧な、御挨拶痛み入りますこと。お勝手からこちらまで、随分遠方でござんすからねえ。」「憚り様ね。」「ちっとも憚り様なことはありやしません。謹さん、」「何ね、」「貴下、そのを、端書を読む、つなぎに・・・<泉鏡花「女客」青空文庫>
  5. ・・・拠処なく物を云うにも、今までの無遠慮に隔てのない風はなく、いやに丁寧に改まって口をきくのである。時には僕が余り俄に改まったのを可笑しがって笑えば、民子も遂には袖で笑いを隠して逃げてしまうという風で、とにかく一重の垣が二人の間に結ばれた様な気・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・「どうせ、丁寧に教えてあげる暇はないのだから、お礼を言われるまでのことはないのです」「この暑いのに、よう精が出ます、な、朝から晩まで勉強をなさって?」「そうやっていなければ喰えないんですから」「御常談を――それでも、先生はほ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・ドウしてコンナ、そこらに転がってる珍らしくもないものを叮嚀に写して、手製とはいえ立派に表紙をつけて保存する気になったのか今日の我々にはその真理が了解出来ないが、ツマリ馬琴に傾倒した愛読の情が溢れたからであるというほかはない。私の外曾祖父とい・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  8. ・・・と、快活に、お姉さんにむかって、丁寧にあいさつをしました。 一目見て、元気そうな、目のくりくりした子供でしたから、お姉さんも笑って、「いらっしゃい。」と、あいさつをなさいました。 秀ちゃんは、はじめてのお家へきたので、かしこまっ・・・<小川未明「二少年の話」青空文庫>
  9. ・・・終ると、男も同じように、糞丁寧な挨拶をした。 私はなにか夫婦の営みの根強さというものをふと感じた。 汽車が来た。 男は窓口からからだを突きだして、「どないだ。石油の効目は……?」「はあ。どうも昨夜から、ひどい下痢をして困・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  10. ・・・弟子は叮嚀に巻いて紐を結ぶ。 中には二三本首を傾げて注意しているようなものもあったが、たいていは無雑作な一瞥を蒙ったばかしで、弟子の手へ押しやられた。十七点の鑑定が三十分もかからずにすんだ。その間耕吉は隠しきれない不安な眼つきに注意を集・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  11. ・・・それもたって勧めるではなく、彼の癖として少し顔を赤らめて、もじもじして、丁寧に一言「行きませんか」と言ったのです。 私はいやと言うことができないどころでなく、うれしいような気がして、すぐ同意しました。 雪がちらつく晩でした。 木・・・<国木田独歩「あの時分」青空文庫>
  12. ・・・と庄屋の下婢は、いつもぽかんと口を開けている、少し馬鹿な庄屋の息子に、叮嚀にお辞儀をして、信玄袋を受け取った。 おきのは、改札口を出て来る下車客を、一人一人注意してみたが、彼女の息子はいなかった。確かに、今、下車した坊っちゃん達と一緒に・・・<黒島伝治「電報」青空文庫>
  13. ・・・東坡巾先生は叮嚀にその疎葉を捨て、中心部のわかいところを揀んで少し喫べた。自分はいきなり味噌をつけて喫べたが、微しく甘いが褒められないものだった。何です、これは、と変な顔をして自分が問うと、鼠股引氏が、薺さ、ペンペン草も君はご存知ないのかエ・・・<幸田露伴「野道」青空文庫>
  14. ・・・そして、これからは次々と出くる屁を、一々丁寧に力をこめて高々と放すことにした。それは彼奴等に対して、この上もないブベツ弾になるのだ。殊にコンクリートの壁はそれを又一層高々と響きかえらした。 しばらく経ってから気付いたことだが、早くから来・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  15. ・・・お新はそんなことをするにも、丁寧に、丁寧にとやった。 蜂谷の医院へ来てから三週間ばかり経つうちに、三吉は小山の家の方へ帰りたいと言出した。おげんは一日でも多く小さな甥を自分の手許に引留めて、「おばあさんの側が好い」と言って貰いたかったが・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  16. ・・・老人は直ぐ前を行く二人の肘の間から、その前を行く一人一人の男等を丁寧に眺めている。その歩き付きを見る。その靴や着物の値ぶみをする。それをみな心配げな、真率な、忙しく右左へ動く目でするのである。顔は鋭い空気に晒されて、少なくも六十年を経ている・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  17. ・・・ 老人は起き上り、私達にそっと愛想笑いを浮べ、佐吉さんはその老人に、おそろしく丁寧なお辞儀をしました。江島さんは平気で、「早く着物を着た方がいい。風邪を引くぜ。ああ、帰りしなに電話をかけてビイルとそれから何か料理を此所へすぐに届けさ・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  18. ・・・ 襟は丁寧に包んで、紐でしっかり縛ってある。おれはそれを提げて、来合せた電車に乗って、二分間ほどすると下りた。「旦那。お忘れ物が。」車掌があとからこう云った。 おれは聞えない振りをして、ずんずん歩いた。そうすると大騒ぎになった。・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  19. ・・・ 主人は二つの品を丁寧に新聞紙で包んでくれて、そしてその安全な持ち方までちゃんと教えてくれた。私はすっかり弱ってしまって、丁度悪戯をしてつかまった子供のような意気地のない心持になって、主人の云うがままになって引き下がる外はなかったのであ・・・<寺田寅彦「ある日の経験」青空文庫>
  20. ・・・その時お目にかかって、弔みを云って下さったのが、先ず連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と、こう皆さんが夫々叮嚀な御挨拶をなすって下さる。それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござ・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  21. ・・・ 明治の初年は一方において西洋文明を丁寧に輸入し綺麗に模倣し正直に工風を凝した時代である。と同時に、一方においては、徳川幕府の圧迫を脱した江戸芸術の残りの花が、目覚しくも一時に二度目の春を見せた時代である。劇壇において芝翫、彦三郎、田之・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  22. ・・・なるべく丁寧に書くつもりであったが例に因ってはなはだ見苦しい字が出来上った。前の方を繰りひろげて見ると日本人の姓名は一人もない。して見ると日本人でここへ来たのは余が始めてだなと下らぬ事が嬉しく感ぜられる。婆さんがこちらへと云うから左手の戸を・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  23. ・・・ 一本腕は何一つ分けてやろうともせずに、口の中の物をゆっくり丁寧に噬んでいる。 爺いさんは穹窿の下を、二三歩出口まで歩いて行って、じっと外を見ている。雪は絶間なく渦を巻いて地の上と水の上とに落ちる。その落ちるのが余り密なので、遠い所・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  24. ・・・嫁の身を以て見れば舅姑は夫の父母にして自分の父母に非ざるが故に、即ち其ありのまゝに任せ、之を家の長老尊属として丁寧に事うるは固より当然なれども、実父母同様に親愛の情ある可らざるは是亦当然のことゝして、初めより相互に余計の事を求めず、自然の成・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  25. ・・・ オオビュルナン先生はしずかに身を起して、その手紙を持って街に臨んだ窓の所に往って、今一応丁寧に封筒の上書を検査した。窓の下には幅の広い長椅子がある。先生は手紙をその上に置いて自身は馬乗りに椅子に掛けた。そして気の無さそうに往来を見卸し・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  26. ・・・女主人など丁寧に余を見送った。菅笠を被っていても木曾路ではこういう風に歓待をせられるのである。馬はヒョクリヒョクリと鳥井峠と上って行く。おとなしそうなので安心はしていたが、時々絶壁に臨んだ時にはもしや狭い路を踏み外しはしまいかと胆を冷やさぬ・・・<正岡子規「くだもの」青空文庫>
  27. ・・・もっと語を丁寧にしないと僕は返事なんかしないぞ。」 小猿が顔をしかめて、どうも笑ったらしいのです。もう夕方になって、そんな小さな顔はよくわかりませんでした。 けれども小猿は、急いで手帳をしまって、今度は手を膝の上で組み合せながら云い・・・<宮沢賢治「さるのこしかけ」青空文庫>
  28. ・・・と、丁寧な声と眼差しとで手をさし出す。その蒼白い頬に浮かんでいる軽蔑を、陽子は苦しいほど感じて見ることがあった。…… 紅茶を運んで来た岡本の後姿が見えなくなると男たちは声を揃えて、「ワッハッハ」と笑い出した。さすがに今度は、・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・かれは糸の切れっ端を拾い上げて、そして丁寧に巻こうとする時、馬具匠のマランダンがその門口に立ってこちらを見ているのに気がついた。この二人はかつてある跛人の事でけんかをしたことがあるので今日までも互いに恨みを含んで怒り合っていた。アウシュコル・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  30. ・・・そして一人者のなんでも整頓する癖で、新聞を丁寧に畳んで、居間の縁側の隅に出して置いた。こうして置けば、女中がランプの掃除に使って、余って不用になると、屑屋に売るのである。 これは長々とは書いたが、実際二三分間の出来事である。朝日を一本飲・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>