て‐がみ【手紙】例文一覧 45件

  1. ・・・「おや、紙切れが落ちて来たが、――もしや御嬢さんの手紙じゃないか?」 こう呟いた遠藤は、その紙切れを、拾い上げながらそっと隠した懐中電燈を出して、まん円な光に照らして見ました。すると果して紙切れの上には、妙子が書いたのに違いない、消・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・ この手紙も今までにすでに長くなり過ぎたようだ。しかしもう少し我慢してくれたまえ。今度は片山氏の考えについてだ。「いかに『ブルジョアジーの生活に浸潤しきった人間である』にしても、そのために心の髄まで硬化していないかぎり、狐のごとき怜悧な・・・<有島武郎「片信」青空文庫>
  3. ・・・家計の困難を悲むようなら、なぜ富貴の家には生れ来ぬぞ……その時先生が送られた手紙の文句はなお記憶にある……其の胆の小なる芥子の如く其の心の弱きこと芋殻の如し、さほどに貧乏が苦しくば、安ぞ其始め彫ちょうい錦帳の中に生れ来らざりし。破壁・・・<泉鏡花「おばけずきのいわれ少々と処女作」青空文庫>
  4.         一 君は僕を誤解している。たしかに君は僕の大部分を解していてくれない。こんどのお手紙も、その友情は身にしみてありがたく拝読した。君が僕に対する切実な友情を露ほども疑わないにもかかわらず、君が僕を解して・・・<伊藤左千夫「去年」青空文庫>
  5. ・・・僕一個では、また、ある友人の劇場に関係があるのに手紙を出し、こうこういう女があって、こうこうだと、その欠点と長所とを誇張しないつもりで一考を求め、遊びがてら見に来てくれろと言っておいたら、ついでがあったからと言って出て来てくれた。吉弥を一夕・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  6. ・・・ 早速社へ宛てて、今送った原稿の掲載中止を葉書で書き送ってその晩は寝ると、翌る朝の九時頃には鴎外からの手紙が届いた。時間から計ると、前夜私の下宿へ来られて帰ると直ぐ認めて投郵したらしいので、文面は記憶していないが、その意味は、私のペン・・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  7. ・・・その女が手紙を書くのを側で見ていますと、非常な手紙です。筆を横に取って、仮名で、土佐言葉で書く。今あとで坂本さんが出て土佐言葉の標本を諸君に示すかも知れませぬ。ずいぶん面白い言葉であります。仮名で書くのですから、土佐言葉がソックリそのままで・・・<内村鑑三「後世への最大遺物」青空文庫>
  8.  古来例のない、非常な、この出来事には、左の通りの短い行掛りがある。 ロシアの医科大学の女学生が、ある晩の事、何の学科やらの、高尚な講義を聞いて、下宿へ帰って見ると、卓の上にこんな手紙があった。宛名も何も書いてない。「あなたの御関係・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  9. ・・・そして、その手紙の中には、「のぶ子さんは、どんなに大きく、かわいらしく、おなりでしょうね。」と書いてあったのです。 この種子を土に下ろした日から、花の咲く日が待たれました。その年も暮れて、やがて翌年の春となったのであります。「お母さ・・・<小川未明「青い花の香り」青空文庫>
  10. ・・・ある女は結婚したいと手紙を寄越した。私と境遇が似ているというのです。二人手をたずさえて、人生紙芝居の第一歩を踏みだしましょうと、まじめなのか、からかっているのか、お話にならない。紙芝居を持って町を歩くと、「人生紙芝居」という囁きが耳にはいり・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  11. ・・・ 無事に着いた、屹度十日までに間に合せて金を持って帰るから――という手紙一本あったきりで其後消息の無い細君のこと、細君のつれて行った二女のこと、また常陸の磯原へ避暑に行ってるKのこと、――Kからは今朝も、二ツ島という小松の茂ったそこの磯・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  12. ・・・そして、時には手紙の三四通も書く事があり、又肩の凝らぬ読物もして居りました。 耳の敏い事は驚く程で、手紙や号外のはいった音は直ぐ聞きつけて取って呉れとか、広告がはいってもソレ手紙と云う調子です。兎に角お友達から来る手紙を待ちに待った様子・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  13.  お手紙によりますと、あなたはK君の溺死について、それが過失だったろうか、自殺だったろうか、自殺ならば、それが何に原因しているのだろう、あるいは不治の病をはかなんで死んだのではなかろうかと様さまに思い悩んでいられるようであり・・・<梶井基次郎「Kの昇天」青空文庫>
  14. ・・・それにかまわずかの水兵の言うには、この仲間で近ごろ本国から来た手紙を読み合うと言うのです。自分。そいつは聞きものだぜひ傍聴したいものだと言って座を構えた。見ればみんな二通三通ずつの書状を携えている。 その仕組みがおもしろい、甲の手紙は乙・・・<国木田独歩「遺言」青空文庫>
  15. ・・・ 源信僧都の母は、僧都がまだ年若い修業中、経を宮中に講じ、賞与の布帛を賜ったので、その名誉を母に伝えて喜ばそうと、使に持たせて当麻の里の母の許に遣わしたところ、母はそのまま押し返して、厳しい、諫めの手紙を与えた。「山に登らせたまひしよ・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  16.  農民の五月祭を書けという話である。 ところが、僕は、まだ、それを見たことがない。昨年、山陰地方で行われたという、××君の手紙である。それが、どういう風だったか、僕はよく知らない。 そこで困った。 全然知らんこと・・・<黒島伝治「鍬と鎌の五月」青空文庫>
  17. ・・・秀吉が筑前守時代に数の茶器を信長から勲功の賞として貰ったことを記している手紙を自分の知人が持っている。専門の史家の鑑定に拠れば疑うべくもないものだ。で、高慢税を払わせる発明者は秀吉ではなくて、信長の方が先輩であると考えらるるのであるが、大に・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  18. ・・・次の日にモウ一度読ませた。次の手紙が来る迄、その同じ手紙を何べんも読むことにした。         * とり入れの済んだ頃、母親とお安は面会に出てきた。母親は汽車の中で、始終手拭で片方の眼ばかりこすっていた。 何べんも間誤つき、・・・<小林多喜二「争われない事実」青空文庫>
  19. ・・・内儀「そんな事を云っていらしっては困ります、何処へでも忠実にお歩きあそばせば、御贔屓のお方もいかいこと有りまして来い/\と仰しゃるのにお出でにもならず、実に困ります、殊に日外中度々お手紙をよこして下すった番町の石川様にもお気の毒様で、食・・・<著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三「梅若七兵衞」青空文庫>
  20. ・・・ 私の四畳半に置く机の抽斗の中には、太郎から来た手紙やはがきがしまってある。その中には、もう麦を蒔いたとしたのもある。工事中の家に移って障子を張り唐紙を入れしてみたら、まるで別の家のように見えて来たとしたのもある。これが自分の家かと思う・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・藤さんはその後いつまでも小母さん小母さんと恋しがって、今日まで月に一二度、手紙を欠かしたことはない。藤さんの家は今佐世保にあるのだそうで、お父さんは大佐だそうである。「それでは佐世保からはるばる来たんですか」「いいえ、あの娘だけは二・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  22. ・・・そのむすめは真夏のころ帰って来るあの船乗りの花よめとなるはずでしたが、その船乗りが秋にならなければ帰れないという手紙をよこしたので、落胆してしまったのでした。木の葉が落ちつくして、こがらしのふき始める秋まで待つ事はたえ切れなかったのです。・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  23. ・・・そうして時たま私に手紙を寄こして、その娘の縁談に就いて、私の意見を求めたりなどして、私もその候補者の青年と逢い、あれならいいお婿さんでしょう、賛成です、なんてひとかどの苦労人の言いそうな事を書いて送ってやった事もあった。 しかし、いまで・・・<太宰治「朝」青空文庫>
  24. ・・・訪問すべき人を訪問して、滞留日数に応じて何本と極めてある手紙を出した跡は、自分の勝手な楽もする。段々鋭くなった目で観察もする。 しかし一つの恐怖心が次第に増長する。それは不意に我身の上に授けられた、夢物語めいた幸福が、遠からず消え失せて・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  25. ・・・こう決心して、それからK氏――小林君の親友のK氏を大塚に訪問し、手紙を二三通借りて来たりして、やがて行田に行って、石島君を訪ねた。 石島君は忙しい身であるにかかわらず、私にいろいろな事を示してくれた。士族屋敷にも行けば、かれの住んでいた・・・<田山花袋「『田舎教師』について」青空文庫>
  26. ・・・ドイツの大家プランクはこの論文を見て驚いてこの無名の青年に手紙を寄せ、その非凡な着想の成効を祝福した。 ベルンの大学は彼を招かんとして躊躇していた。やっと彼の椅子が出来ると間もなく、チューリヒの大学の方で理論物理学の助教授として招聘した・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  27. ・・・というんで、秋山大尉がその手紙を奥さんの目の前で皆な火に燻べて了った。それで奥さんの方も気が弛んだ。 秋山大尉は、そうと油断さしておいて、或日××河へ飛込んだがだ。河畔の柳の樹に馬を繋いで、鉛筆で遺書を書いてそいつを鞍に挟んでおいて、自・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  28. ・・・三吉は首をふって、ごまかすために自分の本箱のところへいって、小野からの手紙などとって、仕事場にもどってくる。――どうして、若い女にみられるのが、こんなにはずかしいだろう? 手紙をよみかえすふりして、三吉は考えている。竹細工の仕事は幼少か・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  29. ・・・それから父の手紙を持って岩渓裳川先生の門に入り、日曜日ごとに『三体詩』の講義を聴いたのである。裳川先生はその頃文部省の官吏で市ヶ谷見附に近い四番町の裏通りに住んでおられた。玄関から縁側まで古本が高く積んであったのと、床の間に高さ二尺ばかりの・・・<永井荷風「十六、七のころ」青空文庫>
  30. ・・・ビスマークがカーライルに送った手紙と普露西の勲章がある。フレデリック大王伝の御蔭と見える。細君の用いた寝台がある。すこぶる不器用な飾り気のないものである。 案内者はいずれの国でも同じものと見える。先っきから婆さんは室内の絵画器具について・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>